WCAG備忘録:JIS X8341-3 との関係
はじめに
本項では、日本独自の規格である JIS X8341-3:2016 について扱います。
JISとは
JIS[1] とは日本産業規格のことを指し、通称 JIS 法と呼ばれる『産業標準化法 | e-gov検索』を根拠として成立した、日本国内における標準規格の 1 つです。国際的な規格との整合性を保ちつつ、産業に関する様々な事項(単位、単語・用語・略語、記号、構造、品質、試験・検査など)を国内で統一あるいは単純化し、もって産業の標準化を行うための規格として制定されました。
標準化する目的については当該法律の第一条に記載されているように、それによる産業のメリット(品質の改善、生産性の合理化、取引の単純公正化、使用又は消費の合理化)を通じ、社会全体をより良くするためとなっています。
(法律の目的)
第一条 この法律は、適正かつ合理的な産業標準の制定及び普及により産業標準化を促進すること並びに国際標準の制定への協力により国際標準化を促進することによつて、鉱工業品等の品質の改善、生産能率の増進その他生産等の合理化、取引の単純公正化及び使用又は消費の合理化を図り、あわせて公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。
JIS X8341-3:2016 とは
今回扱う JIS は、正式名称を『高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ』と言い、規格番号は X8341-3:2016 です。
JIS はこのように、固有の規格番号(JIS X8341-3:2016)が割り振られております。JIS 以降の英数字には、下表のような意味があります。
分類 | 意味 | 備考 |
---|---|---|
X |
部門記号 |
X は情報処理を表す |
8341 |
番号 | 一意となる番号が割り振られる |
-3 |
パート番号 | 第 1 部は共通指針、第 2 部はパーソナルコンピュータ、第 3 部はウェブコンテンツ(※) |
:2016 |
発行年 | 制定されたのは 2004 年で、そこから 2010 , 2016 年で改定が行われた |
※ 以降のパート番号は、第 4 部が電気通信機器、第5部が事務機、第6部が対話ソフトウェア、第7部がアクセシビリティ設定と続きます。
つまり JIS X8341-3:2016 というのはつまり、「情報処理部門の固有番号 8341 の第 3 部で、2016 年に発行されたもの」という意味になります。
JISとWCAG との関係性
JIS X8341-3:2016 は WCAG 2.0 の一致規格であり、WCAG の内容を包括する形になっています。下表は JIS X8341-3:2016 の構成ですが、太字の箇所が JIS 独自のものとなっており、それ以外は WCAG 2.0 と一致しています。
箇条番号 | タイトル |
---|---|
_ | 序文 |
0A | 適用範囲 |
0B | イントロダクション |
0B.1 | WCAG2.0 ガイダンスのレイヤー |
0B.2 | WCAG2.0 関連文書 |
0B.3 | WCAG2.0 における重要な用語 |
1 | 知覚可能の原則 |
1.1 | 代替テキストのガイドライン |
1.2 | 時間依存メディアのガイドライン |
1.3 | 適応可能のガイドライン |
1.4 | 判別可能のガイドライン |
2 | 操作可能の原則 |
2.1 | キーボード操作可能のガイドライン |
2.2 | 十分な時間のガイドライン |
2.3 | 発作の防止のガイドライン |
2.4 | ナビゲーション可能のガイドライン |
3 | 理解可能の原則 |
3.1 | 読みやすさのガイドライン |
3.2 | 予測可能のガイドライン |
3.3 | 入力支援のガイドライン |
4 | 堅ろう(牢)(Robust)の原則 |
4.1 | 互換性のガイドライン |
5 | 適合 |
5.1 | 適合要件 |
5.2 | 適合表明(任意) |
5.3 | 部分適合に関する記述 − 第三者によるコンテンツ |
5.4 | 部分適合に関する記述 − 言語 |
附属書A | (規定)用語集 |
附属書B | (参考)謝辞 |
附属書C | (参考)参考文献 |
附属書JA | (参考)ウェブアクセシビリティの確保・維持・向上のプロセスに関する推奨事項 |
附属書JB | (参考)試験方法 |
_ | 解説 |
JIS独自の規定について
WCAG は 自身を絶対のものと位置づけているわけではなく、国や地域単位での独自運用を許容しています。世界と一括りにしても、そこには言語や文化の差異があり、技術レベルも様々であるためです。
JIS X8341-3:2016 に関しても、日本国内の法律や規則といった部分に当てはめられるよう WCAG に記載されてない内容が盛り込まれています。
実際の運用例を見てみる
「JIS X8341-3:2016 を活用し、アクセシビリティに取り組んでいる所はどこか?」を考えた時、まず思い浮かべたのは各省庁でした。
各省庁におけるアクセシビリティ関係のページ一覧
下記はアクセシビリティに関する試験結果を公表しているものをまとめたものになります。
名前 | リンク | 試験結果(※) |
---|---|---|
首相官邸 | Webアクセシビリティ | 首相官邸ホームページ | ◯ |
内閣府 | ウェブアクセシビリティ - 内閣府 | ◯ |
デジタル庁 | ウェブアクセシビリティ|デジタル庁 | ◯ |
総務省 | 総務省|総務省ウェブアクセシビリティ方針 | ◯ |
法務省 | 法務省:法務省ホームページにおけるウェブアクセシビリティ方針 | ◯ |
外務省 | ウェブアクセシビリティ|外務省 | ◯ |
財務省 | ウェブアクセシビリティ : 財務省 | ◯ |
文部科学省 | 文部科学省ホームページ ウェブアクセシビリティ方針:文部科学省 | ◯ |
厚生労働省 | アクセシビリティについて|厚生労働省 | ◯ |
防衛省 | 防衛省・自衛隊:ウェブアクセシビリティ方針 | ◯ |
会計検査院 | アクセシビリティについて | 会計検査院 Board of Audit of Japan | ◯ |
政府広報オンライン | ウェブアクセシビリティ | 政府広報オンライン | ◯ |
内閣法制局 | ウェブアクセシビリティ | 内閣法制局 | - |
人事院 | 人事院ウェブアクセシビリティ方針 | - |
復興庁 | 復興庁 | このホームページについて | - |
経済産業省 | ウェブアクセシビリティ (METI/経済産業省) | - |
環境省 | ウェブサイト作成ガイドライン | コンテンツ制作ガイドライン:1. はじめに | 環境省 | - |
※ 2024年11月時点で公開されていたものを表しています
ここではデジタル庁のサイトを詳しく見ていきたいと思います。
デジタル庁のウェブアクセシビリティ
デジタル庁の「ウェブアクセシビリティ(対応状況)」のページは、下記となります。
そこには JIS X8341-3:2016 を活用する旨が書かれており、実際に検証結果のページではJIS規格に基づいた試験を行っていることを確認できます。
デジタル庁では、「誰一人取り残されない、人にやさしいデジタル社会の実現」を目指しています。そのためには、障害のある人やご高齢の方などを含むすべての方が、ウェブで提供されている情報やサービスをスムーズに利用できることが不可欠です。
これを実現するために、デジタル庁ではウェブアクセシビリティの確保・維持・向上に継続的に取り組んでまいります。またその指標として、日本産業規格JIS X 8341-3:2016「高齢者・障害者等配慮設計指針 情報通信における機器、ソフトウェア、及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ」を活用してまいります。
検証結果のページでは『附属書JB:試験方法』にあるような形で、試験結果の表示(検証した時期や範囲、試験方法及びその結果 など)や達成基準チェックリスト(各達成基準の適合レベル、達成基準を適用すべきか、試験結果 など)が記載されています。
試験結果表示(引用)
項目 内容 表明日 令和6年(2024年)4月1日 規格の規格番号及び改正年 JIS X 8341-3:2016 満たしている適合レベル Aに一部準拠 対象となるウェブページに関する簡潔な説明 https://www.digital.go.jp/ 以下の全てのページ、https://form-www.digital.go.jp/contact 依存したウェブコンテンツ技術のリスト HTML、CSS、JavaScript、PDF 試験に使用したチェックツール Nu Html Checker、Adobe Acrobat Pro、axe-core コンテンツを検証するのに用いたOS、ユーザーエージェント、支援技術 Windows 10 / Google Chrome / NVDA、 Windows10 / Adobe Acrobat Reader /NVDA、 iOS17.4 / Safari / VoiceOver 試験対象のウェブページを選択した方法 ランダムサンプリングによって40ページ(ウェブページ:30ページ、PDF:10ファイル)、ウェブページ一式を代表するウェブページとして14ページおよびPDF1ファイルを選択 試験を行ったウェブページ ウェブアクセシビリティ検証結果 試験実施ページリスト 達成基準チェックリスト 達成基準チェックリスト 試験実施期間 令和6年(2024年)3月8日から3月25日 アクセシビリティを向上するために達成基準以上に追加で施した措置 各ページの先頭に「本文へ移動」のリンクを設置 『ウェブアクセシビリティ検証結果 | デジタル庁』より一部抜粋(2024年10月29日の時点)
達成基準チェックリスト(引用)
「適用」の欄は、達成基準を使用するのかどうかを表しています(該当するコンテンツがないなど、使わない場合は -
になっています)。そして「結果」の欄が、検証した際の適合できているかを表しています。
No. 達成基準 適合レベル 適用 結果 注記 1.1.1 非テキストコンテンツ A ○ × 一部のPDFに代替テキストが付与されていない画像がある 1.2.1 音声だけ及び映像だけ(収録済み) A - ○ 該当コンテンツなし 1.2.2 キャプション(収録済み) A ○ ○ 1.2.3 音声解説又はメディアに対する代替コンテンツ(収録済み) A ○ ○ 1.2.4 キャプション(ライブ) AA - ○ 該当コンテンツなし 1.2.5 音声解説(収録済み) AA ○ ○ 1.3.1 情報及び関係性 A ○ × 「一部の文章でリストとしてマークアップされていないリスト項目がある。」、「一部のPDFでマークアップとしおりの設定がされていないものがある。」 1.3.2 意味のある順序 A ○ ○ 1.3.3 感覚的な特徴 A - ○ 1.4.1 色の使用 A ○ ○ 1.4.2 音声の制御 A ○ ○ 1.4.3 コントラスト(最低限レベル) AA ○ ○ 1.4.4 テキストのサイズ変更 AA ○ ○ 1.4.5 文字画像 AA - ○ 該当コンテンツなし 2.1.1 キーボード操作 A ○ ○ 2.1.2 キーボードトラップなし A ○ ○ 2.2.1 タイミング調整可能 A - ○ 該当コンテンツなし 2.2.2 一時停止,停止及び非表示 A - ○ 該当コンテンツなし 2.3.1 3回のせん(閃)光,又はしきい(閾)値以下 A - ○ 該当コンテンツなし 2.4.1 ブロックスキップ A ○ ○ 2.4.2 ページタイトル A ○ × 一部のPDFでタイトルが設定されていないものがある 2.4.3 フォーカス順序 A ○ × サイト内検索及び検索結果ページにおいて、フォーカス順序が不適切な箇所がある。 2.4.4 リンクの目的(コンテキスト内) A ○ ○ 2.4.5 複数の手段 AA ○ ○ 2.4.6 見出し及びラベル AA ○ ○ 2.4.7 フォーカスの可視化 AA ○ ○ 3.1.1 ページの言語 A ○ × 一部のPDFで言語設定がされていないものがある 3.1.2 一部分の言語 AA ○ ○ 3.2.1 フォーカス時 A - ○ 該当コンテンツなし 3.2.2 入力時 A - ○ 該当コンテンツなし 3.2.3 一貫したナビゲーション AA ○ ○ 3.2.4 一貫した識別性 AA ○ × サイト内のページネーションのラベルが一貫していない 3.3.1 エラーの特定 A ○ ○ 3.3.2 ラベル又は説明 A ○ ○ 3.3.3 エラー修正の提案 AA ○ ○ 3.3.4 エラー回避(法的,金融及びデータ) AA - ○ 該当コンテンツなし 4.1.1 構文解析 A ○ ○ 4.1.2 名前(name),役割(role)及び値(value) A ○ × サイト内検索の検索結果ページのページネーションにおいて、現在地が示されていない 『ウェブアクセシビリティ検証結果 | デジタル庁』より一部抜粋(2024年10月29日の時点)
まとめ
各種資料
-
Japanese Industrial Standard の略 ↩︎
Discussion