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AI-OCR向け学習データセットの調達方法とは?入手先・注意点について解説

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はじめに

近年、AI技術を活用したOCR(光学式文字認識)が企業や自治体の業務効率化において注目されています。従来のOCRでは限界があった、手書き文字、複雑なレイアウト、多言語混在文書なども、AIを導入することで高精度で認識できるようになり、帳票処理やペーパーレス化などのDX推進にも寄与しています。

しかし、その性能を最大限に引き出すには、「質の高い学習データ」が不可欠です。AI-OCRモデルの精度は、どれだけ多様で現実的なデータで訓練されるかによって大きく変わります。

本稿では、AI-OCR開発に必要な学習データの調達方法や、品質・法令面での留意点について解説します。

AI-OCRにおける学習データのニーズと課題

AI-OCRモデルの学習には、多様性と現実性を兼ね備えた大規模なデータセットが必要です。特に求められる要素は以下の通りです:

✅ 多様なフォント・書体に対応

  • 漢字、ひらがな、カタカナだけでなく、アルファベットや数字、記号など幅広く対応。
  • 印刷文字だけでなく、筆跡や手書き文字も含む必要がある。

✅ レイアウトのバリエーション

  • 表、罫線、段組み、画像との混在など、さまざまな形式の文書に対応する能力が求められる。
  • 特に請求書、領収書、申請書などは企業ごとにフォーマットが異なるため、汎用性のあるデータが重要 。

✅ 複数言語・方言への対応

  • 日本市場でも中英日混在文書が増えているため、多言語対応は必須。
  • 特にグローバル展開を目指す企業では、中国語、韓国語、アラビア語などへの対応力も評価されます。

✅ 高品質な正解ラベル

  • OCRモデルは、画像内のテキスト位置とその内容を正確にマッピングする必要があります。
  • 精度の高い「矩形アノテーション」と「テキストトランスクリプション」が求められます。

これらの要件を満たす学習データは、一般的に自社内で簡単に確保できないケースが多く、外部からの調達やパートナー企業との連携が一般的となっています。

学習データの調達方法とその選定ポイント

AI-OCRモデルの性能向上に貢献する学習データを調達する際には、いくつかの選択肢があります。

① 自社で収集・作成する

  • メリット:特定用途に最適化されたデータが得られる。
  • デメリット:コストと時間がかかる、品質管理が難しい。

② オープンソースデータを利用する

  • メリット:無料で利用可能、研究目的に適している。
  • デメリット:商用利用に適さない場合が多い、品質や言語対応に偏りがある。

③ 外部ベンダーから購入 or カスタマイズサービスを利用

  • メリット:短期間での準備が可能、専門知識に基づいた高品質データを提供可能。
  • デメリット:費用が発生する、契約時のNDAやデータ使用範囲の確認が必要。

多くの企業は、これらの中からプロジェクトの目的や予算、導入スピードに合わせて選ぶ傾向があります。特に大企業や官公庁系の案件では、セキュリティ・コンプライアンス・サポート体制も重要な選定基準となります。

プライバシーや法規制に関する注意点

AI-OCR向け学習データの調達において、最も注意すべきは個人情報保護とデータの利用権限です。

AI-OCR向け学習データの調達においては、個人情報の漏洩リスクに対して匿名化やマスキング処理を実施し、利用権限の不明確さを避けるためには明確な著作権表示と利用許諾付きのデータのみを採用するなど、法令順守に基づいたデータ収集プロセスが必須です。

特に、医療・金融・政府機関などで利用されるOCRシステムでは、APPI(個人情報保護法)やGDPR(欧州一般データ保護規則)への対応が求められます。そのため、データ調達元に対して、明確なデータ取得経路の記録(トレーサビリティ)や、利用可能な範囲の明示(ユースケースベースの契約)が必要です。

また、一部のOCRツールでは、学習データに含まれる個人情報が意図せずモデルに埋め込まれるリスクも指摘されており、トレーニング前の前処理(例:名前・住所・電話番号の置換)も非常に重要です。

AI-OCR向け既製データセットのご案内

自然シーン(街道文字など)OCRデータ

100万枚を超える自然シーンOCRデータセット。アジア言語群(日本語、韓国語、インドネシア語、マレー語など)、ヨーロッパ言語群(フランス語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語など)、東南アジア言語群(カンボジア語(クメール語)、ラオス語、ミャンマー語など)を含む数十種類の言語をカバーしています。標語、 ポスター、説明書、メニューなど多様な自然シーンを収録しています。スマートフォン、カメラ、スキャナーなどのデバイスで収集され、仰角、俯角、水平角の多角度撮影を採用しています。収集、ラベル付け、テキスト転写の精度はいずれも97%以上を達成し、多言語対応の自然シーンOCRタスクに活用可能です。

手書き文字OCRデータ

10万枚を超える多言語・多シーンの手書き体OCRデータセット。繁体中文、英語、日本語、韓国語、スペイン語、タイ語、ポルトガル語、フランス語などに対応し、黒板、ホワイトボード、グリーンボード、A4用紙、横罫用紙など多様な文字媒体、異なる筆記スタイルや色、多様な書写内容を含みます。撮影角度は水平、俯瞰、仰角などがあります。収集、ラベル付け、およびテキスト転写の精度はいずれも97%以上を達成しており、手書き文字OCRタスクに利用可能です。

異形文字OCRデータ

5万枚を超える多言語異形文字OCRデータセットで、多様な自然シーン(街景、看板、広告板、ポスター、装飾、アート文字、雑誌の表紙)、多様な配置方式(波形、環状など)、および多様なフォントをカバーしています。テキストの語義に基づいて多角形枠、四角形枠のアノテーションと転写を実施し、精度は97%以上を達成しており、異形テキストOCRタスクに適用可能です。

ドキュメントOCRデータ

千万枚を超える文書OCRデータセット。説明書、オフィス文書、歴史的名著、表計算シートなど多様な文書データを含み、主にアジア言語を主とし、英語、ヒンディー語など複数の言語をカバーしています。文書形式はPDF文書と画像文書を含みます。複雑なレイアウトのOCRニーズに対応し、テキストの位置を厳密に照合してテキスト転写を実施しました。検出ボックスとテキスト転写の精度が95%以上を達成し、表計算シートの検出と認識、記事のレイアウト分割および分析など、多様な文書OCRタスクに適用可能です。

帳票OCRデータ

数十万枚の多言語帳票OCRデータセット。言語分布は主に中国語、英語、日本語、韓国語、タイ語、アラビア語、ポルトガル語、スペイン語、英語などがあります。多様な票据タイプを含み、画像内のテキストを元のレイアウトに従って転写済みです。個人情報は匿名化処理済みです。票据認識や文字認識などのタスクに利用可能です。

質問応答OCRデータ

2万組を超える中文・英語OCR質問応答データ。広告板、ポスター、手書き新聞、街景など多様なシーン、配置方法、フォントを含む。各画像に1組の質問応答ペアが含まれ、回答内容は画像内で多角形枠でアノテーションされています。正確率はすべて97%以上です。このデータは大規模言語モデルに豊富なリソースを提供し、複数のAI企業による検証を経ており、モデルが現実世界の応用において優れた性能を発揮するのに役立ちます。

試験問題解析OCRデータ

約6万枚の試験問題OCRデータセットで、小学校から高校、大学、職業教育など多様な教科を網羅し、選択式、穴埋め式、短答式、解答式など多様な問題形式や、回答中に含まれるイラストを収録しています。スマートフォンやスキャナー機器で収集され、問題文、選択肢、回答、 図表などに対して四角形枠での注釈と転写を実施しています。数式や表はLaTeX形式で転写されており、問題形式の分類精度と収集精度はいずれも97%以上です。スマート採点や宿題支援などのタスクに活用可能です。

更なるデータのお問い合わせはこちら:
https://www.datatang.co.jp/ocr

まとめ:AI-OCRプロジェクト成功の鍵は「良質なデータ」

AI-OCRの導入は、単なる文字認識の自動化を超え、業務全体の効率化と人的負担削減に直結する重要な投資です。しかし、その成功は、どれだけ多様で高品質な学習データを使えるかにかかっています。

調達にあたっては、コストパフォーマンスだけでなく、データの品質・多様性・法的妥当性などを総合的に判断することが重要です。さらに、長期的なメンテナンスや追加データの供給体制も視野に入れると良いでしょう。

今後のAI-OCR市場は、DX推進とともに拡大が見込まれています。その競争力を支えるのは、他でもない「良質な学習データ」です。慎重に選定し、信頼できるパートナーと共に歩んでいきましょう。

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