Decentralandのホワイトペーパーの要約と現状との比較
はじめに
これはno plan inc.の Advent Calendar 2022の7日目の記事です。
分散型のメタバース環境を提供するプラットフォームの代表格である「Decentraland(ディセントラランド)」について、2017年に発表されたホワイトペーパーを読んでみました。
最近、Decentraland内でコンテンツ提供するために、APIやSDKを利用して開発を行なう機会があり、その知見を深めるためのものです。
現状と比べて、実現している部分もありましたが、かなり異なった未来が書かれている部分もありました。
日本語で訳されているものがなかったので要約としてこの記事に残し、その後に書かれてある内容と現状がどうなっているかの調査結果を残します。
日本語訳+要約
文章を僕なりに解釈し、箇条書きにしてまとめました。
Decentraland ホワイトペーパー
要旨
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DecentralandはEthereumの機能が搭載されたバーチャルリアリティプラットフォーム
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プラットフォーム上で様々なコンテンツ(3Dモデル)やアプリケーション、ゲーム等を作ったり、遊んだり、マネタイズしたりできる
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運営はコミュニティによって行われており、中央集権的な組織や強い権威によってルールが動かせされることはない。
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ユーザーはブロックチェーン基盤の土地をparcels(区画)単位で購入できる
- parcel: 座標((1,2), (-12, 11) etc.)で土地の場所が表されるDecentraland内の土地を分割した区画
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"LAND"というEthereumのスマートコントラクト上に保存された非代替性トークン(NFT)
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"MANA"というERC20規格のトークンによりLANDの購入ができ、バーチャルワールド内の商品さサービスへの支払いも可能
1. イントロダクション
1.1 概要
- decentralandは、他の大規模で中央集権的なプラットフォームで起こっているような、クリエイターの製作から手数料が引かれたり独断的に決められたルールの中にある世界ではなく、クリエイターの製作が全て自分達に報酬として還元されるように仕組みを実現するために作られた
- Ethereumをはじめとするブロックチェーン全体の問題として、ネットワークのスループットをもっと向上させなければいけない
- クリエイターと消費者との間で、グローバルかつ低コストで速い決済インフラを実現する(Lightning NetworkやEthereum State Channelsのように)
1.2 歴史
- 2015年にDecentralandが開発され、当時はただの土地と称した平面のピクセルに、座標と色のみをメタデータとしたものだった(石器時代)
- 2016年後半、3Dバーチャルワールドの土地の分割を行い、区画(parcel パーセル)ごとに所有できるようにした(青銅器時代)
- また、BitTorrentとDHTを利用して、そのパーセルに必要なコンテンツ情報を持つファイルをダウンロードできるようにした
- ランドのオーナー権やコンテンツの分配によって起こる経済的で社会的な体験を作り出す(鉄器時代)
1.3 横断可能な世界
- Decentraland内のparcel(パーセル)の持つ、隣接して他のパーセルとも繋がっているという性質ががこれまでのwebドメインによるコンテンツに対して独自性を持っている
- これまでのコンテンツは、webドメインが他のコンテンツのハイパーリンクを無限に持てるのに対して、Decentralandはそのパーセルに隣接するコンテンツの情報のみを持っている
- 新しく作られるLANDは必ずどこかのパーセルと隣接した場所に作られるので、ユーザーは訪れた場所から別のパーセルの情報を遠くから視認でき、偶然的にコンテンツやアプリケーションを発見することが可能になる
1.4 ワールド内経済のための財団
- プラットフォーム側として、経済的な交流を促進するために、「通貨」、「商品」、「サービス」の3つの交換を可能にする必要がある
- グローバルかつ即時決済可能なペイメントチャネルを実現するためのコアシステムが必要 (現状はハブアンドスポーク方式のロートラストな決済チャネルを採用)
- UX向上のために一番重要なのは、アプリ開発者のためのスクリプトシステム(API, CLI, SDK等)
- 開発者やクリエイターが参加しやすいような、ランド上への開発や製作に対するインセンティブ設計
1.5 ユースケース
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アプリケーション
- Decentraland Scripting Language(DSL) により動的な3Dシーン、テクスチャ、ユーザーの行動に対する反応等様々な体験の開発が可能
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コンテンツキュレーション
- 同じジャンルのコンテンツを近隣の土地に配置しておけば同じ趣味を持ったユーザーがたくさんアクセスさせることもできる
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広告
- ビルボードのようにランド内に交通量の多い場所に広告を立てて宣伝できる
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デジタルコレクティブルズ
- デジタルアートをランド上に表示させ、展示したり、プログラムによってそれらのデジタルアセットの交換を可能にできる
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社会
- オンライン・オフライン問わず既存のコミュニティがDecentraland内への移動が難しくない
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その他ユースケース
- そもそもDecentraland上で作るものについて、これといった決まりがないのでこれからもまた別のユースケースが生まれるだろう
2. アーキテクチャ
コンセンサスレイヤー(Consensus)
- ランドのオーナー権とコンテンツを追跡する
ランドコンテンツレイヤー(Land Content)
- 分散型配布システムによりアセットをダウンロードする
リアルタイムレイヤー(Real-Time)
- ユーザーをお互いに接続させることができる
ファイルのコンテンツのハッシュからランドのコンテンツが参照される場所であるコンセンサスレイヤーでランドのオーナー権は作られます。この参照によって、コンテンツがIPFSもしくはBitTorrentからダウンロードされます。ダウンロードされたファイルは、シーンを表示させるのに必要なオブジェクトやテクスチャ、音、その他要素の記述を含んでいます。このファイルにはまた、ランドを同時間に訪れているP2Pユーザー同士を繋げるためのランデブーサーバーのURLも持っています。
ランデブーサーバー : ユーザーがDecentraland上でユーザー同士のP2P通信を可能にする、集合場所的なサーバー
以下が分散的な方法で共有されたバーチャルワールドの体験を提供するまでの3つのステップを表した表です。
2.1 コンセンサスレイヤー
- Decentralandはバーチャルワールド内のランドパーセルでオーナーの台帳を管理するためにEthereum のスマートコントラクトを利用
- LANDというNFT
- LAND: ユニークな(x,y)のような座標、オーナー、コンテンツが記述されてるファイルの情報を持つ
- Decentralandのクライアントサーバーは、LANDのスマートコントラクトの状態をアップデートするために、Ethereum networkと接続する
2.2 コンテンツ配布レイヤー
- ワールド内に表示させるのに必要なコンテンツを配布するために、分散型のストレージシステムを利用する
- 現在の解決策は、すでに実用的であるBitTorrentとKademliaのDHTネットワークを利用して、それぞれのパーセルのマグネットリンクを保存する
- IPFSが上記の代替になる
- この分散型の配布システムは中央集権的なサーバーインフラがなくともDecentralandを運用することができる
- しかし、ファイルをホスティングしたりコンテンツを提供するときの帯域幅がコストになる。現在は、P2Pユーザーのネットワークがコンテンツを無償で善意で行っている。
- 将来このインフラコストはFilecoinのようなプロトコルによって補える
2.3 リアルタイムレイヤー
- サードパーティやランドオーナーがホストしているサーバーのおかげで、P2Pコネクションを構築しクライアントがコミュニケーションをお互い行えるようになる
- P2Pコネクションをブートさせるために、ランドオーナーはランデブーサーバーを提供する必要がある。でないとユーザーは区画内でお互いに会うことができない。
- 複数同時接続したユーザー同士やNetwork traversal services間のボイスチャットのような高度な機能にとっては、少額決済がコストを賄うため利用される
- decentralandではユーザーによるボイスチャット、メッセジングやアバターなどで社会的な体験といった機能を利用するため、異なるプロトコルがFederated VoIPやWebRTCのようなP2Pソリューションの上で動いている
2.4 ペイメントチャネル
- 基本的な目的として、パブリックでLNのようなHTLCネットワークは最低でも一年は実用化まで時間がかかるかもしれませんが、現状はロートラストでハブアンドスポーク式のペイメントチャネルネットワークが速くローコストなトランザクションを可能にする
- 以下の二つの理由でペイメントチャネルがDecentralandの鍵になっている
- ワールド内の購入
- P2Pサーバーとコンテンツのサービスのクオリティをインセンティブ化する
- 現状は、クレジットカード決済の性質を継承したリスクを含んでいる
- Decentralandのいくつかの分野ではマイクロペイメントが使用されている
- コンテンツのホスティング、配布、P2Pプロトコルの運用も上記に含まれている
- また、これから新規参入する開発者のために、サービスに対してMANAトークンを補助金として提供します
2.5 IDシステム
- Decentralandのランドのオーナー権は、そのランドの座標がクレデンシャル情報として扱われるという、一種のIDシステム
- コンテンツのクリエイターや開発者が継続的に貢献するために、経済的なインセンティブが必要
- コンテンツは誰でも複製可能なので、クリエイターへの報酬を促すための社会的な合意に頼る必要がある
- 社会的な合意はデジタルな希少性を生むことができる
3. 経済
3.1 LANDとMANA
- LAND: バーチャルワールドが分割された代替不可能な区画
- MANA: LANDを手に入れるために必要なERC-20規格のトークン。ランドの商品やサービスの購入にも使われる
3.2 ネットワークを育てる
- すぐにネットワークに参加したいなら、開発者やクリエイターは、Decentralandのマーケット内に自身のショップを作ることにより報酬を得られる
- プログラム開発者やコンテンツクリエイターは、分散型ストレージの利用が可能になることに加え、財団からマイルストーンごとに褒章が設けられたコンテストを実施する
4. 課題
Decentralized Content Distribution
- 二つの課題がある
- ダウンロードスピード: DHTもしくは分散型のP2Pストレージシステムからファイルを取得することは、元来とても遅い
- ユーザーは素早く体験が提供されないシステムは利用しない
- アベイラビリティ: コンテンツが十分にロスなしに十分に配布されること
- IPFSとこれからくるFileCoinはこれらの課題を扱っているので本番運用楽しみ
Scripting
- ユーザーに価値のある体験をしてもらうためには一番大事に要素
- APIはクライアントにとって十分に安全であるべきで秘密鍵の管理や素早い少額決済を行うため
- 簡単に使えるということが広く開発者の耳に届かせるためには重要
Content Curation
- ポルノやバイオレンス、ギャンブルを含むようなコンテンツをフィルタリングすることが分散型のネットワーク内で行うことは難しい
- それぞれの区画で、コンテンツのタイプを追跡するブラックリストもしくはホワイトリストを作っている一つ以上のプロバイダーをユーザーが選べるような、評判ベースのアプローチをマーケットが行えるようにしたい
5. まとめ
- Decentralandは分散型プラットフォームで、開発者がアプリをその上で開発し、マネタイズできる共有されたバーチャルワールドだ
- LANDの希少性は、ユーザーの注意を引いたりコンテンツクリエイターへの収入につなぐようなハブを作る
- MANAトークンはワールド内のland, 商品, サービスの購入ができる
- MANAトークンはまた、コンテンツ制作、ユーザーアダプション、そして最初の分散型のバーチャルワールドをブートさせるためのインセンティブとしても利用される
5年経った現状
コミュニティによって運営されているか?
されている。Decentraland DAOによって運営されている。
DAOドキュメント
プロポーザル一覧
FilecoinやIPFSがコンテンツの保存先として使われているか?
使われていない。catalystsと呼ばれるサーバー上で保存されている
catalysts: 数種類の用途のサーバー上で構成されている。現状十数個のサーバーが運用されている(一覧)。
ホワイトペーパー内の課題の進捗は?
Decentralized Content Distribution
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ダウンロードスピード
従来やろうとしていたIPFS等の分散型ストレージサービスを利用するのではなくcatalystサーバー内にcontent サーバーというものがありその中からダウンロードしているのでおそらく遅くはないはず。 -
アベイラビリティ
従来予定していた IPFSやFilecoinは使用されていない。上記のContent サーバーから配信されているので、ロスは少なくなっているはず?開発している感じだとそこまで感じない。
Scripting
SDKのドキュメントも用意されている。
Content Curation
proposals一覧内でcurationと検索すると、Decentraland内のマーケットで販売される、アバターが着たり装着するwearableのアップロード時にレビューするような取り組みはかなり動いていそう。しかし、包括的なコンテンツの確認や検閲は難しそう。
ユーザー数は?
2022/12/7時点で500人程度
おわりに
2017年に出したホワイトペーパーなんて全く現状と一致しないことばかりだと感じました。
Decentraland自体は現状もユーザー数が3桁ということでまだまだ少ない。開発環境も、まだ試験段階とドキュメントやgithubに書かれているものも多かったです。
このホワイトペーパーにも書かれていたような、バーチャルワールドで生活し本格的な経済圏ができる時代となった時にDecentralandはどのようなポジションなのか。とても楽しみです。もっと今のDecentralandについての技術的な部分やノード、catalyst等の詳しい掘り下げはまた次回に取っておきます。
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