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【第3回】いまさら聞けないメカ設計 箱とフタの設計 インロー

2023/06/01に公開

概要

個人開発をしていると基板やセンサなどを箱に収めたいなーと思うことが多々あると思います。今は市販品の選択肢も豊富にありますが、自作することでサイズぴったり、配線や開口部の最適化、さらには防水なども実現可能なので自作もおすすめです。
今回は箱とフタの合わせ方としてインローという手法を紹介します。

インロー

インローとは印籠で使われているフタの仕方です。下図のように箱にフタをかぶせるようにする設計で、箱の場合は外装面に段差がない感じになったり、高級お菓子の木箱みたいなイメージです。
私はずっとin lowとかin rawみたいな外来語だと思ってたのですが、語源は印籠のめちゃ日本語みたいです。

斜視図

断面図 ※わざと隙間を大きく見せています

インローは精度のよいはめあい

従来のものづくりでは、インローは精度良くはめあうときによく用いられます。
精度が良すぎると組み立てづらくなるので、図のようにC面(角をカットした面)をつけたり、合わさる面全体にテーパ(傾斜)をつけたりすることではめあいをガイドするのも定番です。

機械用語のはめあい(余談)

凹凸をはめあったときの公差について標準が日本産業規格(2019年に日本工業規格から改称)であるJIS B 0401-1であらかじめ決められています。
なので、機械設計ではめあいと言ったら寸法公差が厳密に管理されていることになります。

はめあいにはすきまばめ、中間ばめ、しまりばめという3段階のキツさがあって、個人開発ではすきまばめすら必要ないかもしれません。どうしても厳密に作りたいときだけ思い出してください。

言葉のイメージに騙されがちですが

すきまばめ ー 手ではめられるものはみんなすきまばめ
中間ばめ  ー 叩いたり冶具(専用の道具)を使わなきゃ入らないキツさ
しまりばめ ー 熱して入れるレベルのキツさ。

なので、すきまばめでもキッチリしてます。
車のトランスミッションの歯車なんかはしまりばめで設計されていて、歯車をアツアツにしてからシャフトに挿入してたと思います。

無理して高精度なはめあいしなくても良い(ノウハウ)

はめあいって語弊を恐れずに言えば設計者は指示を出し、製造者ががんばって精度を出す仕組みだったりします。個人開発だと両方自分だし、さらに製造は3Dプリンタだったりするので「後で3Dプリンタに祈る」みたいなことになります。

そこを設計の工夫で解消しましょう。
「ちゃんと設計したから3Dプリンタの出来には左右されないぞ」状態を目指します。
※もじゃもじゃとかは別問題

そこで出てくるのが以前にも紹介したかまぼこという技術です。

思考としては
1.隙間を0で作ったら製造の誤差で干渉しちゃうかも
2.誤差とか検証するのは無駄な労力だから出たとこ勝負をしよう
3.干渉したら削ればいいけど、1周削るのは正直めんどい
4.じゃあ削るところを減らしとこう

覚悟を決めた相撲取りが倒れないように、覚悟をした追加工は苦になりません。

この覚悟を決める(諦める) → せめて範囲を絞る

という発想は機械設計全般に応用できるので身につけると役立ちます。

おまけですが、かまぼこ設計の寸法関係にもう一歩踏み込むと、3Dプリンタで製造する場合、
・かまぼこの頂点と相手部品の距離0
・隙間1 mm~2 mm
・かまぼこは半円サイズ(つまり半径=隙間)
・1辺の端から1割の位置にかまぼこ、両端で2点、1周4辺で8点
と設計しておけばOKです。

たいていは押し込めばかまぼこが変形しながら入ります。隙間が空いてもたかがしれています。
どうしてもガタが大きくなってしまったらフタ側にテープ貼りましょう。

角の逃げ(注意)

角は製造工程で丸まりやすいので、大きく避ける形状にすると良いです。
こういうのを逃げを作るとか逃げるとか表現します。

防水設計

インローであれば防水も簡単です。
下記にOリングとスポンジの2種類を紹介します。
防水材料は反力(弾力)があるので、ネジなどの固定を追加すると良いです。

Oリング版

Oリングというシリコーンゴムとかウレタンでできたような輪っかを下図の青丸のように箱側に巻き、それを潰すようにフタを閉めれば防水されます。

・Oリングは表面に段差や傷があると機能を果たしません。購入した方が良いです。
・図はOリングの保持構造をあえて省略しています。実際は凹みをつけたり試してください。
・Oリングの潰し量の目安はOリングの仕様にあります。
・四角いところには沿いづらいので角は丸くします。

スポンジ版

モルトプレーンという穴が貫通していないスポンジがあり、それを使うこともできます。
Amazonとかで購入できます。製品名だとポロンとかが有名です。
カメラの防水、iPhoneの防水なんかはこのモルトプレーンが使われています。

・モルトプレーンは両面テープで土台に貼り付けて、上からフタで潰しながら押さえます。
・上下平面で潰します。下図の薄青部は平面で潰された部分。
・直角に曲がりづらいので角は丸くします。
・1面の形状を型抜きできるとベストですが、1本のモルトプレーンを這わせるのでもOKです。
・這わせる場合、モルトプレーンの切れ目は左右に並んでくっつくようにオーバーラップさせます。
 ※上下で潰れたときに幅が増えるので、左右でも潰れが発生します。

モルトプレーンの潰し量の目安も仕様にあるのですが、コツとしては仕様の倍くらい潰すつもりでもうまくいきやすいです。(保証はしません)
というのも、仕様の潰し量は少量でシビアなので、公差や組付け不良があると全然思ったように潰れなかったりします。一方で潰しすぎの方はある程度性能がキープされるので、潰しすぎの方がマシかなという感じです。

防水系の家電製品をバラしてもピッタリサイズのOリングだったり、型抜きされたモルトプレーンが使われていることが多いので防水は簡単じゃないのかなという印象を持ってしまうかもしれませんが、モルトプレーンを細切りして這わせれば全然防水できますのでチャレンジしてみてください。

防水の検証

防水で何か作ろうとすると本当に防水できてるか?ってのが気になると思いますので、簡単なチェック方法を紹介します。

1.桶やバケツ、色付きチョーク(黄色とか)を用意する
2.チョークを大量に水に溶かす
3.沈める
4.放置して乾いたら開封する

こうすることで、内部に浸水があった場合は黄色い粉が残ります。

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