デスクワーカーのための正しい姿勢ガイド
これはなに
「ケリー・スターレット式「座りすぎ」ケア完全マニュアル」の一部要約。
あるいは「みすてむず いず みすきーしすてむず (2) Advent Calendar 2023」[1]2日目の記事。
はじめに
「ケリー・スターレット式「座りすぎ」ケア完全マニュアル」は、全7セクションからなる368ページの本である。本記事は、その内容の一部[2]を、デスクワーカーのための正しい姿勢という観点から要約したものである。本稿の内容が本の全内容ではないことに留意してほしい[3]。
対象読者
- 一日中座ってデスクワークをしている人
要約
- ニュートラルな脊柱を保ち、腹式呼吸をし、肩を外旋させよう
- 立位は最高の選択肢である
- 姿勢を頻繁に変え、動き続けよう
「正しい姿勢」とは
本書における「正しい姿勢」とは、「ニュートラルな脊柱を保った姿勢」である。すなわち、脊柱のアライメントが整い、安定している姿勢である。
逆に、悪い姿勢とは、脊柱が曲がった状態を指す。これは以下の3パターンに分類される。
- 脊柱前屈 : 丸まった脊柱、猫背
- 腰椎の過伸展 : 反り返った脊柱、反り腰
- サイドスラウチング : 側方に身体が丸まっている状態。頭部を傾け、一方の骨盤を上げ、肩を落とすことで、体重を片側へ偏らせた姿勢
これらの悪い姿勢は、いずれも身体に悪影響を及ぼす。たとえば腰痛、正常な呼吸の阻害、可動性の消失、筋肉の硬直などである。そしてこれらは、すべて脊柱のアライメントが崩れていることに起因する。
正しい姿勢を認識する
正しい姿勢を正しい姿勢と認識し、それを習慣化しなければ、正しい姿勢で仕事するのは不可能である。本書には、正しい姿勢を体感し認識するための手法が、具体的かつ反復可能な形で示されている。ここでは、その一部を紹介する。
ニュートラルな脊柱をつくる
まずは、重力の影響を廃し、認識しやすい姿勢でニュートラルな脊柱をつくってみよう。そのためには、以下の手順を踏む。
- 床に背臥位(あおむけ)で寝る
- 手のひらを上にして両側に置く
- おしりを絞る、または殿筋を収縮させる
- このとき、全力の約4分の3程度の力で絞る。これは、前掲した骨盤を少し後傾し、胸郭の方へ向く程度の収縮である
背臥位で寝そべることで、頭部・肩・胸郭は自動的に良いアライメントに配置される。加えて殿筋を作用させることで、骨盤と腰椎の関係を再調整し、骨盤を引っ張り、自然に整った状態にしている。
この姿勢において、脊柱はニュートラルな状態である。しばらくの間この姿勢を保持すると、腰部を伸長する組織の緊張が消えていることに気づくはずだ。おしりの強力な筋肉を用いることは、安定し整った脊柱を確保するための、実績あるテクニックである。
殿筋を作用させた際に、骨盤が姿勢を変えていると感じなくても問題はない。その場合、骨盤は腰椎とすでに良い関係にある可能性が高い。ここでの殿筋を絞る行為は、骨盤と腰椎と胸郭の関係をリセットし、身体の正しい形状を取り戻すトリガーである。つまり、常に殿筋を神経質に絞っている必要はない。脊柱姿勢をリセットするトリガーとして、殿筋を絞ろう。
正しく立つ | ブレージングシークエンス
次に、姿勢をリセットし正しく立つための一連の流れを記す。これはブレージングシークエンスと呼ばれる。毎回確実に姿勢をリセットできる、具体的で反復可能な手順である。
- 両足の足部を互いに並行にして、股関節の真下に配置する
- 左足を反時計回りに、右足を時計回りに股関節から外旋させるイメージで、殿筋を収縮させ、骨盤を起こす
- つま先は正面を向いた状態を保つこと
- ニュートラルな状態を維持できるだけの収縮でよい。20%程度の緊張を保つ
- 殿筋を収縮し、外旋の力を維持したまま、横隔膜を用いた腹式呼吸で深呼吸する
- 息を吸うときに横隔膜が下がり、息を吐くときに横隔膜が上がることを意識する
- 息を吐きながら、腹筋が脊柱につくように腹筋を収縮させて、体幹を20%程硬くする
- 脊柱周辺で体幹を収縮、包装するイメージ、あるいは脊柱を腹筋で補強するイメージ
- お腹が膨らんでいるのは間違いだが、お腹をただ凹ませればよいわけではない
- 両腕を身体の脇に揃え、手掌が正面を向くように、肩関節から外旋させる
- このとき、胸郭が持ち上がったり傾いたりしないように注意する
- 視線はまっすぐのまま、耳・肩・股関節・足関節の中心が一直線になるように、頭部の位置を整える
- 肩関節の外旋は保ったまま、親指が正面を向くように、前腕と手を内側に向ける
手順2では、ねじれの力を足部ではなく股関節で起こす必要がある。股関節を外旋させているとき、腰椎と骨盤の緊張は低下することに気づくだろう。これは、股関節の回旋力が骨盤を整えさせることに寄与しているからである。
手順5では、肩関節を外旋させることで、頚部と胸郭を安定させている。頚部と肩関節は組織的構造を共有するため、肩関節が安定しなければ、頚部と胸郭も安定しないのだ。肩関節を外旋の状態に整え、安定化しないと何が起こるだろうか?両肩は丸まり、上腕骨は肩関節に対して内旋する。これにより、背中は丸まり、頭は前傾する。胸より前に肩が突き出ている姿勢は、肩関節が外旋していない典型的な姿勢である。
もし、肩関節を外旋させるのに苦労しているなら、下記の手順に従い、感覚をつかもう。
- 両腕を身体に揃えて起立する
- 両腕をTの字に広げた後、腕の高さを胸まで下げる
- ひじの内側と手掌を天井へ向ける。これにより肩が外旋し、安定した状態になる
- 腕を下ろしてリラックスさせる
- 肩が丸まっていないか、親指が正面を向いているか確認する
- その状態で、肩関節を手順3と同様に外旋させる
- 肩関節を回旋させること。手をねじって見せることではない。
肩関節が整っているとき、それに関与している筋肉は活発に機能している。そのため、それまで肩関節を外旋せずに過ごしてきた人にとっては、それらの筋肉がしんどく感じるかもしれない。しかし、それはこれまで本来の役割をそれだけ果たせていなかったということである。慣らすのに多少の時間がかかるが、根気強く続けること。継続すれば、正しい姿勢に適応して筋肉が発達する。
ブレージングシークエンスを日課の一部にしよう。作業をしているとき、立っているとき、姿勢が崩れていると気づくたびに、この単純な手順を行い姿勢をリセットする。実践を続ければ、それが自然な状態としてなじみ、姿勢を改善する必要がなくなっていくはずだ。
正しい姿勢で仕事をする
ここまでで、正しい姿勢とは何かを示した。では、正しい姿勢で仕事をするためのガイドラインを示そう。
日々の生活について、本書では以下のガイドラインが示されている。
- 立位は最高の選択肢である
- 選択肢の中に立位がないとき、地面に座るか、支えられた受動的姿勢[4]で座る
- イスで背筋を伸ばして座る必要がある場合、あぐらをかくか、マンスプレッドを行う
もし、上記のどの戦略も採用できないときは、下記のガイドラインに従う。これは、座位の損害を緩和し、イスにできるだけ正しく座るための原理である。
- 立った状態で身体を整えてから座る
- 座部の端に座る
- できるだけ多く姿勢を変える
- 20~30分ごとに立ち上がって動く
立位は最高の選択肢である
なぜ立位は最高の選択肢なのか?理由としては大きく2つある。ひとつは、ニュートラルな脊柱を保つための3本の柱をすべて利用できること。もうひとつは、立位が一日を通じてより多くの運動を促進するためである。
理由1 | ニュートラルな脊柱を保つための3本の柱
1つ目の理由について説明しよう。ニュートラルな脊柱を保つとき、次の3本の柱が脊柱を支えている。
- 作用した殿筋
- まっすぐな足部を地面にねじ込んだ股関節
- 硬くした体幹の筋肉
ブレージングシークエンスを実践すればわかるとおり、立位であれば、これらの柱をすべて利用できる。では、イスに座ったときはどうだろうか?イスに座ると、殿筋を作用させ、股関節で足部を地面にねじ込むことが不可能になる。そのため、座位では、これらの柱のうちの1本である、硬くした体幹の筋肉しか利用できない。
座位では、脊柱を自然な姿勢に支えるのに、身体は体幹の筋組織しか頼れない。臀部の筋肉は基本的に眠っている[5]。しかし、体幹だけで上体のすべての質量を支えることは体力を消耗するため、しだいに腹部と背部をリラックスさせてしまう。ゆえに、イスに座っているとだんだん脊柱が丸まり、胸郭が落ち、頭部が前傾してしまうのだ。
これが、立位が最高の選択肢である理由のひとつである。立位は脊柱を整え、安定させ、支えることを容易にする姿勢なのだ。
理由2 | 立位は一日を通じてより多くの運動を促進する
2つ目の理由に移ろう。立位は座位よりもより多くの運動を促進する。立位は多くのカロリーを消費させ、筋肉を活性化し、血液循環を増加させる。加えて、より重要なのは、姿勢を変えるのが容易であるという点である。
たとえスタンディングデスクで仕事をしていても、何時間も同じ姿勢のままでいることは、理想的ではない。座位で経験した動かない状況を回避するために、できるだけいろいろなパターンに姿勢を変えるよう意識して、運動を生じさせるべきである。立位であれば、2、3分ごとに姿勢を変えるのは簡単である。地面についている足を、片足だけ足置きの上にのせればよい。
身体はよくできたもので、問題があると不快感を知らせてくれる。不快感はときに痛みとして、あるときには身体的動揺として示される。これは立位に限った話ではない。座っているデスクワーカーを8時間連続で撮影すれば、前方にうつむく・過伸展・脚を組む・脚を机に乗せるなど、いろいろな姿勢を見せるだろう。問題は、座位では運動の選択肢が制限される点にある。立位であれば、十分な運動を身体に提供できる姿勢を容易に取れ、そして容易に切り替えられる。
本書には、全10種類の機能的な立位姿勢が示されている[6]。不快であると感じたり、動く衝動に駆られたりしたときは、いつでも姿勢を移行すべきである。なお、別段10種類の姿勢を使う必要はない。唯一のルールは快適に感じる姿勢をとることである。好きな姿勢を好きな順番でとってよい。たとえ2種類だけであっても、姿勢を頻繁に変えることが重要なのだ。
以上が、立位が最高の選択肢である理由の2つ目である。立位は自然に動き、姿勢を変え、良い姿勢を維持できる運動豊富な環境を生じさせるのだ。
選択肢の中に立位がないとき
座位を避けられない状況はある。本書はなにも夕食を立って食べるように勧めてはいない。
選択肢の中に立位がないときは座位をとるしかないが、座位の中でもっとも理想的なのは、地面に直接座ることである。その理由は3つある。
- 地面に座るときは、体幹だけでなく股関節も作用する。すなわち、ニュートラルな脊柱を支える3本の柱のうち2本を利用できる。
- 地面に座るときは、自動的に骨盤で座る。骨盤は座位の負荷をコントロールする部位であり、座るための部位である。一方、イスに座るときはハムストリングスで座ってしまう。ハムストリングスは座位の負荷を担えるように設計された組織ではない。
- 立位から地面へ座るときに、スクワットを行える。スクワットは、股関節を自然に最大可動域にさせる。
地面での座位すべてが良いわけではない。もっともよい座位は、蓮華座である。これは、両足部を逆の大腿の上に乗せるようにあぐらをかいた座位である。この姿勢は股関節外旋を生じさせ、自動的に骨盤を安定化する。つまり、2本の柱で脊柱を支えられる。
股関節の可動域が足らず蓮華座を取れない場合は、あぐらをかいて座り、蓮華座に近づけられるようゆっくり取り組んでいく。あぐらをかく座位は、地面での座位で2番目に良い姿勢である。股関節は不十分だが外旋するため、1.5本の柱で脊柱を支えられる。
ただし、あぐらをかく際は姿勢に注意する。膝を地面で平坦に保ち、できる限り外旋を生じさせる。とくに、姿勢を変えるとき、脊柱を安定化するため背部をまっすぐにし、体幹の緊張を維持する。
そして、坐骨結節で座ること。坐骨結節とは、体重を支えるための骨盤の底部の骨である。坐骨結節を使わず、骨盤を身体の下に寝かせて脊柱の底部で座る[7]と、腰痛を引き起こす。大抵の読者にしっぽはついていないだろうが、わかりやすいイメージとして、脊柱の底部からしっぽが生えていることを想像してほしい。自分のしっぽの上に座らないこと。
なお、股関節が硬いと、あぐらをかくときに丸くなった上半身の姿勢になってしまう場合がある。その場合は、小さいパッドや硬い緩衝材の上に座ってみる。それでもダメなら、背中を壁につけてあぐらをかく。もし、あぐらをかいて床に座ることすらできないなら、通常の股関節の可動域を失っていることを意味する。
イスで背筋を伸ばして座る必要があるとき
オフィスでは、イスにまっすぐ座る人がほとんどだろう。イスにまっすぐ座る場合、体幹を作用させて脊柱をさせる姿勢をとれば、1本の柱を利用できる。しかし多くの人が、脊柱を虹のように曲げて、柱を0本にして働いている。
イスに座ることは、脊柱にとってもっとも難しい姿勢である。きちんと座った座位であっても、立位より最高40%も多く脊柱に圧力がかかる。そのため、できる限り多くのサポートの柱を生じさせることが重要である。
座りながら殿筋を活性化させることは不可能である。そのため、まずは硬直した体幹とニュートラルな脊柱、すなわち1番目の柱に焦点を合わせる。それから、2番目のサポートの柱を加える。
2番目の柱を加える方法は2つある。1つは、先述したようにあぐらを書いて座る方法である。イスの上であぐらをかいても、股関節に回線の要素が加わり、骨盤を安定化できる。ただし、地面に座るときと同様に、姿勢に注意すること[8]。
もう1つは、マンスプレッドという開脚の座り方を実行することである。これは相撲取りのように足を大きく広げるだけである。両足裏を合わせて膝を横に向けて(この姿勢はカエル足に近い)もよいし、足を離して地面につけてもよい。ただし、TPOは考えること。間違いなく、公共交通機関では受け入れられないだろう。
どの戦略も採用できないとき
これらの戦略のいずれも適用できない場合、下記のガイドラインに従う。これは、座位の損害を緩和し、イスにできるだけ正しく座るための原理である。
- 立った状態で身体を整えてから座る
- 座部の端に座る
- できるだけ多く姿勢を変える
- 20~30分ごとに立ち上がって動く
立った状態で身体を整えてから座る
ブレージングシークエンスを用いて、身体を整えてから座る。逆に、座ってから整えようとするのは難しい。姿勢が崩れたら、立ち上がり、ブレージングシークエンスを行い、身体を再び整えてから座りなおそう。
座るときは、腹部を硬く保ち、股関節とハムストリングスを後方へ押し出し、体幹を前方に傾ける。立つときは逆に、体幹を前方へ傾け、脛を垂直にし、股関節とハムストリングスに負荷を加えながら立つ。そうすれば、ニュートラルな脊柱を保ったまま座れる。
座部の端に座る
本書が推奨する最善の座り方は、背もたれとひじ掛けを完全に無視して、イスの端に座る方法である。おしりの殿溝をイスの端に合わせ、膝を股関節の幅のちょうど外側に位置させて、股関節回旋と安定性を生み出すようにする。
イスの端に座り、背もたれを利用しないことは、2つの利点を持つ。
- 体幹を硬く保つことを促せるため、支えられた脊柱を維持できる
- 大腿骨とハムストリングスに体重がかからない
とくに、柔らかいイスのずっと奥まで座ると、殿筋とハムストリングスにほぼ全体重がかかってしまう。これらの筋肉は明らかに体重を支える部位ではない。体重の60%を坐骨結節で支え、残りの40%はかかとに伝えよう。
できるだけ多く姿勢を変える
座っている場合、同じ姿勢をとり続けないよう意識する。長時間座らなければならない場合、姿勢をたびたび変えることは必要不可欠な要素である。身体がそわそわすることは「動くときが来た」という身体からの合図だ。身体がそわそわしだしたら、一度立ち上がって、姿勢をリセットしよう。
20~30分ごとに立ち上がって動く
これは立位にも言えることだが、20~30分ごとに立ち上がり、少なくとも2分間の運動または可動性改善テクニックを行う。首を回し、肩を回し、手首を回そう。本書には多くのサンプル運動および可動性改善ルーティンが示されている。
仕事の環境が2分間の休憩に適さなければ、単純に立ち上がって、できる限り多くブレージングシークエンスを行う。それから、ニュートラルな脊柱で座りなおす。脚に荷重をかけ、おしりを絞り、股関節を開いて、肩の姿勢をリセットしよう。これにより筋組織のスイッチが入り、1日を通じて身体が活性化する。
デバイスを身体的に正しく配置する
正しい姿勢で仕事をするためには、デバイスの配置にも気を配らなければならない。本書には、靴・床・足置き・スタンディングデスクの高さ・腰かけ・イス・モニター・キーボード・マウス・ノートパソコンの、選び方あるいは正しい配置方法が、具体的な図とともに記されている。ここではその一部を示す。
モニターの配置
姿勢を整えて、視線をまっすぐ前方に置き、モニターの最上部が目の位置に来るよう配置する。モニター自体を上方に少し傾けてもよい。これで頚部、頭部・体幹を一直線に揃えられる。
目とモニターの距離は、頭部を動かさなくてもスクリーン全体を見られる距離にする。
キーボードとマウスの配置
キーボードやマウスに手が届くように前方に乗り出し、ひどいCの形の脊柱で座るのは間違いである。そうではなく、キーボードとマウスに手が届くように、可能な限りそれらのすぐそばに立つ、あるいは座るべきである。
姿勢を整えてから、肘を約90度に曲げて、前腕を床と並行にする。そして、キーボードを肘の高さにセットする。好みで少し下げてもよい。
肩を外旋させ、肘を脇につけ、前腕と床を並行にして、手で空手チョップを行うような姿勢をとる。このときに、マウスがちょうど空手チョップの位置に来るよう配置する。肘の前方あるいは少し外側でマウスを保持しよう。
キーボードとマウス、どちらにおいても、意識すべきポイントは次の4点である。
- 肩を外旋させる
- 肘を身体にしっかりつける
- 腕を90度に曲げ、前腕を床と並行にする
- 前腕と手関節を直線に揃える
前腕と手関節を直線に揃えることは特に重要である。これを実現するには、手関節をマウスパッドや机に置いてはならない。手関節は自由に浮かせ、手は肩で支える。手を動かすときは肩から動かそう。
ノートパソコンの配置
ノートパソコンは扱いが難しい。モニターを最適な高さにするとキーボードが高すぎるし、キーボードを最適な高さにするとモニターが低すぎる。解決策としては2つある。ひとつは外部モニターあるいは外部キーボードを購入すること。もうひとつは、ノートパソコンのスクリーンの一番上を、頚部の高さになるように置いて妥協することである。
ノートパソコンを使う場合で最悪の姿勢は、柔らかいイスに座り、覆いかぶさるように姿勢を丸めることである。この姿勢だけは絶対に避けよう。
スタンディングデスクの利用
本書ではスタンディングデスクの利用が推奨されている。Section 4にはスタンディングデスクの適切なセットアップ方法が詳細に記されているし、その活用と移行方法も示されている。
とくに移行方法は重要である。もし人生の大半を何時間も座ることに費やしていたのなら、いきなり座位のワークステーションを捨て、最適な準備もなく一日中毎日立とうとするのはやめたほうがいい。それは体を鍛えるためにジョギングを始めて、1週間後にマラソンを走るようなものだ。一朝一夕で座りすぎは解消できない。立つ、動く、そして可動性を高める刺激に対応することは、時間と注意が必要となる。
最初から一日中立位で耐えようとするのではなく、はじめは1時間に20分立つ。20分立ち続ける必要もない。5分間立って、10分間座るというように分解してもよい。このルーティンを続けて筋肉が痛まなければ、1時間に30分立つルーティンへとレベルを上げる。
特定の作業で立つことを検討してもよい。たとえばメールの返事を書く、SNSの作業[9]をすることに時間を費やす場合、それらの仕事の間は立つようにする。このように、無理なく座る時間を減らし、守れる習慣とする。
重要なのは、身体の声を聴き、身体が追いつくように立つ時間を増やすことである。座位から立位への移行は筋肉を変える。何年も使われていない筋肉が発達して、強くなるのには時間がかかるのだ。
おわりに
本稿で述べた内容は、本書のほんの一部である。もし、座りすぎにより生じる悪影響や各姿勢の詳細、正しい歩き方やしゃがみ方、スタンディングデスクのセットアップ方法について知りたいなら、本書を読むことを強く勧める。もし、すでに身体に痛みを感じているなら、本書に記された基本的な身体のメンテナンス方法や、可動性改善の処方箋が役立つだろう。
デスクワークだからといって、痛みを伴う生活と衰弱の加速が運命づけられているわけではない。簡単な解決策はあり、それは本書に十全に示されている。ただし、あなたの身体が健康的に維持されるかどうかは、最終的にはあなたの行動次第である。
さいごに、本書の中で個人的に印象的だった言葉を引用して終わろう。
エクササイズが座りすぎによるダメージを消せるなら、問題の解決はとても簡単だろう。…(中略)…しかし、事実は残酷である。座りすぎによる身体への影響は潜在的に有害で、反論の余地のないものであり、その影響をエクササイズによって逆転させることはできない。
健康に近道はない。長く、健康的に、痛みのない生活を送りたければ、一日中動かなければならない。
参考文献
-
みすてむず いず みすきーしすてむずは、IT関係者向けのMisskeyサーバーである。 ↩︎
-
主にSection1、2、4、5の内容。 ↩︎
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とくに、身体のメンテナンスに関する内容は、本稿にはほとんど含めていない。また、本書には各項目に多くの写真と図があるが、本稿には掲載していない。 ↩︎
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受動的座位は、本書にて「働くことに適していない」とされているため、本稿では割愛する。この姿勢は一日の最後に取る、リラックスした姿勢である。 ↩︎
-
やってみればわかることだが、座ったまま臀部の筋肉を収縮させ、それを維持するのは非常に難しい。 ↩︎
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ブレージングシークエンスで立つ、脚を広げて立つ、足を台に乗せる、腰かけにまっすぐもたれるなど。詳細は本書p.168、p.169を参照。 ↩︎
-
この姿勢は骨盤後傾と呼ばれる。 ↩︎
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これは私の体験談だが、イスの上であぐらをかいて背もたれに寄りかかると、100%骨盤後傾の姿勢、すなわち自分のしっぽの上に座る姿勢となる。あぐらをかいて腰痛を引き起こしたことがある人は、おそらく自分のしっぽの上に座っている。必ず坐骨結節で座ること。 ↩︎
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えっ、SNSの作業は仕事かって?ままま細かいことは気にしないで…、えっ進捗?そ、その、あの…。 ↩︎
Discussion