JavaのクラスからTypeScriptの型定義を生成するtypescript-generatorを使ってみた
バックエンドを Java、フロントエンドを TypeScript で実装している場合、バックエンドとフロントエンド間のデータのやり取りを型で安全に行いたい場合があります。
データのやり取りの方法には、API や HTML に JSON データを埋め込むなどの方法がありますが、typescript-generator は どちらのケースにおいても対象のデータのクラスから TypeScript のインターフェイスを生成することができます。 生成されたインターフェイスを利用することで、フロントエンドにおいても型を利用した安全な実装が可能になります。
この記事では、typescript-generator の使い方や独自で拡張を実装する方法について紹介します。
typescript-generator とは
typescript-generator は、以下のような Java の JSON クラス[1]があったときに、
public class Person {
public String name;
public int age;
public boolean hasChildren;
public List<String> tags;
public Map<String, String> emails;
}
対応する TypeScript のインターフェイスを生成するツールです。
interface Person {
name: string;
age: number;
hasChildren: boolean;
tags: string[];
emails: { [index: string]: string };
}
Java から TypeScript への型の変換は以下の表のように行われ、Java のプリミティブ型だけでなく、Collection や Enum など多くの型に対応しています。
Java から TypeScript への型変換の対応表、https://github.com/vojtechhabarta/typescript-generator/wiki/Type-Mapping#default-type-mapping からの引用
インストール方法
Gradle を使っている場合は、build.gradle
に以下の設定を追加することで導入できます。
apply plugin: 'cz.habarta.typescript-generator'
buildscript {
repositories {
mavenCentral()
}
dependencies {
classpath group: 'cz.habarta.typescript-generator', name: 'typescript-generator-gradle-plugin', version: 'x.y.z'
}
}
generateTypeScript {
jsonLibrary = 'jackson2'
outputKind = 'global'
outputFile = 'build/sample.d.ts'
}
設定を追加した後、 gradle generateTypeScript
を実行すると、build/sample.d.ts
に型定義が生成されます。Maven 向けのプラグインも配布されており、Maven や Gradle Kotlin などの場合のインストール方法についても README で紹介されています。
各種パラメーターの設定
typescript-generator のパラメーターは、以下のドキュメントを参考にしながら設定していきます。非常に多くのパラメーターが用意されているので、柔軟な型変換が可能な点もこのツールの良いところだと思います。ここでは、必須パラメーターの解説と自分が利用したパラメーターを紹介します。
必須パラメーター
型変換を行う際の必須パラメーターは、jsonLibrary
と outputKind
の 2 つのみです。このため、手軽に試せるところもこのツールの良いところです。
jsonLibrary
- JSON のクラスを定義する際に利用しているライブラリを指定する
- 指定できる値は
jackson
,jaxb
,gson
など
outputKind
- 出力する TypeScript ファイルの形式を制定する
-
global
、module
、ambientModule
のいづれかが指定できる-
global
: グローバルスコープで出力する -
module
: トップレベルのexport
宣言で出力する -
ambientModule
:declare module "mod" { }
形式で出力する
-
そのほかの便利なパラメータ
outputFile
- 生成される型定義ファイルのパスを設定する
-
outputFileType
に対応した拡張子をつける必要がある
outputFileType
- 出力するファイルのフォーマットを指定する
-
declarationFile
とimplementationFile
の2つが指定できる-
declarationFile
:*.d.ts
の形式で生成される (デフォルト) -
implementationFile
:*.ts
の形式で生成される
-
excludeClasses
- 型定義を生成したくないクラスを指定する
-
java.lang.Comparable
などのプロパティを持たないインターフェイスの出力を無効にできる
declarePropertiesAsReadOnly
- プロパティに
readonly
を付与する - デフォルトでは
false
additionalDataLibraries
- Java でよく利用されるライブラリのサポートをオプトインする
-
guava
,joda
,vavr
のサポートを追加できる
mapDate
- Java の Date に関する型をどのように変換するかを設定する
- 指定できる値は
asDate
,asString
,asNumber
で、デフォルトはasDate
- 日付データを JSON 化すると string などに変換することが多い
optionalPropertiesDeclaration
と requiredAnnotations
-
optionalPropertiesDeclaration
は、requiredAnnotations
で指定されたアノテーションが付与されていないすべてのプロパティを optional とする - optional の方法としては、以下の5つ方法が選択できる
-
questionMark
:?
をプロパティに付与する -
questionMarkAndNullableType
:?
をプロパティに付与し、null とのユニオン型をアノテーションする -
nullableType
: null とのユニオン型をアノテーションする -
nullableAndUndefinableType
: null と undefined とのユニオン型をアノテーションする -
undefinableType
: undefined とのユニオン型をアノテーションする
-
- Java が null 安全でないことを考慮しつつ、導入するプロジェクトに合わせて柔軟に設定できるとよい
独自で拡張を作成する方法
typescript-generator は今まで紹介してきたとおり多様なパラメーターを設定できるのですが、拡張を利用することでさらに柔軟な型変換が可能になります。typescript-generator が提供している拡張は、こちらのディレクトリに存在し、以下のように利用することが可能です。
generateTypeScript {
...
extensions = [
'cz.habarta.typescript.generator.ext.AxiosClientExtension',
....
]
}
また、ディレクトリのコードを参考にすることで、プロジェクト特有の変換も自分で実装することが可能です。ここでは、デフォルト値が代入されているプロパティを non-nullable にする拡張の実装方法を簡単に説明します。実装は以下のリポジトリにも公開しているので、興味がある人はリポジトリのコードも参考にしてもらえればと思います。
拡張の雛形の作成
まず cz.habarta.typescript.generator.Extension
を継承し、getFeatures
メソッドと getTransformers
メソッドをオーバーライドします。
getFeatures
は、作成する拡張にパラメーターを渡したいときに利用します。今回は特にパラメーターを利用する予定がないので、EmitterExtensionFeatures
のインスタンスをそのまま返します。getTransformers
は、指定した TransformationPhase で各 Java Bean に対する TypeScript の型情報を変換します。
public class DefaultValueNonNullableExtension extends Extension {
@Override
public EmitterExtensionFeatures getFeatures() {
final EmitterExtensionFeatures features = new EmitterExtensionFeatures();
return features;
}
@Override
public List<TransformerDefinition> getTransformers() {
return Arrays
.asList(new TransformerDefinition(ModelCompiler.TransformationPhase.BeforeSymbolResolution,
this::transformModel));
}
protected TsModel transformModel(TsModelTransformer.Context context, TsModel model) {
final List<TsBeanModel> beans = model.getBeans().stream()
.map(bean -> transformBean(context, bean))
.collect(Collectors.toList());
return model.withBeans(beans);
}
protected TsBeanModel transformBean(TsModelTransformer.Context context, TsBeanModel tsBean) {
// TODO:独自の型変換の実装のメイン
}
}
TransformationPhase の各 Phase で行っている型変換を把握するには、以下の処理が参考になります。
今回の場合は、optionalPropertiesDeclaration
に関する変換の後に、 デフォルト値が代入されているプロパティを non-nullable にするという処理を実装するので、BeforeSymbolResolution
を指定しています。
拡張のメインロジックの記述
各プロパティに対する変換処理は、transformBean
に実装していきます。各プロパティの型情報は TsBeanModel
の properties
が保持しており、Java クラスの情報についても context
変数から Reflection API を利用してアクセスできます。
以下のロジックでは、Reflection API を使ってプロパティの初期値を取得し、初期値が null でなければユニオン型から null
を省くという処理を行っています。
protected TsBeanModel transformBean(TsModelTransformer.Context context, TsBeanModel tsBean) {
try {
final BeanModel bean = context.getBeanModelOrigin(tsBean);
List<TsPropertyModel> properties = tsBean.getProperties().stream().map((TsPropertyModel tsProperty) -> {
try {
final Class<?> originClass = bean.getOrigin();
final Object instance = originClass.getConstructor().newInstance();
final Field field = originClass.getDeclaredField(tsProperty.getName());
field.setAccessible(true);
// プロパティの初期値を取得し、nullではないか確認する
if (field.get(instance) != null && tsProperty.tsType instanceof TsType.UnionType) {
final TsType.UnionType unionType = (TsType.UnionType) tsProperty.tsType;
// null を省いたユニオン型に修正する
return tsProperty.withTsType(unionType.remove(Arrays.asList(TsType.Null)));
}
return tsProperty;
} catch (Exception e) {
return tsProperty;
}
}).collect(Collectors.toList());
return tsBean.withProperties(properties);
} catch (Exception e) {
TypeScriptGenerator.getLogger()
.verbose(String.format("DefaultValueNonNullableExtension raised error: ", e.getMessage()));
return tsBean;
}
}
テスト
最後に、拡張が正しく実装されているかテストを書きます。テストに関しても、typescript-generator のリポジトリに実装されているので、それらを参考にして実装します。
class ExtensionTest {
// 型変換のパラメーターを設定する
public Settings settings() {
final Settings settings = new Settings();
settings.outputKind = TypeScriptOutputKind.module;
settings.jsonLibrary = JsonLibrary.jackson2;
settings.noFileComment = true;
settings.noTslintDisable = true;
settings.noEslintDisable = true;
settings.newline = "\n";
settings.optionalPropertiesDeclaration = OptionalPropertiesDeclaration.nullableType;
return settings;
}
@Test
public void test() {
final Settings settings = settings();
settings.extensions.add(new DefaultValueNonNullableExtension());
final String output = new TypeScriptGenerator(settings).generateTypeScript(Input.from(SampleClass.class));
// 出力に期待されている型定義が含まれているか確認する
assertTrue(output.contains("text0: string | null;"));
assertTrue(output.contains("text1: string;"));
}
public static class SampleClass {
public String text0;
public String text1 = "hello"
}
}
まとめ
この記事では、typescript-generator の使い方について、基本的なパラメーターの扱い方から独自で拡張を実装する方法まで幅広く紹介しました。バックエンドの Java のコードを読みながら手動で TypeScript の型定義を用意したり、バックエンドから受け取る値に TypeScript の any 型をアノテーションしている場合などには、typescript-generator を使ってみる価値があると思います。
また、typescript-generator の各パラメーターについてもう少し詳しく知りたい方は、公式ドキュメントの他にも以下の記事も非常に参考になります。
-
JSON にシリアライズできるクラスのことを指します。typescript-generator の README に "Java JSON classes" という表現があるので、そのままの訳を利用しています。 ↩︎
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