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【第2回】いまさら聞けないメカ設計 公差とクリアランス

2023/05/19に公開

概要

メカ設計の中心的概念である公差について解説します。
公差を理解することで、組み立て不良干渉ガタといった寸法問題を防ぐことができます。

公差とは

公差とはあなたが許容する寸法誤差のことです。

モノを作るにあたりぴったりサイズを作ることは不可能ということは意識できているでしょうか。例えば、ぴったり10 cmのものをあなたは作れますか?
ぴったりというのは10.0 cmでも10.00 cmでもなく10.0000・・・・ cmということです。

「何もそこまでぴったりじゃなくても、、」と思うかもしれませんが、ならばどこまでぴったりならOKでしょうか?
そこを明確に指定することが公差の設計であり、メカ設計の脱初心者ラインなのです。

公差を無視したときの影響

IT含む理系世界では共通ですが、メカ設計でも10 cmという表現は10.1 cmでも10.4 cmでもOKとみなされます。
ではこれが3つ重なるとどうなるでしょう?

10.1 x 3 = 30.3 cm
10.4 x 3 = 31.2 cm

実質的に1 cm程度の差が生まれます。

こんなに差をつけたくないというときは10 cmではなく10.0 cmと指定する必要があります。
※指定したからといって実現できるとは限りませんが、まずは必要条件を固めましょう。

公差は精度(装置の実力)に依存する

「10 cmだと思ったら10.4 cmになるなんてやってられない!」
と思うかもしれませんが、実際はもう少し精度が良いものなので安心してください。

では公差とはどの程度が実際に実現できるものなのでしょうか?

一般的には装置の精度≒公差と考えるといいです。

例えば、3DプリンタのXY精度が0.5 mmなら公差±0.5 mm、積層精度が0.2 mmなら公差±0.2 mmとなります。

公差を見越してクリアランスを設ける(基本)

たとえば10 cmのキューブを2つ入れる箱を考えます。

公差を考慮しない場合

10 cm x 2個 = 20 cm
で20 cmの内寸の箱を用意すればOKのように思ってしまいます。

公差を考慮する場合

例えばすべて±0.1 cmで製作可能だとすると
10±0.1 cm x 2個 = 20±0.2 cm
で中身となるキューブは最大20.2 cmとなることがわかります。

一方で箱の方は
20.3±0.1 cm ≧ 20.2 cm
のように入れ物となる箱の内寸が20.3±0.1 cmで製作できれば必ずキューブが入ります。

クリアランス

クリアランスとは余裕を持たせるための隙間のことです。

上記の場合
20.3 cm - (10 cm x 2個) = 0.3 cm
称呼値(Tipical)0.3 cmのクリアランスを設けたことになります。
※称呼というのは公差を抜いた元となる値のことです。

クリアランスは精度のばらつき次第で
最小0 cm ~ 最大0.6 cm
となります。

これは場合によっては最大の0.6 cmの隙間になってしまうということです。

クリアランスが大きくてやってられない!(対策)

公差を真面目に積み上げていくと、求めているものより遥かに大きなクリアランスが必要になってしまいがちです。
そういうときの対策をいくつか紹介します。

逆に欲しい公差を指定する

そういうときはいっそのこと公差を±0.1 cmから±0.05 cmに小さくしてしまいましょう。

そうすれば
10±0.05 x 2 ≦ 20.15±0.05
という設計にでき、クリアランスは
称呼 0.15 cm、最小0 cm ~ 最大0.3 cm
とすることができます。

ただし、それだけの精度を出せる装置を手配する必要があります。
これが手加工なら丁寧に加工することがソリューションになることもあります。

実力値に頼る

ひとつ作ってみると意外と誤差が小さいものができあがります。
特に量産をするわけでもなければクリアランスを攻め攻めでつくってしまうのが良いでしょう。

追加工上等

ヤスリがけなど追加工をする前提でやる。最初から覚悟していればダメージは少ないです。

潰ししろを作って公差を吸収する

いわゆるかまぼこと言われるテクニックです。
断面がかまぼこ状の突起の先端だけ寸法を攻め攻めにすることで、仮に干渉しても断面積がかまぼこ分しかないので力でグイグイと押し込める構造です。
また、加工する範囲を絞ることで効率化できます。

これは場合によってはガタを0にもできる少し上級のテクニックです。
別途、紹介の機会を儲けようと思います。

かまぼこの図

iPhoneの力業(参考)

iPhone(たしか5)は外装プレートと筐体枠の隙間がピッタリでとても品位が高いことで有名です。
これはプレートをベルトコンベアで流して画像認識し、サイズをあらかじめ測定し、ピッタリの枠に入れ込むという画期的な方法を取っています。
当時、メカ屋の間では話題になったのですが、今は記事が見当たりませんでしたのでソースは省略します。

公差を意識して設計しましょう

浮動小数点のように寸法というのも定まらないものです。
公差を把握しコントロールすることで不意の寸法問題の多くを防ぐことができます。
大事な寸法に関しては公差を設計しましょう。

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