エンジニアの『情報格差』をなくすためにAIを使って品質マニュアルを作っていくための下準備
背景
社員が増えてきて、古参メンバーと新規メンバーとでの情報格差が大きくなってきました。
個々の情報はNotion等にまとめているのですが、ページを開くと「ログ収集の仕組み」の説明が始まるので「いや、そもそもなんでログ収集してるんですか」の情報がありません。
ここでいう「なんで」が明文化されていないのがけっこう大きいなと感じていて、従来のやり方と互換が効かない提案をもらったり「この会社のやり方はこうなのね」と思考停止してしまったり、そのあたりの情報格差による意思決定の質の差が大きくなっていることに課題を感じています。
対策
対策の1つとして、SmartF開発プロダクトの全容を品質マニュアルにまとめて全エンジニアが閲覧できるようにしようと画策しています。
Notion等にまとめている業務フローや規約の「背景」「適用」「効果」「評価」等のいわゆる「なぜ」を明文化することで目的意識や納得感がより高まるのでは、というのが今回の活動アイデアです。
なぜ品質マニュアルなのか
理由1 今回やりたいことと用途が近い
品質マニュアルとは「企業や組織が提供する製品やサービスの品質を保証し、継続的に改善していくための仕組み(品質マネジメントシステム:QMS)の全体像を記述した文書」です。品質マニュアルを明文化していくことで情報格差を減らせますし「改善を継続していく」という意思も表明できます。
理由2 作成の効率化
説明資料を作る時のプロット設計は大変骨が折れるのですが「品質マニュアルを参考に」とAIに添えて自動生成してもらうことでことでプロットごと草案を自動生成してもらえます。草案を元に中身を改訂していく、という作業の道筋も立てやすいです。
理由3 説得力の拝借
品質マニュアルのプロットに沿ったドキュメントにすることで第三者への説明にあたっての説得力が増します。品質マニュアルという名前を拝借することで「ちゃんとしたドキュメント感」も増します。
今回のゴール
最終的には各活動の「なぜ」を網羅し明文化するところを目指しますが、完成への道のりは遠いです。
なので、今回は品質マニュアルを推敲していくためのコンセプト作成と初版用のプロンプト作成、推敲していくための環境を整えるところまでをゴールとします。
やってみる
1. コンセプトを作る
「品質マニュアルを作って」とだけAIにお願いすると汎用的な内容のマニュアルが出来ます。
また、ワンショットを繰り返して作ろうにも、中々結果が収束しません。
なので、まずは、どのようなマニュアルを目指すのかをコンセプトをまとめて、それを元にプロンプトを書くことで初版を作ることにしました。
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品質マニュアルの内容と会社のミッション・ビジョン・カルチャーと乖離があるといけないので、まずは会社のミッション・ビジョン・カルチャーを明記し、それらを実現するために章ごとに各プロセスを画策してチャンクダウンしていく形式を目指す
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章立ては各組織毎に親番を振って、必要に応じて子番を増やしていく設計にする。こうすることで、各組織毎でのプロセス改善やKPI変更に伴うマニュアルの改訂を各組織が自営しやすくする
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品質マニュアルに具体を書きすぎると、Notion等で管理している情報と不整合が生じたりと管理が大変になるので、あくまで「目的」「適用」「効果」「評価」等を書き、具体的な手順等は別ドキュメント参照を参照するようにする
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命名規定やファイル分割、ファイルバージョン管理ツールでのメンテナンス性を考慮してマークダウン形式にする。品質マニュアルをAIに再学習させる点においてもマークダウン形式が適している
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ネクスタはISO9001を取得しているので「ここに〇〇が書いてあって、これがISOの文節8.1に該当します」という文脈がある方が、運用が大きく育った時に品質マニュアルとしての質を客観的に説明しやすいので備えておく
2. プロンプトを作る
はじめはコンセプトに書いたことを全てプロンプトに反映していたのですが、コンセプトの3と5がイメージ通りに実現できず、よくよく考えると個別最適化していくときに盛り込める内容のコンセプトだったので一旦プロンプトでの実現優先度を下げました。
何度も試した結果、数回試すとそこそこ期待する結果を再現してくれるプロンプトが出来たので参考までに貼っておきます。
所々、AIの意訳になっていて手直しが必要ですが、プロットの叩きとしては合格ラインだと個人的には思います。
環境はGemini 2.5Proです。
貴方はSaaSプロダクトを開発している会社の品質責任者です。
プロダクト名は「SmartF」です。
SmartFは生産管理システムです。
プロダクトには以下の部門があります。
- マーケティング : 市場調査を行う
- セールス : SmartFを販売する。契約が成立したユーザは「トライアル中」という状態になる
- 導入コンサルティング : 「トライアル中」のユーザを「本稼働」にする
- カスタマーサクセス:「本稼働」後のユーザをサポートする
- プロダクト企画:ユーザ要望を承り要件定義を行う
- プロダクト開発:要件定義をインプットに開発を行う
- 品質管理:開発した成果物がリリース可能な状態かを判断する
- 人事:採用活動
- 総務:諸々
このプロダクトの品質マニュアルを作成してください。
品質マニュアルの要件は以下の通りです。
- マークダウン形式である
- ISO9001に準拠している
- ドラッガーの「ミッション・ビジョン・バリュー」に則る
- ミッションは以下の通り。
- あらゆる製造業に、改善の「教科書」を。
- ビジョンは以下の通り。
- 日本経済に、最大のインパクトを
- バリューは以下の通り。
- 最速最大の価値提供
- WillFirst
- 上記に加え「カルチャー」を明記する
- カルチャーは以下の通り
- 本質への主体的アクション
- 徹底思考と高速改善による仕組化
- ネクスタ資産の蓄積
- 凡事徹底
- チーム貢献
- リスペクトあるフィードバック
- 各部門毎に品質マニュアルを保守運用しやすいようファイルを分ける
- ファイル名には「30_企画要求管理規定.md」「40_設計開発プロセス規定.md」のように2桁の番号を振る
品質管理にはメトリクスを利用します。
メトリクスは以下の通りとし、継続的改善プロセス規定としてまとめてください。
- DevOpsパフォーマンス(The Four Keys)
- デプロイの頻度
- 変更のリードタイム
- 変更障害率
- サービス復元時間
- プロダクト品質
- クラッシュフリー率
- 顧客不具合報告件数
- 顧客満足度
- CSATスコア
上記プロンプトを6回実行した結果、以下のような構成案を作ってくれました。
コンセプトの1と2と4を満たしてくれています。
00_品質マニュアル概要
1. 目的
本文書は、株式会社SmartF(以下、当社)が提供する生産管理システム「SmartF」の品質マネジメントシステム(QMS)に関する基本方針と体系を定めるものである。
当社は、顧客に最高品質のサービスを提供し続けるため、ISO9001に準拠した品質マネジメントシステムを構築、実施、維持し、継続的に改善する。
2. 適用範囲
本品質マニュアルは、当社のすべての部門および従業員に適用される。
対象プロダクト:「SmartF」に関わる全てのプロセス(企画、開発、販売、導入、サポート等)
3. ミッション・ビジョン・バリュー
3.1. ミッション
あらゆる製造業に、改善の「教科書」を。
我々は、製造業が直面する複雑な課題を解決し、継続的な業務改善を実現するための羅針盤となるプロダクトを提供する。
3.2. ビジョン
日本経済に、最大のインパクトを。
我々のプロダクトを通じて日本の製造業全体の生産性を向上させ、日本経済の発展に大きく貢献することを目指す。
3.3. バリュー
最速最大の価値提供: 顧客の本質的な課題に対し、最も早く、最も大きな価値を提供することに全力を尽くす。
WillFirst: 困難な課題に対しても、実現するという強い意志を持って挑戦し続ける。
4. カルチャー
我々のミッション、ビジョン、バリューを実現するための行動指針として、以下のカルチャーを掲げる。
本質への主体的アクション: 常に「なぜ?」を問い、課題の本質を見極め、自律的に行動する。
徹底思考と高速改善による仕組化: 深く考え抜き、仮説検証を高速で回し、成功を再現可能な仕組みに落とし込む。
ネクスタ資産の蓄積: 経験や学びを個人の中に留めず、組織全体の資産として蓄積し、未来の成功に繋げる。
凡事徹底: 当たり前のことを、誰にも真似できないレベルで徹底的にやり抜く。
チーム貢献: 個人の成果だけでなく、チーム全体の成功を最大化するために行動する。
リスペクトあるフィードバック: 役職や経験に関わらず、互いへのリスペクトを前提とした率直なフィードバックで共に成長する。
5. 品質方針
当社は、ミッションである「あらゆる製造業に、改善の『教科書』を。」を実現するため、以下の品質方針を定める。
顧客中心主義: 顧客の成功を第一に考え、期待を超える価値を提供し続ける。
継続的改善: プロセスとプロダクトの品質を常に測定・分析し、高速な改善サイクルを回す。
法令・規制要求事項の遵守: 関連する法令および規制要求事項を確実に遵守する。
全員参加: 全従業員が品質に対する責任を自覚し、品質マネジメントシステムの維持・向上に積極的に参加する。
6. 品質マニュアル体系
本マニュアルは、以下の規定文書により構成される。
10_組織および責任権限規定.md
20_マーケティングプロセス規定.md
30_企画要求管理規定.md
40_設計開発プロセス規定.md
50_品質管理プロセス規定.md
60_セールスプロセス規定.md
70_導入コンサルティングプロセス規定.md
80_カスタマーサクセスプロセス規定.md
90_継続的改善プロセス規定.md
91_人事プロセス規定.md
92_総務プロセス規定.md
3. ドキュメント推敲のための環境を整備する(WindowsOSです)
AIを使って反復的に作業をしていくにあたりドキュメント作成用エディタやファイル変更管理のための環境構築をしておきます。
AIとの推敲は対話的に作業出来るエディタがあった方がよいです。
また、AIと対話的にドキュメント推敲をしていると、時に意図しない変更が生じる場合があります。
意図しない変更への対策として、ファイルの変更管理が出来るツールを利用します。
納得がいく出来になったら保存して、また対話してと改訂してと、変更管理を気軽にできる仕組みこそがドキュメントを鮮度良く保つコツだと個人的には思います。
以下、個人的におすすめのツール群です。
1. Gitをインストールする
定番の変更管理ツールです。VSCodeとの親和性がよいです。
2. VSCodeをインストールする
マークダウンを編集、ビューワで閲覧するためのエディタです。
無料で使えてgitの変更管理も行いやすいです。
3. MkDocsをインストールする(MkDocsを使うためにPythonも必要)
マークダウンをHTML形式で公開するためのツール群です。
HTML形式での公開が不要な場合はインストールも不要です。
MkDocsは2025年8月時点ではインターネット上の情報も多く、設定も簡単なのでお勧めです。
Python
MkDocs
MkDocsでマテリアルデザインも使いたい方はこちらも必要です。
個人的にマテリアルデザインが見やすいので使っています。
4. pandocをインストールする
pandocはマークダウンファイルをワードやパワポ、PDF形式に変換するツールです。
品質マニュアルを上司やお客様に提出する場合もあるかと思うのでPDF形式に出力する導線はあった方がいいと思います。
5. AIエージェント付のエディタをインストールする
AIエージェントは流行り廃りが分からないので「これがおすすめ」というエディタは私も手探り状態ですが、エディタからAIエージェントに対して対話形式で使える方が使いやすいと思います。
ドキュメント作成で活用しているAIエージェントがあれば是非コメントください。
ネクスタでは全エンジニアにCursorを購入しています。
TIPS
MkDocsでマテリアルデザインを適用したHTMLの見栄えはこのようなイメージになります
pandocをマークダウンをワード形式にするとこのような作成イメージになります。
ワードをPDFにするとこのような作成イメージになります。
次のゴール
今回の活動で品質マニュアルを作成していくための準備が出来ました。
次回はAIを使った品質マニュアル作成の実践と開発組織への布教活動、そこで得た学びみたいなものを発信できたらと思います!
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