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6Gで期待されるSDMA/OFDMA以外の多元接続方式について (RSMA, NOMA, SCMA)

2025/03/10に公開

はじめに

5Gの主要な無線アクセス方式としては、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)とSDMA(Spatial Division Multiple Access)が用いられています。OFDMAは周波数資源をサブキャリアに細かく分割してユーザ間で割り当てる「周波数軸」の直交化、SDMAは Massive MIMO などで空間ビームを用いて「空間軸」での直交化を実現し、それぞれ効率よく多ユーザ通信を行う仕組みです。

一方で、6G以降を見据えては、既存のOFDMAベース/SDMAベースを強化しただけでは通信需要をまかないきれない可能性や、さらなる超低遅延・高信頼性・大規模接続を要するユースケースが想定されています。そこで、非直交化の考え方や、データの符号化・復号化をより高次に処理する多元接続方式(multiple access)が注目されています。

以下では、5Gで使われているSDMA/OFDMAと、今後6Gの候補技術として議論されているRSMA (Rate Splitting Multiple Access), NOMA (Non-Orthogonal Multiple Access), SCMA (Sparse Code Multiple Access) について、それぞれ概要と比較を解説します。


1. SDMA (Spatial Division Multiple Access)

概要

  • 空間軸を利用した多元接続方式。Massive MIMOなどでアンテナ数を増やし、ビームフォーミングによってユーザごとに異なる空間ビームを割り当てることで、同一周波数・同一時間のリソースを複数ユーザと共有可能にする。
  • 5Gでは特にミリ波帯を使う際に大規模なアレイアンテナを用いてSDMAを実現している。

特徴

  • アンテナ構成が大規模になるほど、空間分離性能が向上し、多数ユーザ同時接続を容易にする。
  • 空間分離が十分にできれば、ユーザ間の干渉は低減されるが、ビームの形成や追従(トラッキング)が複雑化する場合がある。
  • 通信環境(LOS/NLOS, ユーザの配置など)によって性能が左右される。

2. OFDMA (Orthogonal Frequency Division Multiple Access)

概要

  • 周波数軸を細かくサブキャリアに分割し、ユーザごとに異なるサブキャリアを割り当てる方式。各サブキャリアは直交関係にあり、干渉を抑えることができる。
  • 4G(LTE)や5Gの基幹となる無線アクセス方式であり、周波数選択性やマルチパス干渉を緩和しつつ、多ユーザへの効率的なリソース割り当てができる。

特徴

  • サブキャリアごとに直交性が保たれているため、ユーザ間干渉が小さい。
  • 一方で、ユーザ数がサブキャリア数を超えるような大規模接続や、非常に低遅延を求めるシナリオでは、通信効率が低下する場合がある(複数ユーザをさらに詰め込むにはリソースの柔軟性が不足する)。

3. NOMA (Non-Orthogonal Multiple Access)

概要

  • 非直交化を許容し、同じ時間・周波数リソース上で複数ユーザの信号を多重化することで周波数利用効率を高める多元接続方式の総称。
  • 受信側は SIC (Successive Interference Cancellation) などの手法を用いて信号を分離・復号する。基本的には送信電力比や符号化の工夫によって各ユーザ信号を多重化し、その後順番に干渉をキャンセルする。
  • 5Gでも URLLC や mMTC(多数同時接続)の一部シーンでNOMA系手法が検討されているが、広く標準化され、メインストリームとなっているわけではない。

特徴

  • メリット:
    • 同じリソースを複数ユーザが同時に利用できるため、周波数利用効率が向上しやすい。
    • 電力比などを最適に設計すれば、ユーザの通信状況に応じて柔軟にアクセスさせることが可能。
  • デメリット:
    • SICなどの干渉キャンセル処理で受信側の複雑度が上がる。
    • 多ユーザ重畳時には干渉キャンセルが不完全になると誤り率が高くなり得る。
    • ユーザのチャネル状態や送信電力制御が大きく性能に影響し、設計が複雑になる。

4. SCMA (Sparse Code Multiple Access)

概要

  • NOMAの一種だが、特に上りリンク(Uplink)でも有用と言われる。データを多次元の疎な符号ブック(Sparse Codebook)にマッピングして多重化する方式。
  • 各ユーザが割り当てられた符号ブック(疎行列のような割当)を使って変調符号化し、同一リソース上に重ねて送信。受信機側では多次元信号推定のアルゴリズム(MPA: Message Passing Algorithm など)によって高精度にユーザ信号を分離する。

特徴

  • メリット:
    • サブキャリア × シンボル軸へのマッピングにおいて疎な配置をするため、メッセージパッシングによる受信分離が効率よく機能する。
    • 多数ユーザを同一リソース上で多重化しても、疎構造のおかげで復号アルゴリズムの実装が比較的可能。
    • 大量接続に向いていると期待されている。
  • デメリット:
    • MPAベースの受信器は従来の線形イコライザなどに比べて複雑なアルゴリズムを要し、ハードウェア実装に負荷がかかる。
    • コードブック設計がシステム性能に大きく影響し、最適化が難しい。

5. RSMA (Rate Splitting Multiple Access)

概要

  • ユーザデータを「共通部分」と「専用部分」に分割し、共通部分を全ユーザが受信できる形で送信し、専用部分は各ユーザのチャネル状況やビームフォーミング等を活かして送る方式。いわば、「レートの分割」 に基づく新しい設計思想。
  • ユーザ間干渉をSICとレート分割を使って柔軟に抑える。共通部分を最初にデコードし、その後各ユーザ専用部分を取り出すことで干渉を軽減する。

特徴

  • メリット:
    • スペクトル効率やフェアネス向上の余地があり、ユーザ間のチャネル状態差が大きい場合でも性能を最適化しやすい。
    • 従来のNOMAよりも受信時の干渉キャンセル手順を柔軟に設定できるので、過度の干渉を回避しやすいという報告もある。
  • デメリット:
    • 送信側がユーザごとにデータの共通部と専用部をどのように分割するか設計するため、制御や符号化が複雑化する可能性。
    • SICを含む受信処理が必要であり、多ユーザ数・高負荷環境ではアルゴリズムやハードウェア面の課題がある。

6. それぞれの比較・位置づけ

方式 直交 vs 非直交 主な軸 主に想定される方向性 長所 短所
SDMA 直交 空間 Massive MIMO により高容量化を実現 空間分離ができれば干渉が小さい
ビーム最適化で高効率
ビーム形成・追従が複雑化
環境依存度高
OFDMA 直交 周波数 LTE/5G の中心方式 ユーザ間干渉が極小
リソース割当の柔軟性が高い
ユーザ数増加や超低遅延には対応しきれない可能性
NOMA 非直交 電力/コード領域 5G以降で検討。主に SIC で干渉キャンセル 周波数資源を重畳利用しやすい
高スペクトル効率
受信処理が複雑
干渉キャンセル性能に依存
SCMA 非直交 疎な符号ブック 多数ユーザの上りリンク等で注目 大規模接続時の効率が良い
メッセージパッシング復号
受信器が複雑
コードブック最適化が難しい
RSMA 部分的非直交 レート分割 + SIC ユーザ間干渉を柔軟に制御し6G向けに期待 干渉管理とスループットの両立が期待
フェアネス向上
レート分割設計や制御が複雑
SICが必要
  • SDMA/OFDMAは5Gでも主要技術として引き続き利用され、特に空間分離による高効率化(Massive MIMO)が中心となっています。
  • NOMA・SCMAは5Gのリリース15以降も研究・検討されており、混雑シナリオやmMTC、URLLCなど、リソースの節約・効率向上が必要な場面で適用が期待されていますが、標準化や実装の難しさから限定的な採用にとどまっています。
  • RSMAは6Gでの新たな干渉管理・効率向上策として注目されはじめ、SDMAやMIMO技術とも組み合わせて柔軟に運用できる点が大きな魅力です。

7. 6Gでの多元接続方式の展望

6Gでは、下記のような要件がさらに厳しくなると想定されます。

  1. 超大規模接続 (Massive Machine-Type Communications)
    IoTデバイスが今以上に爆発的に増えるため、同時接続数を増やしつつ省電力を実現する必要がある。

  2. 超低遅延・超高信頼 (URLLCのさらなる進化)
    自動運転やロボット制御など、人命や社会インフラにかかわる通信で1ミリ秒以下の遅延や99.9999%の信頼性が求められる。

  3. 超高スループット・大容量 (eMBBのさらなる拡張)
    次世代のXR(クロスリアリティ)やホログラム通信など、膨大なスループットが求められる。

これらを踏まえたとき、OFDMA/SDMAの拡張に加えて、

  • NOMA/SCMA といった非直交化方式が「大規模接続」や「周波数効率向上」のために有力。
  • RSMA は「干渉管理」と「柔軟なレート割当」による最適なリソース使用が期待でき、SDMAやMassive MIMOの利点を損なわずにさらに活用できる可能性がある。

また、6GではReconfigurable Intelligent Surface (RIS)や上位レイヤーでのAI制御による適応的なリソース割り当てなども検討されており、それぞれの多元接続方式をどう組み合わせるか、どこで適用するかが総合的に設計されると考えられます。


8. まとめ

  • 5Gでは依然としてSDMA(Massive MIMO)OFDMAが軸となり、限定的にNOMAやその派生方式(SCMAなど)が採用される形ですが、標準仕様でメインとしては使われていません。
  • 6Gでは、通信要件のさらなる高度化に伴い、非直交型方式やレート分割方式(RSMA)などが検討され、SDMA/OFDMAだけでは限界がある大規模接続や干渉管理、超高スループットを補う手段として重要視される可能性があります。
  • ただし、非直交化による高効率化には受信複雑度や制御設計の面で課題が伴い、それらの実装上のトレードオフをどう解消するかが、今後の研究・標準化の鍵となります。

それぞれの方式は、直交性や干渉キャンセルの仕組みに違いがあり、ユースケースやネットワーク負荷状況によって使い分けが検討されています。6Gでは、これらの技術を複合的にハイブリッド運用することも視野に入れた最適化が進むかもしれません。

付録A. PAPR(ピーク平均電力比)への着目

付録A.1 OFDM系方式と高PAPRの課題

  • OFDM/OFDMAは、複数のサブキャリアを直交的に重ね合わせることで高い周波数効率を得られますが、合成波形のピーク値が大きくなることが多く、結果として高PAPRになりやすいという課題があります。

    • アップリンク(LTEリリース8以降)では、端末側の消費電力や電力増幅器(PA)の効率が重要であるため、SC-FDMA(Single Carrier-FDMA)などを採用してPAPRを抑制してきた経緯があります(LTE上りリンクはSC-FDMAが主体)。
    • 5G NR上りリンクでは、周波数やアンテナ構成によってSC-FDMAとDFT-s-OFDMを使い分ける場合もあり、高ピーク電力を抑える工夫がなされています。
  • PAPRが高い波形の問題点

    1. PA(Power Amplifier)の効率低下
      大きなピーク電力に合わせて動作点を設定すると、平均電力帯域での効率が低下してしまう。モバイル端末では電池消費や熱設計などに不利となる。
    2. 非線形歪みに弱い
      無線機のPAは線形域を超えると歪みが発生し、隣接チャネル漏洩やビット誤り率(BER)の悪化を招く。

付録A.2 NOMA/SCMA/RSMAのPAPRへの影響

  • NOMA (Non-Orthogonal Multiple Access)

    • 電力ドメインNOMAの場合、ユーザごとに異なる送信電力を割り振って重畳させるが、基底波形としてはOFDMを利用することが多いため、OFDM由来の高PAPR問題自体は残る。
    • ただし、NOMAの送信パワー割当が巧妙に設計されると、特定ユーザの電力が突出せず比較的ピークを抑えられる可能性はあるが、一般にはPAPR自体の大幅な改善は難しく、受信機でのSIC性能が重視される。
  • SCMA (Sparse Code Multiple Access)

    • SCMA自体は多次元符号ブックを疎にマッピングして非直交多元接続を実現する方式だが、伝送波形としてOFDMを使う場合はOFDM由来のPAPR問題が依然存在する。
    • 一方、SC-FDMA等のシングルキャリア系と組み合わせることで、マルチユーザ疎符号化の利点を活かしつつPAPRを抑えられる可能性がある。
    • ただし、SCMA受信機の複雑度とPAPR低減のトレードオフは検討が必要。
  • RSMA (Rate Splitting Multiple Access)

    • RSMAはレート分割と干渉キャンセルを組み合わせる非直交の考え方であり、これも物理層の基底波形としてOFDMを使うケースが多い。このため、単純にRSMA方式を導入するだけでPAPRを下げる効果は大きくない。
    • ただし、複数ユーザの共通部と専用部を分けることで、パワー配分を最適化しやすい設計ができるため、場合によってはピークを抑制しやすい工夫も考えられる。しかし大幅なPAPR低減を狙うなら、やはりシングルキャリア系や波形面の工夫が必要。

付録A.3 6Gに向けた波形設計とPAPR低減策

6Gでは大規模MIMOをさらに進化させた**超大規模アレイ(Massive MIMO Beyond)**や、テラヘルツ帯への進出などが想定されるなかで、以下のようにPAPR低減策が引き続き重要視されます。

  1. 波形の工夫:

    • DFT-spread OFDM, SC-FDMA, FBMC(Filtered Bank Multi-Carrier), GFDM(Generalized Frequency Division Multiplexing)など、OFDMの拡張やシングルキャリア要素の導入によりピークを抑制する。
    • Low-PAPR変調との組み合わせや、PAPR削減アルゴリズム(e.g. Clipping, Companding, Tone Reservation, Active Constellation Extension など)の改良。
  2. 多元接続方式との組み合わせ最適化:

    • NOMA/SCMA/RSMAなどの非直交方式自体は、周波数効率向上や干渉管理にフォーカスする傾向があるが、上りリンクなどではPAPRも含めた総合的な最適化が必要。
    • 特に端末数が非常に多いmMTCシナリオでは、端末側の低消費電力化のためにPAPRを下げる手法が不可欠。
  3. AI/機械学習を用いた動的制御:

    • 6Gではネットワーク全体をAIが管理し、リアルタイムで波形選択やパワー制御を行うことで、ピーク電力を抑制できる可能性がある。

付録A.4 まとめ: PAPRの観点での多元接続方式比較

方式 PAPRの特徴 対応策・考慮点
SDMA 波形はOFDMAが多く高PAPRになりがち Massive MIMOで空間分離し、端末ごとの送信電力を調整
OFDMA 高PAPRが最大の課題の一つ 下りリンク: ハードウェア設計次第
上りリンク: SC-FDMA等で緩和
NOMA OFDMベースの場合はPAPR課題継承 電力割当に工夫の余地はあるが、大きな改善は限定的
SCMA 組み合わせる物理波形次第 SC-FDMAなどシングルキャリア系波形と連携すれば低PAPR期待
RSMA OFDMベースが多く高PAPRを継承 レート分割設計でピークを部分的に抑える余地はあるが、根本対策には波形設計が必要
  • 総合的には、NOMAやSCMA、RSMAといった非直交方式自体が直接PAPRを改善するわけではなく、シングルキャリア系波形やPAPR削減テクニックとどう組み合わせるかが鍵となります。
  • 6Gの超高周波数帯(ミリ波・サブテラヘルツ)ではパワーアンプの効率がさらに深刻な問題となるため、波形の選択 + 多元接続方式 + PAPR抑圧技術の一体的な設計が重要になると考えられます。

以上が、PAPR(ピーク平均電力比)に着目した補足です。高周波帯への展開や大規模接続シナリオが増える6Gでは、依然としてPAPRの問題は深刻であり、多元接続方式を選ぶ際にも波形設計・PAPR低減策の統合的な検討が不可欠になります。

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