輪廻-samsara-
➖輪廻 - Samsara - ➖
サムのオフィスは依然として静まり返っていた。
サラが再び口を開くまで、しばらくの間、二人の間には重い沈黙が流れた。
「もし、赤ちゃんとして短命な肉体を選んだら…」サラがぽつりとつぶやく。
「その後、どうなるんですか?」
サムは真剣な面持ちで画面を見つめながら言った。
「それは大きな問題ですね。サラさんが今回、短命の赤ちゃんの肉体を選ぶと、
あなたの魂は次の生でどうなるか、慎重に考えなければなりません。」
サラは眉をひそめた。
「どういうことですか?」
サムは椅子から立ち上がり、部屋の隅にある大きなスクリーンを操作して、また別のデータを表示した。
「短命な肉体を選ぶということは、通常、魂にとって『未消化の経験』が残ることになります。
物理的な命の制限が、あなたの精神的な成長にとって十分でないことが多い。
これは過去にさまざまな短命な命を選んだ魂たちが経験してきたことです。」
サラは息を呑んだ。「それって、どういうことですか?」
サムは少し間を空けて、言葉を選ぶように続けた。
「魂が未消化のままで終わった場合、その次に生まれる時つまり『来世』の時に、
その未消化分を補うために、魂はその次の肉体で非常に重い負担を背負うことになるんです。
それが、あなたの次の転生にどのように影響するかは予測できませんが、簡単なことではない。」
サラは青木の言葉を噛みしめるように聞いていた。
「つまり、もし赤ちゃんの短命な肉体を選ぶと、
今度は次に生まれ変わる時、もっと重い業を背負わなければならないということですか?」
サムは静かに頷いた。
「その通りです。短命の肉体で終わった場合、来世以降にその反動が出ることが多い。
未消化の部分が多ければ多いほど、その後の転生で魂はより大きな課題を抱えることになります。
何度も繰り返さなければならない場合もある。」
サラは言葉を失い、目の前のスクリーンに映る自分の過去のデータをぼんやりと見つめた。
もしかしたら、サムの指摘は予想以上に深刻かもしれない。
サラはしばらく黙っていた。
その顔には深い葛藤が浮かび上がっていた。
「それでも、私はどうしても短い命を選びたい。過去の人生で、十分に罪を背負ったと思うし、私は長く生きすぎた。
あとは、死ぬことが、今の私には唯一の救いだと思っているんです。何もかも終わらせて、完全に清算したいんです。」
サムは静かに彼女を見つめ、
「その覚悟は素晴らしい。しかし、最終的にあなたの魂は、
ただ終わらせることだけでは済まされないという現実を受け入れる必要があります。
それがあなたにとって必要な学びを得るための時間を削ることになるかもしれません。」
サラは目を閉じた。
「つまり、私はその後、また…次の命で繰り返すことになるわけですね。」
サムはその問いには答えなかった。
代わりに、スクリーンに次のデータを表示させた。
「これが、あなたの次に生まれる母親の情報です。」
サラは画面を見つめ、映し出された若い女性の姿に思わず息を呑んだ。
「この人が、私の次に生まれる母親…?」
「はい。」サムは続けた。
「この女性は、あなたが選ぼうとしている短命な肉体を受け入れることになります。
しかし、この母親にとって、それは容易に受け入れられるものではないかもしれません。」
「彼女の心の中で、私はどう映るんでしょうね。」
サラはつぶやいた。画面の中の母親の表情は、どこか疲れた印象を受ける。
彼女が過去の人生で抱えてきた苦悩が見え隠れするようだった。
「彼女にとって、これは非常に大きな決断です。」サムは深い呼吸をして、言葉を続けた。
「あなたが短命な命を選ぶことによって、彼女の魂も影響を受けるでしょう。
彼女の選択が、あなたの魂の成長にどうつながるかは予測できませんが、
その決断が未来をどう変えるかを覚悟しなければなりません。」
サラはしばらく沈黙した。
次に出産予定の母親のデータが彼女の目の前に映し出されたまま、
サラはその表情をじっと見つめ続けていた。
「私は、ただ終わらせたかったんです。でも、もしかしたら、この選択が予想よりも大きな影響を与えるのかもしれない…。」
サムは静かに答える。
「それが命の選択です。サラさんが選ぼうとしている命は、
あなただけではなく、他の魂にも影響を与える。
あなたが選んだ道が、他の魂とどう交差するのか、それは見守ることしかできません。」
サラは深い息をつき、目を閉じた。
時間が過ぎ、彼女は再び決断を迫られている。
「…わかりました。もう少し考えてみます。」
サムは静かに頷き、黙って待った。
サラは少しだけ微笑み、「ありがとう。」とだけつぶやいた。
彼女の最終的な選択が…それはまだ誰にもわからなかった。