旧版の R にパッケージをインストールする

パッケージを追加しようとしたとき、新しいバージョンの R を求められることがあります。R 本体の更新ができないとき、パッケージの最新版でなくともよい場合の回避策のメモです。

要旨

R のパッケージを追加しようとしたとき、新しいバージョンの R が必要になった場合の回避策として、

• CRAN (The Comprehensive R Archive Network) のアーカイブから .zip, .tgz 等のファイルをダウンロードまたは直接指定してインストール
• remotes::install_version() や pak::pkg_install() のようなバージョンを指定できるパッケージ導入方法を使う
• 使用中の R 本体に合わせて、インストール元を過去の CRAN スナップショット（Posit Package Manager）にする

個人的なおすすめは、パッケージのバージョン指定も Posit Package Manager からのインストールも対応できる pak パッケージです。

問題の概要

生存期間分析、生存曲線の作図など医療統計でよく用いられる R のパッケージに survminer があります。

mJOHNSNOW の R 解析セミナーで survminer 導入時にうまくいかない事例が多発し、検証の結果、動作に必要なパッケージのひとつ Matrix が R 4.4 以降を要求するようになったため、R 4.3系以前の環境の方がインストールできなくなっていることが判明しました。

 警告メッセージ:
package ‘Matrix’ is not available for this version of R
‘Matrix’ version 1.7-3 is in the repositories but depends on R (>= 4.4)
‘Matrix’ version 1.7-3 is in the repositories but depends on R (>= 4.6)

A version of this package for your version of R might be available elsewhere,
see the ideas at
https://cran.r-project.org/doc/manuals/r-patched/R-admin.html#Installing-packages

他にも特定の R バージョンを要求するものがありましたが、ここでは Matrix を例に進めます。

まず、pak::pkg_history() を使って Matrix のこれまでのリリース情報から要求される R のバージョンを見てみます。

# pacman がなければインストール
if (!("pacman" %in% .packages(all.available = TRUE))) {
  install.packages("pacman")
}
# パッケージの読み込み（なければインストール後に読み込む）
pacman::p_load(tidyverse)
pacman::p_load(pak)

pkg_history(pkg = "Matrix") %>% 
  rownames_to_column() %>%
  select(Package, Version, Date, dependencies) %>%
  # dependencies に含まれる "R" の要求バージョンを取り出す
  mutate(
    `R dependency` = map_chr(dependencies,
                             \(x) filter(x, package == "R") %>% pull(version))
  ) %>% 
  select(-dependencies) %>% 
  arrange(desc(Date)) %>% 
  head(10) 

Package	Version	Date	R dependency
Matrix	1.7-3	2025-03-05	>= 4.4
Matrix	1.7-2	2025-01-20	>= 4.4
Matrix	1.7-1	2024-10-17	>= 4.4.0
Matrix	1.7-0	2024-03-16	>= 4.4.0
Matrix	1.6-5	2024-01-06	>= 3.5.0
Matrix	1.6-4	2023-11-29	>= 3.5.0
Matrix	1.6-3	2023-11-13	>= 3.5.0
Matrix	1.6-2	2023-11-03	>= 3.5.0
Matrix	1.6-1.1	2023-09-08	>= 3.5.0
Matrix	1.6-1	2023-08-11	>= 3.5.0

バージョン 1.6-5 （2024-01-06 公開）ならば、R 4.3系でも使用できそうです。

対策

CRAN のアーカイブからインストール

CRAN からは過去のバージョンのパッケージも .zip 形式や .tar.gz (.tgz) 形式で入手することができます。OS、R のバージョン別になっているので適切なものを探す必要があるほか、関連（依存）パッケージがある場合はうまくいかない可能性があります。

例えば、R 4.3向けのパッケージでは

• Windows : cloud.r-project.org/bin/windows/contrib/4.3/
• macOS Big Sur 以降, Apple Silicon : cloud.r-project.org/bin/macosx/big-sur-arm64/contrib/4.3/
• macOS Big Sur 以降, Intel CPU : cloud.r-project.org/bin/macosx/big-sur-x86_64/contrib/4.3/

上記より、Matrix_1.6-5.zip (Windows) または Matrix_1.6-5.tgz (macOS) を working directory にダウンロードして

install.packages("Matrix_1.6-5.zip", repos = NULL)

とするか、上記アーカイブのアドレスを使って

install.packages("https://cloud.r-project.org/bin/windows/contrib/4.3/Matrix_1.6-5.zip", repos = NULL)

とすることでインストールが可能です。repos = NULL は省略しても補完されますが、明示的に指定したほうが確実です。

パッケージのバージョンを指定してインストール

上記のアーカイブには、対象の R のバージョンにより存在しないパッケージのバージョンもあります。remotes::install_version() のようにバージョンを指定してインストールできる命令を使用すると、もう少し柔軟なインストールが可能です。

# repos は最新の CRAN を指定するほうが良い
remotes::install_version(package = "Matrix", version = "1.6-5", repos = "cloud.r-project.org")

Posit Package Manager のスナップショットからインストール

Posit（旧 RStudio）社が運営する、日々の CRAN ライブラリーの内容が保管されているサイトです。
かつて Microsoft が運営していた同様のサイト MRAN (The Microsoft R Application Network) はソースコードの配布のみでしたが、Posit Package Manager は主要な OS (Windows, macOS, Linux) のバイナリパッケージが配布されているため、インストールも高速です。

まず、packagemanager.posit.co/client にアクセスして [SETUP] へ進みます。

• Operating System は今回は Windows を選択
• Snapshots は "Yes, always install packages from the date I choose"
• カレンダー画面から、上記リストで Matrix 1.6-5 の次のバージョンがリリースされた前日（2024-03-15）を選択
• Environment は "RStudio IDE" を選択（次の Repository URL には影響なし）
• Repository URL の右側の [Copy] をクリック、または表示されている URL をコピー

この URL を install.packages() の repos = に指定することで、関連パッケージを含めて Matrix 1.6-5 が最新バージョンであった 2024-03-15 時点のバージョンに揃えてインストールできるようになります。

install.packages("Matrix", repos = "https://packagemanager.posit.co/cran/2024-03-15")

pak パッケージの活用

pak は CRAN だけでなく、GitHub や BioConductor といった別のサイトで配布されているパッケージや、ダウンロードしたファイルからも同じ命令でパッケージのインストールができる多機能なパッケージです。

基本的な使い方は

# pak がなければ最新版をインストール
if (!("pak" %in% .packages(all.available = TRUE))) {
  install.packages("pak", repos = "cloud.r-project.org")
}

# package_name をインストールする（どちらを使っても良い）
pak::pak("package_name")
pak::pkg_install("package_name")

で、package_name の部分の書き方により CRAN 以外のサイトや最新版以外のバージョンをインストールすることも可能です。

# 通常（CRAN にある最新版をインストール）
pak::pak("dplyr")

# GitHub にある dplyr の最新開発版をインストールする
pak::pak("tidyverse/dplyr")

# バージョンを指定して `Matrix 1.6-5` をインストールする
pak::pak("Matrix@1.6-5")

# ダウンロードしたファイルからインストール
pak::pak("local::Matrix_1.6-5.zip")

インストール元（レポジトリ）を検索、設定することもできます。

# R 4.4.0 がリリースされた翌日（≒ R 4.3.3 環境から主流が切り替わる直前）の Posit Package Manager
# 実行中の OS に応じた URL が返される
pak::repo_resolve("PPM@R-4.4.0")
##                                              CRAN 
## "https://packagemanager.posit.co/cran/2024-04-25"

# survminer 0.5.0 がリリースされた翌日の Posit Package Manager
# Matrix は 1.x-y 形式でハイフンが入るためうまくいかない
pak::repo_resolve("PPM@survminer-0.5.0")
##                                              CRAN 
## "https://packagemanager.posit.co/cran/2024-10-31"

# 特定の日付の Posit Package Manager
pak::repo_resolve("PPM@2024-03-15")
##                                              CRAN 
## "https://packagemanager.posit.co/cran/2024-03-15"

# インストール元を Posit Package Manager で指定
install.packages("Matrix", repos = pak::repo_resolve("PPM@R-4.4.0"))

# 継続的に変更する場合（R を終了するまで有効）
pak::repo_add(CRAN = pak::repo_resolve("PPM@R-4.4.0"))
pak::repo_get()

## # A data frame: 6 × 5
##   name          url                                                    type     r_version bioc_version
## * <chr>         <chr>                                                  <chr>    <chr>     <chr>       
## 1 CRAN          https://packagemanager.posit.co/cran/2024-04-25        cran     *         NA          
## 2 BioCsoft      https://bioconductor.org/packages/3.20/bioc            bioc     4.4.3     3.20        
## 3 BioCann       https://bioconductor.org/packages/3.20/data/annotation bioc     4.4.3     3.20        
## 4 BioCexp       https://bioconductor.org/packages/3.20/data/experiment bioc     4.4.3     3.20        
## 5 BioCworkflows https://bioconductor.org/packages/3.20/workflows       bioc     4.4.3     3.20        
## 6 BioCbooks     https://bioconductor.org/packages/3.20/books           bioc     4.4.3     3.20