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MCMCと変分推論(VI)は最先端のLLMでどう使われているのか?

2025/03/01に公開

1. はじめに

近年、大規模言語モデル(LLM: Large Language Models) の発展により、AIは自然言語処理(NLP)の分野で驚異的な進化を遂げています。GPTシリーズやLLaMA、PaLMなどの最先端LLMでは、確率的推論が重要な役割を果たします。

そこで、本記事では、MCMC(マルコフ連鎖モンテカルロ法)と変分推論(VI: Variational Inference)がLLMのトレーニングや最適化にどのように活用されているか を解説します。


2. LLMの学習と推論における確率的手法の必要性

LLMの学習は基本的に確率モデルを扱います。例えば、次のような確率を求めるタスクが頻繁に登場します。

  • 単語の生成確率の計算
    • 例: 「今日は天気が良い」の後に「です」が続く確率を推定
  • パラメータの最適化
    • 例: LLMの膨大なパラメータ(数十億以上)を効率的に更新
  • 不確実性の推定(ベイズ学習)
    • 例: モデルの予測にどれくらいの信頼性があるかを評価

これらを適切に処理するために、MCMCやVIが使われています。


3. MCMCはLLMでどのように使われるのか?

✅ 3.1. LLMのハイパーパラメータ推定

LLMは通常、数十億以上のパラメータを持ちます。しかし、学習率や正則化係数、トークン確率分布などのハイパーパラメータを最適化するのは難しいです。

MCMCを使うことで、ハイパーパラメータの分布をサンプリングし、
「どのハイパーパラメータが最も適切か?」を探索できます。

💡 例:ハイパーパラメータのベイズ最適化

  • MCMCを使い、学習率(lr)やドロップアウト率の確率分布を推定
  • 最も効果的なパラメータを求め、モデルの精度を向上

✅ 3.2. 事前分布を考慮したモデルの学習(ベイズニューラルネットワーク)

通常のLLMは「点推定」(一つの最適な重みを探す)を行いますが、MCMCを用いたベイズニューラルネットワーク では、
「重みが取り得る確率分布」を学習できます。

これにより、不確実性を考慮した推論が可能になります。

💡 例:GPTモデルにMCMCを適用したケース

  • 標準のGPT: ある単語の次の単語の確率を一意に出す
  • MCMCを用いたGPT: 「複数の重み設定」を考慮し、より多様な生成を行う

例えば、「LLMの出力のばらつきを増やしたい」とき、MCMCを使うと、
「異なる重みをサンプリングして、多様な出力を得る」ことが可能になります。


4. 変分推論(VI)はLLMでどのように使われるのか?

✅ 4.1. BERTやGPTの事前学習におけるVIの活用

LLMの事前学習(Pre-training)では、
「巨大なデータセットから、単語の関係性を学習する」必要があります。

しかし、パラメータが膨大なため、通常のMCMCでは計算コストが高すぎる。

そこでVI(変分推論)が活躍!

💡 例:BERTの事前学習でのVI活用

  • BERTの隠れ層(hidden state)の分布をガウス分布で近似
  • 近似分布のパラメータを勾配降下法で最適化
  • 高速にパラメータ推定を行う

VIを使うことで、MCMCよりも高速にパラメータ分布を推定でき、
LLMの学習を効率化できます。

✅ 4.2. スパースアテンションの最適化(計算量削減)

LLMの計算コストの大部分はアテンション機構によるものです。

最近の研究では、「スパースアテンション(Sparse Attention)」と呼ばれる方法で
「必要な部分だけ計算する」ことでコストを削減しています。

VIを使うと、「どの部分のアテンションを削減しても影響が少ないか?」を確率的に推定できます。

💡 例:GPT-4の計算量削減のためのVI活用

  • 変分推論を用いて、重要なアテンションパスのみを選択
  • 不要な計算を省略し、LLMの推論を高速化

5. MCMC vs VI:LLMではどちらがよく使われる?

用途 MCMC 変分推論(VI)
ハイパーパラメータ最適化
不確実性の推定
パラメータ最適化(事前学習) △(計算コスト大) ◎(高速)
計算量削減(スパース推論)
モデルの生成多様性向上

LLMでは、計算コストの制約が厳しいため、VIが主流ですが、
「より精度の高い推論」を求める場面ではMCMCが使われることもあるということがわかります。


6. まとめ

MCMCと変分推論(VI)は、最先端のLLMにおいて重要な役割を果たしています。

MCMCは、不確実性の推定や多様な出力生成に活用される
変分推論(VI)は、計算量の削減やパラメータ最適化に適している
LLMの規模が大きくなるほど、VIが多く使われるが、MCMCも特定の用途で重要

今後のLLMの発展においても、これらの確率的手法の活用がますます重要になるでしょう!🚀

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