visionOS TC 2025 参加レポート - 空間コンピューティングの最前線
はじめに
iOSエンジニアをしている、Nao-RandD です 🚴🏻♂️
先日、12/6, 7で開催された visionOS TC 2025 に参加してきました。
このイベントは visionOS に熱量のある開発者、デザイナー、空間映像クリエイターのためのテックカンファレンスです。
テックの話だけでなく、プロダクトを作る中で知れたことなど、実用的な事例についても幅広くセッションやパネルディスカッションを通して知ることができます。
この記事では、大きく3つの観点から visionOS TC 2025 の体験をお伝えします!
- 会場の熱量 - 海外エンジニアを含む多様な参加者との交流で得たモチベーション
- セッションと気になるアプリ - 各セッションの概要と印象的なアプリケーション
- ブース体験 - 実店舗 × visionOS の具体的ユースケース
会場の熱量 - visionOS エンジニアが一堂に会する場所
visionOS TC 2025 に参加して最も印象的だったのは、会場全体に漂う熱量でした。

海外からオーストラリアの Oliver Weidlich 氏、フランスの Tom Krikorian 氏といった著名な登壇者も招かれており、直接セッションを聞けて、かつ、交流できる貴重な機会でした。
visionOS 開発に取り組んでいると、どうしても孤独を感じることがありますが、このカンファレンスでは同じ志を持つエンジニアたちが一堂に会し、知見を共有し合う貴重な場となっていました。
「粗探し < 好奇心」という姿勢
主催者の服部さんからも伝えられた「粗探し < 好奇心」という言葉が、会場の雰囲気を象徴しています。
技術の紹介や取り組みに対して、批判的に見るのではなく、純粋な好奇心を持って可能性を探求する。そんな前向きな姿勢が参加者全員から感じられ、自分自身の visionOS 開発へのモチベーションが上がりました。
Xの投稿での盛り上がりはもちろん、ネットワーキングの時間もしっかり確保されていたため、会場では今後の visionOS についてや日頃の開発に関わる会話があちこちで交わされており最高の空間でした。
開発環境のモチベーション向上
イベントに足を運ぶことで、普段では得られない刺激を受けました。
- 最先端の実装事例を知れる: 実際に動いているアプリを見て、「こんなこともできるのか」という発見
- 同じ課題を持つ仲間との出会い: 「自分だけじゃない」という安心感
- グローバルな視点: 日本だけでなく、世界中で visionOS が注目されている実感
カンファレンス参加後、自分のプロジェクトに戻った時に「あのアプリみたいな UX 実現してみよう」「あの技術を使ってみよう」と、具体的なアイデアが浮かぶようになりました。
セッションと気になるアプリ
Day 1 はセッション中心だったので、ここでは特に印象的だったセッションと、そこで紹介されたアプリをピックアップしてご紹介します。
基調講演:2300万ピクセルが創る究極のストーリーテリング
基調講演では、Apple Vision Pro の圧倒的な解像度(2300万ピクセル !)を活かしたストーリーテリングの可能性が語られました。
気になったアプリ:
- Caradise: 車の博物館アプリ。クラシックカーを空間上で360度から観察でき、細部まで高解像度で確認できる
- D-Day: The Camera Soldier: 戦場の撮影兵のドキュメンタリー。第二次世界大戦のD-Dayを追体験でき、歴史の記録手段としての空間映像の価値を実感できる
Apple Immersive Video の技術(片目8K・90fps)についても詳しく解説があり、Spectoram Apple Immersive の LIVE ストリーミングや、vimeo の Apple Immersive 対応予定など、今後のコンテンツ配信の広がりに期待が高まりました。
Transform your iOS app into an Immersive Experience - UX設計
日経新聞空間版の実装事例から、visionOS 特有の UX 最適化について学びました。
広いウィンドウを動かす際、画像全体をスクロールするとユーザーの目が疲れる、など iOS だと考えないような考慮などは学びになりました。
解決策:
- テキストコンテンツを先にジェスチャーでスクロール
- 完全に切り替わるタイミングで背景画像を動かす
- 段階的なアプローチで目の負担を軽減
従来の2DのUIデザインでは意識しなかった視覚的な疲労への配慮が、visionOS では重要になることを実感しました。
日経新聞空間版には新機能も実装されており、Apple Vision Pro リリースしてまもなくリリースされたアプリに、現在も継続して改良が加えられているのは素晴らしいなと思いました。
スライド:
How to create great User Experiences for visionOS
スピーカー: Oliver Weidlich氏(オーストラリア)
優れた visionOS UX 設計のベストプラクティスについて語られました。
気になったアプリ:
- JigSpace: 3Dプレゼンテーションアプリ。複雑な機械の仕組みなどを空間上で分解・説明できます
- Porta Nubi: 空間パズルゲーム。3D空間ならではの操作感を追求
これらのアプリに共通するのは、空間性を活かしたインタラクションです。平面的な UI ではなく、3D 空間の特性を最大限に活用している点が印象的でした。
シンプルながら考慮された UX は visionOS だけでなく、iOS でも参考になる知見だったと感じました。
RealityKit エンジニアのための USD フォーマット基礎&実践編集テクニック
USD フォーマットは、visionOS 開発において 3D アセットを扱う際の標準フォーマットです。このセッションでは、その基礎と実践的な編集テクニックが紹介されました。
USDフォーマットの種類と使い分け
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.usdz: zip 形式、読み取り専用、外部参照あり- 配布用のフォーマットとして最適
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.usda: テキスト形式、メインの編集対象- 人間が読める形式で、Git 管理にも向いている
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.usdc: バイナリ形式- メッシュ、スケルトン、アニメーションなど重いデータの保存に使用
Apple USD Tools の活用
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usdcatコマンド:.usdcファイルを読み取るためのツール - Apple USD Toolsに含まれており、ターミナルから利用可能
RealityKit との連携
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.rkassetsファイル: RealityKit 専用のアセット形式 - USDファイルとの相互運用が可能
非破壊編集テクニック
空の .usda ファイルで .usdc を参照することで、元のバイナリファイルを変更せずに編集できます。
これにより、複数のバリエーションを作成する際にも元データを保護しながら作業できるため、大規模プロジェクトでは特に有用です。
usda ファイルの中身まで詳細に追ったことがなく、非常に興味深い発表内容でした。
特別セッション②:In Search of the Perfect visionOS Workflow
スピーカー: Tom Krikorian氏
開発ワークフローのベストプラクティスについて、Tom氏の豊富な経験に基づいた知見が共有されました。
参考リソース
- Sosumi.ai: visionOS 開発支援ツール
- Skybox AI: 360度スカイボックス生成AI
- Suno: AI音楽生成ツール
- ElevenLabs: AI音声生成ツール
これらの AI ツールを活用することで、visionOS 開発の効率を大幅に向上させることができます。
visionOS に閉じた話ではなく、昨今の生成AI, Vibe Coding を前提にした開発手法は非常に興味深いものでした。
ZOZO NEXT - 実店舗 × visionOS の未来を体験する
カンファレンスでは体験ブースもあり、最も衝撃を受けたのが、ZOZO NEXT のブース展示でした。
これは単なるデモではなく、実際のアパレルブランド店舗での接客を想定して作り込まれた、本当にクオリティの高い体験でした。ECサイトだけでなく、実店舗での接客シーンにおける具体的なユースケースを提示しており、visionOS の可能性を強く感じました。
体験の流れ
デモでは、実際の店舗を想定したシナリオが用意されていました:
- 顧客が Apple Vision Pro を装着
- リアルな 3D モデルになった商品を空間で眺めながら試着のイメージが膨らむ
- スタッフが iPad で顧客の視野も見ながら接客
- Apple Vision Pro 上に商品情報がリアルタイムで表示
スタッフが iPad で操作した内容が、顧客の Apple Vision Pro 上に即座に反映されます。これにより、店舗という物理空間にいながら、デジタルならではの拡張された商品情報を得られる体験が実現されています。
具体的ユースケースを浮かべて、それに合わせた考え抜かれた UI になっており、操作感も非常に良かったです。
具体的な体験内容
商品の詳細情報を空間に表示
- 素材の拡大画像
- カラーバリエーションの比較
コーディネート提案
- 選んだ商品に合うアイテムの提案
- 3Dモデルでのコーディネート確認
- 着用イメージの空間表示
お気に入り・購入体験
- 気に入った商品はお気に入り登録
- 購入したいものはカートに入れてそのまま店舗購入につながる
実用化への期待
ZOZO NEXT の取り組みで特筆すべきは、既に実用レベルのクオリティに達している点です。
これはプロトタイプやコンセプトデモではなく、実際の店舗に導入しても問題ないレベルの完成度でした。アパレルブランド「MEANSWHILE」での実証実験も行われており、現実のビジネスシーンでの活用が始まっているようです。
関連リンク
まとめ
visionOS TC 2025 は、大きな学びと刺激を与えてくれました。
海外エンジニアを含む多様な参加者が一堂に会し、「粗探し < 好奇心」の精神のもと、visionOS の可能性を純粋に探求する姿勢が思い起こされれ、カンファレンス参加後に開発のモチベーションが明らかに向上していることを感じました。
また、各セッションを通じて、visionOS 開発の実践的な知見を多く得ることができました:
- UX設計: 目の疲労軽減など、空間特有の配慮が必要
- 技術の多様性: Swift/RealityKitだけでなく、Unity、USD、AIツールなど、様々な技術を組み合わせる
- 気になるアプリ: Caradise、JigSpace、Porta Nubiなど、空間性を最大限に活かしたアプリケーション
これらの知見は、すぐにでも自分のプロジェクトに応用できる実践的なものばかりでした。
ブース体験でもこれは単なるデモではなく、実際のビジネスシーンで価値を生み出せるレベルの完成度で、visionOS がエンターテインメントを超えて、リアルな接客の現場で活用される未来を具体的にイメージできました。
アパレルで成功したこの手法は、家具、自動車、不動産、医療など、他の業種にも応用できる可能性を秘めているなと確信しました。
今後の展望
visionOS はまだまだ未開拓の領域が多く、これから開発を始める方にとっても、今がまさに参入のチャンスだと思います。
Day 2 は Apple Japan のオフィスに入ることができますし、Apple Worldwide Developer Relations の方から直接話を聞いたり手厚いサポートを得ることもできます。
iOS 開発だとかなり踏み込んで開発するか、稀にあるイベントに参加することでしかない機会が visionOS 開発に関わるだけで得られるのは大きなメリットかなと思います。
自分としても、今回得た知見を活かして:
- 空間コンピューティングならではのUX設計
- 実用的なビジネス価値を生み出すアプリ開発
- グローバルなコミュニティとの交流
「粗探し < 好奇心」というイベントの精神通り、visionOS の可能性を純粋に楽しみながら探求していく姿勢を大切にしたいです。
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