MCMCと変分推論(VI)は最先端のLLMでどう使われているのか?
1. はじめに
近年、大規模言語モデル(LLM: Large Language Models) の発展により、AIは自然言語処理(NLP)の分野で驚異的な進化を遂げています。GPTシリーズやLLaMA、PaLMなどの最先端LLMでは、確率的推論が重要な役割を果たします。
そこで、本記事では、MCMC(マルコフ連鎖モンテカルロ法)と変分推論(VI: Variational Inference)がLLMのトレーニングや最適化にどのように活用されているか を解説します。
2. LLMの学習と推論における確率的手法の必要性
LLMの学習は基本的に確率モデルを扱います。例えば、次のような確率を求めるタスクが頻繁に登場します。
-
単語の生成確率の計算
- 例: 「今日は天気が良い」の後に「です」が続く確率を推定
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パラメータの最適化
- 例: LLMの膨大なパラメータ(数十億以上)を効率的に更新
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不確実性の推定(ベイズ学習)
- 例: モデルの予測にどれくらいの信頼性があるかを評価
これらを適切に処理するために、MCMCやVIが使われています。
3. MCMCはLLMでどのように使われるのか?
✅ 3.1. LLMのハイパーパラメータ推定
LLMは通常、数十億以上のパラメータを持ちます。しかし、学習率や正則化係数、トークン確率分布などのハイパーパラメータを最適化するのは難しいです。
MCMCを使うことで、ハイパーパラメータの分布をサンプリングし、
「どのハイパーパラメータが最も適切か?」を探索できます。
💡 例:ハイパーパラメータのベイズ最適化
- MCMCを使い、学習率(lr)やドロップアウト率の確率分布を推定
- 最も効果的なパラメータを求め、モデルの精度を向上
✅ 3.2. 事前分布を考慮したモデルの学習(ベイズニューラルネットワーク)
通常のLLMは「点推定」(一つの最適な重みを探す)を行いますが、MCMCを用いたベイズニューラルネットワーク では、
「重みが取り得る確率分布」を学習できます。
これにより、不確実性を考慮した推論が可能になります。
💡 例:GPTモデルにMCMCを適用したケース
- 標準のGPT: ある単語の次の単語の確率を一意に出す
- MCMCを用いたGPT: 「複数の重み設定」を考慮し、より多様な生成を行う
例えば、「LLMの出力のばらつきを増やしたい」とき、MCMCを使うと、
「異なる重みをサンプリングして、多様な出力を得る」ことが可能になります。
4. 変分推論(VI)はLLMでどのように使われるのか?
✅ 4.1. BERTやGPTの事前学習におけるVIの活用
LLMの事前学習(Pre-training)では、
「巨大なデータセットから、単語の関係性を学習する」必要があります。
しかし、パラメータが膨大なため、通常のMCMCでは計算コストが高すぎる。
→ そこでVI(変分推論)が活躍!
💡 例:BERTの事前学習でのVI活用
- BERTの隠れ層(hidden state)の分布をガウス分布で近似
- 近似分布のパラメータを勾配降下法で最適化
- 高速にパラメータ推定を行う
VIを使うことで、MCMCよりも高速にパラメータ分布を推定でき、
LLMの学習を効率化できます。
✅ 4.2. スパースアテンションの最適化(計算量削減)
LLMの計算コストの大部分はアテンション機構によるものです。
最近の研究では、「スパースアテンション(Sparse Attention)」と呼ばれる方法で
「必要な部分だけ計算する」ことでコストを削減しています。
VIを使うと、「どの部分のアテンションを削減しても影響が少ないか?」を確率的に推定できます。
💡 例:GPT-4の計算量削減のためのVI活用
- 変分推論を用いて、重要なアテンションパスのみを選択
- 不要な計算を省略し、LLMの推論を高速化
5. MCMC vs VI:LLMではどちらがよく使われる?
用途 | MCMC | 変分推論(VI) |
---|---|---|
ハイパーパラメータ最適化 | ◎ | ○ |
不確実性の推定 | ◎ | ○ |
パラメータ最適化(事前学習) | △(計算コスト大) | ◎(高速) |
計算量削減(スパース推論) | △ | ◎ |
モデルの生成多様性向上 | ◎ | △ |
LLMでは、計算コストの制約が厳しいため、VIが主流ですが、
「より精度の高い推論」を求める場面ではMCMCが使われることもあるということがわかります。
6. まとめ
MCMCと変分推論(VI)は、最先端のLLMにおいて重要な役割を果たしています。
✅ MCMCは、不確実性の推定や多様な出力生成に活用される
✅ 変分推論(VI)は、計算量の削減やパラメータ最適化に適している
✅ LLMの規模が大きくなるほど、VIが多く使われるが、MCMCも特定の用途で重要
今後のLLMの発展においても、これらの確率的手法の活用がますます重要になるでしょう!🚀
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