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データ戦略の策定: 1章 イントロダクション

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本記事は、Marilu Lopez 氏による「Data Strategies for Data Governance」日本語版「データ戦略の策定 データガバナンス確立のために」の1章の読書メモです。

https://www.amazon.co.jp/dp/1634627717

本書のイントロダクション(第1章)は、データガバナンス/データマネジメントの教義的説明にとどまらず、企業のビジネス戦略と整合したデータ戦略をどう作り、どう回すかに狙いを定めています。
第1章の論旨を、ビジネス戦略との整合という観点を中心に整理し、印象的だったBill Inmonへのインタビュー内容をまとめました。

データ戦略では何を目指すのか?

本書は何度もデータ戦略はビジネス戦略と整合させることの重要性を強調しています。

  • データ戦略は最上位のガイダンス

    • 目的: 限られたリソースを「どこに・いつ・誰が」投下するかを定める意思決定の体系にする。
    • 結果: 実行順序・担当・成果が明確になる。
  • ビジネス戦略との整合が出発点

    • 目的: 事業の重要目標(成長、収益性、顧客体験など)に直結するデータ要件を特定する。
    • 結果: 逆算で設計したデータ戦略(必要ドメイン/提供者・利用者)が得られる。
  • よくある失敗の本質

    • 典型: テクノロジー先行、ビジネス目標との断絶、メタデータ無視、優先順位が不在。
    • 帰結: 「ビジネス整合性の欠如」に収束し、効果が見えない状態。
  • 現状認識の重要性

    • 目的: 成熟度・課題・リスクを組織横断で共通化。
    • 結果: 合意した上位目標に対するギャップが可視化され、実行計画に落ちる。

要点のサマリー

観点 要点 代表アウトプット
ガイダンス性 リソース配分と意思決定の体系化 年次ロードマップ/責任者割当
整合の起点 重要目標に直結するデータ要件の逆算 データ要求一覧/ビジネスクエスチョン
失敗の回避 テクノロジー先行を抑止し原則と優先順位で運転 原則ドキュメント/優先度表
現状の共通化 成熟度・課題・リスクの合意 ギャップ分析/対応計画

ビジネス戦略とデータ戦略をどのように整合させるか?

データ戦略をどのように、ビジネス戦略とアラインさせるか、その手法や考え方をまとめました

  • 着手点を絞る
    • 少数の最重要目標を合意し、達成シナリオに必要なデータ(ドメイン、主要エンティティ、利用ユースケース)を粗粒度で設計。
  • 原則と優先順位で道筋を描く
    • 「原則を尊重」「生のデータソースで取得」「データ戦略の考え方」などの原則を1ページに明文化し、ガバナンス能力・対象領域(ドメイン/レポート/プロセス)を短・中・長期で優先付け。
  • 最小の体制を動かす
    • データガバナンス・リード、スチュワード、用語集管理などを最小単位を任命し、スモールスタートで稼働する。
  • 測定し、更新する
    • KPI(ガバナンス能力の実装、データ品質、利用価値)で可視化し、定期レビューで戦略・ロードマップを更新する戦略サイクルを回す。

枠組みの整理

データ戦略策定における主なアクションとアウトプットの一覧です

項目 主なアクション 代表アウトプット
着手点 重要目標の合意とデータ要件の設計 目標-データ対応表
原則・優先 原則明文化と短中長の優先付け 原則1ページ/優先度のマトリクス
体制 リード/スチュワード任命・用語集開始 役割定義/用語集
測定・更新 KPIダッシュボードとレビュー運用 月次/四半期レポート

戦略の役割をどう捉えるか

以下は1章最後のInmonのインタビューにおける、データ戦略の役割に関する内容です。ビジネス価値で語ることを強調しているのが印象的でした。

  • 戦略はクォーターバック
    • 役割: 複雑な要素が絡む実装を前進させる司令塔。
    • 条件: 適切なデータアーキテクチャと結びついて初めて舵が切れる。
  • ベンダー主導への戒め
    • 観点: 技術選定が目的化しないよう「誰の利益の助言か」を常に問うこと。
    • 実務: 戦略は常に自社のビジネス価値から出発する。
  • ビジネス価値で語る
    • 要点: ゴール(新規獲得、維持、収益拡大)に対し、戦略の貢献を具体化すること。
    • 手段: 現場を最初から巻き込み、価値と要求の接続を作る。
  • 痛点から合意を得る
    • 施策: 現在のコスト(機会損失、手戻り、コンプラ)を可視化し、短期策+中長期の仕組みで提示。

実務に落とすデータ戦略構築の3ステップ

ステップ 目的 成果物 関与者
1 目標×データ対応 重要目標から必要データを逆算 目標-データ対応表、BQ一覧、優先ドメイン 事業、PdM、Finance、Data
2 原則・優先・体制 原則と最小体制で実行を安定化 原則1ページ、優先度マトリクス、役割/RACI、用語集 CDO室、EA、Sec、PMO
3 測定・合意運用 成果を測り投資と優先を更新 KPIダッシュボード、月次/四半期レビュー、改善バックログ 経営、事業、CDO室、Analytics
  • 補足
      1. 対応表の作り方
      • 目標ごとに回答すべき問い→必要KPI/イベント/属性→データソース候補の順で設計。
      • データ不在なら取得/生成/連携の選択肢を比較(コスト・価値・スピード)。
      1. 原則と優先の勘所
      • 原則は1枚に、例外運用を明記。優先は価値×実現性で四象限に配置。
      • 体制はスモールスタート(リード/スチュワード/用語集)で最初の成果を早く出す。
      1. 測定と運用
      • KPIは能力(導入)×品質(正確/鮮度)×価値(利用/効果)で3層に分類。
      • レビューは問題→対策→効果のループとし、翌期の優先を更新。

おわりに

ビジネス目標から逆算してデータ戦略を設計し、原則・優先順位・体制・測定で回す。Inmonの言う通り、クォーターバックとしての戦略があって初めて、組織は正しい方向へ前進できることは、改めて考えさせられました。

データサイエンスやAIやテクノロジーの前に、ビジネス価値と整合できていますか?というお話でした。

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