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Zero Shot Learning (ZSL)とは?

2025/02/19に公開

人工知能(AI)と機械学習(ML)の分野では、新しい概念やタスクを学習する能力が研究されてきました。その中で、「Zero Shot Learning(ZSL)」は、学習データに含まれていないクラス(ラベル)を認識できる能力を指します。従来の機械学習モデルでは、すべてのクラスに対して事前に十分な学習データを提供する必要がありますが、ZSLでは「見たことのない」データにも適用可能です。

本記事では、Zero Shot Learningの概念、仕組み、応用例、関連技術、課題、そして将来展望について詳しく解説します。

Zero Shot Learningの概念

なぜZero Shot Learningが重要なのか?

従来の教師あり学習(Supervised Learning)では、各クラスのラベルに対して膨大なデータを用意し、それを学習させる必要があります。しかし、現実世界ではすべてのクラスに対して十分なデータを準備することは困難です。

例えば、画像認識タスクにおいて、珍しい動物の種を分類する場合、その動物の画像データが十分に収集されていなければ、モデルは適切に分類することができません。しかし、Zero Shot Learningを活用すれば、「これまで見たことのない動物の画像」でも、説明的な情報(たとえば「この動物は哺乳類であり、長い耳を持つ」など)を活用することで識別できる可能性があります。

ZSLの基本原理

Zero Shot Learningは、通常、以下のようなアプローチで実現されます。

属性ベースの学習(Attribute-Based Learning)

画像やテキストの特徴を抽出し、それらを「意味的な属性(semantic attributes)」として表現する。

例えば、動物の識別において、「毛がある」「翼がある」「4本足」などの属性を使用する。

意味空間(Semantic Space)へのマッピング

モデルは学習したデータから、視覚的な特徴やテキスト情報を「意味的なベクトル空間(semantic space)」にマッピングする。

これにより、新しいクラス(未知のラベル)でも、既存の知識と類似性を計算できる。

転移学習と類似性評価

見たことのないクラスの情報を、すでに知っているクラスの情報と比較して推論する。

たとえば、「シマウマ」は「馬」に似ているが「縞模様を持つ」といった特徴を学習済みの情報と照らし合わせて分類する。

このように、ZSLでは直接的なデータがなくても、新しい概念を推測するための「中間情報(attributesやsemantic embeddings)」を活用することが鍵となります。

Zero Shot Learningの応用例

ZSLの技術はさまざまな分野で活用されています。以下に代表的な応用例を紹介します。

  1. 画像認識

従来の画像分類モデルでは、事前にすべてのクラスのデータを学習させる必要がありますが、ZSLを利用することで、未学習のクラスでも特徴ベクトルを用いた推論が可能になります。

動物認識:新種の動物の写真を分類する。

医療診断:希少な疾患の診断において、過去の診断情報をベースに新しい病気の可能性を推測する。

  1. 自然言語処理(NLP)

テキスト分類:未学習のカテゴリに対しても、意味的な類似性をもとに分類できる。

質問応答(QA)システム:事前に学習していない質問に対しても、意味的な情報を活用して回答可能。

翻訳:未知の単語やフレーズが出現した場合でも、類似表現を活用して適切な訳を生成する。

  1. ロボティクスと自動運転

ロボットの行動予測:未学習の状況に対しても、過去の知識を利用して最適な動作を推定。

自動運転:未知の道路状況や障害物に対しても、過去のデータと関連付けて判断可能。

Zero Shot Learningを支える技術

ZSLを実現するためには、さまざまな技術が組み合わされています。以下は主要な技術要素です。

  1. Word Embeddings(単語埋め込み)

単語を意味空間に埋め込む技術として、Word2Vec、GloVe、FastText、BERTなどが使用されます。これにより、未知の単語や概念でも類似したものと関連付けることができます。

  1. 画像の特徴抽出

CNN(Convolutional Neural Network)を用いた特徴抽出が主流です。特にResNet、VGG、EfficientNetなどのアーキテクチャが活用されます。

  1. マルチモーダル学習

テキスト、画像、音声など異なるデータを組み合わせることで、より高度な推論が可能になります。CLIP(Contrastive Language-Image Pretraining)やDALL-Eなどがこの技術を活用しています。

Zero Shot Learningの課題

ZSLにはいくつかの課題が存在します。

属性の設計が難しい:どの属性を使うべきか、人間が事前に定義する必要がある場合が多い。

意味空間のギャップ(Semantic Gap):視覚情報とテキスト情報の間に生じるずれを適切に埋めることが難しい。

データのバイアス:学習データのバイアスが新しいクラスの推論に影響を与える可能性がある。

まとめと今後の展望

Zero Shot Learningは、AIが未知のクラスに対して推論できる能力を持たせる技術として注目されています。今後、自己教師あり学習(Self-Supervised Learning)や、マルチモーダルAIの発展によって、ZSLの精度向上が期待されます。

特に、OpenAIのCLIPやGoogleのBigGANなどの最新技術を活用することで、ゼロショット学習の適用範囲はさらに広がるでしょう。今後の進化が楽しみな分野の一つです。

今後もZero Shot Learningの最新研究や応用例を追いながら、この技術がどのように進化していくのかを探求していきましょう!
#中野哲平

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