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5G NRにおけるUL送信電力制御(3GPPリリース17準拠)

2025/02/17に公開

5G NRにおけるUL送信電力制御(3GPPリリース17準拠)

1. 基本概念

Power Controlの目的と必要性

セルラー通信における送信電力制御(Power Control)の主目的は、リンク品質の確保と干渉の抑制を両立することです。送信電力を適切に制御することで、受信側で十分な信号対雑音比(SNR)を維持しつつ、不要に高い送信電力による他ユーザへの同一チャネル干渉を低減できます (x) (x)。特にアップリンクでは複数のUEが同一基地局に接続するため、各UEからの受信電力を均衡させないと、近傍のUEからの強い信号が遠方のUEの信号を圧倒し、基地局で適切に受信できなくなる恐れがあります (x)。このため、各UEの送信電力を調整して基地局で受信する電力をできるだけ均一化することが重要です。加えて、必要以上の送信電力を出さないことでUEのエネルギー効率(バッテリ寿命)の向上にも寄与します (x)。

まとめると、Power Controlにより以下が実現されます:

  • リンク品質の最適化:経路損失やフェージングで低下した受信SNRを補償するため、送信電力を増減して通信品質を維持します (x)。
  • セル内・セル間干渉の低減:必要以上に高い送信電力を抑え、他のセルやユーザへの干渉を最小化します (x)。
  • 電力消費の抑制:近距離のUEは低い送信電力で通信させ、UEのバッテリ消費を削減します (x)。

5GのPower ControlとLTEとの違い

5G NRのアップリンク電力制御は基本的な枠組み(オープンループ+クローズドループ、分数式パワーコントロールなど)においてLTEと共通点が多いものの、より柔軟で高度な制御が可能になるよう拡張されています。NRではLTE同様に送信電力算出にP0(ターゲット受信電力)とα(経路損失補償係数)を用いた分数式パワーコントロールを導入していますが、NRでは用途に応じて複数組のP0とαを設定できる点が特徴です (x)。例えば、NRではスケジューリングタイプに応じて「Grantあり通信」と「Grantなし通信(設定されたリソースによる自律送信)」で別々のP0を持つことができます。また、NRではビームフォーミングや帯域幅部位(BWP)の概念が導入されたため、UEが推定すべき経路損失の参照信号を柔軟に指定できるようになっています(例:SSBやCSI-RSをpathloss referenceとして指定) (x)。さらに、NRでは同一UEに対して並行する2つのパワー制御ループを運用するオプション(例:2つの異なるTPCループIDによる制御)も規定され、マルチパネル送信など高度な場面でパワー制御の自由度が向上しています (x)。一方、基本原理はLTEと共通であり、オープンループで大まかな電力を決定しクローズドループで微調整する二段構えの制御アプローチを踏襲しています。

LTEとの具体的な相違点をまとめると:

  • パラメータ設定の柔軟性:LTEではP0とαはセル毎に一組でしたが、NRでは複数のP0-αセットを定義し状況に応じ使い分け可能 (x)。
  • Grantなし通信への対応:NRではConfigured Grant等のGrantなし送信向けにp0-NominalWithoutGrantが導入され、ダイナミックGrant用のp0-NominalWithGrantと区別して設定できます (x)。
  • 制御ループの拡張:NRでは必要に応じてTPCによるパワー制御ループを2系統持てる(例:twoDifferentTPC-Loop-PUSCH設定)など、閉ループ制御の拡張がある (x)。
  • 物理チャネル毎の最適化:LTE同様、PUSCH(上り共有チャネル)とPUCCH(上り制御チャネル)で別々の制御式・パラメータを持ちますが、NRのPUCCHではフォーマット多様化に伴い制御が拡充され、SRSやPRACHについても同一枠組みで管理されています (x)。

2. 3GPP仕様書の参照

TS 38.213におけるPower Controlのメカニズムと数式

3GPP TS 38.213には、NRの物理層におけるアップリンク送信電力制御手順と計算式が定義されています。アップリンク電力制御の一般式は以下のように表されます。

P_{\text{tx}} = \min \{\, P_{\text{CMAX}},\; P_0 + \alpha \cdot \text{PL} + \Delta_{\text{cl}} \,\} \tag{基本式}

ここで、

  • P_{\text{CMAX}}はUEに設定された最大送信電力(Configured UE transmit power)です (x)。
  • P_0は経路損失を0と仮定した場合の基準受信電力目標で、後述のとおりP0 = P0_{\text{NOMINAL}} + P0_{\text{UE}}という2成分から構成されます (x)。
  • \alphaは0~1の範囲の経路損失補償係数(フラクショナルパワー制御係数)です (x)。\alpha=1なら経路損失を全て補償し全UEの受信電力を等しくしようとし、\alpha=0なら経路損失を無視して全UEが同一送信電力で送信することを意味します (x)。
  • \Delta_{\text{cl}}は基地局からのフィードバックによる閉ループ補正量で、TPC(Transmit Power Control)コマンドに基づき送信電力を微調整するための項です (x)。\Delta_{\text{cl}}は後述のTPC累積値Δ<sub>TPC</sub>に相当します。

TS 38.213では、上記一般式をPUSCHやPUCCH、SRS、PRACHといった各ULチャネル/信号毎に具体化しています (x)。たとえばPUSCH送信電力P_{\text{PUSCH}}について、Section 7.1.1に詳細な計算手順とパラメータが規定されています。乱数アクセスのMsg3(初回のPUSCH送信)に対しては特別な扱いがあり、PUSCHの基準電力P_0をRA前のPreamble目標受信電力から導出することが明記されています (x)。具体的には、「Msg3ではj=0(特殊なパラメータセット)を用い、P_0はSIBで与えられるpreambleReceivedTargetPowerにmsg3-DeltaPreambleで指示されたオフセットを加算して決定する」とされています (x)。ShareTechnoteの解説によれば、この関係は次式で表されます (x):

P_{\text{Msg3}} = \text{preambleReceivedTargetPower} + (2 \times \Delta_{\text{preamble(Msg3)}}) \tag{Msg3送信電力}

上式にある\Delta_{\text{preamble(Msg3)}}がTS 38.213中で定義されているmsg3-DeltaPreambleに対応し、SIB1/RRCで上りリンク共通設定として配信されます。値は2dB単位で指定され(例えば値1なら2dB) (x)、Msg3の送信電力目標をRACHのターゲット電力より何dB上乗せ/下げするかを表します。

TS 38.331におけるRRCパラメータ

3GPP TS 38.331では、RRC(Radio Resource Control)層のシグナリングとしてPower Control関連の各種設定パラメータが定義されています。NRではシステム情報やRRC Connection Setup/Reconfigurationメッセージを通じ、以下のような情報要素(IE)がUEに提供されます (x):

  • preambleReceivedTargetPower:ランダムアクセスチャネル(RACH)の送信目標受信電力。単位はdBmで、例えば-110と設定された場合、UEは自身の推定する経路損失を加味してRACH前送信電力を決定します (x)。この値はSIB1のRACH-ConfigGeneric内でブロードキャストされ、全UEに共通です。
  • powerRampingStep:ランダムアクセスで送信失敗時に、次回以降どれだけ送信電力を増加させるかを決めるステップサイズです。例えばdB4とあれば4dBステップでパワーを増加します (x)。これもSIB1で配信されます。
  • ss-PBCH-BlockPower:基地局が送信する同期信号ブロック(SSB)の発射電力(例:-36dBm)です (x)。UEは受信したSSBのRSRPとこのブロック電力の差分から大まかな経路損失を推定できます。ss-PBCH-BlockPowerはSIB1に含まれ、セルのダウンリンク基準送信電力としてUEに知らされます。
  • msg3-DeltaPreamble:上述のMsg3電力オフセット値です。SIB1内のuplinkConfigCommon->pusch-ConfigCommonに含まれ、2[x]単位の整数で表されます (x)。この値が存在しない場合、仕様上はデフォルトで0dBとみなされます。
  • p0-NominalWithGrant:スケジューリング要求によりリソース割当(Grant)を受けて送信するPUSCHに適用される基準送信電力P0のNominal成分です (x)。値はdBmで偶数のみ(2dBステップ)設定可能です (x)。この値はセル固有で、SIB1内のpusch-ConfigCommonに含まれます(上り初期BWP設定の一部としてブロードキャスト)。例えば上記の例ではp0-NominalWithGrant = -84dBmが設定されています (x)。
  • p0-NominalWithoutGrant:GrantなしでUEが自律送信するPUSCH(例えばConfigured GrantやSR回りのMsgAなど)に用いるP0のNominal成分です。こちらは必要な場合にRRC専用信号(ConfiguredGrantConfigなど)でUE毎に設定されます (x)(SIB1のpusch-ConfigCommonには含まれません)。
  • p0-UE-PUSCH:PUSCH送信電力P0のUE毎オフセット成分です。TS 38.331では複数のp0-UEとαの組をグループ化したP0-PUSCH-AlphaSetを定義しており、各セット毎にp0-UE-PUSCH(dB単位オフセット)とalpha(経路損失補償係数)を含みます (x)。たとえばネットワークがセル中心ユーザとセル端ユーザで異なる電力制御戦略を適用したい場合、複数のP0-αセットをRRCで提供し、スケジューラが適宜どのセットを用いるかDCIで指示できます (x)。
  • alpha:上記P0-PUSCH-AlphaSet内で定義される経路損失補償係数(フラクション係数)です。LTE同様、{0, 0.4, 0.5, 0.6, ... ,1.0}といった離散値から選択されます。αは送信電力の経路損失依存性を決める重要パラメータであり (x)、例えばセル半径が小さく干渉が支配的な環境ではαを小さめ(部分補償)に、セルカバレッジ重視の環境ではα=1(フル補償)に設定する、といった運用が考えられます。
  • tpc-Accumulation:TPC(送信電力制御)コマンドの累積モード設定です。RRCのPUSCH-PowerControl情報内でenabled/disabledが設定され、enabledの場合は過去のTPCコマンドの累積値を保持したクローズドループ補正が行われます(累積モード) (x)。disabledの場合、各サブフレームのTPCコマンドが絶対値指定となり、パワー制御状態を逐次リセットする形で適用されます。

以上のようなRRCパラメータは、SIB1やRRC Connection Setup/Reconfigurationのメッセージ中に含まれます。特にSIB1(SystemInformationBlockType1)はNRにおいて初期接続に必要な最小限の共通情報を放送する役割を担い、上記のuplinkConfigCommon(RACH設定や初期BWPのPUSCH共通設定など)を含んでいます (x)。LTEでのSIB2に相当する無線リソース共通設定もSIB1に統合されているため、Power Control関連パラメータの多くはSIB1で提供されます。一方、SIB2はNRではオプショナルな追加SIメッセージとして扱われ、UEのセル選択や他RAT隣接情報など特定用途で使用されます。Power Controlに直接関わる情報は主にSIB1および接続後のRRC専用 signalingで提供されると考えて良いでしょう。

3. UEの送信電力制御の詳細

NRのUE送信電力制御は、大きくオープンループ制御(OLPC: Open Loop Power Control)とクローズドループ制御(CLPC: Closed Loop Power Control)の二段階から成ります (x)。まずオープンループで経路損失に基づく基準電力を決定し、その後基地局からのTPCフィードバックをクローズドループで適用して最終送信電力を調整します。

オープンループ電力制御(OLPC)の概念と計算式

オープンループ電力制御では、基地局からの即時のフィードバックを用いずにUEが自律的に送信電力を決定します (x)。具体的には、UEは基地局からブロードキャストされる既知の下り信号(SSBやCSI-RSなど)を測定し、その受信電力と基地局送信電力との差から経路損失 (Path Loss, PL) を推定します。その推定PLに応じて、事前に与えられたパラメータP_0および\alphaに従い、自身の送信電力を計算します。OLPCによる送信電力の目標値は概ね次式で与えられます(上記基本式のTPC補正項を除いたもの):

P_{\text{open-loop}} = P_0 + \alpha \cdot \text{PL} + 10\log_{10}(M) + f_{\text{offset}} \tag{OLPC基本式}

ここで 10\log_{10}(M)は割り当てられたリソースブロック数Mに応じた帯域補正項です。P_0はネットワークから与えられる基準受信電力目標で、NRの場合P0 = P0<sub>NOMINAL</sub> + P0<sub>UE</sub>としてセル共通成分とUE個別成分の和で定義されます (x)。たとえば、セル共通のp0-NominalWithGrantが-84dBm、UE個別のp0-UE-PUSCHが+5dBであれば、そのUEのP0は-79dBmになります。\alphaはそのP0に対してどの程度経路損失PLを補償するかを決める割合で、\alpha=1ならPL分を全て補填し、\alpha=0.5ならPLの半分だけを補償します (x)。f_{\text{offset}}はチャネル種別や伝送フォーマットに応じた定数オフセット項です。LTEではPUSCHにおける変調方式による余剰ピーク電力等を補正する\Delta_{\text{TF}}項がありましたが、NRでもPUSCHやPUCCHのフォーマットに応じて一定の補正値が定義されています(PUCCHフォーマット毎のΔ<sub>F</sub>等)。

OLPCの核心となる考え方は、「各UEは自分の経路損失に応じて送信電力を増減させ、基地局で受信される電力がある目標値周辺に収まるようにする」ことです (x)。例えば、目標受信電力P_0を-80dBm、\alpha=1(フル補償)と設定した場合、UEは推定PLが例えば100dBであれば+20dBmで送信し、PLが80dBであれば0dBmで送信しようとします(ただしUEの能力上限以内)。一方\alpha=0(補償なし)なら、全UEが経路損失に関係なく一律に例えば-80dBm相当の出力で送信し、結果的に遠いUEは基地局受信電力が目標を大きく下回り、近いUEは目標を大幅に上回る受信電力となります。このように\alphaを0と1の間の適切な値に設定することで、セル端UEとセル中心UEの受信電力格差を抑えつつ、セル全体の干渉水準をコントロールすることができます (x)。NRではネットワークが複数のP0・αセットをUEに通知し、状況に応じて使い分けることも可能です(例えば高干渉環境用にαを小さくしたセットと、カバレッジ重視用にα=1のセット) (x)。

OLPCの具体的な計算手順としては、以下のフローになります(PUSCHの場合):

  1. 経路損失PLの推定: UEはセルからの基準信号(SSB等)を受信し、既知の送信電力(ss-PBCH-BlockPower等)との差からPLを算出します。複数の参照信号が指定されている場合、UEはそれぞれについてPLを維持します(最大4つまで (x))。一般に初回RACH前はSSBで推定し、接続後はCSI-RS等で更新します。
  2. P0およびαの取得: UEは適用すべきP0とαをRRC設定から決定します。初回のMsg3送信時はSIB1の共通パラメータ(preambleReceivedTargetPowerとmsg3-DeltaPreambleから導くP0)を使用し、接続後のPUSCH送信ではRRCで割り当てられたP0-AlphaSetの値を参照します (x)。PUCCHの場合は対応するp0-nominalと規定値α(PUCCHはフル補償=1が基本)を用います。
  3. オープンループ電力の計算: 上記の式に基づきP_{\text{open-loop}} = P_0 + \alpha \cdot PL + 10\log_{10}(M) + f_{\text{offset}}を計算します。Mは送信に用いるRB数で、PUSCHでリソースが広いほど必要電力が増す(同一単位帯域当たりのパワーを維持するため)ことを反映します (x)。
  4. 最大電力制約の適用: 計算結果がUEの送信可能最大電力P_{\text{CMAX}}を超える場合、UEは送信電力をP_{\text{CMAX}}にクリップします (x)。また必要に応じ、後述のMPR(最大出力低減)も考慮されます。

クローズドループ電力制御(CLPC)とTPCコマンドの適用

クローズドループ電力制御では、基地局からのフィードバック(TPCコマンド)に基づきUEが送信電力を微調整します (x)。OLPCで決定した送信電力が理想からズレている場合や、時間変動するチャネル状況に対応するため、gNBはPDCCH上のDCIフォーマット内でUE毎にTPCコマンドを下行制御情報として送信します (x)。TPCコマンドは一般に2bit~3bit程度のフィールドで、「現在より送信電力を増やすか減らすか」を指示します。そのマッピングはTS 38.213のテーブルで規定され、例えばPUSCHに対する2bitのTPCフィールド値{0,1,2,3}をそれぞれ{-1, 0, +1, +3} [x]の調整量に対応付ける、といった形です (x)。PUCCH用TPCコマンドも類似の仕組みでマッピングされます (x)。

UEは各送信機会において、直近に受信したTPCコマンドを適用して送信電力を調整します。NRではTPC累積モードをRRCで設定可能であり (x)、累積が有効な場合UEは過去に適用したTPC補正値をパワー制御状態として保持し、それに新たな指示分を加算します (x)。一方累積無効(つまり絶対命令モード)の場合、各TPCコマンドは「所定の基準からの絶対オフセット指示」として扱われ、以前の補正値はリセットされます (x)。どちらのモードでも、TPC適用後の送信電力は上限P_{\text{CMAX}}を超えないようクリップされます。

クローズドループ制御の役割は、主にリンクのSNRターゲットを微調整することです。OLPCだけでは経路損失推定誤差や短期フェージングには追従できないため、gNBが実際のUL受信品質(例えばデータ復調のCQIやブロック誤り率)を評価し、「もう少し上げてほしい」「下げてよい」といった指示をリアルタイムに出します (x)。例えば、あるUEのPUSCHが繰り返し受信品質不足(ブロックエラー率高)であれば、gNBはTPCで+1dBなど出力増加を継続して指示します。逆に品質が良好すぎる、もしくは隣接セルへの干渉が懸念される場合、-1dB指示等で出力を下げさせます。TPCコマンドによる増減幅は小刻み(1~3dB程度)なので、逐次のフィードバックループで目標に収束させるイメージです。

NRのDCIフォーマットでは、PUSCHに対するTPCコマンドは通常ULグラント割当のDCI(例えばFormat 0_1/1_1など)に含まれるか、あるいはTPC-PUSCH-RNTI専用のDCIで複数UEを同時に制御することも可能です (x)。PUCCH用TPCも同様に、TPC-PUCCH-RNTIを使った専用DCIで一斉に制御できます (x)。これにより、スケジューリングとは独立に電力制御フィードバックを送ることもできます。

パラメータ個別の詳細と計算例

上記OLPC/CLPCの説明に登場した各パラメータについて、NRにおける役割と具体例を整理します。

  • P0(ポゼロ):受信電力目標値で、セル側が要求するUE送信電力の基準点です。NRではセル共通のp0-Nominal...とUE個別のp0-UE...の和で決まります (x)。例えばセル共通P0=-80dBm、UE個別オフセット+2dBであればP0=-78dBmとなります。P0はリンクバジェット設計上、セル半径や干渉環境に応じて適切な値に設定されます (x)。値が大きすぎると全般にUE送信電力が上がり干渉増大、小さすぎるとセル端UEの通信品質悪化を招きます (x)。
  • α(アルファ):経路損失補償係数です。0~1の範囲で設定され、0に近いほど経路損失を無視、1に近いほどフル補償となります (x)。例えばα=0.8なら、PLが10dB増加した際に送信電力を8dB増加させます。αはセルの干渉支配度の指標とも言え、セル間干渉が深刻な環境では小さめに、ノイズ支配でカバレッジ優先なら大きめに設定されます。NRでは複数のα値セットをUEに通知し、状況に応じて切替可能です (x)。
  • Δ<sub>TPC</sub>(TPCコマンドによる補正量):基地局からのTPC累積コマンドによる電力補正値です。初期値0から開始し、TPC「アップ」「ダウン」の指示に応じて±1dBずつ累積されます(典型例)。例えば最初に+1dB指示、その後+3dB指示が来た場合、累積モードではΔ<sub>TPC</sub>=+4dBが適用されます (x)。絶対モードでは後者の+3dB指示によりΔ<sub>TPC</sub>=+3dBにリセットされます。Δ<sub>TPC</sub>はUEが内部で保持し、各送信機会のパワー計算に加算します。基地局はこの値を逐次モニタすることでUL受信電力を狙ったレベルに維持します。
  • MPR(Maximum Power Reduction):最大送信電力低減値です。これはUEのRF設計上、送信信号の帯域幅や変調方式によってはスペクトルマスクや線形性確保のために規定出力より出力を落とす必要がある場合に適用されます。3GPP端末仕様書には許容される組み合わせ毎のMPR値がテーブルで定義されており (x)、UEは該当する条件下では実効的なP_{\text{CMAX}}をその分引き下げて送信電力を計算します。例えば256QAM変調かつ広帯域送信の場合に+1dBのMPRが指定されていれば、UEは最大出力を1dB控えて運用します。MPR自体はRRCで設定されるものではなく、端末側で標準に従い自律的に適用される値です。また、SAR(比吸収率)制限等による追加の出力制限(A-MPR)が課される場合もあります (x)。Power Control式にはMPRは明示的に現れませんが、P_{\text{CMAX}}に影響する制約として存在し、結果的に送信電力上限や実効出力に反映されます。

以上のパラメータを用いてUEは送信電力を逐次計算・調整します。簡単な例として、以下のシナリオで送信電力決定を計算してみます:

  • シナリオ: あるセルでp0-NominalWithGrant = -80$ dBm、UE固有p0-UE-PUSCH = 0$ dB(つまりP0 = -80 dBm)、\alpha = 0.8に設定。UE最大出力はP_{\text{CMAX}}=23 dBmとする。UE-Aは基地局からのSSB受信測定でPL=80 dBと推定(セルに比較的近い)、UE-BはPL=100 dBと推定(セルエッジ付近)。
  • OLPC計算: 両UEのオープンループ送信電力を計算すると、
    • UE-A: P_{\text{open-loop}} = -80 + 0.8 \times 80 = -16 dBm(単一RB換算)。実際の割当RB数による補正を仮に+10 dB(約10 RB相当)とすると、約 -6 dBmが目安送信電力。これはかなり低出力で、P_{\text{CMAX}}以下。
    • UE-B: P_{\text{open-loop}} = -80 + 0.8 \times 100 = 0 dBm(単一RB換算)。RB補正+10 dBを加味すると約 +10 dBmとなり、こちらもP_{\text{CMAX}}=23 dBm内です。
      →この結果、UE-B(遠距離)はUE-A(近距離)より約16 dB高い送信電力を出しますが、基地局で受信される電力は両者ほぼ同程度(-80 dBm付近)になると期待できます。
  • CLPC適用: 基地局は実際の受信状況を見て、例えばUE-Aの信号が目標より強すぎれば「出力ダウン」TPCを送信、UE-Bがまだ弱ければ「出力アップ」TPCを送信します。仮に初回送信でUE-Aは目標より+3 dB高く受信された場合、gNBはUE-AにTPCコマンド「-1 dB」を連続で3回送ることで、UE-Aの\Delta_{\text{TPC}}を-3 dBとし、次回送信から約 -9 dBmに調整させます。一方UE-Bが目標より3 dB低かった場合、TPC「+1 dB」を3回送り、\Delta_{\text{TPC}}=+3 dBとして次回送信を約 +13 dBmに増加させます。以降、このようなフィードバックループで両UEの受信電力が目標付近に保たれるようになります。

この例からも、OLPCにより大まかな補償を行った上でCLPCで微調整する二段階の制御が有効に機能することが分かります。遠距離のUE-BはOLPCでそれなりの高出力とされ、近距離UE-Aは低出力になりますが、残る細かなズレはTPCで補正されます。結果として両者とも無駄なく必要十分な電力で送信し、セル全体の性能と干渉が最適化されます。

4. 実際の適用とパラメータの相互関係

UE送信電力決定プロセスのフロー

UEにおけるアップリンク送信電力決定までの一連の流れを、接続初期から順にまとめます。

  1. システム情報の取得(初期パラメータ設定): UEはセルのSIB1を取得し、RACH用のpreambleReceivedTargetPowerpowerRampingStep、SSBブロック電力等の値を取得します。これにより、初回ランダムアクセスでの送信電力設定に必要な情報(基準となるターゲット受信電力)が手に入ります。
  2. ランダムアクセス前のPL推定: SSBなどを測定して大まかなPLを推定します。例えばSSBの受信RSRPとss-PBCH-BlockPowerとの差分をPL初期推定とします (x)。
  3. Msg1(RACH前送信): UEはRACH前(Msg1)の送信電力を、取得したpreambleReceivedTargetPowerと推定PLに基づき決定します。典型的には P<sub>PRACH</sub> = preambleReceivedTargetPower + PL で計算されます。例えば targetが-105 dBmでPL=80 dBなら送信電力= -25 dBmとなります。計算値がUE最大出力を超えた場合は最大値でクリップします。
    • RACH送信後、もし応答がなければpowerRampingStepぶん送信電力を上げて再送信し、応答があるまで繰り返します (x)。
  4. Msg2受信とTC-RNTI確立: 基地局からRACH応答(Msg2)を受信し、タイミング調整や一時IDなどが割り当てられます。Msg2にはRARによりTiming Advance命令や一時CRNTIが含まれますが、送信電力制御に関する明示的フィードバックは通常ありません。
  5. Msg3(初回PUSCH)送信: UEはRRC接続要求等を含むMsg3(PUSCH)を送信します。Msg3の送信電力は、RA前のターゲット電力にSIB1のmsg3-DeltaPreambleオフセットを加味して決定されます (x)。例えばpreambleTarget=-105 dBm, Δpreamble=+4 dBなら目標-101 dBmとなり、PL補償含めMsg3送信電力を計算します。必要ならRACHからの累積パワーラamping(前RACHで何度かパワーを上げていた場合その最終値)も踏襲します (x)。
  6. RRC接続確立とパラメータ適用: 接続要求(Msg3)が成功すると、Msg4を経てRRC接続が確立します。基地局はRRC Connection SetupメッセージでUEに初期上りBWP設定(PUSCH共通設定pusch-ConfigCommon等)およびUE固有のPUSCH/PUSCH電力制御設定(必要ならP0-PUSCH-AlphaSetp0-UE-PUSCHなど)を送信します。UEはこれらパラメータを保存し、以降の送信に適用します。
  7. データ送信時の送信電力計算: UEが上り通信を行う際、スケジューラからのDCIを受信すると、その中のULグラントに従い送信準備をします。まず対応するBWP/サービスに適切なP0とαを選択(DCIやRRC設定で指定されたP0-αセットIDに基づく)し、最新のPL推定値を取得します。これらを用いてOLPC式で送信電力を計算します (x)。さらに、直近適用すべきTPCコマンドがある場合はその分を加減算します (x)。こうして算出した送信電力とUEのP<sub>CMAX</sub>を比較し、上限を超えていればクリップします (x)。
  8. PHY層での送信: MAC層から伝達された送信電力指示に従い、物理層はPAを制御して実送信を行います。同時に、使用する変調・帯域条件に対するMPR/A-MPR制約を内部で確認し、必要なら出力を削減します。送信後、UEはPUSCHやPUCCHで使用した送信電力とリソース情報を基に、Power Headroom Report(PHR)を算出し一定条件下でgNBに報告します(これはスケジューラがUEの余力を把握するためのMAC CE)。
  9. 基地局での受信・TPCフィードバック: 基地局はUEからのPUSCH/PUCCH/SRSを受信し、SNRやデコーディング結果から現在の受信電力が適切か評価します。必要に応じて、次回以降の送信に向けてTPCコマンドを含むDCIを下行で送信します。UEはこれを受け取り、保持するΔ<sub>TPC</sub>を更新します。
  10. 閉ループ反復: 上記7~9の過程(送信→評価→TPC調整)を継続的に行い、動的なチャネル変動や移動によるPL変化に追従します。RRC再設定でパラメータが変更された場合(例えばハンドオーバーやBWP切替でP0更新等)、随時新しい値で計算を更新します。

SIB・RRC・MAC各レイヤー間の関係

上記フローから明らかなように、アップリンクPower ControlにはRRC(含むSIB)からMAC、PHYに至る複数のレイヤーが関与しています。それぞれの役割を整理すると:

  • SIB (ブロードキャスト情報): セル全体で共通となる初期パラメータを提供します。具体的にはRACH関連の電力パラメータ(preambleReceivedTargetPower, powerRampingStep等)や初期BWP共通のPUSCH設定(p0-NominalWithGrant, msg3-DeltaPreamble等)です (x) (x)。UEはこれを受信しないと適切な初期アクセスができません。SIB情報はRRCの一部(SystemInformation)として扱われますが、ブロードキャストされるため実質的に全UEで共通のリファレンスとなります。
  • RRC (UE専用制御情報): RRC接続確立後にUE個別に与えられる無線設定です。ここでネットワークはUEごとに異なるP0オフセットやα設定、TPC動作モード等を配信できます (x) (x)。RRCは主にOLPCの目標値やモードを決定づける役割で、MAC層で適用されるTPCコマンドの解釈方法(累積有無)もRRCパラメータで制御されます。RRC同士でのParam比較によってセル間のPC挙動差(例えばセルエッジでハンドオーバーした際のP0差異)も生じうるため、ネットワーク側は整合性を考慮して設定します。
  • MAC (Media Access Control): MAC層は主にTPCコマンドの処理とパワーヘッドルーム管理を担当します。TPCコマンドは下り制御情報(DCI)としてPHYで受信されますが、その解釈・適用タイミング管理はMACに属します。MACは受信したTPCビットから増減値を算出し、現在のUEの送信電力補正値を更新します(例えばMACがΔ<sub>TPC</sub>を保持)。また、MACは一定周期またはトリガでUEのPower Headroom(PH)を基地局に報告します。PHとは「現在の送信余裕」で、UEがあと何dB送信電力を上げられるかを示す値です。これはスケジューラが高出力を必要とする送信(例えば上り大容量データ)を適切なUEに割り当てる判断材料になります。
  • PHY (物理層): PHY層は実際の信号送受信およびそれに伴う低レベル制御を行います。上り送信電力制御では、MACから指示された送信電力値でRF送信機を制御するのがPHYの役割です。また、タイミング調整(TA)や変調方式に起因する出力変動などPHY層事項も送信電力に影響を与えます。PHYはRRCで設定されたdeltaPreambleやPUCCHフォーマット別の補正量を適用し、所与の電力で安定送信できるよう内部処理します。TPCコマンドの送信自体もPHYで行われ(PDCCH上)、MACからの要求に基づき所定フォーマットのDCIに載せます。

各レイヤーは以上のように分担しつつも連携して動作します。例えば、RRCが設定したP0やαをもとにMAC/PHYが送信電力を計算し、PHY送信→基地局受信→MAC(TPC)→PHY制御というサイクルがまわることで、上り送信電力は適切に制御されています。

TPCコマンドの応答とその影響

TPCコマンドはUEの送信電力に直接影響を与える唯一のダイナミックフィードバック要素です。UEはTPCコマンドを受信すると即座(通常次の送信機会に反映)にその指示に従って送信電力を調整します (x)。TPCコマンドの応答動作とその効果について、もう少し詳しく考察します。

  • 即時反映: 標準では、ある送信タイミングで受信したTPCコマンドは、UEの次回以降の送信に反映されます(具体的なタイミングは物理層のタイミング関係に依存しますが、例えばPUSCHに対するTPCは数スロット後のPUSCH送信に適用)。UEはTPCを受け取ったら自身の内部で保持するΔ<sub>TPC</sub>値を更新し、その後の送信電力計算でこの更新値を用います (x)。したがってTPCコマンドの効果は比較的速やかに現れます。
  • 累積効果: 累積モードが有効な場合、TPCコマンドは蓄積的な効果を持ちます。例えば連続した上り送信で毎回+1dBのTPCアップ命令が来れば、送信電力は徐々に増加していきます(1回目+1dB、2回目+2dB、3回目+3dBというように) (x)。この累積効果により、長期的なフェージングや距離変化にも対応できます。一方、絶対モードでは各TPCコマンドがそれ単独で完結した指示となるため、前回までの補正量にかかわらず指定された電力オフセットに設定し直します。そのため累積モードに比べて制御が安定しやすい反面、指示できるレンジはコマンドビット幅に限られます。
  • 上りスケジューリングへの影響: TPCコマンドによりUE送信電力が変化すると、基地局はそれを踏まえて次のスケジューリング判断を行います。例えばTPCで出力を上げてもなお受信電力が低い場合、基地局はそのUEに対しより保守的な変調符号化(MCSダウン)や冗長送信(再送要求)を検討します。一方、TPCで十分な出力が確保できたUEには高いMCSで送信させるなど、TPC結果は上りリンク適応にフィードバックされます。さらに、UEがPHRで出力余裕を報告していれば、基地局はTPCアップを送る余地があると判断しスケジュールを増やす、といった駆け引きも行われます。
  • 他セル干渉への配慮: TPCコマンドは基本的に自セル内のリンク品質目標に基づきますが、その影響は隣接セルにも及びます。特に上りは周波数再利用が1の場合隣セルへの干渉源となるため、あるセルがUEに高出力を要求しすぎると周囲に悪影響が出ます。5Gネットワークでは、リンクアダプテーションと電力制御を協調させ、必要以上にTPCアップを出し続けないよう設計されています。また、CFIや通信の優先度によっては一時的に出力を抑える戦略も考慮されます。

要するに、TPCコマンドは上りリンクの即応的な電力微調整手段であり、その効果は次回送信に直接表れるため、上り通信の安定性と効率性に直結します。適切なTPC制御により、各UEは常にぎりぎり必要なだけの電力で通信でき、セル全体として干渉とスループットの最適バランスが維持されます (x) (x)。

5. 補足情報と考察

ShareTechnoteから見る具体的なシナリオ例

ShareTechnoteの解説では、5Gのパワー制御挙動についてLTEとの比較や具体値を用いた例示が豊富に示されています (x)。例えば、ある例ではαの値による受信電力均一化の効果が表で示されています (x) (x)。α=0の場合、遠距離UEと近距離UEが同一電力で送信するため受信電力に大きな差が生じますが、α=1なら両者の受信電力は理論上等しくなります。しかし実際には遠距離UEは出力が上限に達し目標に届かない場合もあるため、完全には均一化できません (x)。このような場合でも、CLPCで不足分を部分的に補うことでサービスを維持します。

別のシナリオとして、ランダムアクセス時のパワー制御があります。ShareTechnoteによれば、NRのMsg3電力はMsg1(RACH前)の電力を基準に決められており、具体的に「Msg3 Power = preambleReceivedTargetPower + 2×msg3-DeltaPreamble」という関係であると説明されています (x)。これは先述したTS 38.213の式と一致しており、実際のネットワークでもRACH成功後の最初のPUSCHはこのルールで送信されます。例えばSIB1でpreambleTarget=-100 dBm, Δpreamble=4(=8dB)と設定されていれば、UEは基地局で-92 dBmで受信されることを目標にMsg3を送信します (x)。この目標値はRACHの目標より高く設定されることで、Msg3に含まれるRRC接続要求が十分なSNRで受信されるよう配慮されています。

さらにShareTechnoteは、PUSCH送信電力の詳細な計算フローも図解しています (x)。そこでは以下の点が強調されています (x):

  • PUSCHの計算結果はP0値が大きいほど増加する (x)(ネットワークが高い受信電力を要求すればUE送信電力も上がる)。
  • 割当RB数が増えると送信電力は上がる (x)(広帯域送信ではトータルパワーが大きくなる)。
  • 経路損失が大きいほど送信電力は上がるが、その上がり幅はαに依存する (x)(αが小さければPL増大時の電力増加分も抑えられる)。
  • TPCコマンドによって送信電力は上下に微調整される (x)(閉ループ補正の役割)。

これらのポイントは、本記事で解説した内容と合致しており、パワー制御アルゴリズムの定性的理解を助けます。例えば「RB数増加で送信電力増」という点は前述の10\log_{10}(M)項の効果そのものですし、「αによる影響」は経路損失補償率の説明と一致します。ShareTechnoteはこうした要点を押さえつつ、具体的なRRCメッセージの例(SIB1やRRC Reconfigurationメッセージ中の該当IEを赤字でマークしたもの)も掲載しており、理論と実際のプロトコル設定の両面から理解を深めることができます (x) (x)。

5GネットワークでのPower Control最適化戦略

実際の5Gネットワーク運用において、上り電力制御パラメータのチューニングはセル設計と性能最適化の重要な一環です。以下に、ネットワークで採用される戦略の一例を述べます。

  • セル環境に応じたP0・α設定: セルがノイズリミテッド(田舎やカバレッジ優先)の場合、できるだけ遠距離UEもつながるようにP0を高め・αを1に近づけて設定します。逆に干渉リミテッド(都市部高密度)の場合、セルエッジの要求受信電力を妥協してでも全体干渉低減を優先するためP0を低め・αを小さく設定します (x)。このトレードオフはセル半径とスループットに直結するため、エリア毎に最適値をRFプランニングで決定します。
  • サービス別の電力制御プロファイル: URLLCやミッションクリティカル通信には高信頼性が必要なため、上りPCを厳しめに(高めのP0、頻繁なTPCフィードバック)設定し、SNRマージンを十分に確保します。一方mMTC(IoT)デバイスでは省電力が重視されるため、多少再送が増えてもP0を低めに設定しUE送信電力を抑える戦略を取ります。またRedCap(低能力UE)などには別途専用のP0αセットを適用し、無理のない送信をさせる配慮も考えられます。
  • CLPCの活用とTPCポリシー: ネットワークはTPCコマンドの頻度と閾値を調整することで、上りリンクの目標BLERを維持します。例えば高速移動UEにはTPCを積極的に送り追従性を高め、静止UEには余計なTPCを送らず誤差1~2dB程度は許容するといった制御緩急をつけます (x)。NRではスケジューラが各UEのCQIやPHR、過去のTPC履歴をもとに送信フォーマットを決定できるため、電力制御とリンクアダプテーションを統合的に最適化することが可能です。
  • 高度なインターセル協調: 5Gでは上り干渉抑制のため、隣接セル間で干渉が深刻なUEの電力を協調的に制御する技術(例えばCompまたはICP-UL: Uplink Interference Coordination)が検討されています。具体的には、あるセルのエッジUEに高い出力を要求する際、隣セルにも情報を共有し、その時間は隣セルで重要通信を避ける、または逆にTPCダウンをかけて干渉源を黙らせる、等の対応です。Release17時点では明確な標準プロトコルは限定的ですが、運用面でPCI計画やタイムスロットのずらし等により疑似的に干渉調整を行う場合もあります。

以上のように、5Gの上りPower ControlはLTEから引き継いだ信号処理的手法に加え、柔軟なパラメータ設定とネットワーク側の制御戦略によって、さまざまなユースケース・環境下で性能を最適化する仕組みとなっています。適切に調整された電力制御により、上りリンクのスペクトル効率とカバレッジ、そしてエネルギー効率のバランスが高次元で実現されるのです (x)。

最後にまとめとして、上り電力制御は5G NR無線アクセスの根幹を支える技術要素であり、その理解には物理層数式からRRCプロトコル、運用戦略に至るまで幅広い知識が必要です。本記事で取り上げた3GPP Release 17に基づく内容と具体例が、読者の皆様の理解深化に役立てば幸いです。

引用文献(抜粋):

  • 3GPP TS 38.213 v17.x.x "Physical layer procedures for control" - Section 7 「Uplink Power Control」の規定 (x) (x)他.
  • 3GPP TS 38.331 v17.x.x "RRC Specification" - SystemInformationBlockType1 および PUSCH-PowerControl関連IEの定義 (x) (x)他.
  • ShareTechNote: "5G NR – Power Control" 技術解説記事 (x) (x)他.
  • その他、RF Wireless World: "Open Loop vs Closed Loop Power Control" (x) (x).

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