【書籍解説】『思考の整理学』の要点&活用方法
はじめに
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今回の記事では、外山滋比古の書籍『思考の整理学』をエンジニアリングへの活用方法を簡潔に解説する。本著は主にこれから大学で勉強を始める大学1年生に向けて書かれているが、本書で言及されている思考術はエンジニアリングにも扱えるのではないかと考え、本記事を執筆するに至った。本書は232ページとそこまで分厚くないものの、アイデアを考えることや思考することのエッセンスが凝縮されている。
- 自分の頭で考え抜くこと
- 良質なアイデアを考えること
- 文章を書くこと
これら3つのスキルはエンジニアリングでも要求される高度なスキルである。本記事の内容が参考になれば非常に幸いである。
要旨
- 学校教育は、自力で飛び立てないグライダー人間ばかり生み出してきた。だが、これからの時代で必要とされるのは、自力で飛び回れる飛行機人間である。
- 思考を整理するうえで、寝かせるほど大事なことはない。
- 深く考えず、とにかく気軽に書き始めた方がいい。そうすれば道筋が見えてくる。
アクションプラン
自力で飛び回れる「飛行機人間」になる
新しいことを学びたいなら、まずは教えてくれる人が必要だと考えている人がいる。それゆえに、教える人と本をとりあえず用意して学校に行くことが当然だというわけだ。しかし、学校での学びは先生と生徒に引っ張られたものでしかない。自学自習という言葉があるものの、独学で知識を習得するのではない。いわゆるグライダーのようなもので、自力で飛び回ることができない。学校ではどこへでもついていく従順さが尊重され、逆に自分で行動する飛行機のような学び方は敬遠される。
もちろん、グライダーのような能力を否定しているわけではない。そもそも人間には、グライダー能力と飛行機能力が混ざっている。受動的に学ぶこと――要は、他人から与えられたものや知識を学び続けることが前者、自分でものごとを発明・発見するのが後者である。両者は一人の人間の中に同居しているのだ。グライダー能力がなければ基本的な知識を習得することができない。何も知らないで、独力で飛ぼうとすれば、どのような事故になるのかわからないからだ。ところが、現実にはグライダー能力が豊富で飛行機能力に欠ける人が多い。
これをエンジニアリングに置換して考えると、上司や同僚などから「これをやってほしい」と言われたことを淡々とこなしたり、「これやっておいたほうがいいよ」という誰かが発信しているハウツーを実践したりするという受身の姿勢ではなく、自分で「これを実践したらどうなるのか」「自分にはまだこれが足りないのではないか」というように自分の頭で考える能動的な姿勢で考えることの重要性を物語っている。この「能動的な姿勢」は具体的には以下のようなものが挙げられる。
- わからないことはわかるまで納得して質問し続ける
- プロジェクト・タスクの前提条件を疑い続ける
- 「世の中のプログラマーが知りたいこと」や「自分に不足している知識」を発見して、それに関する技術記事を書く
- 「このようなサービスがあればいいな」と自分の妄想を膨らませて個人開発を進める
特に、個人開発は自分で能動的に物事を考えられる「飛行機人間」になるうえでの最良の方法である。
とりあえずアイデアを保留してみる
個人開発や実務、学習をやっている最中になにか面白いアイデアがひらめいたが、それをなかなか自分の思いどおりにできなかったり、仮にそれを思いついてもどうすればいいのかわからなくなったりするという経験をしたことはないだろうか。本書では、面白いアイデアをひらめいたり活用できるようにしたりするときには「寝させる」ことの重要性を強調している。どうしても個人開発や仕事などでのアイデアに行き詰まったときは、一旦そのアイデアから離れてみよう。本書ではこれに関連して、以下のように結論付けられている。
思考の整理法としては、寝させるほど大切なことはない。思考を生み出すのにも、寝させるのが必須である。
私の場合、普段の開発や学習で「どうしてもうまくいかない」とか「どうすればいいのかわからない」というようなことに遭遇したときはすぐに寝ることを徹底している。これはあくまで個人の一見解に過ぎないが、これを実践することで前日できなかったことがうまくいったということはしょっちゅう経験する。寝ることは良質なアイデアやひらめき、思考を生み出すには必要不可欠な手段である。
記事の本筋から多少それるが、この方法は開発時に生じるエラーを解決するときに活きることがある。より具体的に言えば、「前日に数時間試行錯誤しても解決しないエラーを一旦諦めて寝たら、何故か次の日にたったの数分で解決した」ことが挙げられる。
寝ることはなにか物事に躓いたときの対処法として最良の手段だ。
努力をすれば、どのようなことでも成就するというのは思い上がりだ。いくら時間をかけてもできないことは当然生じる。それには、時間をかけるしか術がない。その方法の一つとして、本書では寝させること――要は、保留することを強調している。
とにかく文章を書いてみる。考えるのは書いたあと
私たちプログラマーにとって、普段のエンジニアリングや技術記事の執筆で、なにか自分の意見や持っている知識をうまく整理できないことはよくある話だろう。丁寧に調べて、書くべき内容はきちんと仕上がっているもののなぜか書けない、あるいは整理できないことはよくある。自分の知識や意見をまとめる作業は実際にやってみると非常に大変な作業である。そのため、自分の知識や意見を整理したり、文章にまとめたりすることを敬遠する人は少なくないだろう。そのような人に限って、「もう少しアイデアを練らないと書けない」ということを言うのだ。
自分の意見や知識を整理するのがどうしても難しいときはとりあえず文章を書いてみよう。文章の質は一旦後回しにして、自分の意見や知識を文章に変換することに集中するのだ。まずは、気軽に文章を書くことが非常に重要である。「上手な文章を書かなければならない」という固定概念を捨てよう。
私たちプログラマーは報告書やアプリケーションのドキュメント、仕様書や技術記事など、他の職業よりも文章を書く機会が多い職業である。(知的労働に従事している限りは、文章を書くことから逃れることはできないが)本書の内容を踏まえると、プログラマーが文章を書く上で最初にやるべきことは気軽に書くことである。自分が今の時点でわかっていることだけでもいいので、それを文章の形で残すことが重要になる。
プログラマーがドキュメントや技術記事等を書く上で、とりあえず書いてみることよりも優先されるべきことはない。
おわりに
今回の記事では、外山滋比古の著書『思考の整理学』の要点とエンジニアリングへの活用方法を簡潔に整理した。
【本書のアクションプラン】
- 自力で飛び回れる「飛行機人間」になる
- とりあえずアイデアを保留してみる
- とにかく文章を書いてみる。考えるのは書いたあと
【エンジニアリングへの活用方法(具体的なアクションプラン)】
- 「飛行機人間」になるための足ががりとして、技術記事を執筆したり個人でアプリケーションを開発したりしてみる
- エラーなどで躓いたときはさっさと寝る
- ドキュメントや技術記事等を執筆する上で、最も重要なことは「とりあえず書いてみること」
参考サイト
参考文献
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