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【TypeScript】テスト駆動開発（TDD）入門第1回：TDDって何？なぜ必要なの？

2025/01/07に公開

TypeScript

 はじめにプログラミングをしていると、こんな経験はありませんか？
「動いているはずなのに、別の機能を追加したら急に動かなくなった…」
「コードを変更する度に、他の機能が壊れていないか不安で仕方ない」
「バグを直したと思ったら、別の場所で新しい問題が発生した」
「チームメンバーのコードを変更するのが怖い」
「コードの品質を保ちたいけど、どうすればいいかわからない」
このような問題を解決する強力な手法の一つが、テスト駆動開発（Test-Driven Development: TDD）です。

 TDDって何？テスト駆動開発とは、「先にテストを書いてから、実装を行う」という開発手法です。名前の通り、テストが開発を「駆動」していきます。

 従来の開発フローとの違い従来の開発フロー
仕様を考える
コードを書く
動作確認する
（時間があれば）テストを書く
TDDの開発フロー
仕様を考える
テストを書く（失敗する）
テストが通るコードを書く
コードを改善する（リファクタリング）
2-4を繰り返す

 なぜTDDが必要なの？実際のコード例で見てみましょう。eコマースサイトの割引計算を行う関数を作るとします。

 TDDを使わない場合の典型的な開発// discount.ts
export function calculateDiscount(price: number, quantity: number): number {
    // とりあえず10%割引を実装
    return price * quantity * 0.9;
}
一見シンプルな実装ですが、以下のような問題が潜んでいます
仕様が不明確
最小注文数はある？
割引率は固定？
最大割引額の制限は？
エッジケースの考慮漏れ
負の数値が入力されたら？
小数点の商品個数は？
極端に大きな数値は？
変更への不安
新しい割引ルールを追加したら？
既存の計算が壊れていないか？

 TDDでの開発アプローチTDDでは、まず要件をテストとして明確にします
// discount.test.ts
import { calculateDiscount } from './discount';

describe('calculateDiscount', () => {
    // 基本的な計算のテスト
    test('applies 10% discount for normal purchase', () => {
        expect(calculateDiscount(1000, 1)).toBe(900);
    });

    // 数量割引のテスト
    test('applies 20% discount for purchases of 5 or more items', () => {
        expect(calculateDiscount(1000, 5)).toBe(4000);
    });

    // 最小注文数のテスト
    test('throws error for zero quantity', () => {
        expect(() => calculateDiscount(1000, 0)).toThrow('Quantity must be positive');
    });

    // 入力値の検証
    test('throws error for negative price', () => {
        expect(() => calculateDiscount(-1000, 1)).toThrow('Price must be positive');
    });

    // 小数点の扱い
    test('rounds discount to nearest yen', () => {
        expect(calculateDiscount(1001, 1)).toBe(901);
    });

    // 最大割引額のテスト
    test('caps discount at 5000 yen', () => {
        expect(calculateDiscount(10000, 10)).toBe(95000); // 10% off but capped
    });
});

 TDDの3ステップサイクル詳細
 1. Red（失敗するテストを書く）テストを書く前に、どんな振る舞いが必要か考える
失敗するテストを書く（この時点では実装がないので当然失敗する）
テストが失敗することを確認する
test('applies 10% discount for normal purchase', () => {
    expect(calculateDiscount(1000, 1)).toBe(900);
});
// => Failed: calculateDiscount is not implemented

 2. Green（テストが通る最小限の実装を行う）テストが通る最小限のコードを書く
この時点では、きれいなコードである必要はない
export function calculateDiscount(price: number, quantity: number): number {
    if (price <= 0) throw new Error('Price must be positive');
    if (quantity <= 0) throw new Error('Quantity must be positive');

    let discount = price * quantity * 0.9;
    if (quantity >= 5) {
        discount = price * quantity * 0.8;
    }

    // 最大割引額の制限
    const maxDiscount = 5000;
    const originalTotal = price * quantity;
    const discountAmount = originalTotal - discount;
    
    if (discountAmount > maxDiscount) {
        discount = originalTotal - maxDiscount;
    }

    return Math.round(discount);
}

 3. Refactor（コードを改善する）コードの重複を除去
命名を改善
パフォーマンスを最適化
テストが依然として通ることを確認
export function calculateDiscount(price: number, quantity: number): number {
    validateInputs(price, quantity);
    
    const originalTotal = price * quantity;
    const discountRate = getDiscountRate(quantity);
    const discountedTotal = calculateDiscountedTotal(originalTotal, discountRate);
    
    return Math.round(discountedTotal);
}

function validateInputs(price: number, quantity: number): void {
    if (price <= 0) throw new Error('Price must be positive');
    if (quantity <= 0) throw new Error('Quantity must be positive');
}

function getDiscountRate(quantity: number): number {
    return quantity >= 5 ? 0.2 : 0.1;
}

function calculateDiscountedTotal(originalTotal: number, discountRate: number): number {
    const discountAmount = originalTotal * discountRate;
    const maxDiscount = 5000;
    
    return originalTotal - Math.min(discountAmount, maxDiscount);
}

 TDDの具体的なメリット
 1. 品質の向上バグの早期発見と防止
エッジケースの確実な考慮
仕様の明確化と文書化

 2. 設計の改善責任の明確な関数・クラスの設計
インターフェースの使いやすさの向上
疎結合なコードの実現

 3. 安全な変更リファクタリングの容易さ
回帰バグの防止
変更の影響範囲の把握

 4. 開発者の信頼性向上コードへの自信
チーム内でのコード変更への安心感
メンテナンス性の向上

 よくある疑問と回答
 Q: TDDは開発速度を遅くしませんか？A: 短期的には確かに開発時間が増えます。しかし、長い目で見ると開発速度が向上します
バグ修正時間の削減
仕様変更時の影響調査の容易さ
ドキュメントとしてのテストコード

 Q: どんなコードでもTDDすべき？A: 必ずしもそうではありません。以下のような場合はTDDが特に有効です
ビジネスロジックの実装
複雑な計算処理
長期的なメンテナンスが必要なコード
チームでの開発

 Q: テストを先に書くのが難しい...A: これは多くの開発者が最初に感じる困難です。以下のようなアプローチで徐々に慣れていくことをお勧めします：
小さな関数から始める
既存コードへのテスト追加から始める
チーム内で実践例を共有する

 次回予告次回は、TypeScriptでのテストフレームワーク（Jest）の導入と基本的な使い方をまとめたいと考えています。以下の内容を予定しています
Jestのセットアップ
基本的なテストの書き方
テストスイートの構成方法
様々なマッチャーの使い方
実践的なテストケース作成
実際のプロジェクトセットアップから、様々なテストケースの書き方まで、詳しく解説します。

 まとめTDDは単なるテスト手法ではなく、コード品質を向上させ、安全な開発を実現するための包括的な開発手法です。最初は慣れるまで時間がかかりますが、実践を重ねることで、より信頼性の高いコードを効率的に開発できるようになります。
次回は、実際にTypeScriptとJestを使って、TDDの実践的な方法を学んでいきましょう。

はじめに

TDDって何？

従来の開発フローとの違い

なぜTDDが必要なの？

TDDを使わない場合の典型的な開発

TDDでの開発アプローチ

TDDの3ステップサイクル詳細

1. Red（失敗するテストを書く）

2. Green（テストが通る最小限の実装を行う）

3. Refactor（コードを改善する）

TDDの具体的なメリット

1. 品質の向上

2. 設計の改善

3. 安全な変更

4. 開発者の信頼性向上

よくある疑問と回答

Q: TDDは開発速度を遅くしませんか？

Q: どんなコードでもTDDすべき？

Q: テストを先に書くのが難しい...

次回予告

まとめ

Discussion