中途採用のエンジニアをオンボーディングしよう。注意する事は?
オンボーディングにおける研修の役割
オンボーディングとは
人事関係者やリーダークラスなら聞く・使う事が多いが、実はあまり認識されていない用語(と、認識しておいた方が良い)
OJT(=実務研修)と同じ意味で使われる事が多いが、研修用語ではない。採用から実務への参画まで含めて用いられ、特に研修が不要または計画されていない中途採用者もオンボーディングの対象である。オンボーディングの目的は以下の通り。
- 新卒・中途採用者への現場投入
- 採用時点から戦力化できる=即戦力であればあるほど軽視されるが、採用者の環境構築(社内サイトやサービスアカウントを発行し通知)から現場コミュニケーションなど、特にオンラインだとコミュニケーションの環境構築が重要となる。
- 中途も含め、新卒などに研修を施す。独学(自習)を促したり体系的な研修を実施する事もあるが、採用時点から計画できる体制を構築しておきたい。
- 社内コミュニケーションの促進・活性化
- 新人(新卒ではない。中途を含む)と既存社員の交流を経ることで現場に馴染みやすくする。
- 入社前から行う事もできるが、入社前または入社直後に社内の様子を見せる事での良し悪しがあるので、頻度は調整したい。
- 現場参画後のサポート
- 主に研修後を想定されるが、研修だけでなく現場を通じてスキルアップできる未来を見せる事が重要。
- 特に新人はスキルアップでモチベーションを維持しやすいが、中途採用者はスキルアップだけではいけない。
- 離職防止を謳う方も多いが、オンボーディング(1on1)だけでは解決できないので、筆者としては離職防止施策にオンボーディングを含むべきではないという見解だ。
繰り返しになるが、新卒に研修を実施したり社内コミュニケーションを促進した後に何をするかが重要である。
段階別オンボーディングの施策と効果
まず最初に、オンボーディング施策は企業文化やチームの雰囲気によるので、銀の弾丸は存在しない。また、オンボーディングも目安となる用語の一つに過ぎず、他社の事例としてオンボーディング施策を学ぶ事は重要だがそのまま自社に取り入れる事は難しい事も認識しておきたい。また、オンボーディング自体を目的にせず、目的があってオンボーディングを検討する事が重要だ。
つまり、オンボーディング自体に効果を求めるのではなく、何かの課題があって解決するための手法としてオンボーディングを学び、自社に合わせて初めて効果が現れるものである。適切なオンボーディング施策をトライアンドエラーで検証していこう。以下に施策の例を記す。
- 研修:
- OffJT-全社研修もただやれば良いと言う事ではない。エンジニア教育の例だが、特に新人研修で経験者(特に理系)と未経験者(特に文系)を画一的に指導する事は効果が薄くなりやすい。
- 多くの研修事業社が、対象者の経験の有無を問わず画一的なパッケージを提案する事になるが、研修の営業担当者と社内研修担当で意見が食い違う事になる事も認識しておきたい。
- OJT-
- OffJT-全社研修もただやれば良いと言う事ではない。エンジニア教育の例だが、特に新人研修で経験者(特に理系)と未経験者(特に文系)を画一的に指導する事は効果が薄くなりやすい。
- 1on1:
研修施策
筆者は環境が変わるたびに意識するものが「マズローの欲求5段階説」である。特に第二段階である「安全の欲求」を最重要視しており、具体的には「この講師は信用できるのか」という観点で見る場合に
- 研修では間違えた数だけ学びを得る。
- 実務では失敗が許されない事がある。研修は失敗できる環境である。
- 過去の経験として、未経験者ほど積極的に質問をし、質問の数が成長の数である。
これらの環境が整ってはじめて、受講者たちは次の段階である「社会的欲求」=集団への所属や仲間の存在を認める事ができる。誤解を恐れずに言えば研修の満足度はマズローの欲求5段階説に則り、研修効果は満足度が高くなればなるほど上がる。とはいえ大衆向け研修である限り(=個別研修でない)講義方針が合わない受講者が出てくる事は許容する事とフォローアップ施策も併せて検討が必要になる。
研修後サポート
筆者は研修ベンダーの立場でOffJTを実施する講師の立場である事が多いため、研修前施策の知見はあまりない。が、研修後については直前の工程の担当者として言及したい。特にご年配のご担当者の方とお話しすると違和感として感じるが、Z世代(に関わらず、若手実力派エンジニア)の方のモチベーションを正しく認識されておらず、会社の評価制度ありきで人事マネジメントを検討されている傾向を感じている。このギャップが解決されない限りは正しい離職防止策を講じる事はできない。
では、正しい研修後サポートとは何かを考える。最もシンプルに説明すると「ハーズバーグの動機づけ・衛生理論」に基づいて考えるのが良い。以下をご認識いただきたい。
- 動機づけ要因:満足度を高め、長期的に業務に従事する意欲となるもの
- 目的の達成
- 個人の努力承認(結果より努力)
- 業務内容・昇進
- 業務への適切な責任(負荷)
- 衛生要因:不満を取り除き、短期的に業務に従事してくれるもの
- 会社の考えや方針への共感
- 給与や待遇
- 対人関係
ここで重要なのが 「従業員の満足度が高い状態とは、従業員の不満度が低い状態とは言えない」 という事である。同様に「従業員の不満度が高い状態とは、従業員の満足度が低い状態とは言えない」のだ。満足度と不満度は同一に考えてはならない。
では、満足度と不満度はどのように評価をすれば良いだろうか。正しい学説は私が探した限りでは見つからないが、経験則から以下の傾向が読み取れる。
不満度・低 | 不満度・高 | |
---|---|---|
満足度・高 | 高い生産性 | 変化を望む |
満足度・低 | 変化を敬遠する | 高い離職リスク |
この図で見た場合、不満度が高い従業員にマインドセットを試みる事はあまり効果がなく、それよりは現状の待遇を変える等の対応を検討する必要がある。同じように、満足度が低い従業員に高待遇をしても一時的にモチベーションは上がるが、長期的に見ると何も変わらない。
人間関係をややこしくする「プロスペクト理論」
これまでに取り上げた「マズローの欲求5段解説」や「ハーズバーグの動機づけ・衛生理論」と比べると直接的に活かせる機会は少ないが、人間本来の意志や感じ方として「自分より他人が得をするぐらいなら、自分が少し損をしてでも他人に大きな損を与えたい」という思想がある事を認識されたい。大事な事なので図で示す。
自分が得をするケース
自分 | 相手 | 期待する選択 | 実際の選択傾向 | 備考 |
---|---|---|---|---|
◎ | ◎ | 選ぶ | 選ぶ | |
◎ | ◯ | 選ぶ | 選ぶ | |
◎ | ▲ | 選ぶ | 選ぶ | |
◎ | × | 選ぶ | 選ぶ | |
◯ | ◎ | 選ぶ | 避ける | 積極的な否定傾向が見られる |
◯ | ◯ | 選ぶ | 選ぶ | |
◯ | ▲ | 選ぶ | 選ぶ | |
◯ | × | 選ぶ | 選ぶ |
自分が損をするケース
自分 | 相手 | 期待する選択 | 実際の選択傾向 | 備考 |
---|---|---|---|---|
▲ | ◎ | 避ける | 避ける | |
▲ | ◯ | 避ける | 避ける | |
▲ | ▲ | 避ける | 避ける | |
▲ | × | 避ける | 選ぶ | 消極的な賛成傾向が見られる |
× | ◎ | 避ける | 避ける | |
× | ◯ | 避ける | 避ける | |
× | ▲ | 避ける | 避ける | |
× | × | 避ける | 避ける |
凡例
- ◎: 大得
- ◯: 得
- ▲: 損
- ×: 大損
この図で言えば、自分が得するのに相手が大得するなら選ばず、自分が損する時に相手が大損するなら選ぶ傾向が見られる事が分かる。本稿ではエビデンスを提示しないが、「プロスペクト理論」で調べてみるとこのようなバイアスが掛かっている事の実験結果を多数見る事ができる。
さて、オンボーディングにおいてプロスペクト理論がどのように活用されるか、という観点でみると「1on1は部下間で共有されている」事を認識しておこう。上司目線かつその場の機会だけ見れば正しく「1on1」だが、実質は1対多を多の数だけ実施している。表現を変えると「1on1」on「1on1」on...といったような図になっている。この時に特定の部下を厚遇し、厚遇しなかった部下と当該部下の仲が良ければ1on1の情報は常に共有されている。そこで**「自分より得をしている存在を認識した」**時に上長であるあなたの評価が部下目線でどのようになされるか。特に厚遇した側の部下があなたに対する不信感を強く持ってしまうリスクを考えておこう。
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