【クラウド】IaaSからFaaSまで、5つのサービス形態の違いと使い分け
クラウドサービスには様々な形態があり、それぞれ異なる目的や用途に特化しています。
この記事では、代表的な5つのサービス形態について、初学者にも分かりやすく解説します。
はじめに
現代のソフトウェア開発やIT運営において、クラウドサービスは欠かせない存在となりました。
しかし、IaaS、PaaS、SaaS、BaaS、FaaSなどといった略語を見ても、どういう意味だろう、何が違うのだろう、と感じる方も少なくないのではないでしょうか。
これらのサービス形態を理解することで、プロジェクトに最適なクラウドサービスを選択できるようになります。
実際に、サーバーレスコンピューティングやクラウドサービスの採用は年々増加しており、現代のソフトウェア開発において重要な選択肢となっています。
1. IaaS(Infrastructure as a Service)
基本説明
IaaSは「インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス」の略で、仮想的なコンピューターのハードウェア(サーバー、ストレージ、ネットワーク)をインターネット経由で提供するサービスです。
物理的なサーバーを購入・設置・管理する代わりに、必要な時に必要な分だけクラウド上のリソースを借りることができます。
身近な例
例えるならば、土地を借りて自分で建物を建てるようなものです。
土地(物理的なハードウェア)、電気・水道の引き込み(基本的なネットワーク・電力)は提供されますが、建物の設計(OS)、内装(ミドルウェア)、家具(アプリケーション)は全て自分で選択・設置・管理する必要があります。自由度は最も高いですが、すべての責任も自分で負うことになります。
主要サービス
- Amazon EC2(AWS)
- Azure Virtual Machines(Microsoft)
- Google Compute Engine(Google Cloud)
こんな時に使う
- 既存のアプリケーションをクラウドに移行したい
- インフラの完全な制御が必要
- 特殊な設定やカスタマイズが必要
- スケーラビリティを確保しつつコストを削減したい
2. PaaS(Platform as a Service)
基本説明
PaaSは「プラットフォーム・アズ・ア・サービス」の略で、アプリケーション開発・実行に必要なプラットフォーム全体(OS、開発ツール、データベース、ミドルウェア)をクラウドで提供するサービスです。
開発者はインフラやプラットフォームの管理を考えずに、アプリケーションの開発に集中できます。
身近な例
例えるならば、設備の整ったレンタルキッチンのようなものです。
調理器具、食器、基本調味料(開発環境)は全て揃っているので、材料(コード)を持ち込んで料理(アプリケーション)を作ることに専念できます。
主要サービス
- Heroku
- Google App Engine
- Microsoft Azure App Service
- AWS Elastic Beanstalk
こんな時に使う
- アプリケーション開発を迅速に行いたい
- インフラ管理にリソースを割きたくない
- 開発チームの規模が小さい
- プロトタイプやMVPを素早く作成したい
3. SaaS(Software as a Service)
基本説明
SaaSは「ソフトウェア・アズ・ア・サービス」の略で、完成されたソフトウェアアプリケーションをインターネット経由で提供するサービスです。
ユーザーはブラウザやアプリを通じてソフトウェアを利用でき、インストール、更新、保守などは全てサービス提供者が行います。
身近な例
例えるならば、レストランで完成した料理を食べるようなものです。
メニュー(機能)から選んで注文すれば、すぐに利用できる状態で提供されます。調理や後片付けを考える必要はありません。
主要サービス
- Salesforce(CRM)
- Microsoft 365(オフィススイート)
- Google Workspace(生産性ツール)
- Slack(コミュニケーション)
- Zoom(ビデオ会議)
こんな時に使う
- 業務ですぐに使えるツールが欲しい
- IT管理にコストをかけたくない
- どこからでもアクセスしたい
- 定期的な機能アップデートを自動で受けたい
4. BaaS(Backend as a Service)
基本説明
BaaSは「バックエンド・アズ・ア・サービス」の略で、アプリケーションのバックエンド機能(データベース、認証、ファイルストレージ、プッシュ通知など)をクラウドで提供するサービスです。
MBaaS
特にモバイルアプリケーション開発に特化したサービスは「MBaaS(Mobile Backend as a Service)」と呼ばれ、より広範囲のバックエンドサービスを「BaaS」と呼んで区別されることが多いです。しかし実質的には同様の機能を提供するため、文脈によってはBaaSとMBaaSが同じ意味で使われることもあります。
参考:https://www.cloudflare.com/ja-jp/learning/serverless/glossary/backend-as-a-service-baas/
開発者はフロントエンド(ユーザーが直接触る部分)の開発に集中でき、複雑なサーバーサイドの実装を大幅に簡略化できます。API や SDK を通じて必要な機能を呼び出すだけで、サーバーの管理や保守を気にすることなく本格的なアプリケーションを構築できます。
身近な例
映画撮影で、監督(開発者)が演出だけに集中できるよう、照明、音響、カメラワークなどの技術的な部分を専門スタッフ(BaaS)が全て担当するようなものです。
主要サービス
- Firebase(Google)
- Supabase(オープンソース)
- AWS Amplify(Amazon)
こんな時に使う
- モバイルアプリやWebアプリを素早く開発したい
- バックエンドの専門知識が不足している
- ユーザー認証やデータ管理を簡単に実装したい
- 小規模チームで効率的に開発したい
5. FaaS(Function as a Service)
基本説明
FaaSは「ファンクション・アズ・ア・サービス」の略で、個別の関数(処理の単位)を必要な時だけ実行できるサービスです。
サーバーの管理は一切不要で、実行された分だけ料金が発生する仕組みです。イベント(何かの出来事)をきっかけに自動的に関数が実行されます。
身近な例
例えるならば、必要な時だけ呼び出される専門サービスのようなものです。
写真をアップロードした瞬間に自動でサイズを変更する、注文が入った瞬間にメールを送信する、といった特定の作業だけを担当します。
主要サービス
- AWS Lambda(Amazon)- Node.js、Python、Java、C#、Go、Ruby など幅広く対応
- Azure Functions(Microsoft)- C#、JavaScript、Python、Java、PowerShell など
- Google Cloud Functions(Google)- Node.js、Python、Go、Java、.NET など
こんな時に使う
- 特定のイベントに反応する処理を自動化したい
- 不規則に発生する処理を効率的に実行したい
- サーバー管理の負担を完全に排除したい
- 使った分だけ支払うコスト構造にしたい
サービス形態の比較表
項目 | IaaS | PaaS | SaaS | BaaS | FaaS |
---|---|---|---|---|---|
管理レベル | 高い | 中程度 | 低い | 低い | 最低限 |
開発の自由度 | 最大 | 高い | 制限あり | 中程度 | 特定用途 |
導入までの時間 | 長い | 短い | 最短 | 短い | 最短 |
技術的専門知識 | 必要 | 中程度 | 不要 | 少し必要 | 中程度 |
コスト予測 | 複雑 | やや複雑 | 明確 | 明確 | 従量制 |
どれを選ぶかの選択指針
プロジェクトの性質で考える
企業システムの移行
→ IaaS(既存システムをそのままクラウドに)
新規Webアプリケーション開発
→ PaaS(開発に集中したい)
日常業務の効率化
→ SaaS(すぐ使えるツールが欲しい)
モバイルアプリ開発
→ BaaS(バックエンドを簡単に)
イベント駆動の自動化
→ FaaS(特定処理の自動実行)
チームの状況で考える
ITエンジニアが多数在籍
→ IaaS、PaaS(技術的制御を重視)
少数精鋭の開発チーム
→ BaaS、FaaS(管理負荷を軽減)
非エンジニア中心の組織
→ SaaS(使いやすさを重視)
まとめ
クラウドサービスの5つの形態は、それぞれ異なるニーズに対応しています。プロジェクトの要件、チームのスキル、予算、将来の拡張性などを総合的に考慮して、最適なサービスを選択することが重要です。
実際の開発では、これらのサービスを組み合わせて使用することも多くあります。
例えば、メインアプリケーションはPaaSで開発し、特定の処理だけFaaSを使い、日常業務にはSaaSを利用するといった具合です。
まずは小さなプロジェクトから始めて、それぞれのサービスの特徴を実際に体験してみるのも良いですね。
参考
- What is Infrastructure as a Service (IaaS)? | Microsoft Azure
- What is platform as a service (PaaS)? | Microsoft Azure
- What is Software as a Service (SaaS): A Beginner’s Guide - Salesforce
- Top 7 Backend as a Service (BaaS) Platforms for Developers in 2025
- Understanding Function as a Service (FaaS): A Comprehensive Guide
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