初心者向けアジャイル講座~スクラム概要~
はじめに
アジャイル開発にはさまざまな手法がありますが、その中でも特に広く使われているのが「スクラム」です。スクラムは、チームの協働やプロセスの継続的な改善を重視し、変化の激しい環境でも高い価値を生み出すための実践的なアプローチとして、多くの現場で採用されています。
スクラムの公式な定義や構成要素は「スクラムガイド 」にまとめられていますが、初めて読む方には少し抽象的に感じられることもあるかもしれません。
本記事では、スクラムガイドのスクラムの定義・理論・価値基準にフォーカスし、初学者にも理解しやすい形で一緒に読み解いていきます。
スクラムの定義
スクラムとは、世界で最も採用されているアジャイル開発フレームワークの1つで、スクラムガイドでは以下のように定義されています。
スクラムとは、複雑な問題に対応する適応型のソリューションを通じて、人々、チーム、組織が価値を生み出すための軽量級フレームワークである。
ここで言う「フレームワーク」とは、決まりきった手順やルールを押しつけるものではなく、チームが状況に応じて最適な方法を選び取るための“枠組み”を意味します。
スクラムは用いることで必ずしもプロジェクトが成功するというものではありません。あくまで意図的に不完全なフレームワークであり、理論を実現するために必要な部分のみが定義されています。
実践者は環境や目的に応じてプロセスや技法を組み合わせ、改善しながら価値を生み出すことが前提とされています。
スクラムの理論
スクラムは経験主義とリーン思考に基づいています。
経験主義
経験主義は、実際の経験とデータに基づいて意思決定と改善を行うアプローチです。
その中核は「透明性」「検査」「適応」の3本柱です。
透明性
- 透明性によって検査が可能になる。
- 透明性のない検査は誤解を招き、ムダになる。
- 透明性の低い成果物は価値を低下させ、リスクを高める意思決定につながる。
検査
- 検査によって適応が可能となる。
- 適応のない検査は意味がない。
- スクラムでは検査を支援するために、5つのイベントでリズムを提供している。
適応
- 検査の結果やフィードバックに基づいて計画や方法を調整することを指す。
- スクラムチームは検査によって新しいことを学んだ瞬間に適応することが期待されている。
リーン思考
リーン思考はプロセス上のムダを省くことで効率性と価値を最大化する考え方です。
例えば以下のような原則があります。
- ムダを排除する(使われない機能を作らない)
- できるだけ速く提供する(小さなソフトウェアを素早くリリースする)
- チームに権限を与える(情報を一番持っている現場に判断を委ねる)
リーン思考の7原則
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ムダを排除する
- 使われないコード、余分な作業、不必要な会議などをなくす。
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学習効果を高める
- 個人ではなくチームや組織全体で学習効果を高める。
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決定をできるだけ遅らせる
- プロジェクト進行に影響を与えない範囲で重要な決定を遅らせる。
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できるだけ速く提供する
- 小さなソフトウェアを早くリリースしてフィードバックを得る。
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チームに権限を与える
- 情報を持つ現場に権限を与えることで迅速かつ正確に対応する。
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統一性を作り込む
- ユーザーニーズと方向性を調和させ、一貫性のあるプロダクトを作る。
-
全体を見る
- 部分最適にとどまらず、全体最適を重視して進める。
スクラムの価値基準
スクラムには5つの価値基準があり、これらを実践できるかどうかで成功の度合いが大きく左右されます。
これらの価値基準は、チームの作業・行動・振る舞いの方向性を示しています。
価値観が具現化されることで、スクラムの三本柱(透明性・検査・適応)が機能し、チームに信頼と一体感が生まれます。
5つの価値基準
-
確約(Commitment)
チームメンバーはスプリント目標達成に向けて確約し、予測可能性を高め、信頼を築く。 -
勇気(Courage)
困難な決断や挑戦に立ち向かう勇気を持ち、不確実性やリスクに対しても積極的に取り組む。 -
尊敬(Respect)
メンバー同士がお互いの能力や意見を尊重し、協力を通じて信頼関係を築く。 -
公開(Openness)
情報や課題を率直に共有し、透明性を高める。問題を隠さずに公開し、全体理解を促す。 -
集中(Focus)
スプリントゴールに集中し、優先度の高い作業に注力する。他の要素に惑わされず、目標達成を目指す。
まとめ
本記事では、スクラムガイドをもとにスクラムの定義・理論・価値基準を読み解いてきました。
スクラムは単なる開発手法ではなく、経験主義とリーン思考を基盤にした枠組みであり、チームが協働しながら継続的に改善するための土台です。
また、5つの価値基準(確約・勇気・尊敬・公開・集中)は、チームの行動指針であり、これらが実践されることでスクラムの三本柱(透明性・検査・適応)が機能します。
次回以降の記事では、スクラムを構成するチーム・イベント・成果物について具体的に掘り下げていきます。
スクラムの全体像を理解するために、ぜひあわせてご覧ください。
参考
- The Scrum Guide
- スクラムガイド2020
- Mary Poppendieck, Tom Poppendieck 著
『Lean Software Development: An Agile Toolkit』(Addison-Wesley, 2003)

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