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社会人がお金をそれほどかけずに博士号を取得した話(32万円)

2022/10/22に公開約5,800字

1. 始めに

1.1. この記事の趣旨

こんにちは。nekometaと申します。働きながら大学院に通い、最近、博士号を取得しました。この記事では、大学院に通うことを検討している社会人の方に向けて、大学院でかかったお金の話を書きます。私は実験を伴わず個人所有のノートPC上で完結するドライな研究をしていましたので、同様の方であれば多少の共通点があるのではないかと思います。一例としてご笑覧ください。

1.2. 前提

私が大学院に進学した主な理由は以下の2つです。

  • 論文を執筆する過程で己の技能(論理的思考力、ライティングスキル、タイムマネジメント等)を高めるため
  • 博士号または論文投稿実績を要求される職種への転職を可能にするため

これらの理由を踏まえ、私は「できるだけ楽に学位(博士号)を取得する」ことを目標にしました。これは学位取得に不要な物事を割り切るということです。私の場合、学位審査の要件は「国際誌に査読つきの原著論文を2本出す」ことでしたから、この達成のみを考え、以下の制限を課しました。

  • 新理論の構築や新規の技術習得が必要な研究テーマを設定しない(既存の理論と習得済みの技術を使い、限られた時間内で論文を2本書く)
  • PubMedで検索可能であり、Impact Factorが1以上で、捕食出版ではないジャーナルを目標とする(まともな雑誌であることだけを目指す)
  • 学会発表はしない(修了要件のみを達成する)
  • 学部生や他の院生にはかかわらない(自分の目標達成だけを考える)

これらの制限は、学生として研究に没頭していたころの私なら反感を抱いて嚙みついたことでしょう。しかし、いまや私は家庭のあるサラリーマン。研究だけしているわけにはいかないのですから、割り切りも必要だと考えました。

2. お金の話

私は社会人2年目から大学院に通い、結果として4年間で32万円かかりました。これは給付型の奨学金を利用したり大学から研究費を拠出していただいたりした結果です。それらがなければ345万円必要でしたから約91% OFFです。最近は民間の給付型奨学金が色々ありますし、書籍やネットに奨学金の情報がまとまっています。なお、日常生活や仕事でも使用しているので、光熱費、通信費、および統計解析用のPC・モニターの費用は表に含めていません。

名目 金額 自己負担額 備考
入学金 200,000円 0円 初年度
施設利用料 200,000円 0円 初年度
授業料 2,400,000円 0円 4年分
書籍代 120,000円 120,000円 手元に置きたいので自腹
交通費 100,000円 100,000円 大学への往復
学会費 0円 0円 仕事の学会発表はノーカウント
論文投稿料 240,000円 0円
英文校正料 90,000円 50,000円 2報分
データベース利用料 50,000円 0円 メタ解析の文献検索
ソフトウェア代 0円 0円 オープンソースソフトウェアを使用
印刷料 50,000円 50,000円 博士論文の製本など
合計 34,50,000円 320,000円

3. 時間の話

日数は記録していなかったので概算です。ファイルの編集時間はMicrosoft Wordに記録されていた値で短く見えますが、論文の半分近くはプロトコルや解析レポートと共通の内容なので、ゼロから論文を書いた時間というわけではありません。講義はほとんど土日で、平日は計10日間(5日間の集中講義×2)のみです。平日の仕事終わりは疲れ切っていたので、研究は土日に進めました。ただし、論文の執筆中は毎日ファイルを開き、1行でも文章を書くよう心がけました。

名目 日数 備考
講義 ?日 多少多めに受講し165時間、集中講義を多めに
文献調査と解析 ?日 数えていないが主に土日、週10時間程度
論文執筆 100日 ファイルの編集に100時間(2報分)
博士論文執筆 100日 ファイルの編集に60時間
学位審査会対策 10日 ファイルの編集に12時間

4. ライフイベントの話

私の場合は、大学院の在学期間と「結婚、転職、家の購入、家族の増加」というライフイベントが重なりました。

年月 研究 ライフイベント
2017年3月 薬学部(6年制)を卒業
4月 就職
2018年4月 大学院博士課程(社会人選抜)に入学
2019年11月 結婚
2020年1月
4月 研究指導以外の単位をすべて取得
11月 論文(1)アクセプト(投稿から4か月) 退職。家を買い、保護猫を引き取る
12月 転職
2021年10月 学位申請
2022年1月 博士論文が主審査を通過
2022年2月 公聴会前日までに論文(2)が査読未了のため学位申請を取り下げ
3月 単位取得満期退学、論文(2)アクセプト(投稿から6か月)
5月 再度学位申請
7月 博士論文が主審査を通過(2度目)
8月 公聴会 子どもが生まれる
9月 博士(薬学)となる
  • 薬学部(6年制):薬学部は、主に臨床志向で薬剤師国家試験の受験資格を得られる6年制と、主に研究開発志向の4年制があります。
  • 大学院博士課程(社会人選抜):薬学部(6年制)の出身の場合は4年間で、前期や後期という区分はありません。主要な講義は土日になるよう配慮されていました。単位を取るのに便利な集中講義(連続5日間)があり、夏季休暇を使って受講しました。
  • 研究指導以外の単位:普通の講義でとる単位という意味で、速やかに修了要件を満たすことがおススメです。私の場合は2年目の前期までに修了要件を満たしました。2020年1月以降(COVID-19以降)はオンライン講義が主流になってずいぶん楽になりました。
  • 研究指導の単位:研究室内のゼミや論文指導によって認定される単位で、内容は研究室によって異なるので、進学前に指導教官とよく認識をすり合わせておく必要があります。私の場合は「研究が進んでいればA~S判定」でした。
  • 転職:大学病院で治験関係の仕事をしていましたが、COVID-19の影響で多忙になってワークライフバランスが崩壊しました。もともとキャリアパスに悩んでいましたし、研究時間を確保したいこともあって転職を決めました。なお、転職にあたっては論文を出版していたことがプラスに働いたようです。転職後はフレックスタイム制で、ある程度コントロールできています。
  • 論文を投稿してからアクセプトされるまでの期間:コントロールできないやっかいな要素です。最近はジャーナルが平均的な査読期間を示すことが多くなりましたが、余裕を持ったほうがよいです。私の場合は、論文(2)を編集部が3か月間抱え込んだ挙句「適切なアカデミックエディターを見つけることができませんでした」と言ってきたので撤退、次のジャーナルに出して3か月でアクセプトされました(指導教官曰く、稀にみる酷い扱いということなので、そうそうないとは思います)。
  • 単位取得満期退学:大学院博士課程に正規の年限以上在籍し、修了に必要な単位を取得したけれど、博士論文審査は完了せずに大学院を出た場合の学歴表記です。多くの大学院では、単位取得満期退学後一定の期間内は、課程博士と同条件で学位審査可能です。論文が通らない場合に、「単位取得満期退学」後に論文博士として学位をとるか、お金を払って留年し「大学院修了」を目指すかを選ぶことになります。印象としては留年を選択する人が多いでしょうか。数年間留年する人をよく見ます。私の場合は、論文(2)がまもなくアクセプトされそうだったので、単位取得満期退学して学位申請しました。
  • 中途退学:修了に必要な単位を取得する前に退学を選択した場合は中途退学ということになります。私が通った専攻科では、例年、3年目までに約80%が中途退学します(課程博士・社会人博士の合算)。指導教官曰く、中途退学になる最大の要因は「論文が出せないこと」だそうです。

5. まとめ

あとは、よい指導教官に出会えるか、自分のスキルと覚悟はどうかというお話になります。論文(学位論文も含む)を書く過程で習得する技能の数々は役立つものです。もし、あなたも進学される気になったのなら、ぜひ。結構楽しいですよ!

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