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【スクラムマスター】極私的SM7つ道具

2023/12/16に公開

概要

スクラムマスター, アジャイルコーチ, ファシリテーター, もしくは組織をリードする立場の方に便利そうな道具を、極私的な基準で選び、ご紹介する記事です。

物理的な意味での「道具」

1. ふせん

厳密には「ふせん & サインペン & 広い壁」です。[1]
リモートワーク中心となった昨今、前述に加えてバーチャルホワイトボードツール(miro,figma他)も含みます。ふせんはコミュニケーションの「場」となります。時には小さい声のスポイトになったり、気持ち・雰囲気・感覚のような非言語代わりとなったり、グラレコや議事録になったりもします。

ふせんに書き出すことでその内容が人格と切り離され、客観的なデータとしていきいきとしてくる感じがします。つまり、万人から広く意見を募り可視化するのに便利なのです。遠慮がちなあのひとの意見も聞きたい!ふせんはそんな時にとても助かります。

オンラインでもオフラインでも、ふせんはとにかく使い倒す、汚し倒すのが好みです。じゃんじゃん使います。遠慮はいりません。一枚一枚にデカい文字で書きます。これ重要です。小さくいっぱい書くと結局みんな読まないのでデカく一言で書きます。ビシッと気合い入れた一言を書いてください。言霊が乗ります。

もしもオフラインミーティング時にふせんがいっぱい集まりすぎてしまい、貼り出すスペースが足らなくなってしまったら...。 大丈夫!安心してください!横の壁が空いていますよ!そこに貼っちゃいましょう!オンラインミーティングでふせんが出過ぎた場合、いつも思い出すのはある時の Scrum Masters Night! で先輩SMさんが言っていた言葉です。

「Miroの地平線は無限だから」

...なんだこの、あふれ出るムダなカッコよさ...すき...

2. タイマー

ストップウォッチ、アラームの機能のことです。
ファシリする際、ズルズルと時間を食ってしまうことは参加者の時間泥棒だと考えています。時間を区切り、そこまでで集められた材料を元にして次のステップに進む、そんな考え方が好みです。時間を区切ることで、些末なことはヨコに追いやられ、最も重要かつ最も印象的なデータから順に集まるような気がしています。オフライン時は例のデカい物理アナログタイマーが、視覚的直感的かつ操作も単純なので好みです。
https://www.lifehacker.jp/article/2209_lht_timetimer/

ただ、リモートとなると少々勝手が変わるため、全員が同じタイマーを見られる工夫が必要になります。チームでは最近有償Miroを使っているので備え付けのタイマーをよく使います。あとはGatherにおいてある緑の人形みたいなタイマーもよく使います。でも別に手元のスマホでも良い、なんなら砂時計でも良いんです。測っていることを一瞬忘れられればなんでもOKです。

時間を測ってそこまでに考えて書き出す、という行為自体がちょっとゲームっぽいところも、実は私の好みです。

テクニック的な意味での「道具」

3. グルーピング & ドット投票

グルーピング・ラベリング

ふせんを使ってメンバーから幅広く意見を吸い上げた後、情報の整理フェーズに入る際に用います。様々の角度から出された意見(ふせん)は粒度もまちまちなので、それぞれ単体では扱いにくいです。そこで情報を扱いやすくするために グルーピング・ラベリング をします。この作業の目的は、情報全体の抽象度を1段階高く(一旦具体の視座から抽象の視座に移動)して議論の主旨の認知負荷を下げ、この後の議論をやりやすくすることです。

似た者同士や関連あるもの同士を線で囲んだりふせんを重ねたりしてグルーピングし、そのグループに命名(ラベリング)することで情報の解像度を整えたり、ふせんやグループ同士を矢印でつなぎ情報同士の前後関係・因果関係を可視化します。複数のグループに属するふせんがいてもOKです。重なるものは今回重要なトピックなのかもしれません。

ドット投票

次に情報を絞り込むフェーズに進みます(たいていは)。そこで使うのがドット投票です。
オフライン時は●シール[2]を配ったりするのですが、私の師匠はホワイトボードやふせんに各色のボードマーカーでそのまま「ぐりぐりーーーっ」っと●を書く方法を採っていました。これ便利。早いし。オンラインでも各自の色の●オブジェクトをみんなに配り、この後も会話したいグループやふせんにドットを貼ってもらいます。その際、絞り込みたい数や全体の量を見ながら、各自に何ポイント渡すかを決めます。私の好みは、10前後の候補から3つに絞るなら、各自に3ポイント配分して傾斜配分式[3]に貼ってもらう感じです。投票終、どこが何ポイントになったのか分かるように、投票結果数を大きく書いてあげると目がしょぼしょぼする人がたいへん喜びます。
グルーピング&ドット投票イメージ

4.ラウンドロビン

議論を推進する上で重要なもののひとつ、それは場の流れの制御です。
これは、議論の道筋・ゴールの提示・分岐路の標識・オウム返し・確認・着火・火加減調整・平等な意見拾い上げ・賢い愚者・選択と集中、などなど、ファシリテーションの技術的な部分にもつながっていくと思います。[4]
その中でひとつ便利なのが指名順を事前に決めておくことです。「この順番で聞いていきます」と決めて順番にまわしていくことをラウンドロビン、と呼ぶようです。これはまんべんなく意見を拾いたい時、議論がまだ着火していない時に、自由な発言を促したいシチュエーションで有効です。

私がよく使う、お決まりの順番は以下です。
お名前五十音順, 出身地近い順, 今日の出勤順, など意見の大小や発言力に無関係でおよそ一意になりそうな並び順
もしくは
ふせんの貼り出し位置を使って左上から右下に、Z字の順で、という物理的な位置順

前者はアイスブレイクにもつながるので場のウォームアップが足らないときには便利かもしれません。これを使う場合はその場じゅうずっと同じ順にするので、ホワイトボードの隅っこのその順番を書いておくと便利です。
後者のふせん順はほぼ毎回使います。使い続けるとみんなそれが当たり前になるので何となくみんなが察してくれて便利です(組織文化として定着?)

ラウンドロビンに進めるにしても、ぼんやりして場のテンポを落としたくないので、次のふせんに進むときは必ず名前を呼ぶか、「はいつぎはこのふせんですー」と声に出し、指やマウスポインタでぐりぐりして示します。

5.アクティビティ

アクティビティやフレームワークは先人の知恵です。
様々なスタイルの先人の知恵を借り、様々な課題に立ち向かう感覚ですが、あくまでこれは型であり本質ではありません。つまり、アクティビティをなぞれば万事OKではなく、このアクティビティが意図していることは何なのか、なぜこのアクティビティを使うのか、を自分で考えたり体験して学んだりして初めて活用できるものだと思います。守破離の考えや、型は提供するが実装は自分達、という考え方はここにも当てはまりそうです。場のMCたるファシリテーターとしては自分がいつでも自由に使えるアクティビティを2,3持てたらえカッコいいなぁと考えています。

以下は個人的によく使うアクティビティとその時の狙いです。

狙い アクティビティ例
時系列や前後関係が印象的だった物事を扱いたい Timeline, Story of Story
ストレスや不(負)が印象的だった物事を扱いたい 象・死んだ魚・嘔吐、Mad, Sad, Glad
コンパクトにやりたい 学習マトリックス、スピードカー
ポジティブな印象で終わりたい Fun, Done, Learn、Celebration Grid、感謝

6.観察

トヨタのカイゼンエピソードしかり、名著アジャイルコーチングでのPrOpERサイクルしかり、名著LeSS本でのシステム思考の重要性しかり、OODAループしかり、アジャイルな活動は観察ドリブンだと考えます。観察の結果見つけられた不(障害・妨害事項,インペディメント)の除去を、我々スクラムマスターは粛々と行っていくわけです。

名著エッセンシャルスクラムでもSMは活動のほとんどをインペディメントの除去に充てているとあります。このことが示唆しているのは、SMは「こうあるべき」という机上の理想を当てはめるだけのムーブだけではなく、今のありのままを見、それらがどのような因果関係・影響(プラスもマイナスも)をチームや個人に与えている|与えていないのか?を考え、分析し、手を打つ、ということではないか、と考えています。zuziの名著SCRUMMASTER THE BOOKでも確か「一歩だけ先に行く」とありました。チームから一歩だけ先に行くためには、今チームがどうなっているのか観察し理解することから始める必要があると考えます。

リモートワーク環境下における観察ムーブはとても大変ですが、ただ漫然と「見る」だけでなく目的を持って「観る」重要性を感じます。観るためには、予想や基準との比較・乖離の把握が結局近道に感じます。そして、観ることと同じくらい、聴くこと,問うこと,読むことが大事になってきた実感があります。観察の結果、「いやなにおい」 を感じられるかどうか。ここに、これまでの経験が生きてくるような気がします。

7.スクラムガイド

そもそも意図して抽象的、不完全な形で書いてあるドキュメントなので苦手な人はずっと苦手。
私は時々この本に戻ってきます。読む度に中身の理解が変わる(広がる・深くなる)、現時点の視野・視座・視点に応じた知と問いをくれるたった10数ページの不思議な本です。しかし、2020年版はソフトウェア開発以外にも適用されること前提で書き直されているので、以前よりは門戸開放な感じを受けます。ソフトウェア開発関係者からすると二階から目薬的な表現に逆にわかりにくさを感じるかもしれません。

スクラムガイドを読んで知を感じる時、それは自分の領域でまだ守のフェーズだということだし、問いを感じる時、それは「この世界を実現しようとすると、今|これから何が必要なのか?」な気持ちにさせられるし、破のフェーズに向けて牽引してくれている。離のことを考えると、決して聖典ではないし宗教でもない[5]ので、強いて言えば時々チェックする羅針盤・ガイドブックでしょうか。

あ!スクラムガイドって言ってるんだからそのまんまですねw!

最後に

極私選とはいえ、この7つ道具は粒度も観点もバラバラでMECEですらありません。ごめんなさい。
でも、これからSMになる人、今似た境遇にいる人、かつてそうだった人、それぞれにとって何らかの一助になるといいなぁーと思っております。おわり。

脚注
  1. 物理時は更に模造紙やカメラ(スマホ)も大事。ふせん貼った状態のまま別の会議室に移動するときはふせんは模造紙に貼っておきおき、模造紙ごと剥がして移動します。この剥がしたり貼り直したりをみんなにやってもらうだけ良いチームビルディングになります。 ↩︎

  2. よく小学校のときに先生が赤丸シールくれたりしませんでしたか?アレです。 ↩︎

  3. 好きなもの1つずつに1ポイントずつでも良いし、特にお気に入りに3ポイント全部貼ってもいいよ、という投票方式 ↩︎

  4. 私はファシリテーションの専門的な教育や勉強をしてきていません。我流。独自路線。なのできちんと整理したテクニカルな説明は特に苦手です。 ↩︎

  5. 昔社内イベントで、あなたにとってのアジャイル・スクラムとは?と聞かれてつい「宗教ですかね」と答えてしまったのですが、名著アジャイルコーチングで「アジャイルは宗教ではない」と書かれていたのを見つけ即訂正した甘酸っぱい思い出があります。 ↩︎

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