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ノーコードAIエージェント作成ツールDatabricks Agent BricksでRAGを構築してみた

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はじめに

NTTデータでシニアデータサイエンティストを務めております秋本です。
2025年6月にサンフランシスコで開催されたDatabricksの年次カンファレンス「Data + AI Summit 2025」にて、ノーコードのAIエージェント作成ツール「Agent Bricks」が発表されました。

https://www.databricks.com/jp/blog/introducing-agent-bricks

https://docs.databricks.com/aws/ja/generative-ai/agent-bricks/

本記事では、Agent Bricksの概要を紹介するとともに、既にベータ版として提供が開始している一部機能のハンズオンを通じて、その使用感をお伝えしたいと思います。

概要

コンセプト

近年、企業におけるAIエージェントの導入が急速に進んでいる一方で、期待した成果を得られずに失敗に終わるケースも少なくありません。Databricksがこうした失敗事例を詳細に分析した結果、企業のAIエージェント導入を阻む3つの主要な課題が明らかになりました。

企業AIエージェント導入の3つの課題

第一に、エージェントの動作の不透明性があります。多くの企業では、導入したエージェントがどのような処理を行い、なぜその結果に至ったのかを把握できず、信頼性の確保や改善が困難な状況に陥っています。

第二に、チューニング作業の複雑さが挙げられます。エージェントの性能を最適化するためには高度な専門知識と多大な時間を要し、多くの企業にとって大きな負担となっています。

第三に、コストパフォーマンスの問題です。高性能なエージェントを構築・運用するためのコストが、実際に得られる業務効果に見合わないケースが頻発しています。

Agent Bricksによる包括的ソリューション

これらの課題に対する解決策として、DatabricksはAgent Bricksを発表しました。Agent Bricksは、同社のエージェントプラットフォームであるMosaic AI上でエージェントを構築することで、従来の課題を体系的に解決します。

透明性の確保については、MLflowによる包括的な監視機能とAI Judgeによる客観的な評価システムを提供します。さらに、専門家のフィードバックを基にエージェントの回答を継続的に改善するAgent Learning from Human Feedback(ALHF)を組み込むことで、エージェントの学習プロセスを可視化し、品質向上を実現しています。

チューニング負担の軽減に関しては、プロンプトチューニングをはじめとする各種調整作業を完全自動化することで、専門知識を持たない担当者でも高品質なエージェントを構築できる環境を提供します。この自動化システムには、Databricks AIチームの最新研究成果が活用されており、効率性と品質の両立を実現しています。

コストパフォーマンスの最適化については、ノーコード開発による工数削減と高性能の両立を図っています。実際に、GPT-4.1-miniとの比較においても、Agent Bricksはコストと性能の効率性で優位性を示しており、企業にとって実用的なソリューションとなっています。

Agent Bricksは、単なる技術的な改善にとどまらず、企業のAI活用における根本的な課題を解決する包括的なプラットフォームとして位置づけられており、エージェント導入の成功率向上に大きく貢献することが期待されています。




ユースケース

Agent Bricksは、明確な目的に応じて選択できる3つのエージェント機能を提供し、企業の様々なビジネスシーンでの活用を可能にしています。

情報抽出エージェント

大量の非構造化テキストから構造化データへの変換を自動化します。従来手作業で行っていた情報整理業務を大幅に効率化できます。

契約管理: 契約書から価格やリース条件を自動抽出し、管理テーブルを作成
顧客管理: 顧客メモや記録から重要データを整理・構造化

ナレッジアシスタントエージェント

RAG(Retrieval-Augmented Generation)技術により、企業内の膨大なドキュメントを活用した質問応答システムを構築します。

カスタマーサポート: 製品マニュアルに基づく顧客問い合わせへの自動回答
社内ヘルプデスク: 就業規則や社内ポリシーに関する従業員からの質問対応

カスタムLLMエージェント

事前指示による柔軟なタスク実行が可能で、分析・分類業務の自動化を実現します。

マーケティング分析: 顧客レビューの感情分析による製品改善インサイト獲得
文書管理: 大量ドキュメントの自動分類・整理

将来展望:スーパーバイザー型エージェント

今後提供予定の複数エージェント統合機能により、より複雑なビジネスプロセスの自動化が期待されます。

課金体系

Agent Bricksの一機能として提供されているナレッジアシスタントを例に取りますと、現在ベータ版として提供されているため、下記基盤コンポーネントに対してのみ従量課金されるモデルとなっています。

Jobs Serverless: ドキュメントの解析・取り込み処理
Mosaic AI Foundation Model Serving: 埋め込み生成および回答生成
Mosaic AI Vector Search: インデックス作成
Mosaic AI Model Serving: オーケストレーション機能として同時実行数に基づく課金

後に記載しますハンズオンでナレッジアシスタントを用いたところ数千円程度の課金が発生しました。

ハンズオン

ハンズオンでは、日本の河川の情報を抽出したPDFを用いて、ナレッジアシスタントエージェントを構築し、その機能の検証を行ってみます。

Agent Bricksの有効化

ベータ版ではAgent Bricksを使えるリージョンに制限があるため、まずワークスペースをus-east-1またはus-west-2のどちらかで立てる必要があります。

より詳細な制限項目については、下記を参照ください。
https://docs.databricks.com/aws/ja/generative-ai/agent-bricks/knowledge-assistant#必要条件

またワークスペースを立てた後、右上の個人用アイコンをクリックし、出てきたメニューの中からプレビューを押下してください。有効にしたい機能が選べますので、その中からAgent Bricksを見つけ有効にして下さい。画面をリフレッシュして左側に「エージェント」の文字が出てきましたら成功です。

ドキュメントの用意

今回のハンズオンでは、ウィキペディアにある東北地方の一級河川情報をPDF化してダウンロードしたものを用います。

ボリュームを作成し、ブラウザ上から手動でアップロードを行います。

ナレッジアシスタントエージェントの作成

Agent Bricksの画面からナレッジアシスタントのユースケースを選択します。

表示される作成画面にて以下の項目を入力して下さい。

設定箇所 説明
名前 エージェントを管理する名前。
説明 エージェントの説明。
スキーマ エージェント作成の際に作られるテーブルやインデックスが格納される場所。
タイプ+ソース 先ほど格納したドキュメントの場所。今回はUnity Catalog上のファイルを用いるのでUCファイルを選択。
名前 ドキュメントを管理する名前。
コンテンツを説明 エージェントがドキュメントを検索する際に参照する説明。
手動設定 エージェントへの事前指示。デフォルトでの回答は英語となりますが、ここに「日本語で回答してください」と入れると日本語での回答となります。ただし、現時点では日本語での回答を指示すると、そもそも回答自体が返ってこない場合が多かったので、今回のハンズオンでは作成後にここを空欄にして更新し、英語での受け答えを行っています。

入力が完了したら「エージェントを作成」のボタンを押しますと、ナレッジアシスタントエージェントが作成されます。このハンズオンでの作成時間は40分程度でした。

作成が完了しますと、下記のような画面を見ることができます。

Playgroundでのテスト

作成完了画面の右上から「Playgroundで試す」を押下すると下図のようにPlayground上で問合せを行うことができます。日本語での問合せが返ってこない場合が多かったので、今回は英語で北上川の水源を尋ねています。

問合せを行うと、PDFをもとにした詳細な情報として「"弭の泉" (Yuhazu no Izumi)」を回答しています。また「トレースを表示」を押すと、エージェントの詳細なプロセス過程が分かり、その中でどのようなドキュメントを検索してきたかも分かります。

品質の向上

一方でPDFにはない四国地方の吉野川について尋ねると厳密な正解が得られません。

これを修正する方法として、吉野川に関するドキュメントを追加するという手段もありますが、今回はAgent Bricks内で実装されているフィードバックによる学習機能を使いたいと思います。

作成完了画面の右中段にある「品質向上を試みる」を押下すると、下図のような画面に切り替わります。ここで「追加」ボタンを押し、質問とそれに対するガイドラインを入れることができます。ガイドラインに関しては全般的な指示を出すこともできるのですが、今回は質問に対する正解をそのまま入れたいと思います。

このフィードバックを追加した後にエージェントを更新すると、先程の回答が変わり入力された答えになっていることが分かります。

このように専門家のフィードバックを取り入れることで、ナレッジアシスタントエージェントを随時改善していくことが可能です。

MLflowでの監視

Agent BricksではMLflowによる包括的な監視を実現しており、ユーザによる問合せの入出力を簡単に見ることが可能です。

上図にあるエクスペリメントのリンクを押下すると、下図のような入出力の一覧をMLflow上で見ることが可能です。回答にかかった時間等も併せて記載されています。また、MLflowの機能としてその回答の正誤も併せて記載することができるので、エージェントの性能を包括的に監視することが可能です。

まとめ

ノーコードでAIエージェントを作成できるツール「Agent Bricks」についてご紹介しました。 企業がAIエージェントを導入する際に直面しやすい「動作の不透明性」「チューニングの難しさ」「コストパフォーマンス」といった3つの課題を解決するソリューションとして、大きな注目を集めています。

現在はベータ版として提供されており、主な機能は「情報抽出」「ナレッジアシスタント」「カスタムLLM」の3種類のエージェントに限定されていますが、それでも契約管理やカスタマーサポートなど、幅広いビジネスシーンへの活用が期待できます。

使い始めも簡単ですので、ぜひ一度お試しください。

また当社アセットの紹介となりますが、Databricksを基盤としたAIエージェント開発・運用方法(AgentOps)を下記記事にまとめておりますので、こちらも是非ご一読下さい。
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2025/0604

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これまでPartner of the Year, Japanを4年連続で受賞しており、2021年にはアジア太平洋地域で最もビジネスに貢献したパートナーとして表彰されました。
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