初心者向けアジャイル講座~スプリントプランニング~
はじめに
スクラム開発では、チームの活動を円滑に進め、継続的に価値を届けるために、いくつかのイベントが定期的に行われます。これらは透明性やチームの適応力を高めるための仕組みです。
本記事では、その中でもスプリントのスタート地点となるイベント「スプリントプランニング」について、概要と進め方を初心者にもわかりやすく紹介します。
スプリントプランニングとは
スプリントプランニングは、「次のスプリントで何を、なぜ、どのように実施するか」をチーム全員で決めるイベントです。プロダクトオーナー(PO)が主催し、スクラムマスター(SM)が進行を支援、開発チーム(Dev)が中心となって作業計画を立てます。
この場では、スプリントの目的を明確にし(Why)、実施すべきプロダクトバックログ項目を選び(What)、それをどのように実現するかを議論します(How)。
対象となる項目は、あらかじめ十分に整理され、見積もりや実施が可能な「Ready」の状態である必要があります。
「Ready」の定義はチームごとに異なりますが、一般的には、実施に必要な情報や受け入れ条件が明確で、見積もり可能な状態を指します。
スプリントプランニングのゴールは、チーム全員がスプリントゴールとスプリントバックログに合意し、計画にコミットすることです。
進め方
スプリントプランニングは、次の流れで進めると効果的です。
多くのチームでは、1・2を「第1部」、3を「第2部」として分けて実施しています。
1. Whyの検討(スプリントゴールの明確化)【第1部】
このスプリントで達成する価値や目的を確認します。
POがスプリントの意図や期待する成果を共有し、チーム全員で目的に合意します。
この段階で、スプリント全体の方向性が定まります。
2. Whatの検討(対象バックログの選定)【第1部】
優先順位の高いプロダクトバックログから候補を提示し、スプリントで取り組む項目を選定します。
必要に応じてユーザーストーリーを分割し、プランニングポーカーなどを用いてストーリーポイントを見積もります。
見積もりは絶対的な時間ではなく、他項目との相対比較で判断することが重要です。
チームの過去スプリントで達成したベロシティを参考に、実現可能な範囲を見極めます。
ベロシティとはチームが1スプリントで実際に完了できた作業量を示す指標です。
スプリントで「完了」したプロダクトバックログ項目のストーリーポイント合計で表します。
ベロシティはチームの生産能力を見える化し、次のスプリントで扱える作業量を判断する際の目安となります。
ただし、スプリントごとに多少の変動があるため、過去数回の平均値をもとに活用するのが効果的です。
3. Howの検討(タスク分解とスコープ設定)【第2部】
選定したユーザーストーリーをタスクに分け、開発チームが中心となって実施計画を立てます。
チームキャパシティや過去のスプリント実績を踏まえて、実現可能なスコープを決定します。
メンバーが自らタスクを選択し、作業計画を具体化することで、チーム全員がスプリントの実行計画にオーナーシップを持てます。
スプリントプランニングの成果物
スプリントプランニングの成果物として、以下のものが作成されます。
- スプリントバックログ:スプリントで取り組むプロダクトバックログ項目と、それを完了させるための計画(タスク)を含む一覧
- タスクかんばん(例:Jiraなど)
- スプリントバーンダウンチャート
これらをもとに、チーム全員がスプリントゴールと作業内容を理解していることが完了条件です。
TIPS
スプリントプランニングを円滑に進めるためには、チームが直面しやすい課題やつまずきポイントを理解しておくことが大切です。
ここでは、実際の現場でよく見られる課題と、その原因・対処方法を紹介します。
| 事例 | 原因 | 対処方法 |
|---|---|---|
| 計画時に相対見積もりが長引いてしまう | ストーリーポイント算出の際に、メンバ間で意見が食い違い、ディスカッションが多くなり、結果として時間がかかる | 不確定要素の多い項目を精緻に見積もらないようにし、1つのバックログ項目ごとに見積もり時間のタイムボックスを設定する |
| Ready になっていないバックログをプランニングの対象にしている | 要件や受け入れ条件が明確でない | POに要件具体化を依頼し、リファインメントで解消する |
| スプリントバックログの見積に対して、実績があまりにもかけ離れている | タスクの粒度が大きい | タスクの粒度が大きい場合はバックログを分割する |
| 同上 | タスクをイメージする情報がプランニング時点で準備できていない | プランニング前に開発チーム内(Dev)で実装設計やテスト項目の洗い出しを行う。第1部(Why/What)の段階で不明点がある場合はPOに質問し、解消されない場合は無理にスプリントバックログへ含めない |
おわりに
本記事では、スプリントプランニングの概要と実施手順について紹介しました。
スプリントプランニングは、チームが共通の目的を持ってスタートを切るための最初のステップです。
Why・What・Howの3つを意識し、メンバー全員がスプリントゴールと計画に共感できる状態を作ることが、成果を最大化する鍵となります。
計画づくりそのものを、チームの学びと成長の時間にしていきましょう。
参考文献・リンク
スクラムガイド2020:https://scrumguides.org/docs/scrumguide/v2020/2020-Scrum-Guide-Japanese.pdf
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