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PMBOK第7版「12の原則」でプロジェクトを振り返る:反省から改善へ

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はじめに

こんにちは。
ネイバーズ株式会社 6月入社の河口と申します。

前回は、プロジェクト管理に関する課題について、記事を執筆させていただきました。

初めてのプロジェクト管理と教訓

プロジェクト管理に必要な知識は、実は体系化されています。

その代表が PMBOK(ピンボック) です。

今回は、PMBOKに沿って、上記プロジェクト管理の反省点と、改善点を見ていこうと思います。

当記事は、2025年7月に執筆されました。

想定する読者

  • PjM(プロジェクトマネジメント)に興味がある方
  • チームでの開発に携わりたいと考えている/携わっている方

PMBOKとは?

PMBOK(ピンボック)とは、プロジェクト管理を円滑に進めるための知識や指針が体系的にまとめられたガイドラインです。

Project Management Body of Knowledge(プロジェクトマネジメント知識体系)の略称で、プロジェクトマネジメント協会(PMI)により発行されています。

現在は第7版が主流で、2025年中に第8版の公開が予定されています。

参考:PMI日本支部

「12の原則(第7版)」とは?

概要

第6版までは5つのプロセス10個の知識エリアを中心とした、プロセス重視型の構成でした。
第7版からは大幅に構成が変更され、12の原則8つのプロジェクトパフォーマンス領域を中心とした、価値創出や人間的側面を重視した構成となっています。

これは、生成AIの活用などに伴う技術革新や、ビジネス環境の不確実性働き方の多様化といった要因により、柔軟で実践的なマネジメントへと進化することを目的としています。

では、「12の原則」とは何か、一つずつ見ていきましょう。

1. スチュワードシップ

スチュワード(Steward)とは、「管理人」「世話役」「執事」などの意味を持つ単語です。
責任感と誠実さを持って、プロジェクトを導くことを意味します。

  • プロジェクトの資源(時間、予算、人材)を大切に使う
  • チームや組織の信頼を損なわないよう、公正に行動する
  • 環境への配慮や持続可能性にも気を配る

2. チーム

信頼と相互扶助のある、協働的なチーム環境を作ることを意味します。

  • チームメンバーの意見を尊重し、互いに助け合える雰囲気を作る
  • 明確な役割分担とコミュニケーションで、チームが最大限に力を発揮できるようにする

3. ステークホルダー

関係者と信頼関係を築き、双方向のコミュニケーションを行うことを意味します。

  • お客様や上司、チームなど、影響を受ける全ての人のニーズを把握する
  • 定期的に意見を聞き、変更や調整を柔軟に行う

4. 価値

単に成果物を作るのではなく、顧客や組織にとって本当に価値のあることを実現することを意味します。

  • 顧客が本当に必要とする機能に集中する
  • 無駄な作業を減らし、結果としての効果を最大化する

5. システム思考

プロジェクトは単独ではなく、組織全体の中の一部だと理解することや、
システムの相互作用を認識し、評価し、対応することを意味します。

  • 他部署との連携を意識する
  • 社内のルール、文化、業務フローなど全体のバランスを考慮して行動する

6. リーダーシップ

状況に応じて、リーダーとして行動することを意味します。

  • 困難な局面で、率先して意思決定を行う
  • チームを鼓舞し、目標に向けて方向性を示す

7. テーラリング

テーラリング(Tailoring)とは、洋服の仕立てを意味する単語です。
転じて、必要十分なプロセスを用いてアプローチを設計し、最適な方法を決定することを意味します。

  • 個々のプロジェクトに最適な開発手法を選択する(アジャイル開発等)
  • プロジェクトの規模に応じて、文書化や手続きのレベルを調整する

8. 品質

最終成果だけでなく、そのプロセス自体にも品質を求めることを意味します。

  • 手戻りを防ぐため、工程ごとのレビューを徹底する
  • 品質基準を明確にし、関係者全員で共有する

9. 複雑さ

予測しにくく多面的な要素に向き合う姿勢を意味します。

  • 技術的、人的、社会的な複雑さを認識し、分解して考える
  • 不確実性がある場合でも柔軟な対応策を準備する

10. リスク

リスクは避けるのではなく、積極的に管理するものという意識を持つことを意味します。

  • 予防策や代替案(コンティンジェンシープラン)を用意する
  • リスクの可能性と影響度を定期的に見直す

11. 適応力と回復力

変化に対応し、困難を乗り越える力を備えることを意味します。

  • 状況が変わっても、やり方を見直して柔軟に対応できる
  • トラブルからの立ち直りが早く、次に活かせる

12. 変革

現状維持ではなく、変化を起こして価値を生み出す姿勢を意味します。

  • 新しい技術や仕組みを積極的に導入する
  • 改善提案や新たなアプローチを常に模索する

8つのパフォーマンス領域

12の原則と同時に示されているのが、8つのパフォーマンス領域(Performance Domains)です。
これは、プロジェクトの成果を最大化するための主要な活動領域を指します。

具体的には、以下の8つです。

  • ステークホルダー
  • チーム
  • 開発アプローチとライフサイクル
  • 計画
  • プロジェクトワーク
  • デリバリー
  • 測定
  • 不確実性の対応

まとめ

以上、12の原則と、8つのパフォーマンス領域について見ていきました。
プロジェクトマネジメントに取り組む際には、これらの原則を総合し、自分がどんな判断を下すべきかを考え、その通りに行動することが大切です。

「12の原則」に沿ったPJの反省点

概要

それでは、12の原則を踏まえたうえで、前回のPJの反省点を見ていきましょう。
前回のプロジェクト… 初めてのプロジェクト管理と教訓

① 期間内にデプロイできなかった

関連原則:
6. リーダーシップ
  問題発生時の判断と対応ができなかった
7. テーラリング
  Renderに固執せず柔軟に手法を選べなかった
10. リスク
  技術的制約を事前に洗い出せていなかった
11. 適応力と回復力
  計画の立て直しが不十分だった

② 実用に耐え得るものではなかった

関連原則:
4. 価値
  ユーザーにとって使える価値がなかった
5. システム
  技術の連携の複雑さを過小評価していた
8. 品質
  動作検証やレビューが後追いになった
9. 複雑さ
  バグの原因特定が困難な設計となっていた

③ アプリ自体のニーズがなかった

関連原則:
1. スチュワードシップ
  プロジェクトの意義を再確認しなかった
2. チーム
  メンバーの意見を汲み取れなかった
3. ステークホルダー
  ユーザーからの要望収集が不十分だった
4. 価値
  本質的な課題と提供価値がずれていた
12. 変革
  ピボット(方向転換)ができなかった

反省点まとめ(一覧表)

カテゴリ 根本的な課題 関連するPMBOK原則
計画とリスク管理 不十分なリスク予測
余裕のないスケジュール
7, 10, 11
チームとコミュニケーション メンバーとの情報共有不足 2, 3, 6
技術と品質管理 複雑な要素に対する
設計・実装の未成熟
5, 8, 9
プロダクトの価値 ユーザーニーズとの乖離 4, 12
リーダーシップと姿勢 希望的観測
軌道修正の遅れ
1, 6, 12

「12の原則」に沿ったPJの改善点

12の原則それぞれに対して、「どう改善できたか?」という視点から再整理してみました。

1. スチュワードシップ

  • プロジェクトの目的を言語化し、チーム全体と共有
  • 進捗や課題を日次でSlack/Notionなどに簡易記録

2.チーム

  • デイリースタンドアップ(短時間の進捗共有)で気づきや悩みを早期発見
  • リーダーが日常的に「困ってない?」と声がけ

3. ステークホルダー

  • 研修生など想定ユーザーから早期フィードバックを得る
  • 「この課題は本当にチャットボットが解決すべきか?」を見直す

4. 価値

  • 「PDFで十分なのでは?」という代替案を検討
  • 最低限の価値に絞ったシンプルな初期リリース

5. システム思考

  • 使用ツール(RAG、OpenAI、Render等)の相互作用を事前に確認
  • 無料プランの制限を精査し、リスク回避策を検討

6. リーダーシップ

  • 継続判断を定期的に見直し、撤退も選択肢とする
  • メンバーの懸念を汲み取る姿勢を常に持つ

7. テーラリング

  • 重厚な設計より軽量プロトタイプで検証
  • アジャイル的アプローチで柔軟に構築

8. 品質

  • 手動テストやCIを短サイクルで繰り返し実施
  • データ読み込みやAPI挙動など、先に小さく検証

9. 複雑さ

  • 「RAGなし → 検索連携 → フル機能」という段階開発を実施
  • 問題箇所を特定しやすい構造を意識

10. リスク

  • 容量制限などの仕様調査を事前に徹底
  • トラブル発生に備えたバッファ時間の確保

11. 適応力と回復力

  • 目標達成方法を柔軟に変更できる思考
  • ローカルデモ等への切り替えで成果物を担保

12. 変革

  • 「やめる判断」も成果と捉え、知見を組織に還元
  • ニーズがなかったことを、学びとして社内共有

改善の効果まとめ

これらの改善策を踏まえることで、次のような効果が期待できます。

  • 小さく始めて価値を届け、反応を見ながら成長できるPJ運営
  • チームで連携しながら軌道修正しやすい体制
  • 完璧ではなくても意味ある成果・学びが残るプロジェクト

おわりに

プロジェクトは、計画通りに進むことの方が少なく、常に判断と修正の連続です。

今回の経験と、PMBOK第7版の「12の原則」を照らし合わせることで、
単なる反省にとどまらず、次に活かすべき視点を得ることができました。

特に、価値の再確認チームでの協働柔軟な判断力の重要性は、自らの経験からも痛感しました。

今後、プロジェクトに関わる場面では、12の原則を「頭で知っている」だけでなく、「日々の判断にどう活かすか」を常に意識していきたいと思います。

この記事が、これからプロジェクトマネジメントに携わる方々にとって、ヒントや学びになれば幸いです。

ありがとうございました。

参考文献

ネイバーズ東京

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