技術書を英語で読んでみよう
私は英語で出版されている書籍は原著を読むことにしています。物理本しかなかった時代には入手性の問題がありましたが、今ではKindleで何のハードルもなくポチれます。
結果として多くのメリットを得ている実感があるので、ここにまとめてみます。
なぜ英語で読むのか
未翻訳の書籍を読める
「それはそう」としか言いようがありませんが、やはり第一に挙げられる大きなメリットはこれです。日本語に翻訳される書籍は出版物のごく一部です。翻訳される書籍は基本的には有用性が高いと考えられますが、一方で有用性の高い書籍の全てが翻訳されるわけではありません。
読む対象を翻訳された書籍に限定するのは、どうしても可能性を狭めることになってしまいます。
更新された情報を得やすい
名著と呼ばれる書籍は年月を経て2nd, 3rd Editionが出版されていたりします。一方で、その改訂版が日本語訳される可能性は高くありません。
「日本では10年前の本だが英語では改定されて昨年新しくなっている」みたいな場面にはちょいちょい出くわします。
例えばVersion Control with Gitは昨年3rd editionが発売されましたが、日本語版である実用gitはgit普及期の2010年に発売されたまま更新されていません。
※追記: その後なんと実用 Git 第3版が日本語版として出版されました。難しいだろうと考えていただけにうれしい驚きでした。Gitに関する体系的な知識がまとまった良書なので是非どうぞ
他にも古い訳書になると電子版が発売されておらず、中古でプレミア価格でしか入手できないこともあります(どちらかと言うと技術書よりも一般書に多い)。
また電子版が発売されていてもフォーマットが古くて固定レイアウトで読みにくい、なんてこともありがちです。
翻訳の質に依存しない
書籍の翻訳には多大な労力を要します。その行為はとても尊いものですが、残念ながら翻訳の質は常に最高ではありません。
原文を尊重するあまり日本語としては読みづらくなってしまうこともあれば、場合によっては英語のままの方がむしろ読みやすいなんてこともあります。
素晴らしい翻訳によって読みやすくなることもありますが、常にそれを期待するのは少し楽観的すぎるかもしれません。
英語の練習になる
書籍の内容そのものには関係しない副次的な作用ですが、多くの日本人にとってはむしろ主たる目的になる得るでしょう。
現在のWeb開発において英語から逃れることはできません。昨今は翻訳サービスも充実しているので公式ドキュメントだけなら翻訳で読むことも可能かもしれませんが、GitHubのissueを次から次へと追っていくような場面ですべてを翻訳サービスにかけることは極めて非効率です。
日常的に英語を読んで抵抗を減らす効果は、少なくとも私にとっては小さくありませんでした。
また、技術書に限らず知識というものは少しずつ層を積み上げていくものです。同じ分野を何年か追っていると新しい書籍を読んでも、知らないことが書かれている部分は段々と少なくなってきます。
ともすれば、書籍から得るものは新しい知識ではなく
- 用語や表現の置き換え、世代交代
- 新しい角度からの概念の再発見
- 具体例の近代化
といった要素が主にもなってきます。
その小さなアップデートに毎回数千円を支払い続けるのは心理的な抵抗を覚える人もいるでしょう。私はそうでした。
「それなら無理して本を読まなくてもいいじゃない」という見方もありますが、それを数年続けているとやはり知識が全体的に古くなっていきます。気がつけば手持ちのアイテムに周回遅れの物が増えている感覚はなかなかの恐怖です。
そんな時に、英語の練習ついでに原著を読んでみたのが今の習慣の礎になっています。
一方で日本語で読むことで、知識を得る時間を短縮できるメリットを重視する人もいるでしょう。有用な書籍を母語で読めるのは日本の大きな強みであることは間違いありません。
読み方のコツ
音読する
最初はスピードも出ないし、読み上げるだけで精一杯になりますが、一語一句を声に出して読み上げるのが結果的には身になりやすいと感じます。
一度では内容が頭に入らない場合は何度も繰り返し同じ文を追います。分からない単語の発音は都度調べます。Kindle端末だとスピーカーが付いていないので難しいですが、iPadであればすぐに確認できます。
日本語版と両方買って読み比べる
知らない書籍をいきなり原著で読むのではなく日本語版と同時に読み進める、あるいは過去に日本語で読んだ書籍を原著で振り返るのは有効な練習です。
有用な書籍であれば2冊分の金銭や時間はすぐに回収できます。
読みやすい本を探そう
興味のある本を読むのがいいのはもちろんですが、特に不慣れなうちはその本が自分にとって読みやすいかも重要な指標になります。
英語の書籍というのは英語圏の人たちのためだけに出版されていません。別の母語を持つ人たちが世界共通語として読むことも大きな役割です。
後者を重んじている書籍とそうでないものでは読みやすさがまったく違います。Kindleならサンプルで雰囲気がつかめるので、片っ端からダウンロードして自分に合うレベル感かどうかを見極めましょう。
その他のトピック
参考文献から知識のつながりを得やすい
その本そのものは翻訳されていても、本文中で紹介されている参考文献は翻訳されていないことが多いです。
原著を読む習慣を付けることで参考文献を追いやすくなり、知識の点と点が線でつながりやすくなった感触はあります。
書籍に出てくる言葉での検索もつなげやすい
コードを書く時の変数や関数名もそうですが、検索する時にオリジナルの表現を知っていると有用な情報を得られる可能性が高まります。
書籍に出てきた言葉で検索する場合、翻訳された語よりも原著のそれで探した方が対象が広くなります。例えばStack OverflowやGitHubでの結果も拾いやすくなります。
価格面でのメリットは小さくなっている
以前は原著の方がだいたい安かったのですが、近年はほぼ変わらなくなってきました。セールなども多く、むしろ翻訳の方が安い場面も増えています。
多くの人には嬉しい反面、出版側には厳しい情勢であることが予想されます。こんな記事を書いておいて何だけど、書籍の翻訳という事業には多大な価値があるので頑張って欲しい…
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