【AIエージェントはここまで来た】Dreamforce 2025 参加レポート
はじめに
私は普段、MuleSoftを中心とした連携基盤の設計・構築・運用に関わる業務に携わっています。MuleSoftがAIと様々なシステムとのインテグレーションハブとして日々進化していく中、同製品の最新機能や業界動向を把握するため、先日、米国カリフォルニア州サンフランシスコにて開催されたDreamforce 2025に参加しました。
Dreamforceは、Salesforceが毎年開催する世界最大級のカンファレンスであり、Trailblazer(顧客・パートナー・従業員などSalesforceに関わるすべての方)に、魅力的なコンテンツや体験を提供するイベントです。2003年に初回が開催され、2025年は23回目の開催となります。

2025年のDreamforceは、
Agentic Enterprise(エージェンティック・エンタープライズ)
をテーマに「人とAIエージェントが、お客様の成功のために共に協力し合う」という世界観をベースに、同社が注力するAgentforceの活用事例や新機能の説明を中心に、1500以上のセッションが用意されました。
具体的には、以下のようなセッションが存在し、来場者自身が体験できる催しも多数用意されていました。
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Keynote
- SalesforceのCEOマーク・ベニオフ氏によるMain Keynoteをはじめに、生成AIとビジネスの融合が進む中で、今後のSalesforceの戦略や新製品、Agentforceによる革新的な事例紹介が行われました。
- KeynoteはMain Keynoteだけではなく、プロダクト別に用意されており、Keynoteを回るだけでもたくさんの事例・ナレッジを得ることができます。
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Agentforce City
- Agentforceを実際に操作・体験できる展示エリアです。
- Keynoteで取り上げられた企業も出展しており、その内容を来場者が体験することができました。
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Campground
- Salesforceの製品(Slack、MuleSoftなど)やパートナー企業に設けられた展示ブースエリアです。
- 各ブースでは製品の機能や導入事例を紹介しており、その場で担当者に質問や相談をすることができます。
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ブレイクアウトセッション
- テーマごとに分かれたセッションで、製品機能の深掘りなどが共有されていました。
- 実際の担当者や開発者が登壇することも多く、より現場に近い視点での話を聞くことができました。
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ハンズオントレーニング
- Salesforceの製品やAI開発ツールを実際に操作しながら学べる体験型セッションです。
- 特にAgentforce関連のセッションが人気を集めていました。
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著名人の登壇セッション
- 様々な著名人をゲストとしたセッションも多く用意されていました。
- Googleのサンダー・ピチャイ氏とマーク・ベニオフ氏の対談や、日本からはYOSHIKI氏が登壇するなど、多彩なセッションが展開されました。
本記事では、現地での様子や発表内容をまとめます。
また、同じくDreamforceに参加した 大西 将也 さんも参加レポートを書いております。一部重複する内容もありますが、お互いに補完する内容になっておりますので、是非、こちらの記事もご参照ください。
AI活用の最新動向調査!Dreamforce 2025 参加報告 ~僕たちはAIとどう生きるか~
想定読者
- Dreamforce 2025の様子を知りたい方
- Dreamforce 2026以降のイベント参加を検討している方
- AI関連技術の動向を知りたい方
現地の様子
今年は10月14日~16日の計3日間、サンフランシスコのMoscone Centerを中心に、その周辺一帯を会場として開催されました。
現地でまず圧倒されたのは、会場全体がお祭りのようなエネルギーに包まれていたことです。ステージやブースだけでなく、通路や休憩スペースに至るまで活気にあふれていて、まさに「世界最大級のカンファレンス」というスケールを肌で感じました。
開場直後から多くの来場者で賑わい、立ち止まって話し込む人や写真を撮る人も見られました。
常時、人で溢れ返っており、イベント全体の熱気が伝わってきます。

発表・展示の概要
Main Keynote
10月14日の10:00~11:30で開催され、SalesforceのCEOであるマーク・ベニオフ氏などの登壇者が、Dreamforceのテーマである「Agentic Enterprise」の説明と、Agentforce 360を中心としたAgentforceの活用事例の紹介が行われました。
今年のDreamforceでは、参加者が驚くような大発表こそありませんでしたが、AIの活用事例やデモ動画が多数紹介されており、AIエージェントが「本当に活用できるのか」を検証する段階を通り越し、「AIを活用してどのようにビジネス成果を生み出すか」という段階まで来ている、という点が印象的でした。

出展ブース
SlackやMuleSoftをはじめとした数多くの企業が出展しており、気になったブースで詳細な説明を聞くことができました。また、講演内でAgentforceの活用事例として紹介されたWilliams-Sonomaなどのユーザ企業も出展しており、Agentforceを活用したデモを参加者自身が実際に体験することができるようになっていました。
AIの進化を見せる場というより、AIが実際に社会やビジネスの中で動き始めていることを体感できる場になっていました。そのため、展示やデモを通じて、AIが未来の話ではなく、すでに現実の一部であることを強く実感しました。

技術トピック
ここからは、Dreamforce 2025で発表された技術トピックについて紹介していきます。
中でも特に注目を集めた Agentforce 360と、自身の業務に関連度の高い MuleSoft Agent Fabricの2つを取り上げます。
Agentforce 360
Agentforce 360は、Salesforceが2025年10月に発表した、AIエージェントと人間を「信頼できる一つのシステム」として統合し、企業・顧客・従業員それぞれに高度な支援を提供することを目的とした次世代プラットフォームです。
Agentforceは、これまで4つのメジャーリリースを経ましたが、Salesforceがこれまで提供していた領域をAgentforceで統合するに至ったとして、今回新たにAgentforce 360がリリースされました。
Agentforce 360の注目要素
Dreamforceでは、以下の4つの機能がAgentforce 360の主要なアップデートとしてアナウンスされました。
- Agentforce Builder
- Agent Script
- Agentforce Voice
- Intelligent Context
以降では、それぞれがどんなものかを説明していきます。
Agentforce Builder
Agentforce Builderは、プログラミング知識がないユーザ企業の利用者でも、AIエージェントをコードを記述せずに作成・カスタマイズ・展開できるビジュアルツールです。
従来のAgentforceでは、AIエージェントの振る舞いを制御するために、インストラクションの専門知識が必要であったり、インストラクションの数が増えて保守性が低下するといった課題がありました。
Agentforce Builderでは複雑なコードやインストラクション設計を必要とせず、以下のステップでAgentforceの振る舞いを定義していきます。
- 自然言語でAIエージェントの振る舞いを記述する。
- Agentforce自身が、記述された振る舞いを適切なインストラクションに変換する。
利用者は自然言語で振る舞いを定義することで、より簡単にAIエージェントをカスタマイズすることができます。

Agent Script
Agent Scriptは、AIエージェントの振る舞いやフローを明確・プログラム的に定義できる新しいスクリプト言語です。
Agentforce Builderでは「Agentforce自身が、記述された振る舞いを適切なインストラクションに変換する」と前述しましたが、この変換後のインストラクションがAgent Scriptによって記述されます。
AIエージェントおよび大規模言語モデル(LLM)は、推論ベースで出力を生成するため、予測不能な振る舞いや制御できない処理が起きやすいという課題があります。
一方で、業務プロセスでは「この手順なら必ずこの結果にする」といったルールベースのロジックが必要な場面があると思います。
そこで、Agent Scriptでは、ルールエンジンのような考え方を取り込み、インストラクションを専用のスクリプト言語に変換し、よりLLMの振る舞いを予測しやすくしています。
Before

After

また、インストラクションの知識のないユーザ企業の利用者にとっては、GUIベースでのカスタマイズは有効ですが、開発者がAIエージェントを大規模にカスタマイズしていく場合、GUIベースだけでの開発・管理は効率が下がってしまいます。
そこで、Agent Scriptでは、カスタマイズ内容をテキストファイルに落とし込み、開発がより効率的に行えるよう設計されています。
設定内容をコードとして扱うことで、Gitなどのバージョン管理ツールと連携しやすくなり、変更履歴の管理やチームでの共同開発が容易になります。
Agentforce Voice
Agentforce Voice は、音声で対話できるAIエージェント機能です。電話を通して、ユーザが人と話すような自然な会話でAIとやり取りできる点が特徴です。
従来のような機械的な応答ではなく、文脈を理解したスムーズな音声体験を実現しており、講演内のデモを見る限りでは、かなりの精度でユーザの音声を聞き取り、自然な音声で応答できているように感じました。
また、発話スピードや抑揚を調整する機能も備えており、状況に応じてより人に近い応対スタイルを実現することができます。これにより、コールセンター業務など、音声コミュニケーションが中心となる業務領域での活用が期待できます。
加えて、ユーザがAIエージェントの話を遮って話しかけたとしても、話題を見失うことなく自然なコミュニケーションを続けることができていました。通話の内容をトランスクリプトとして記録するため、他のエージェントが通話に応答しても、中断したところから通話を再開できます。
Intelligent Context
Intelligent Contextは、AIエージェントが正しい判断や回答をするためのコンテキスト を提供する役割を持っています。
企業活動の中には、テキストだけでなく、グラフ・表・フローチャートなど、さまざまな形式のデータが存在しています。しかし、これらの情報は形式も構造もバラバラで、人間なら理解できても、AIにとっては読み解きが難しいという課題がありました。
Intelligent Contextは、そうした複雑なデータの中から意味を抽出して整理し、AIが理解できる形に変換する仕組みです。
例えば、PDF内に含まれるグラフや表の内容をIntelligent Contextが読み取り、AIエージェントはそこに書かれた数値や傾向をコンテキストとして利用できるようになります。
これにより、AIエージェントは単なるテキスト応答ではなく、より深いコンテキスト理解に基づいた的確な判断や提案が可能になります。
Agentforce 360の活用事例
次にDreamforce内で紹介されたAgentforce 360の活用事例で特に印象的だったものを紹介します。
小売業界におけるユーザ体験の革新事例
Main Keynoteでは、小売業界におけるオンライン顧客体験を革新するユースケースとして、以下の二つの企業の事例が紹介されました。
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Williams-Sonoma
- キッチン用品などの家庭用品を取り扱う小売企業
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Pandora
- ジュエリー・アクセサリーの製造・販売を手掛ける企業
両社とも、オンライン上で顧客が実際の店舗に訪れたような体験を得られる仕組みを構築していました。AIエージェントがユーザの目的や嗜好を理解し、最適な提案やサポートを行うことで、「オンラインでも人に相談しているような感覚」 を実現しています。
小売業界、特に前述の企業のような、消費財ではなく長く使う商品を扱う企業では、商品そのものの良さだけではなく、製品を購入する体験・買った後の使用体験がブランド価値の一部になっています。
しかし、これらの体験はこれまで、店舗に訪れてもらったり、コンシェルジュのような有人コミュニケーションでしか提供できないものでした。
現在では、AIの進化によって、オンライン上でも人に近い形でサポートを受けられる環境が整いつつあります。 Agentforce VoiceやIntelligent Contextなどの機能を活用し、ユーザとの対話を通じて自然な案内や対応を実現しています。
感想・考察
両社の事例で印象的だったのは、AIが小売業界のあり方を大きく変えつつあるという点です。
これまでの小売業界では、製品の品質や店舗での接客が体験の中心でしたが、AIの導入によって、購入前後を通じて顧客と継続的に関わる体験 が生まれています。
今後、AIを活用して新たな体験や付加価値を提供しようとする動きが、さらに広がっていくように思います。
また、これまでのオンライン接客は、チャットが中心で、どこか機械的・事務的な印象がありました。
しかし、Agentforce Voiceでは、まるで人と会話しているような自然な応対が実現されていました。
今後は、AIがカスタマーサポートの現場で一般的に活用されていく日が近いのかもしれない、と感じました。
MuleSoft Agent Fabric
ここまで、Agentforceの紹介をしてきましたが、AIエージェントの適用領域をさらに広げていくためには、AIエージェントが基幹システムのような既存システムと連携する必要があります。そんな中、MuleSoftはSalesforceファミリーのiPaaS製品として、AIと様々なシステムを繋げる神経系としての役割を担います。
今回のMuleSoft Keynoteでは、MuleSoftによるAIインテグレーションをさらに推し進めるMuleSoft Agent Fabricが発表されました。
※正確には、MuleSoft Agent FabricはDreamforceに先駆け、9/25にGA(正式リリース)がアナウンスされています。
企業のAIエージェント導入が進むにつれて、AIエージェントが乱立し、スパゲティ状態になってしまうことが懸念されますが、MuleSoft Agent Fabricを活用することで、複数のAIエージェント・MCPサーバ・APIなどを、ガバナンスを効かせながら統合・管理することが可能です。
MuleSoft Agent Fabricは、以下4つの機能で構成されます。
- MuleSoft Agent Registry
- MuleSoft Agent Broker
- MuleSoft Agent Governance
- MuleSoft Agent Visualizer
MuleSoft Agent Registry
Agent Registryは、組織内外に存在するAIエージェントを一元的に登録・管理できる機能です。
企業が保有するAIエージェントやMCPやA2Aサーバーなどをまとめてカタログ化し、開発者や他のAIエージェントが容易に検索・利用できるようにします。
これにより、既存のAIアセットを再利用したり、異なるワークフロー間で共有したりすることが可能になり、重複開発の削減や導入スピードの向上につながります。
MuleSoft Agent Broker
MuleSoft Agent Brokerは、複数のAIエージェントやツールを適切に連携させ、タスクを自動的に振り分ける機能です。AIエージェントやツールをビジネスドメインごとに整理し、ユーザが選択したLLMを活用することで、最適なエージェントにタスクを動的に振り分けます。
これにより、複雑なマルチステップな処理を、多様なAIエージェントやシステム間で、シームレスに実行することができます。

MuleSoft Agent Governance
MuleSoft Agent Governanceは、AIエージェントの利用に対してセキュリティやコンプライアンスを確保するための管理機能です。ガードレールを設けることで、エージェント同士のやり取りを安全かつ一貫した形で運用できます。
これにより、企業は安心してAIの導入範囲を拡大でき、すべてのアクションが社内ルールや法規制に沿って実行されるようになります。
MuleSoft Agent Visualizer
MuleSoft Agent Visualizerは、AIエージェント間の関係性を可視化する機能です。エージェント間のつながりを動的なマップとして表示し、どのように連携し、動作しているかを直感的に把握できます。
これにより、AIの動作が「見えないブラックボックス」から「観測・管理できるプロセス」に変わり、パフォーマンスの最適化や障害の予防、信頼性の向上に役立ちます。
まとめ
Dreamforce 2025では、「Agentic Enterprise」というテーマのもと、Agentforceがビジネスの現場で活用する姿が具体的に示されました。
特に、Agentforce 360は、AIエージェントの構築から実行、管理、連携までを統合的に支援する新しい基盤であり、SalesforceがAIの実用化フェーズに本格的に踏み出したことを感じました。
また、MuleSoft Agent Fabricによって、複数のAIエージェントを安全かつ効率的に管理するアプローチも発表され、エンタープライズでのAI活用がより現実的になっています。
ただ、今回紹介されたようなAIシステムを導入していく際には、技術的な課題も多く発生すると思います。今後、こうした仕組み・考え方は取り入れつつも、導入時の課題を見極め、より現実的なAIシステムを構築できるようなスキルも磨いていきたいと思います。
参考
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