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その「顧客価値」、誰がいくらで買いますか? ── 開発予算と事業継続性から考えるアジャイル開発

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アジャイル開発で「価値」を「予算」に繋げ、プロジェクトを継続させるために開発チームが持つべき視点

私たちが追求する「顧客価値」を、どう測るか

はじめまして。NCDCでITコンサルタントを務める局(つぼね)です。普段はアジャイル開発のPMとして、新規事業の立ち上げをご支援しています。

今回は、「プロダクトの開発が続く」という当たり前でもあるような光景が、なぜ続くのか、そこにあるマインドについて明らかにしていきたいと思います。

アジャイル開発の目的が「顧客にとっての価値」を迅速に届けることである、というのは、今や多くの開発チームにとって共通の理解でしょう。

しかし、その「顧客価値」とは、具体的に何を指すのでしょうか。

私自身、過去に起業した際、チームで「これは価値がある」と信じるプロダクトを開発しました。ですが、結果として事業を継続させることはできませんでした。

この経験から、私は「価値」をより具体的に、シビアに定義する必要があると考えています。
それは、

  1. 最終顧客が、その対価を喜んで払い続けてくれること。
  2. その結果、事業が継続できるだけの予算(あるいは利益)が確保されること。

この2点です。

この「事業継続性」の視点を、開発チームが要件定義からリリース後まで一貫して持ち続けることこそが、プロダクトを成功に導くと確信しています。

1. 要件定義:「誰が」「いくら払う」価値なのかを定義する

アジャイル開発における要件定義やリファインメントは、単に「何を作るか(What)」のリストアップではありません。

  • 「それは、誰(最終顧客)のためのものか?(Who)」
  • 「顧客は、それにいくらなら払ってくれるか?(How much)」
  • 「なぜ、顧客はそれに価値を感じるのか?(Why)」

これら3つを、チーム全員で明確に定義する場であるべきです。

「顧客価値」という言葉が曖昧なまま開発が進むと、時に「チームが作りたいもの」や「技術的な挑戦」が優先されてしまうことがあります。しかし、顧客が対価を払うと判断しなければ、その開発に投下した予算(工数)は回収できません。
これは例えば、請負開発の際でお客様からの要望があった機能でも、エンドユーザーにとって価値がある機能なのかを考える必要があります。
そうしなければ結局は無駄な開発、無駄な予算消化になりかねないからです。

要件定義の段階で、「この機能が生み出す価値」と「それに対して顧客が支払う金額」の仮説を立て、チームで共有すること。それが「稼ぐ」観点を持つための重要な第一歩となります。

2. 開発・リリース:「価値」が「対価」に見合うか検証する

アジャイル開発が短いサイクルでのリリースを目指すのは、私たちが立てた「価値の仮説」が正しかったかを、最小限のコストで検証するためです。

「価値があるはずだ」と仮説立てて開発した機能を市場に問い、顧客の反応を測定する。
ここで最も重視すべきフィードバックは、「いいね」という定性的な感想以上に、**「顧客が本当に対価を支払ってくれたか」**という定量的な事実です。

もし「無料なら使う」という反応が多ければ、それは「現状の機能では、設定した対価を払うほどの価値は感じない」という、顧客からの率直なフィードバックに他なりません。

開発チームは、この事実を受け止め、「では、何が加われば顧客は喜んで対価を払うのか?」を即座に次の開発サイクルで検証していく必要があります。

3. リリース後:なぜ、このプロジェクトは続いているのか

プロダクトがリリースされ、プロジェクトが継続している。それは、なぜ可能なのでしょうか。

それは、プロダクトが生み出す「顧客価値」に対し、顧客が「対価(利用料など)」を払い続けてくれているからにほかなりません。

そして、その対価(売上)が、開発コストや事業予算を健全に賄えているからこそ、私たちは継続して開発を行い、さらに良い価値を顧客に提供し続けることができます。

したがって、開発チームはリリース後も、常にこの2点を問い続けるべきだと考えます。

  • 「私たちは、顧客が支払う『対価』に見合う『価値』を提供し続けられているか?」
  • 「その結果、事業として継続できる『予算(利益)』は確保できているか?」

この問いを忘れてしまうと、チームは「機能を作ること」自体が目的化し、事業(プロジェクト)の継続性を見失ってしまう危険性があります。

結論:開発チームこそが「事業の継続性」の担い手である

アジャイル開発で「顧客価値」に重点を置くとは、単に顧客の要望に応えることだけを意味しません。

「顧客が喜んで対価を払い、その結果、事業が継続できる予算が確保され、私たちはさらに良い価値を提供し続ける」
── この持続可能なサイクルを構築し、回し続けることです。

要件定義から開発、リリース、その後の運用まで。
開発チームが「このプロダクトの価値は何か」「だから予算が確保できる」「顧客はいくら払う」という事業継続の観点を一貫して持ち続けること。

それこそが、不確実性の高い現代においてプロジェクトを成功させ、価値あるプロダクトを世に届け続けるための、最も確実な方法であると私は信じています。

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