おうちリフローやってみた
コンベクションオーブンと低融点はんだを使って、自宅にてプリント基板への表面実装部品のはんだ付けを行う、いわゆる おうちリフロー をやってみました。そのレポートと細かい注意点になります。
参考文献(先駆者)
コンベクションオーブンTSF601で実際に基板をリフローしたら、快適すぎてホットプレートには戻れない - kohacraftのblog
今回やったことは上記のブログにて紹介されている手法とほとんど同じです。上記のブログも参照してください。
作業動画
印刷からリフロー、最終的な手直しまでを短い動画にしてみました。
用意するもの
名前 | 形式名 | 用途 |
---|---|---|
コンベクションオーブン | TESCOM TSF601 | リフロー炉 |
K型熱電対 | 炉内温度計測 | |
K型熱電対温度計 | 炉内温度計測 | |
扇風機 | 冷却用 | |
ポリイミドテープ | 炉内での熱電対の固定 | |
低融点はんだペースト | Chip Quik TS391LT50 | |
ポイントカード(なんでも可) | スキージ | |
フラックスクリーナー | サンハヤト FL-500 | 基板とステンシルの洗浄 |
真鍮ブラシ | ステンシルの清掃 | |
不要な基板 | はんだペースト印刷時の厚み調整 | |
マスキングテープ | 基板の固定、はんだペースト印刷時のマスキング |
コンベクションオーブンの選び方
コンベクションオーブン TSF601 は生産終了となっており、既に後継の製品が発売されています。赤外線で所定の温度まで加熱できればどのオーブンでも構いませんが、以下のポイントで選びました。
- コンベクションオーブンであること
- 温度の調整が簡単に行えること(ダイヤル式がベスト)
- 炉内スペースが十分に広いこと(炉内が幅20cm以上)
コンベクションオーブンには炉内の温度の均一化のためにファンが搭載されており、この点は単なるオーブンとは異なります。なお、一度でもリフロー炉として使われたコンベクションオーブンには、はんだペーストのフラックスが揮発付着しますので調理用には使えません。
TSF601 の温度調整ダイヤルの高温部は 10°C または 20°C 刻みになっており、 その中間の温度は設定できません。しかしダイヤルを回すだけで温度の調節ができる分、完全デジタル式より扱いやすいです。
熱電対の設置
温度をより正確に測定するために炉内にK型熱電対を設置しました。熱電対のケーブルと固定用のポリイミドテープは 耐熱温度が 230°C 以上であること を確認してください。
熱電対の設置場所は炉内の最奥、ファンの近傍にしました。基板を出し入れする際に支障が出ないよう最奥にしたのですが、ヒーターの配置的には炉内の中央が本来は最適な設置場所かもしれません。
ポリイミドテープはオーブンのドアが当たる部分にも巻き付けておきます。
はんだペーストの選び方
今回は鉛フリー低融点はんだ Chip Quik TS391LT50 を使いました。
コンベクションオーブン TSF601 は 230°C まで加熱可能とありますが実測では 210°C が安定した最大温度でしたので、通常の鉛フリーはんだでは十分に溶融しないおそれがあります。TS391LT50 は融点 138°C と比較的低融点となっており、今回のコンベクションオーブンで十分に対応できます。
CHIPQUIK TS391LT50の特徴
名前 | 説明 |
---|---|
組成 | BiSnAg (57.6/42.0/0.4 %) |
融点 | 138°C |
重量 | 50g |
使用期限 | 製造から12ヶ月 |
保存温度 | 20 ~ 25 °C |
- メリット
- 融点が低く、部品に与えるダメージが少ない
- リフローでの最大加熱温度も 165°C と低い
- 常温で保存でき、なおかつ使用時に常温に戻す必要がない
- 使用期限が製造から12ヶ月と標準的な長さ
- 粘性が低く(サラサラしている)、印刷しやすい
- デメリット
- 高価
- 粘性の低さゆえ部品のマウントがやや難しい
はんだの印刷
印刷先の基板、ステンシル(メタルマスク)の他に、厚みの調整のために不要な基板をご用意ください。厚みの調整のためだけに使うため、厚みが確保できれば基板以外でも構いません。
印刷先の基板を不要な基板で囲み、印刷面と同じ高さの平面を確保します。マスキングテープなどで動かないよう固定し、はんだが印刷されるパッドに一致するようステンシルを置きます。このステンシルもまた、マスキングテープで固定します。
ステンシルの上に、はんだペーストを少し多めに載せ、スキージ用のポイントカードなどでゆっくりと印刷をしていきます。ある程度スキージを押し付け、なおかつスキージを寝かせたまま、そしてゆっくりと(1.5cm/sくらい)動かしてください。
ステンシルの穴の部分に、はんだが埋まれば成功です。はんだが埋まっていない場合はその場所を中心にもう一度印刷してください。
ただし何回も印刷すると、はんだのズレが発生しやすくなります。なるべく1回で済ませるために、はんだペーストを多めに載せるのがポイントです。
はんだペーストが印刷後のステンシルに残っている場合は回収するか拭き取ってください。時間が経過すると硬化して拭き取りづらくなり、目詰まりの原因になります。やむを得ず硬化させてしまった場合は真鍮のブラシなどで入念に擦るとうまく掃除できます。
温度プロファイル
Chip Quik TS391LT50 のデータシートより引用
プレヒート 90~130°C 90秒、リフロー 138~165°C 60秒 です。
コンベクションオーブンを使った実際のリフローでは プレヒート100°C 180秒、リフロー 165°C 60秒 の目標でやっています。以下は時系列です。
経過時間(秒) | 炉内計測温度(°C) | 設定温度(°C) | 工程 |
---|---|---|---|
0 | 20 | 100 | 加熱開始 |
60 | 90 | 100 | プレヒート開始 |
240 | 110 | 180 | プレヒート終了、さらに加熱開始 |
270 | 138 | 180 | 融点到達、リフロー開始 |
300 | 160 | 160 | (最大温度到達) |
360 | 165 | OFF | 加熱終了、ドアを開けて扇風機で強制冷却開始 |
390 | 138 | OFF | 融点到達、リフロー終了 |
540 | 40 | OFF | 冷却終了 |
調整のためやや長めの目標時間になっています。途中で 180°C まで設定温度を上げているのはオーブンのサーミスタ動作を避けて温度を上げるためです。
リフローの注意
- 換気してください。 はんだペースト内のフラックスが揮発しても強い刺激臭はしませんが、それなりに臭いとわずかな煙は発生します。
- 165°C を超えて加熱しないでください。
- リフロー中は目を離さないでください。
- 十分に炉内が冷却されてから基板を取り出してください。
動画では片面だけのリフローでしたが、両面のリフローの場合は脱落しやすい表面実装部品に注意が必要です。特にスイッチ、ボタン、インダクタなどパッドが少なく質量が大きい部品はズレや脱落の恐れがあります。その場合は耐熱のトレイに載せるかポリイミドテープなどで部品を固定してください。
仕上がり
ランド(基板のパッド部分)は、はんだ量も十分で付け逃しはありません。一方で、チップサイドボール(はんだボール)はそれなりに発生するため十分に短絡チェックを行ったほうがよいでしょう。もっとも、チップサイドボールの発生は基板設計にも原因があると思われます。
考察
メリット
- はんだ付けが一気にできる
- 低融点はんだのため部品へのダメージが少ない
- 専用のリフロー炉よりもコンベクションオーブンは入手しやすい(手を出しやすい)
- 熱電対温度計を配線する以外にオーブンに改造は不要
デメリット
- 普段から表面実装をしない場合は導入効果が少ない
- 低融点はんだが割高であり、なおかつ製造日から12ヶ月の使用期限がある
- はんだペーストを一度に多量に使う必要があり、なおかつ拭き取りや洗浄で少量ずつ廃棄になる
- 専用のリフロー炉にはある温度プロファイルの管理が人力になる
- リフロー中は温度と時間に常に見張っている必要がある
改善点
- はんだペーストの印刷時、印刷面とステンシルが平行かつ密着した状態をどう作るかが難しい
- 部品のマウント(はんだペースト上への配置)は慣れでいくらか省力化できるが、それでも1時間以上かかる
- 部品を載せるよりも部品をリールテープから取り出したり、方向を揃える手間はかかる
- コンベクションオーブンの温度設定は自動にはできないが、時間計測と温度計測は自動化できるかもしれない
Discussion