エンジニアリングマネージャーの仕事 1年で一番輝かしい季節
人生は後ろ向きにしか理解できないが、前を向いてしか生きられない。
― セーレン・キルケゴール
- 迷信退治。評価面談にまつわる誤解や迷信を打ち砕く
- 準備。やるべきことを分解し、実行可能にする。
- 面談用ドキュメント。
- ピアフィードバック。多くの人から意見を広く集めることは価値がある。
- 当日やること。
- お金の話。
6.1 迷信退治
6.1.1 迷信その1:面談はマネージャがトップダウンでフィードバックをするためのものである
- 面談は双方向のプロセスであるべき
- ピアフィードバックを集めれば、それについて話すこともできる
- マネージャはファシリテーターである
6.1.2 迷信その2:面談は会社が行うものである
- 評価面談はマネージャとしての道具箱に欠かせないもの
- キャリアについて深く話し合い、継続的に目標を設定するための機会
- 会社の制度として面談がなかったとしても、マネージャとしてするべき
評価面談はやる価値がある、理由は以下
- 次の半年に期待するラインを設定するのに最適な機会
- スタッフが適切な方向に向かっていないとすれば、軌道修正をする絶好に機会
- 内省的な働きを通じて、信頼とラポールを構築する
6.1.3 迷信その3:パフォーマンスの上がらないスタッフについてしか面談は重要ではない
- 面談はすべての人のためのもの
- 誰もがマネージャと共に腰を落ち着けて、自分の過去現在未来についてじっくり考える機会を持つ権利がある
- 一番大きな恩恵を受けるのはパフォーマンスが高いスタッフ
- 面談は欠点を粗探しするためのものではない
6.1.4 迷信その4:面談は人に嫌われるのでさっさと終わらせよう
- 面談が嫌われるのは、うまくいかないから
- 手を抜かず、全力で取り組む
- プロジェクトと同じだけ詳細に、同じ熱量で準備する
6.1.5 迷信その5:面談は当日のサプライズであるべきだ
- ミーティングの時には、すでに適切な情報は開示され、咀嚼され、理解されているべき
6.1.6 迷信その6:面談は昇給を言い渡すために使われる
- 評価面談ではパフォーマンスのみに触れること
6.1.7 迷信その7:面談はパフォーマンスについて話す唯一の場である
- 1年を通していつでも、よいことも悪いことも踏まえて、パフォーマンスについて透明性のある会話をすること
- 評価面談では、面談に重点をくべき。
- これまでとこれからの話をするためのチェックポイント
- 驚かすことや驚かされることは極力少ない方が良い(普段から色々きちんと話ておく)
6.2 評価面談の準備をするには
まず、頻度は、半年に1回程度がお勧め。理由は以下
- 年1は長すぎるし、年4回は多すぎる。顧みるのに十分な仕事ができているはずだし、目標に対して何らかの進捗があるはず
- 手遅れになる前に、パフォーマンスや目標意識について支援が必要な人の軌道修正ができる
- 少なくとも1回は給与の話は抜きにして純粋なパフォーマンスに関わる接点にできる
かなり準備は多いがやっただけの効果がある。少なくとも3週間くらい前から準備に取り掛かるのがお勧め。理由は以下。
- 面談用ドキュメントの準備に時間がかかる。特に書くのが得意でない、伝えたいことを書くのに考え込んでしまうという場合
- スタッフ一人ひとりにピアフィードバックを依頼し、収集して、伝える必要がある。ピアレビューのプロセスは思ったよりも時間がかかる。時間に余裕をもって、スタッフが貴重なピアレビューを消化できるようにする
- 本番環境での問題、バグ、炎上、休暇などが発生する可能性がある。期間に余裕を持たせてリスクを回避する
6.2.1 ピアフィードバックを受け取る
- スタッフ1人につき3-5人を選ぶ
- 同じチームの同僚
- 定期的に一緒に働いている、チーム外の人(良く助言を求める相手や、コードレビューを手伝ってくれる人)
- 他チームへのメンタリングに定期的に時間を割いている人
- 頻繁にやり取りしている人で、パフォーマンスについて別の角度をもたらしてくれるような異なるスキルセットを持つ同僚
- どうやったら多角的な構造を描けるかを意識して、読んだ人に実質的な価値を与えられるようにする
以下、ピアフィードバックでヒアリングする内容
- この人物は、この半年間何をしましたか
- この人物は、他の人とどこが違いますか、それはなぜですか
- 他にフィードバックしたいことはありますか
- このフィードバックは匿名にしたいですか
フィードバックが、1行など粗いものだった場合には、詳しく教えてもらうように頼むべき。一人ひとり有意義で実行可能な気づきを与えられるように心がけるべき。
6.2.2 面談フォーム
- 面談用ドキュメントを書くことが中心。面談自体はそれを補う要素
面談フォームは大きく3つに分けられる
- スタッフが達成したことや、次に伸ばすべき分野に対するマネージャの見解。
- 同じことに対するメンバーの見解
- 双方が合意した半年の目標。
上2つは、面談が始まる前に何度も書いたり読んだりしておく。内容を深く理解することで、建設的な会話をするためマインドセットになれる。前もって共有しておくことで、スタッフに精神的な準備の時間を与えることができる。
悪い知らせを受け取った人が、どんな段階を踏むか考える。
- 無視する
- 否定する
- 他人のせいにする
- 責任を引き受ける
- 解決策を見つける
ミーティングの前に資料を読んだスタッフは、頭の中で1-4を進めることができ、面談では5に集中できる(個人的には少し疑問、ただ当日いきなりぶつけるよりはマシであることは確か)。
6.2.2.1 スタッフの回答
以下のことを検討するきっかけになる。
- 前回の面談以降の実績
- 役割、プロジェクト、キャリアについての期間中のふりかえり
- 次の期間に伸ばしたい分野
- 将来の役割について、現在の立ち位置での考え
具体的に質問をみていく
実績
質問:この半年の自分の実績について考えてください。大きくても小さくても構いません。自分が成し遂げたことで満足しているものは何ですか?またそれはなぜですか?
- スタッフは謙遜しがちである点に注意が必要。
- スタッフ自身のパフォーマンスに対する考えを知ることは、常に本質を突くもの
- 自分自身の実績に興味があるのか、チームとしての実績に興味があるのかなど
- マネージャの見ているものと比較して、何に注目しているのかを把握する
- 気前よくほめるための会話材料になる
ふりかえり
質問:現在の自分の役割についてどう思いますか?前回の面談から、良くも悪くも変化しましたか?
- 実績の後には内省
- 自分のキャリアと会社における自分の立ち位置を考え、自分の期待とあっているのはどの部分化を熟考するように促す
成長
質問:この期間中で、もっともうまくできた思うことはありますか?自分の成長のために、どんなスキルを身につける必要があると思いますか?
- 内省の後に何を成長させたいか考える
- マネージャの意見やピアフィードバックに書かれている意見と退避する
将来
質問:会社での自分の将来について考えてください。どこに向かいたいですか?成し遂げたいことや取り組みたいことは何ですか?もしくは、自分自身の現状に満足していますか?
- 大聖堂の人は、現状に満足しているというかもしれない
- バザールの人は、どこかに行きたいというかもしれないが、マネージャが裏切られたと思う必要はない
支援
質問:将来自分の望む場所に到達するために、どんな支援を必要としていますか?
- もしかしたら、今のチーム、部署、会社では満たせないかもしれない
- いずれにせよ、スタッフのニーズを慎重に考え、行きたい方向に行けるような計画を考えてあげる
6.2.2.2 あなたの回答
マネージャがスタッフ一人ひとりについて以下のことを考える。
- マネージャから見た期間中のスタッフの実績
- スタッフが集中的に伸ばすと良さそうなところ
- ピアフィードバックで触れる話題
実績
質問:この人物がこの半年でやったことの中で、あなたを感心させたことは何ですか?あなたから見て、最大の実績は何だと思いますか?
- パフォーマンスに関するマネージャ独自の見解を示す
- 本人が気が付いてなさそうな優れた特徴を考える
- チーム全体という観点からの実績を考える
成長
質問:この人物が集中して伸ばすべき部分はどこだと思いますか?どんな特徴やスキルなら取り組めそうで消化?またはそこに到達するために、あなたが手伝えることは何でしょうか?
- 足りないと感じられる部分は、失敗ではなく、批評は成長する余地として捉える
- どうやったらそのスタッフが改善できるか
- どうやったらマネージャとしてそれを後押しできるか
- 優秀な人の方がこれらのことを考えるのに苦労する可能性が高い
- しかし、優秀な人にチャレンジを与えることも重要
ピアフィードバック
質問:この人物へのピアフィードバックで重要なテーマは何ですか?お互いがすでに知っていることを補強するものですか?それとも新しい見解ですか?
- 何度も出てくるテーマはないか?
- 書いた本人に深掘りするとよさそうなものはないか?
- すべてのフィードバックを集めて一語一句そのまま別の共有ドキュメントに移し、リンクを張る
6.2.2.3 書き終える
- スタッフ1名当たり1時間はかかる
- 透明性のため相手も見られる共有の状態で、直接編集する
- 書いたそばから、相手がコメントできる状態にしておく
- 面談の前に余裕を思って書き終える
- そうすることで、消化し、準備することで、面談の時間の質を高められる
個人的な感想
事前に共有しておいて考えておいてもらう、というのは言われてみれば極当たり前のことのように思うが、そういう習慣がなかったので思いつかなかった。
6.3 当日やること
- フォームとピアフィードバックにもう一度目を通す
- 絶対に議論すべきと思うことを考えておく
- 批評のマイナス面を引きずらない
- どう進んでいくかを議論する前向きなものにする
- 全部の内容にはフレない。3分割する
- これまでの期間についてふりかえる
- 将来について話す前向きな議論
- 達成可能な目標を描く協調的な時間
- 上2つはゆるい形で相手主体とする
- 質問を投げかけ、相手が感じていることを深掘りできるように後押しする
- 先入観を持つ、提案しすぎることはしない
- キャリアについての話は、1on1での引き続き行っていくべき
面談用ドキュメントの内容をもとに、以下を尋ねて進めてみるのはどうだろうか。
- あなたが胸を張れる実績は何ですか?普段もそう感じますか?それとも特別ですか?
- あなたが成長したいといっているその分野ですが、どうやったらできると思いますか?私にサポートできることは何でしょうか?
- チームについてどう感じていますか?特に「この人と働くのが楽しい」という人は誰ですか?「この人と働くのはちょっとしんどいな」という人はいますか?それはなぜですか?
- 今やっている仕事は、ここ数年と比較してどの程度やりがいがありますか?自分を成長させ、新しいことを学習する機会は十分にありそうですか?
- 5年前に考えていたことと比べて、現在に自分の役割はどうですか?それはなぜですか?
- マネージャとしての私のパフォーマンスについて思うところはありますか?あなたやチームを支援するために、もっとできることはないでしょうか?
以下、シンプルな原則に従う。
- マネージャがあれこれ言うのではなく、相手の内省を促すことが重要。ドキュメントの意味を理解し、どうしたいかをスタッフ自身が考え始める段階
- マネージャはスタッフのキャリアを探すためにいるのではなく、耳を傾け会話をファシリテーションする
- 相手の頭の上に思考のフキダシが浮かぶようにする
面談の最後の30分は、次の半年に向けた目標を描き始める。時間内に完成させる必要はないが、考え始めるところは協力する。
- 次の半年で何を達成したがっているように見えるか
- 達成するための明確なルートはあるか
- そのためにすべきこと、学習すべきことは何か
- マネージャとしてどのようにサポートができるか
メモを取っておくことで、面談の後でも引き続き取り組めるし、1on1で再確認もできる。
- この会社でぜひやってみたいと思うことを1つ挙げるとしたら何ですか?
- 尊敬する人はいますか?その人にはどんな特徴がありますか?
- 仕事や同僚との関係性において、影響力を高めるにはどうしたら良いでしょうか?
- 近い将来に胸を張れそうなことを達成できそうですか?
相手の頭の上に思考のフキダシを浮かべることを意識して、会話を引き起こすような質問をして、積極的かく注意深く耳をかたむければよい。
個人的な感想
成長しようという意欲が見られないスタッフに対する対応はどうすればよいのだろうか。非常に優秀な方でもこういった態度の人が結構いたりして、何かキャリアのプランがあれば一緒に考えることができるのだが、ない人は目標を共有するのが一苦労。
ただ、一部のケースの場合には、会社がキャリアパスをきちんと用意していないから、これ以上出世するとやりたいことができなくなる、みたいなケースもあるのでスタッフ側だけの責任とも言い切れない部分もあるのだけど。
6.4 お金の話をするには
- パフォーマンスに関する話と昇給の話は別にする
- 昇給の伝え方を事前に確認しておく
- 昇給の正当性とその背景についてはしっかり確認しておく
- 不満を覚悟し、受け止める準備をしておく
- 不満には寛容に耳をか傾ける
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