Open3

数式展開・論理展開のミスまとめ

YukiYuki

二重確率行列

P を非負の実正方行列とし,\bm{1} = (1,\ldots,1)^\topとする.P\bm{1}=\bm{1},\ P^\top\bm{1}=\bm{1} が成り立つとき,P を二重確率行列 (doubly stochastic matrix) という.

これは間違い.次の行列が反例となる.

\begin{pmatrix} 0 & 1/2 & 1/2 \\ 1/3 & 1/4 & 5/12 \\ 2/3 & 1/4 & 1/12 \end{pmatrix}
YukiYuki

交差項を含む和の微分

f(\bm{x}) = \sum_i \lambda_i x_i

のような多変数関数を x_i で偏微分するときは,

\frac{\partial f}{\partial x_i} = \frac{\partial}{\partial x_i}\sum_i \lambda_i x_i = \frac{\partial}{\partial x_i} \lambda_i x_i = \lambda_i

というように,添え字が i の項の微分だけを考えれば良い.つまり,\sum_i は無視できる.

交差項を含む和の形で書ける次の多変数関数の微分を考える.

f(\bm{x}) = \sum_i x_i^2 + \sum_i \sum_{j\neq i} x_ix_j \quad \left(= \left[\sum_ix_i\right]^2\right)

これは間違い.例えば,f(\bm{x}) = (x_1 + x_2 + x_3)^2 を考えると,

\begin{align*} &\frac{\partial f}{\partial x_1} = 2(x_1 + x_2 + x_3)\times 1 = 2(x_1 + x_2 + x_3), \\ &\frac{\partial f}{\partial x_2} = 2(x_1 + x_2 + x_3)\times 1 = 2(x_1 + x_2 + x_3), \\ &\frac{\partial f}{\partial x_3} = 2(x_1 + x_2 + x_3)\times 1 = 2(x_1 + x_2 + x_3). \end{align*}

この例から分かるように,fx_i で微分すると,x_i 以外の係数も 2 である.

何を見落としていたかというと,交差項では x_ix_j = x_jx_i となる性質である.これに注意して ij を動かして i \neq jx_ix_j の和をとると,\sum_i \sum_{j\neq i} x_ix_j = 2\sum_i\sum_{j>i}x_ix_j となる.ix_1x_2x_2x_32 ように相手に対して大きい時もあれば小さい時もあることに注意して fx_i で微分すると,

\begin{align*} \frac{\partial f}{\partial x_i} &= \frac{\partial}{\partial x_i}\sum_i x_i^2 + \frac{\partial}{\partial x_i}\sum_i x_i\sum_{j\neq i} x_j \\ &= 2x_i + 2\sum_{j\neq i}x_j. \end{align*}
YukiYuki

変数がスカラー倍された多変数関数のスカラーに関する微分

f(\bm{x})C^1 級の多変数関数 f:\R^n \to \R である.変数 \bm{x} にスカラー \lambda >0 をかけた関数 f(\lambda\bm{x})\lambda で微分することを考える.

計算方法

合成関数の偏微分におけるチェインルールを使う.

f(\lambda)C^1 級で,x_i = x_i(\lambda) は微分可能とする.このとき,合成関数 \lambda \mapsto f(x_i(\lambda)) は微分可能で,

\frac{df}{d\lambda} = \sum_{i=1}^n \frac{\partial f}{\partial x_i}\frac{d x_i}{d\lambda}

が成り立つ.

今回のケースでは,x_i(\lambda) = \lambda x_i とすると,dx_i/d\lambda = x_i なので

\frac{df}{d\lambda} = \sum_{i=1}^n \frac{\partial f}{\partial x_i}\frac{d x_i}{d\lambda} = \sum_{i=1}^n \frac{\partial f}{\partial x_i} x_i

を得る.

応用例

f\bm{x} についての m 次同次関数であるとき,すなわち

\forall \lambda \in \R_{++}, \quad f(\lambda\bm{x}) = \lambda^m f(\bm{x})

が成り立つとき,恒等式なので両辺を \lambda で微分できて,

\sum_{i=1}^n \frac{\partial f}{\partial x_i} x_i = m\lambda^{m-1} f(\bm{x})

を得る.\lambda は任意に取れるので,\lambda=1 を代入すると,次式が成り立つ.

\sum_{i=1}^n \frac{\partial f}{\partial x_i} x_i = mf(\bm{x}).