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【fMRI】個人的によく見るBrain Atlasまとめ

2021/12/25に公開

この記事はfMRILab Advent Calendar 2021 の12/25分です!

はじめに

本記事では私の所属する研究室で用いられる/取り上げられることの多いBrain atlas(標準脳)を中心に、自分の中で知識を整理しながら紹介していこうと思います。
原著論文や専門書など可能な限り信頼性のあるソースをもとにまとめていますが、本記事の著者自身の理解の至らなさや翻訳ツール(DeepL)による翻訳ゆえに内容に誤りが生じる可能性があります。ご気づき際はご指摘のほどよろしくお願いいたします。確認し次第修正いたします。

Brain Atlasとは?

ヒトの脳は形状、大きさにおいて大きな個人差を持っています。このような差を取り除くべく、MRIを用いた研究では撮像した構造画像を標準脳(Brain atlas) に合わせる、 標準化,Normalizationというプロセスを踏みます。

One of the major goals of modern human neuroscience research is to establish the relationships between brain structures and their functions and to reduce the anatomical and functional variability which is considerable between subjects.
Reference: Tzourio-Mazoyer et al., 2003

Nowinski(2021)によると、現在アトラスを様々な目的の下で作成しようとするプロジェクトが存在します。

  • BRAIN initiative(Brain Research through Advancing Innovate Neurotechnologies)
    • 神経科学の発見を触媒する技術を開発することが目的
  • The Human Brain Project
    • ヒトの脳を読み解き、脳のマルチスケールな組織を再構築して、脳にインスパイアされたITを生み出すための研究基盤の構築。
  • The Human Connectome Project
    • 脳の回路と行動の関係を探るために、脳の構造的・機能的連結性をマッピング

Talairach atlas

標準化で広く使われた最初期のアトラスとして、Talairach atlasがあります。このアトラスは60歳のフランス人女性の全脳をもとに作られました。原点(0,0,0)には座標的に個人差の少ない前交連の中間点が設定されています。[1] 前交連から後交連への向きをy軸、前交連からy軸と垂直方向(正中線方向)をz軸としています。こうして定められたzy平面に対して原点を通る法線をx軸として定めることで3次元定位標準脳座標系が構成されています。
この座標系を使用すると、ヒトの脳をTalairach空間に並べることができ、脳の位置を座標で表現できるようになります。
この座標系に実験参加者の脳画像を固定し、テンプレートとしてのTalairachアトラスにサイズを合わせることで標準化が完了します。Talairachアトラスが当時先進的であった点として、ブロードマンの脳地図(Broadmann Area)との対応が(目測によるものでしたが)詳細に記述されていた点です。Talairachアトラスにおいては全部で52の解剖学的領域に分類されています。

nilearnを用いてアトラスを見てみるとこんな感じです。

しかし、このアトラスは単一の脳を用いているために普遍性に欠けています。
以下具体的な欠点

  • 亡くなった女性の萎縮した脳を使用しているために平均的な脳と形状・大きさがfitしない
  • サンプリングが粗い(4mm)
  • 解剖学的領域のラベリングが片方の半球にしてしかなされていない

MNI atlas

モントリオール神経研究所(MNI)は前項で述べたTalairachアトラスの持つ弱点を克服した座標系の開発に取り組みました。MNIのつくったアトラスには多くのバージョンがありますが、今回は現在最も使用されているMNI152について取り上げます。
はじめに241人の脳をTalairachアトラスに標準化して平均脳を作成され、続いて305人の脳をその平均脳に標準化して新たな平均脳(MNI305)が作られました。さらに152人の脳をMNI305に標準化して平均化したものがMNI152となります。
原点はTalairachアトラスと同様前交連にとられています。複数の被験者間の解剖学的な変動性に関する情報を含んでいるため、確率的アトラス(probabilistic atlas)と呼ばれています。

AAL(Automated Anatomical Labeling of Activations) atlas

Tzourio-Mazoyerら(2002)らは、MNI単一被験者テンプレート[2]の解剖学的分割をベースとして、PETやfMRI研究で検出された活性化の自動解剖学的ラベリング(AAL;Automated Anatomical Labeling)を用いた確率的アトラスを提案しました。AALアトラスはMNIテンプレートに標準化されていることを前提に使用されます。
AALは個人間の解剖学的なばらつきの問題を解決することではなく、つまり絶対的な領域の位置を定めることではなく、一連の座標とその解剖学的ラベルの間にある混乱を抑制することを目的として作成されたものです。
AALは入力された3次元座標について、それがどのAVOI(anatomical volumes of interest)に属するかを確率値として返します。

AALには複数のバージョンが存在します。AAL2は眼窩前頭皮質の新たなパーセレーションを提供し、AAL3は前帯状皮質のさらなる分割や視床、諸脳核の追加がなされました。現在では116のROIに分割されています。

Harvard-Oxford(HO) atlas

Harvard Center for Morphometric Analysis(CMA)より提供された構造データとセク面テーションに由来する48の皮質、21の皮質下領域からなる確率的アトラスのひとつです。

18-50歳の39人(女性16名)の健常な成人を被験者としてT1強調画像を取得し、それらをCMAが手動でセグメンテーションを行いました。その後MNI152テンプレートにregistrationされ、R.Desikanら(2006)によって提案された自動ラベリングツールをもとに個々の解剖学的ラベルが適用されました。最後に全被験者のラベリング結果に基づいて母集団確率マップとして出力されたものがHOアトラスです。

Power atlas

Power atlasはPowerら(2011)が提案したグラフ理論解析に基づくアトラスです。大脳皮質、皮質下構造、小脳にまたがる264ものROIから構成されています。nilearnにおいては、各ノード(ROI)の座標とその説明のみが提供されています。

これらのROIは次の二つの手順で推定されました。

  1. 大規模fMRIデータセットを用いた研究において、ボタンを押すなどの特定の行動に対して有意な変化が見られたボクセルを同定するメタアナリシス
  2. 安静時fMRIデータを用いた皮質領域のマッピング(fc-Mapping)

メタ分析においてはじめは直径10mmの球として322のROIが同定され、最終的に重複しているものを削除して151のROIが得られました。fc-Mappingにおいては40人の健常な若年成人(女性13名,平均26.4歳)のrs-fMRIデータに対してCohenら(2008)Nelsonら(2010a)の手法を拡張したものが使われ、重複したROIを除去して最終的に193のROIセットが取得されました。

これらの手順で取得されたROIをマージすることで、264の独立したAreal ROI Setが定義されました。

Powerアトラスと、他のアトラス間の脳機能ネットワーク表現の違いを比較したものが以下の図になります。エッジはピアソンの相関係数によって計算されています。

Figure 3: Graph Definition Dictates Fidelity to Functional Brain Organization(Power et al. Functional Network Organization of the Human Brain. Neuron. Volume 71, Issue 4, P665-678, November 17, 2011,DOI:https://doi.org/10.1016/j.neuron.2011.09.006)

2列目がPowerらのアトラス、3列目がAALアトラスに対応しています。Powerらは本研究内で作成したアトラスについて、ほぼすべての機能ネットワークの表現が可能であると評価しています。一方で、3列目のAALアトラスによって表現された機能ネットワークについては、Dorsal Attention Networkの表現が出来ていません。DMNについては一見表現されているようにも見えますが、著者らは表現に欠けると評価しています。

このサブグラフを作成する際に用いられた閾値でなくとも、任意の閾値においてAALアトラスベースの場合について機能ネットワークの表現は上手くいっていないとPowerらは述べています。
次の図は閾値を変化させた際のAALアトラスによるサブネットワークの表現をまとめたものです。該当論文の補足資料中のものになります。

Figure S4: Subgraphs in AAL-based and voxel-based graphs have difficulty representing major functional systems.(Power et al. Functional Network Organization of the Human Brain. Neuron. Volume 71, Issue 4, P665-678, November 17, 2011,DOI:https://doi.org/10.1016/j.neuron.2011.09.006)

Dosenbach atlas

Dosenbachアトラスはヒトの脳機能成熟度(MI;Matuality Index)を安静時機能的連結性(rsFC;rsting-state Functional connectivity)を入力にSVMで予測するという研究においてDosenbachら(2010)が作成したアトラスです。
Dosenbachらはエラー処理、デフォルトモード、記憶、感覚運動機能に焦点を当てた5つのメタアナリシスに基づいて機能的に160のROIを定義しました。
nilearnにおいてはMNI空間における座標と、それぞれの解剖学的ラベル、ネットワークラベルが提供されています。

References

  1. F. Ashby. Statistical Analysis of fMRI Data second edition. The MIT Press. 2019., amazonリンク
  2. 檀一平太, 光トポグラフィデータの空間的レジストレーション, 認知神経科学 Vol.9 No.1, 2007, リンク
  3. Tairach J,Tournoux P.(1988)Co-planar Stereotaxic Atlas of the Human Brain.Thieme,New York.リンク.
  4. N. Tzourio-Mazoyer et at., Automated Anatomical Labeling of Activations in SPMUsing a Macroscopic Anatomical Parcellationof the MNI MRI Single-Subject Brain. NeuroImage 15, 273-289, 2002. doi, リンク
  5. Neurofunctional Imaging Group (GIN-IMN), AAL / AAL2 / AAL3, リンク
  6. FSL-FSLwiki, Atlases. リンク
  7. Jonathan D. Power et al., Functional Network Organization fo the Human Brain. Neuron. Volume 72m Issue 4, P664-678, 2011.リンク
  8. Nico U. F. Dosenbach et al. Prediction of individual brain maturity using fmri. Science, 329(5997):1358–1361, 2010. リンク, arXiv, doi:10.1126/science.1194144).
  9. Nilearn:Statistics for NeuroImaging in Python. リンク
脚注
  1. 檀一平太(2007)より ↩︎

  2. T1-weighted gradient echo sequenceを使って27回撮像された一人の男性の脳を平均して得られた標準脳(Colin27 T1 atlas,参照論文)。元の論文についてはコチラをご参照ください。 ↩︎

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