LEDドライバNJW4617でパワーLED調光制御

日清紡マイクロデバイスのPWM調光機能付き定電流LEDドライバ NJW4617 を使ってパワーLEDを調光制御する回路と方法です。
背景: LEDと定電流回路
LEDを点灯させるための電流を作る主な方法には、電流制限抵抗によるものと、定電流回路によるものがあります。電流制限抵抗による方法では電源電圧を

と求めることができます。
3mm や 5mm の砲弾型LEDなど、通常の使用方法では放熱を考慮せずに点灯できる小型のLEDでは、抵抗器1つで実現できる電流制限抵抗による方法が最も簡単でコストも安く実現できます。
ところで、LEDは温度が上昇すると一般的には

OptoSuply製3WウォームホワイトLED OSM5XNE3C1S の環境温度-VF特性
OSM5XNE3C1S というLEDのデータシートによると、常温(25℃)では

今回使用したウォームホワイト色3WパワーLED OSM5XNE3C1S
ここで、このLEDに常温で電源電圧 5V、600mA の電流を流すとき、2Ω の抵抗のみを使って電流制限を行う場合を考えます。電源投入時はLED本体が十分に冷えているため 600mA が流れますが、点灯による熱で 100℃ まで上昇すると
と予期した電流値から 400mA も上回り、絶対順方向電流の 800mA を超えてしまいます。電流の増加により発熱が増加し、さらに電流が増加する正のフィードバックを持ち、この熱暴走により最終的には素子の焼損に至ります。そのため、放熱が必要なほどのLEDを大電流で安全に点灯させるには電流制限抵抗を用いた方法は不向きで、
数十mA程度の電流であれば定電流ダイオード(CRD)を使って定電流回路を実現できます。100mA 以上の電流の場合はLEDドライバを使った定電流回路で実現できます。
NJW4617
そこで今回は 20mA から 500mA までをサポートする、PWM制御ピン付きの NJW4617 を使った回路を考えます。使い方は

NJW4617データシートより
電流センス抵抗
電流センス抵抗値
と求めることができます。内部で基準電圧
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抵抗器の組み合わせ例 |
|---|---|---|
| (0) | ∞ | |
| 20 | 10.00 | 10Ω |
| 30 | 6.67 | 10Ω・(10Ω+10Ω) |
| 50 | 4.00 | 10Ω・10Ω・(10Ω+10Ω) |
| 80 | 2.50 | 10Ω・10Ω・10Ω・10Ω |
| 100 | 2.00 | 1Ω+1Ω |
| 150 | 1.33 | (1Ω・1Ω・1Ω)+1Ω |
| 200 | 1.00 | 1Ω |
| 250 | 0.80 | 0.2Ω+0.2Ω+0.2Ω+0.2Ω |
| 300 | 0.67 | 1Ω・(1Ω+1Ω) |
| 400 | 0.50 | 1Ω・1Ω |
| 500 | 0.40 | 0.2Ω+0.2Ω または 1Ω・1Ω・(1Ω+1Ω) |
| (600) | 0.33 | 1Ω・1Ω・1Ω |
| (700) | 0.29 | 0.1Ω+0.2Ω |
| (800) | 0.25 | 1Ω・1Ω・1Ω・1Ω |
| (850) | 0.24 | 0Ω |
LEDのカソードから流れ込む電流
接触抵抗と寄生抵抗による電流低下
電流センス抵抗が特に低抵抗の場合は、抵抗器の端子の接触抵抗や基板配線の寄生抵抗により抵抗値が増加し、LEDに期待したほどの電流が流れない現象が発生します。特に 1Ω を下回る抵抗値ではこの影響を無視できなくなります。

1Ω抵抗をはんだ付けして0.4Ωにしたもの
ブレッドボード上の場合、電流センス抵抗に複数の抵抗器を使う場合ははんだ付けする、NJW4617 と電流センス抵抗を極力近い場所に置くなど、接触抵抗と寄生抵抗を下げる工夫が必要になります。
プリント基板の場合は上記に加えて配線を太くするなどして寄生抵抗を下げるなどの工夫ができます。
定電流ドライバの損失熱
大電流を扱う場合はLEDと電流センス抵抗の損失熱の他に、NJW4617 自体に発生する損失熱についても考慮が必要です。

NJW4617データシートより
電源電圧を
となります。ここで
試算として前述の3WパワーLEDを1つ点灯させることを考えます。たとえば
となります。LEDの
となります。
式から、LEDのアノード側電圧と順方向電圧の総和に差が多いと NJW4617 の損失が大きくなることがわかります。たとえば
となり、放熱器なしでは連続点灯が難しくなってしまいます。このためアノード側電圧をいたずらに高くできず、順方向電圧の総和に応じて適切に電源を選択する必要があります。電源の決め方は後述します。
NJW4617 の放熱
NJW4617 を直接プリント基板に実装する場合は2層基板で 1190mW、4総基板で 3125mW までの消費電力に対応できます。これを超える電力で点灯させるには放熱器が必要になります。
サーマルシャットダウン機能によりICの温度が160℃(参考値)を超えると電流の出力が停止します。無論、この機能はIC保護のための保険であり、ICのジャンクション温度の範囲内である150℃以下で動作させなくてはなりません。

NJW4617をSIP変換基板に載せ、放熱器を装着
秋月電子から TO-525-5 SIP変換基板 が発売されています。これに放熱器として こちら を組み合わせます。放熱器の足の部分を除去することでやや緩いですがブレッドボードに挿すこともできます。
LED ピン電圧と出力電流
LED ピン電圧
ところで、ある程度の大きさの

NJW4617 データシート 特性例より
たとえば
一方、
500mA を流すには、少なくとも
の範囲で選択しなければなりません。
並列接続
NJW4617 では電流センス抵抗を 0Ω、つまりGNDにショートすると最大850mAまで電流を流すことができます。しかしこれは、保護機能による電流制限が働いた結果であり、NJW4617 1つで500mAを超える電流を流すことは推奨されていません。

NJW4617 データシートより
500mAを超える電流を流す場合は、NJW4617 を並列に接続することで対応ができます。上図の通り、LEDピンとEN/PWMピンを共有させます。電流センス抵抗は共有できません。
2つの NJW4617 を並列駆動させることで、最大1Aまで電流を流せます。3つ以上を並列させることもできます。電流の合計はそれぞれの NJW4617 に流れ込む電流の総和になります。
PWM制御
EN/PWMピンにPWMで信号を与えると輝度の調節ができます。NJW4617 のデータシートでは EN/PWM端子 ON 電圧

NJW4617 データシート 特性例より
実際に室温20℃、

NchMOSFETを使ったレベルシフタとオペアンプを使ったレベルシフタ
EN/PWMピンに電流を流す必要はないため、NchMOSFETを使ったレベルシフタを使えます(画像左)。
ところで、
これの解決法は低圧側がHレベルでない場合は常にLレベルが出力されることが保証できる回路を作ることです。方法はいくつかありますが、たとえばオペアンプによる方法があります(画像右)。
Arduinoによる制御例

調光を試すために今回は Raspberry Pi Pico で Arduino フレームワークを使います。以下に回路図を示します。

Raspberry Pi Picoを使った点灯制御回路
プログラムは至ってシンプルです。Arduinoの場合、analogWrite によるPWM出力で調光制御できます。
#include <Arduino.h>
// for Raspberry Pi Pico (RP2040)
#define PIN_PWM 16
void setup() {
pinMode(PIN_PWM, OUTPUT);
analogWrite(PIN_PWM, 0);
}
void loop() {
for (size_t i = 0; i < 255; i++) {
analogWrite(PIN_PWM, i);
delay(10);
}
for (size_t i = 0; i < 255; i++) {
analogWrite(PIN_PWM, 255 - i);
delay(50);
}
analogWrite(PIN_PWM, 0);
delay(1000);
}

動作風景
参考文献
- 日清紡マイクロデバイス PWM調光機能付き定電流LEDドライバ NJW4617 データシート
- OptoSupply Xeon 3 Power Warm White Star LED OSM5XNE3C1S データシート
Discussion