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5G NRにおけるランダムアクセス手順とアップリンク同期手順

2024/01/05に公開
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はじめに

この記事は、5G NRにおけるランダムアクセス手順とアップリンク同期手順(TA(Timing Advance))を解説するものです。

[詳解] NTN(非地上ネットワーク) - デバイス直接通信編(中編)では、アップリンク同期の理解が必要なためその補足資料として活用下さい。NTN特有の同期はその記事で解説します。

ランダムアクセス手順とアップリンク同期手順

Random Access手順

UE(User Equipment)は、電源を入れた後、最初にPLMN selectionを行い Suitable cell (通信サービスを受けられる cell) に camp-onする。その際にRA(Random Access)を行います。RAは通常4-step RAが用いられる。RAの目的は主に3つです。

1.Uplinkの同期(steps 1&2)
2. 送信電力の調整(Power Control)(steps 1&2)
3. 占有資源の確保(steps 1-4)

以下は4-step RAの各step動作の概要である。(TS 38.321 (MAC layer) 5.1, TS 38.213 (PHY layer) 8)

  1. Msg1 Preamble: UE は、SIB1 でRACH 設定を受信し、その情報に従って、RACH-preamble を送信する。(送信タイミングはSSBに基づく)
  2. Msg2 RAR: UE は、Random Access Response の受信を待つ。
  • 成功時︓UE が送信した Preamble の RA Preamble ID (RAPID) を含む RAPID MAC SDUとTA(Timing Advance), Uplink Grant, temporary C-RNTI を含むRAR MAC SDU の2つを含む MAC PDU を受信。
  • 失敗時︓RAR をra-ResponseWindow 内に受信出来ないか、Msg2 に Backoff Indicator を含んでいる場合、Backoff 時間後に step 1から RA をやり直す。やり直し時にTX power を上げる (Power ramping)
  1. Msg3: RRC message/BSR MAC CE: Msg2 で受信した UL grant に従って UL data を送る。RRC connection establishment 中であれば、RRCSetupRequest を送信する。
  2. Msg4: Contention Resolution MAC CE: Msg3 の最初の48-bit分のデータ (UE-IDが含まれる)をgNBから打ち返すことでRA での衝突が発⽣していた場合でも1台の UE とだけ接続を確⽴する事が出来る。このタイミングで、Temporary C-RNTI が正式なC-RNTI となる。また、RRC connection establishment 中は RRCSetup message も同じタイミングで gNB から UE へ送信される。

なお、以下はTS 38.300に記載されているRA手順の種類であるが、上記手順は(a) CBRA with 4-step RA typeに対応する。他のRAに関しては説明を省略している。

CBRA: Contention Based Random Access
CFRA: Contention Free Random Access

Uplinkの同期

RAの目的の1つはUplinkの同期である。これはRA手順のstep1と2を通じて行われる。具体的には、Msg2で送信されているTA(Timing Advance)がUplinkの同期を取るのに重要な役割をする。

NRのUplinkはセル内において直交性をもつ。セル内の異なる端末から送信されたUplink送信の受信信号は相合干渉を起こさない。このUplink直交性の保持のためには、異なるUEから送信された周波数リソースが異なる信号が、gNBにほぼ同じ時間に到着することが必要となる。より専門的に言い換えると、gNBでの信号受信のタイミングのずれは、CP(Cyclic Prefic)内に収まる必要がある。このようなUplink同期またはgNB受信機での時間調整を行うため、Timing Advanceという仕組みがLTEから導入されている。

NRにおけるgNBとUEの送信タイミングの制御では、DownlinkではgNBは全てのUEに対して同一のタイミングで送信するが、Uplinkでは、前述した理由から、UEが送信するフレームをgNBの送信と同じタイミングで受信するように、UEはDL受信タイミングからTA(Timing Advance) を前倒したタイミングにUL送信する。TS 38.211 図4.3.1-1にその関係が示されている。

参考:上記のフレーム(frame)は、NRのエンコーダ・デコーダが動作する周期に対応する長さのデータ信号単位である。フレームは10個のサブフレームで構成される。サブフレームは、時間領域の無線リソース単位であり複数スロットで構成される。スロットはスケジューリング単位であり複数のOFDMシンボルで構成される。

出典:https://www.docomo.ne.jp/english/binary/pdf/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol20_3/vol20_3_007en.pdf

Timing Advanceの取得方法

UEは状況に応じて、2つの異なるMAC CommandからTiming Advanceを取得する。(正確には、取得と更新である)
RA後の最初のUplinkメッセージでは、UEはRAR(Random Access Response)から抽出したTiming Advanceを適用する。これは、RAで解説した。
それ以降もUEは移動することからUEとgNBの位置関係は変化し続ける。そのため、RA以降も適宜TAを更新する仕組みが必要となる。これはgNBから送るMAC CEから抽出したTiming Advanceを適用する。

後者に関する補足:最初のRA後、ネットワーク(この場合、gNB)は、PUSCH/PUCCH/SRS受信とサブフレーム時間との間の時間差を測定し続け、UEにTiming Advanceコマンドを送信しUEのPUSCH/PUCCH送信タイミングを調整し、ネットワーク側のサブフレームタイミングに合わさせる。つまり、PUSCH/PUCCH/SRSがネットワークに早く到着しすぎた場合、gNBはUEに「あなたの信号を少し遅く送信してください」というTiming Advanceコマンドを送信し、PUSCH/PUCCH/SRSがネットワークに遅く到着しすぎた場合、gNBはUEに「あなたの信号を少し早く送信してください」というTiming Advanceコマンドを送信する。

RARでのTAのシグナリング
RARでは、Timing Advance Commandは以下のように格納される。

MAC CEでのTAのシグナリング
MAC CEでは、Timing Advance Commandは以下のように格納される。Timing Advance MAC PDUは1バイトのデータで、最初の2ビットはTAG ID (Timing Advanced Group Identity)で、残りの6ビットがTiming Advance Commandとなる。SpCellの場合TAG IDは0が設定される。

Timing Advanceの計算方法


N_TAはgNBにより計測されTiming Advance CommandでUEに通知される。
N_TA,offsetは固定値で周波数バンドのSCS(Subcarrier Spaceing)により決まる値である。

出典:https://www.techplayon.com/5g-nr-timing-advance-rar-ta-and-mac-ce-ta/#google_vignette

TsとTcはNRにおける時間単位として扱われている。

  • Ts:TS36.211 4節にて定義されているLTEの基本的な時間単位であり、Ts=1/(Δf_ref × N_ref) = 1/(15000×2048) 。Ts≒32ns。※Δf_ref = 15000Hz, N_ref=2048とされている
  • Tc:TS38.211 4.1節にて定義されているNRの基本的な時間単位であり、Tc=1/(Δf_max × N_f,ref) = 1/(480000×4096) 。Ts/Tc=64が常に成り立つ。Tc=0.509ns

N_TAの計算方法はTS 38.213 4.2に記載されている。

RARに含むTAの計算方法

N_TAはインデックス値のT_Aの整数倍で表現される。
μの値は、SCS=15kHzの場合はμ=0となり、SCS=30kHzの場合はμ=1、60kHzはμ=2を代入する。
参考として、SCS=15kHzのときのN_TAの最大値は、N_TA=3846 * 16 * 64 /2^0 = 3938304となる。
つまりT_TAの最大値(オフセット除く)は、T_TA = 3938304 * 0.509 ns = 2.00 msとなる。
2.00msは光速の3.0*10^8m/sでは600kmに相当する。RTTが600kmというのは地上では十分な値ではあるが、NTNでは十分ではない。静止軌道のGEOではRTTは3万6000キロ x 2以上になるし、低軌道のLEOでも仮に高度500kmを想定するとRTTは1000kmに達する。

MAC CEに含むTAの計算方法

N_TAは、古いN_TAその差分により表現される。

以上です。

Discussion

sakaiasakaia

時々興味深く読ませてもらっています。
細かい指摘(2件)と、質問 (1件) です。

  1. 指摘

これはgNBから送らるMAC CEから抽出したTiming Advanceを適用する。

typoと思いますが、"ら”が一文字余計と思いました。

これはgNBから送るMAC CEから抽出したTiming Advanceを適用する。

  1. 指摘

Ts:TS38.211にて定義されているLTEの基本的な時間単位

LTEは、TS36なので、上記は、TS36.211と思いました。

  1. 質問
    Time Advance Commandは、(NTNを想定する場合) 6bitでは足らず、(将来的に)拡張するということなのでしょうか?
Muneaki OgawaMuneaki Ogawa

ご指摘ありがとうございます。2点のご指摘については修正しました。
質問については、従来のN_TAはNTNに使うには値が小さすぎるので、代わりにN_common_TA,adjとN_UE_TA,adjの2つの項が追加されています(TS 38.211 Rel-17~)。これは別の記事でも解説したいと思います。