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3GPP最新動向調査ガイド (基礎編)

2021/12/12に公開約6,400字

お久しぶりです。
前回、3GPP仕様書リーディングガイド(5GS編)では、3GPP初心者の方が仕様書の番号や構成を理解し、興味のある仕様書をどう見つけらた良いのかを5GSを例に紹介しました。

https://zenn.dev/nic/articles/0d71b805e8b5fe#ステージ

今回は、完成された仕様書を読むだけでなく、各リリースでどのようなWI (Work Item)があり、どこまで検討が進んでいるのか(もしくは仕様化に至るまでの経緯)を把握する方法を解説したいと思います。

調査の進め方

調査の進め方には色々な方法が考えられますが、今回は、3GPPの会合毎に調査するような上級者がするようなことはせずに、機能単位での調査を主眼にします。
そこで次のようなステップで進めます。

  1. 調査対象となるWIを特定する
  2. WI間の関係性を把握する
  3. WIで合意されたCRを把握する

予備知識

先ず予備知識として3GPPでの標準化の進め方を簡単に解説しておきます。

3GPPでは継続的に仕様が追加される中である一定の期間に追加されたサービス・機能群をReleaseという形にまとめて公開しています。各サービス・機能はStage1, 2, 3の順番で検討・仕様化が図られます。(このあたりの話は前回の記事で詳しく書いているので参照下さい)

時間軸に対して表現してみると下図のようになります。

あるStageの中でも複数のサービス・機能の検討を行うため、進捗状況にバラツキが生まれます。そのため、Stage 1~3の期間が一部重複しますし、前のReleaseのStage 3が完了する前に次のReleaseのStage 1が始まることなります。

前回の記事では、3GPPで、あるReleaseの標準化が完了すると、それ以降のそのReleaseの仕様への機能追加が禁止されますと記載しましたが、より正確には、あるReleaseのあるStageの標準化が完了すると、それ以降のそのStageへの仕様への機能追加が禁止されます。
これをfreeze(仕様凍結)といいます。
Stage 3のfreezeは2段階に分かれており、詳細なプロトコルコーディング(protocol coding freeze (ASN.1, OpenAPI))を規定するために若干(普通は3カ月)の猶予が与えられています。

各Stage内ではWI(Work Item)という単位でサービス・機能の仕様化、つまりTS(Technical Specification)への反映が行われます。
新しい分野のサービス・機能の場合は仕様化に先立ち、SI(Study Item)が立ち上げられ、課題、解決策、仕様化の方向性がTR(Technical Report)にまとめられます。

  • SI(Study Item):課題、解決策、仕様化の方向性をTR(Technical Report)にまとめる作業を行う
  • WI(Work Item):実際に拘束力を持つ仕様書 TS(Technical Specification)を作ったり既存の仕様書に反映する作業を行う

またSIとWIにおける目的や作業内容を記載したドキュメントのことをWID(Work Item Description)と言います。3GPPでは新たなサービス・機能の検討を始める際にはまずこのWIDの合意を得る必要があります。

なお、少しややこしいのですがSID(Study Item Description)というのは存在せず、SI/WIともにWIDを使って作られます。正確にはSIはWIの分類の一つです。
以下のようにWIDのPrimary classificationでStudy Itemが選択されているWIのことをこの記事ではSIと位置付けています。

調査対象となるWIを特定する

ここから実際に調査をしていきましょう。
最新動向という点では、最も直近の会合のアジェンダをダウンロードして、どのようなSI/WIがホットなのか調べるアプローチが良いのですが、ここではもう少し広い目線でココ最近のリリースから興味のあるSI/WIをみつけるというアプローチを取りたいと思います。

3GPP work programmeを開きます。
ここでは3GPPの過去のリリースから最新のリリースまで全てのSI/WIを見ることができます。
先ず開くと(私の環境では)Rel-13が選択されているので、ここから見たいReleaseを選択します。

以下のような表が表示されるはずです。

この表ではSIやSIDという表現は使われてはいませんが、上のFS_eNPNのようにFS_(Feasibility Studyの略)が先頭についているものはSIに位置づけられ、それ以外は全てWIに位置づけられます。

この列のtitleにSI/WIのタイトルがありますので、そこからどのような検討を行うものかキーワードレベルで把握することができます。
codeとtitleを見比べるとcodeの先頭にeがついているものがありますが、これはenhancedの略で過去のリリースのサービス・機能の拡張であることがわかります。eNPNの場合は、Release-16で規定されたNPN(Non Public Network)の拡張を検討するものだとわかります。

また、WIDのリンクがあるので、もう詳細な検討スコープを知りたい場合でも直ぐに確認することができます。WID historyから変更履歴も確認することができます。(CRと異なりWIDは合意された後もしばしば修正されます)

関連するWIは親子関係を持ちます。
一般的には次のようなケースです。

  • XXXXX
    • Stage 2 for XXXXX
    • CT aspects of XXXXX
      • CT1 aspects of XXXXX
      • CT3 aspects of XXXXX
      • CT4 aspects of XXXXX
      • CT6 aspects of XXXXX
    • FS_XXXXX

WIであるXXXXXの配下ではStage 2の検討を行うWIとStage 3(CTで作業される)の検討を行うWIが並列に存在します。更にCT aspectsの配下にCTに所属するWG毎にWIがあります(ただしWIDは同じになります)。
なお、SID/WIDでの親子関係の設定は意外と厳格なルールがなく、FS_XXXXXが並行してしていることも多いです。
expandのプラスボタンで子のWIを表示することができます。

いくつか具体例をみてみましょう。

例1 5GSAT_ARCH (Integration of satellite components in the 5G architecture)


タイトル的に通信衛星を5Gアーキテクチャに統合するWIのようです。
% doneから進捗率がわかります。Stage 1とFSは100%になっていることから既に完了し、Stage 2の検討は99%なのでほぼ完了していることがわかります。
FS_5GSAT_ARCHのImpactの列にNewという記載があります。これは、このSIにより新しいTRが作成されたという意味です。
WIDの列にあるSP-181253をダウンロードしてみると、TR 23.737が新たに作成されることが確認できます。

Stage 3(CT aspects)ではCT1, CT3, CT4, CT6にインパクトがあることがわかります。WG単位での進捗率や影響のある仕様書が特定できます。

例2 IIoT (Support of Enhanced Industrial IIoT)

Industrial IoTの拡張を行うWIのようです。
5GSAT_ARCHと異なり並列に複数のSI/WIがあるのが見て取れます。
FS_IIoT_SEC, IIoT_SECのように末尾に_SECが付与されているSI/WIはSecurityの検討を行うためのものです。
FS_IIoTのImpactの列にはNew;23.700-20との記載があり、新しくTR 23.700-20を作成したことがみてとれます。FS_5GSAT_ARCHのようにNewだけ記載する場合と、FS_IIoTのようにTRの番号まで記載する場合があるようです(なぜこのような違いがあるか私にもわかりませんが、記載しておいて欲しいです…)。

WIでの検討内容を理解する

次にWIでの検討内容を理解するためにWIDを読んでみましょう。

(後日追加します!)

WIで合意されたCRを把握する

仕様書毎に合意、反映されたCRは仕様書の最後にあるChange historyから確認できます。
しかし、ここからはWI単位でどのCRが合意されたかまではわかりません。そのため、このChange historyの利用は(少なくとも私の場合は)限定的であまりみることがないです。

その代わり、3GU Portalを利用します。

3GU Portalは3GPP参加者なら100%使っているポータルサイトです。
3GPP参加者が行う会合の参加登録や寄書のアップロードもここから行います。
この3GU Portalですが3GPP参加者でなくとも、つまりアカウントを持っていなくとも使うことができます。

このポータルからWork Planや仕様書の検索もできます。
ここではChange RequestsのタブからWIである5GSAT_ARCHに対して提出されたすべてのCRを表示してみましょう。

なお、Work Itemの入力箇所に5GSAT_ARCHをコピペして速攻でSearchしてしまうとうまく動きません。5GSAT_ARCHをコピペまたは入力するとバックエンドから関連するWIを検索して候補を出してくれるので、そこから選択する必要があります。

こちらが検索結果になります。

寄書が実際に仕様書に反映されるには、WGでの合意(agreed)からのTSGでの承認(approved)のプロセスを得ることが必要です。
この検索結果をみるとWG statusTSG statusという列があるため、今どのようなステータスになっているかが確認できます。

デフォルトでは全てのステータスの寄書が表示されて数が多いため先ずはWG Statusがagreedのものに絞って検索するのがよいかと思います。

次に気になる寄書のダウンロードですが、これは残念ながら登録済ユーザでないと利用できないようです。

そこで寄書のダウンロードのためのツールを使います。私がよく使うツールはnetvateです。(たぶん3GPP公認ツール?)
以下のように寄書を単にファイル名でも検索できますし、CRに対しては様々な条件を入れて検索することができます。

Work item codeを入れて検索もできます。

3GU Portalと違ってこちらはWebスクレイピングもしやすくて機械的にダウンロードする場合はこちらのほうが良いかもしれません。

おわりに

今回は以上になりますが、次のステップとしてCRを読み込んでいく作業があります。
それはより発展的な内容になりますのでまた他の記事で解説をしていきたいと思います。

それでは3GPP仕様書という大海原を楽しんでいただければと思います!

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