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Web3はどこにあるのか 2025夏

に公開

はじめに

Has anyone seen web3? I can’t find it.(誰かWeb3って見たことある?私は見つけられない)

これは、イーロン・マスク氏が過去に投稿したツイートです。
あれから約3年半が経った今、2025年8月時点のWeb3はどうなっているのでしょうか。

結論から言えば、「誰もが日常的に使う」レベルには、依然として到達していません。
少なくとも、Web2(Google、YouTube、Instagramなど)のように、全世代・全階層に浸透したとは言い難いのが現状です。

Web3が一般に普及するためには、いくつものハードルが存在し、それらはこれまで書籍や論文でも繰り返し指摘されてきました。
では、それらの課題は現在どうなっているのでしょう。

本記事では、Web3の代表的な課題を整理し、それぞれの現在のステータスを概観していきます!

そもそもWeb3とは

Web3は、ブロックチェーン技術を中核に据えた新しいインターネットのあり方です。
すでに暗号資産、NFT、DAOなどのさまざまなサービスが拡大されています。
Web3の主な特徴は以下の2つです。

🏛️ 非中央集権

従来のインターネットでは、Google・Meta・Amazonといった巨大プラットフォーマーがサービスを一手に管理し、ユーザーデータも彼らのサーバーに集中していました。

Web3はその構造に対抗し、ブロックチェーン分散型ストレージを活用することで、
特定の管理者に依存せずにネットワークを運営します。
これにより、「誰かに止められることのないサービス」「検閲に強いネットワーク」を実現することができます。

🔎 改ざん耐性と透明性

ブロックチェーンに記録されたデータは、過去の履歴を後から改ざんすることが極めて困難であり、すべてのトランザクションは公開・検証可能な状態に保たれます。
これにより中央の信頼機関が不要で、誰もが処理の正当性を確認できます。

さらに、スマートコントラクトと呼ばれるプログラムを用いることで、
あらかじめ定めた条件に基づき、契約の履行や資金の分配を自動で実行することが可能になります。
これにより、人的な仲介を排除した透明性の高い運用が実現し、業務やサービスの信頼性を一層高めることができます。

指摘されてきた課題と現在のステータス

Web3の普及に関しては、これまでにもさまざまな議論がなされてきました。
デジタル庁の楠総括官は、 こちらの書籍の中で、Web3が直面する課題をいくつか挙げてます。
本記事ではその中から以下の3点を取り上げます。

  • コスト効率の理想と現実の乖離
  • トークンは改ざん耐性があるが、メタデータの消失リスクあり
  • ウォレットのユーザビリティと鍵管理の複雑さ

この書籍が出版されたのは2024年3月であり、約1年半が経過しました。
それぞれの課題は、現在どこまで進んでいるのか見ていきましょう!

コスト効率の理想と現実の乖離

⚠️ 指摘されてきた課題

当初、Bitcoinなどのパブリックブロックチェーン技術には、「従来の金融・決済システムよりも低コストで運用できる」という期待が寄せられていました。
特に、銀行送金やクレジットカード決済と比較して、仲介業者が不要になることで手数料が削減されると考えられていました。

しかし現実には、Bitcoinの取引手数料が早い段階でクレジットカード決済や銀行振込の手数料を上回る水準に達しており、こうした期待との間に大きな乖離が生じています。

🟢 現在のステータス

2025年8月現在のデータを見ると、状況はやや様変わりしています。

Bitcoinの平均取引手数料は1USD未満〜2USD台前半で推移しています。
下記のグラフからもわかるように、手数料は以前より大幅に安定し、かつ低下傾向にあります。

Bitcoin平均取引手数料

Ethereumにおいても、平均ガス価格は1〜9gweiという低水準で推移しています。
2020~2022年ごろには、ガス価格が100〜500gweiを超えることも珍しくありませんでした。それに比べると、かなり落ち着いた相場だといえるでしょう。

Eth平均ガス価格

ネットワーク混雑などにより一時的に手数料が上昇する可能性があるため、完全に一定というわけではありませんが、銀行送金やクレジットカード決済と比べて低く抑えられる水準に達していると言えます。

この低水準の背景にはどんな背景があるのでしょうか。
一つの要因として、Layer2技術の普及が挙げられます。

Layer2について説明する前に、そもそもなぜブロックチェーン上の手数料が高くなってしまうのか整理しましょう。

ブロックチェーンでは、全てのトランザクションを分散的に検証し、記録するという仕組みが採用されています。この高いセキュリティと分散性を担保する代償として、スケーラビリティに限界があります。

例えば、Ethereumでは1秒間に処理できるトランザクション数(TPS)が限られており、利用者が増えればブロックスペースを巡る競争が発生します。すると、早く処理してもらうためにガス代(手数料)を上乗せする必要が出てくるのです。これが、手数料高騰の主なメカニズムです。

この問題は、ブロックチェーンが直面する「スケーラビリティ・セキュリティ・分散性のトリレンマ」に起因しています。
この3つの特性は同時に最大化することが難しく、従来は「スケーラビリティを高めるためには分散性を犠牲にせざるを得ない」と考えられてきました。

前置きが長くなりましたが、このトリレンマを乗り越える新しい解決策として、Layer2という技術が登場したのです。

Layer2は、Ethereumなどのメインチェーン(Layer1)の上に構築される拡張的な仕組みで、トランザクション処理を外部で行い、その結果だけをメインチェーンに記録するという方式をとります。

これにより、Ethereum本体のセキュリティと分散性を保ちながらも、大幅なスケーラビリティ向上と手数料の削減が可能となっています。
Layer2について説明するとかなり長くなってしまうため、詳しい内容についてはまた別の機会にご紹介したいと思います。

話をもとに戻すと、このようなLayer2の登場・普及以外にも、BitcoinにおけるSegWitの採用や、EthereumにおけるDencunアップグレードなど、複数の技術的要因が重なった結果として、2025年現在の安定した低手数料の環境が実現されているのです。

トークンは改ざん耐性があるが、メタデータの消失リスクあり

⚠️ 指摘されてきた課題

前章で取り上げた通り、改ざん耐性透明性はWeb3の大きな特徴のひとつです。

トークン自体はブロックチェーン上に永続的に記録される一方で、そのトークンに紐づく メタデータ(NFTの画像や説明文など)は、多くの場合、ブロックチェーン外(WebサーバーやIPFSなど)に保存されています。

しかし、このような外部ストレージには以下のような課題もあります:

  • Webサーバーがダウン・サービス終了した場合、コンテンツが参照不能になる
  • 📦 IPFSでピン留めされなくなると、データがネットワークから消失する可能性がある

これにより、NFTなどのコンテンツが消えてしまうリスクが存在し、「ブロックチェーン上の永続性」と「実際のコンテンツ可用性」との間にギャップが生まれる可能性があります。

🟢 現在のステータス

この課題は依然として残っています。NFTのメタデータが外部ストレージに依存している構造自体は変わっておらず、コンテンツのリンク切れや消失のリスクは完全には排除されていません。

ただし、改善のための具体的なアプローチは存在しています
例えば、大手NFTマーケットプレイスの OpenSea では、Filecoin、IPFS、Arweave といった分散型ストレージ技術を組み合わせることで、NFTメタデータの永続性を強化する取り組みを行っています。

https://blog-v3.opensea.io/articles/decentralizing-nft-metadata-on-opensea

https://filecoin.io/blog/posts/opensea-decentralizes-and-persists-nft-storage-with-ipfs-and-filecoin

Filecoinは、経済的インセンティブにより信頼性を高めた分散型ストレージネットワークです。ユーザーはストレージプロバイダーと「Storage Deal(保存契約)」を結ぶことで、一定期間データの保存を保証できます。プロバイダーはデータを保持し続けることでFilecoinトークンを得られるため、保存の継続に対する動機付けが生まれます。保存の証明は「Proof-of-Spacetime(PoSt)」によって行われ、定期的に「実際に保存していること」を暗号的に証明する仕組みです。

その他にもこの課題に対して、ERC-3569やERC‑5185などの標準仕様の提案も登場していますので、今後の動向に注目したいと思います!

ウォレットのユーザビリティと鍵管理の複雑さ

⚠️ 指摘されてきた課題

ウォレットの作成プロセス自体が煩雑であり、それがWeb3普及の大きな障壁となっています。
特に「アンホステッドウォレット」では、利用者が自ら秘密鍵を管理する必要があり、以下のような深刻なリスクが伴います。

  • 🔑 マスターシードの紛失:ウォレットの復元は不可能。資産を永久に失うリスク
  • 🕵️‍♂️ マスターシードの漏洩:第三者に資産を不正操作されるリスク

ユーザーにとって、こうした責任をすべて負う構造は非常に負担が大きいものです。

🟢 現在のステータス

コントラクトウォレット」という新しいアプローチによって、ウォレットのUX課題は徐々に解消されつつあります

コントラクトウォレットは、ユーザー自身が秘密鍵を直接管理する必要がなく
鍵の喪失や漏洩によるリスクをスマートコントラクトのロジックによって軽減します。

具体的には、以下のような柔軟なアクセス制御を取り入れることで、
よりセキュアユーザーフレンドリーな体験を実現できます:

  • 🔐 マルチシグ
  • ♻️ リカバリーメカニズム
  • 📱 デバイス制御
  • 🕒 セッションキー

このような仕組みを支えるのが、Ethereumの仕様提案「EIP-4337」です。

EIP-4337 は、従来のEOA(Externally Owned Account)に依存せず、コントラクトアカウントをユーザーのウォレットとして機能させる「Account Abstraction(AA)」を実現する提案です。
大まかな仕組みを下記に記載しましたので気になる方はご参照ください。

EIP-4337の大まかな仕組み

  1. UserOperationの作成
    ユーザーは、自分のウォレット操作(送金、NFT購入など)を UserOperation という構造体として定義します。

    📎 署名方式は自由であり、秘密鍵を使わず OAuth 連携なども可能。

  2. UserOperation mempool への送信
    作成された UserOperation は、通常のEthereumトランザクションとは別に専用のメモリープール(UserOperation mempool)に送信されます。

  3. Bundlerによる収集とバンドル
    Bundler は mempool を監視し、複数の UserOperation を収集してまとめ、
    1つの Bundle Transaction としてEthereumのL1に送信します。

    📎 このとき、Bundler 自身のEOA秘密鍵で ECDSA 署名が行われます。

  4. Ethereumブロックへの取り込み
    Bundle Transaction は、通常のEthereumトランザクションと同様にブロックに含まれ、EntryPoint コントラクトが各 UserOperation を処理します。

  5. 署名検証と実行
    それぞれの UserOperation は、対応するコントラクトウォレット内の
    validateUserOp() 関数によって署名やロジックの検証を受け、問題がなければ実行されます。

この EIP-4337 の思想に基づいて設計されたスマートウォレットは、すでに以下のようなサービスで実現されています:

https://thirdweb.com/

https://sequence.xyz/

https://www.biconomy.io/

これらのサービスにより、ユーザーはOAuthログインだけでウォレットを利用でき、ウォレットの新規作成や鍵の管理といった複雑な工程は不要です。
そして、Web3特有の複雑な鍵管理やシードフレーズの扱いを意識せずに、誰でも直感的にサービスを利用できる設計を実現しています。

まとめ

このように、Web3には依然として解決すべき課題が残されている一方で、技術的な進歩やユースケースの拡大により、実用性は着実に高まっています。

また、しばしば「キラーアプリケーション」の不在がマスアダプションを阻む要因とも指摘されていますが、私たちはまさにこの課題に真正面から取り組み、Web3の可能性を日常に落とし込むようなサービスの開発を進めています!

https://vericerts.io/

Web3は日々進化を続けています。
私たちもその動向を追いながら、挑戦とともに発信していきますので、ぜひ今後の展開にご注目ください!

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