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生成AI推進施策を10ヶ月続けてみた結果

2024/11/18に公開

はじめに

現在、社内での業務の一環として、業務効率化のための全社的な生成AIの推進施策を主導しています。施策を始めたのが今年の2月頃なので、11月現在で約10ヶ月というところです。結果として、アンケート回答者約87名の内6割が週1回以上は生成AIを活用しているという状態までもっていけました。

この記事では取り組みのきっかけと、実際の施策とその結果についてアンケート結果などを交えて説明できればと思います。

背景

いわゆる生成AI(ここでは画像生成AIはいったん除いておきます)はIT系企業のみならずここ2年で随分浸透してきました。有名どころを挙げると

  • ChatGPT (OpenAI)
  • Claude (Anthropic)
  • Gemini (Google)
  • GitHub Copilot (Microsoft)

あたりでしょうか。加えて、最近はオープンな生成AI……というより大規模言語モデル(LLM)も発展しており、ローカルでLLMを使うことも以前より現実的になってきています。

そんな中で社内でも生成AIを使って業務を効率化しようという機運が高まってきました。ちょうど私が生成AIにのめり込んでいたこともあって、結果として生成AI推進施策の音頭を取ることになったのでした。

具体的にやったこと

生成AI推進施策といっても、そこまで華々しいことをやったわけではありません。

  • 生成AIの社内講義(二回)
  • 生成AIチャンネルの開設
  • Claudeの導入
  • 生成AIチャンネルへのTipsの投稿
  • ChatGPTボットを敷設
  • 定期的なアンケート

などでしょうか。以下、それぞれについて述べていきたいと思います。

生成AIの社内講義

生成AI推進施策を開始するにあたって、生成AIの現状や基本的な使い方について説明する必要があると考え、1時間程度の社内オンライン講義を行いました。

第一回は2月に開催したものです。「AIリテラシー向上講座: ChatGPTを使ってみよう」というタイトルで、

  • 生成AIとChatGPTの概要
  • ChatGPTに質問してみる
  • ChatGPTの活用方法
  • ChatGPTの限界と安全性

といったトピックについて話をしました。生成AIのハルシネーション(幻覚)をはじめとした限界について非エンジニアにはあまり知られていなかったため、注意事項としてきちんと盛り込むようにしました。

第二回は5月に開催したものです。「生成AI最新情報キャッチアップ」と題して生成AIの最新情報について話をしました。講義では特に、ChatGPT、Gemini、Claudeといった主要生成AIの最新情報を伝えることに注力しました。

この頃は無料のChatGPTではGPT-3.5しか利用することができない状態で、4月にリリースされたClaude 3 Sonnetが無料で利用可能なこともあり、無料前提だとClaudeが頭一つ抜けていた状態でした。

2024年11月現在、無料でGPT-4oやClaude 3.5 Sonnet、当時より遥かに高性能になったGeminiを使えており、GPT-3.5が「低性能な」モデルになったことを考えると、半年で状況が変わったものです。

生成AIチャンネルの開設

講義だけやっても使い方がわからず途方にくれることも多いだろうということで、社員全員が自由に質問できる生成AIについての専用チャンネルを開設しました。

生成AI利用経験のない方が質問をするのもなかなか難しいことが予想されたので、最初の数週間は私が毎日のように「生成AI活用Tips」と称して使い方のヒントになる情報を投稿していました。

生成AIに社員の皆が慣れていない状況では「自分が使うときに何を意識しているか」をできるだけ言語化して、定期的にTipsを投稿することを意識していました。

Claudeの導入

当初、社内の利用規約の中で生成AIとして利用可能なものはChatGPTとGeminiに限られていました。しかし、当時社内ではまだあまり知られていなかったが文書作成性能では目を見張るものがあったClaudeが利用できないのは勿体無いと感じ、情シスに申請して社員がClaudeを利用できるようにしました。

最近は文書作成のためにClaudeを利用している方もかなり増えているので、比較的早期にClaudeを使えるように動いておいたのは良かったと感じています。

ChatGPTボットを敷設

上述のようにネクストビート社内では、利用規約を定めてその範囲内で公式にChatGPT、Claude、Gemini(それぞれ無料版)を利用することが許可されています。しかし、簡単に試せることと、他の人が生成AIをどのように使っているか確認できるのは重要だろうということでChatGPTボットを敷設することになりました。

このボットは同僚の中村さんがOpenAIのAssistants APIを使って素早く作ってくれたもので、ボットにメンションをつけて質問をするとスレッド形式で応答してくれるシンプルなものです。最初はファイル添付に非対応でしたが途中からPDF添付に対応しました。

ChatGPTボットについて、最初はあまり利用者もいませんでしたが、使い方が周知されるに従ってだんだん利用する社員も増え、週に数度くらいは利用している様子を見かけるようになりました。

定期的なアンケート

生成AIは使いこなすのが意外に難しいものです。使いこなすためにどこが障壁になっているのか、あるいはそもそもまだ使えないかを把握するために夏頃から月に1回、アンケートを実施しています。

アンケートは以下のような項目からなっています。これらの項目からわかるのはあくまで定性的なものであり、量的な側面を見るには色々不足がありますが、それでもどのような形で生成AIが使われているかを把握するためにはかなり参考になっています。

アンケート結果

11月中旬現在、施策を始めてから10ヶ月ほどになります。以下では2024年10月中旬に実施したアンケート結果について説明します。

アンケートは生成AIチャンネルに登録している社員294名に任意で答えてもらう形で、実際のアンケート回答者は87名でした。

アンケート回答が任意という点については注意する必要があります。というのは、生成AIの活用に意欲的な方が多く回答する可能性があり、結果として、生成AIの利用頻度についてや削減された工数については全社員が回答必須であるケースに比べて多く出ている可能性があります。

しかし「生成AI活用に意欲的な社員がどのように利用しているか」を見るためにある程度有効とは言えるでしょう。

利用している生成AIの種類

以下に示す通り、ChatGPTが圧倒的です。SlackのChatGPTボットの影響もあると思われますが、世間的にも生成AIといえばChatGPTという風潮があるので、まずまず納得の結果といったところでしょうか。

続いてClaude、Geminiが来ているのも納得です。Claudeは日本語文章を作成する能力が高いこともあってChatGPTよりこちらを使っている方も少なくないように思います。筆者もどちらかといえば最近はClaude 3.5 Sonnetの方を多用しています。

アンケート回答者にはエンジニア組織も含まれているのでGitHub Copilotが同じく上位に来ているのも納得です。私もGitHub Copilotなしのコーディングが考えられないくらいに依存しています。

少し意外なのがNoteBookLM(7名、8%)でしょうか。特に大量のドキュメントを読ませて質問する用途には強いので、チャットボット的な利用が多いのかもしれません。

生成AIの利用頻度

回答者87名中、ほぼ毎日が29名(33.3%)です。母数を仮に294名としても、約1/10がほぼ毎日生成AIを活用していることになります。参考までに、アンケートをとり始めた6月末時点では、回答者67名中14名(20.9%)が同じ回答でした。

1週間に1回以上(2〜3日に1回以上、1週間に1回程度の合計)については、24名(27.5%)です。

ほぼ毎日利用している方と合わせると60%超になり、6割以上が毎週なんらかの形で生成AIを使っていることになります。

一方、「ほとんどあるいはまったく使っていない」については、14名(16.1%)です。この数字をどう見るかは難しいところですが、後述する設問への回答を踏まえると「使いたいがどう活用すればわからない」と考えるのが妥当そうに思えます。

生成AIで削減された工数

表にすると以下のようになります。

0分 30分 60分 90分 120分以上
18名(21.7%) 26名(31.3%) 18名(21.7%) 3名(3.6%) 14名(16.8%)

あくまで自己申告ベースではありますが、回答者の約8割が生成AIを利用したことで工数削減になったと考えていると言えそうです。

特筆すべきは1週間で2時間以上工数が削減されたという回答者が14名いることです。私自身、生成AIの活用によって1週間あたりの工数は5時間くらいは削減されている実感がありますが、熱心なユーザーはどんどん時短に活用している様子が伺えます。

生成AIの利用用途

こちらについては自由記述で、回答件数も30件以上と多いですが、社外秘になりそうな情報を潰した上でなるべく多く掲載してみました。

  • 環境構築時のドキュメントを和訳してもらう
  • 壁打ちや文章校正、記事執筆補助など
  • アンケートの挨拶文など
  • コードの生成や補完
  • 作成したアウトプットのレビュー、叩き台作成、要約
  • レポート作成時の関数作成、GASコード作成、調べもの、求人コピー・募集要項生成など
  • 動画内容の纏め、ブログ内容、PDFの略すことなどに使っています
  • プログラム実装の解説やリファクタの相談など
  • 文章の添削、資料の要約、記事構成案のアイデア出し
  • 企画や戦略の相談相手、生成コンテンツの研究、原稿チェック
  • 目標の達成率を計算してもらう、エクセルの関数を教えてもらう
  • BigQuery、Salesforce、GASの仕様やコード生成に利用
  • 用語の検索、Google Apps Scriptでコードを書いてもらう
  • 営業・顧客の情報収集
  • エクセルの数式、GASの作成。WEB検索の代替
  • 開発業務、私事の相談、調査(検索)
  • 記事構成案、施策のブレスト案、企画コンテンツ案、企画や記事タイトルのコピー案
  • メールの文面作成
  • 議事録の要約、添削
  • 課題のブラッシュアップ
  • 壁打ち、ブレスト
  • メール文面の作成、データの分析、SQLクエリの作成
  • プログラムの自動生成、技術的要素の不明点の解消
  • ワーディングのアイデアだしやslackのメッセージの調整
  • GitHub Copilotでのコード補完や技術的な相談
  • コーディング
  • 海外の方々とチャットするための翻訳、エンジニアに関する知識に対する質問など
  • 記事の作成
  • コード生成
  • 日本語と英語の翻訳、長い文章のサマリ、他社情報検索、ツールの使い方相談

実にさまざまな用途に使われているのが見てとれますが、文章作成やコーディング、壁打ち的な用途が多い印象です。

生成AIを使えない理由

施策を実施する上では生成AIを「使わない」「使えない」側の理由を知るのも重要です。

以下の3つは「使わない」のでなく(まだ)「使えない」を表すものと考えられますが、合計すると9割にも達します。生成AIをあまり利用していない方のほとんどは「どう使えばいいかわからない」と感じているようです。

特に「使いたいが活用イメージが思い浮かばない」ケースについては、生成AI活用施策を進めることで改善していくのか、はたまた現状の生成AIの性能の問題なのかはなんとも言えません。しかし、「良いプロンプトが浮かばない」「プロンプトを入力するのが手間」というケースについてはプロンプト集の充実などによる改善の余地があるかもしれません。

  • 使いたいが活用イメージが思い浮かばない:16名(57.1%)
  • 良いプロンプト(質問)が思い浮かばない:6名(21.4%)
  • プロンプトを入力するのが手間:3名(10.7%)

おわりに

約半年にわたる生成AI推進施策を通じて、社内での生成AIの活用は着実に進んでいることが分かりました。

アンケート回答者の中で週1回以上利用している社員が6割を超え、2時間以上の工数削減効果を実感している社員も16%以上いるなど、一定の成果を上げることができました。

一方で、まだ活用イメージが湧かない、良いプロンプトが思いつかないといった課題も明らかになっています。これらの課題に対しては、以下のような取り組みを検討しています:

  • 具体的なユースケースやベストプラクティスの共有
  • プロンプトテンプレートの整備
  • より実践的なハンズオン形式の講習会の実施

生成AI技術は日進月歩で、この半年の間にもClaude 3.5 SonnetやGPT-4oの無料提供開始など、大きな変化がありました。今後も技術の進化に合わせて柔軟に施策を見直しながら、全社的な業務効率化を進めていきたいと考えています。

最後に、生成AI推進にあたって協力いただいた情シス部門の皆様、ChatGPTボットを開発してくださった中村さん、そしてアンケートに回答していただいた社員の皆様に感謝申し上げます。皆様のおかげで、着実に全社での生成AI活用を推進することができました。

このような施策は一朝一夕に成果が出るものではありませんが、地道な取り組みを継続することで、より多くの社員が生成AIを効果的に活用できる環境づくりを目指していきたいと思います。

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