📘

技術書典16に初出展した振り返り

2024/05/28に公開

はじめに

弊社(合同会社モイテリカ)はサークル出展者として技術書典16に参加した。
このような技術同人誌を出した。
↓参考[1]
https://techbookfest.org/product/3UZbBX3WBS51eyEA76hkz4?productVariantID=9mBwsAV55R9HAsCL3advGg

技術書典には参加自体がはじめてである。
購入者側の体験も含めて、分からないことだらけだったが、サークル参加申し込みが当選したので、思い切って1冊書き上げた。

2024/05/26(日)は会場(電子+紙)を1部1,000円で頒布した。

サークル出展してみて実際の頒布中に大きなトラブルはなかった。
会場で気づいた課題のうち、イベント運営に関わるものについては、後日個別に運営に報告予定である。

この記事では、弊サークルに関する課題を中心に振り返る。

技術書典とは

技術書典(ぎじゅつしょてん)は新しい技術に出会えるお祭りです。

技術書典ヘルプセンター>全体向け>技術書典についてより引用。

基本的には、技術書を頒布する即売会である。
そこでは技術同人誌[2]を中心に商業誌や関連グッズも含めて、大量の技術書が頒布される。

現在の弊社は一人法人のため、企業活動における私個人の活動割合が大きいため、たいへん助かるイベントである。

利用規約およびサークル参加要項で、法人でもサークル参加できる旨が明記されている。
ただし、過度な宣伝行為や採用活動をしたり、同人誌頒布から外れる行為は禁止されているので、規約をよく確認されたし。

個人、団体、法人(企業等)、いずれも参加可能です

本イベントの主旨(技術書の頒布)にそぐわない行為はご遠慮ください
採用を主目的とした勧誘やイベント・ビジネスの誘いもご遠慮ください
当然ですが、宗教、金融、ネズミ講などの勧誘もご遠慮ください

技術書典16の「サークル参加要項とガイド」より引用。

サークル参加したい人は「頒布物は技術書なのか」「技術書の頒布行為(およびその関連行為)に収まるのか」、ガイドをよく読んで、不安な部分はよく確認を取るとよさそう。
サークル参加申し込み時に分かりやすい形で明記したり、個別具体的な話であれば技術書典運営に問い合わせをするとよい。

オフライン会場とは

オンラインマーケットに対するオフライン会場である。
もともとは、技術書典=オフライン会場だけだったらしい。
コロナ禍によってイベント開催が困難になり、オンラインマーケットによるネット販売が主流となった経緯があるみたいである。

最近では技術的な工夫や運用をしつつ、従来の対面式の即売会(オフライン会場)を復活させている。
そのため、開催形態が「オンラインマーケット」に対して、「オフライン会場」ということになっている。

技術書典16では、2024/05/25(土)~2024/06/09(日)にオンラインマーケットが開催されている。
このうちの2024/05/26(日)はオフライン会場同時開催の日で、池袋・サンシャインシティ 展示ホールDにサークル出展者が集い、来場参加者に対して技術書を手渡しで頒布した。

弊サークルの反省点・気づき

過去に日本で大きなイベントの夏の方に一般参加したことはある。
しかし、それだけではサークル出展者側の知識が完全に不足していた。

弊サークルの反省点・気づきのほとんどは、知識不足・経験不足に尽きる。
以下の項目について、主な記録を残しておく。

  • 執筆~印刷
  • 池袋
  • 同人誌即売会=人と会話する
  • 当日あってよかったもの

執筆~印刷

本文

組版って何? という状況だった。
とりあえず、Markdownで書いておけば何とかなるらしい。
実際、何とかなった。

最初は、Markdown形式で原稿を作り、VivliostyleでCSS組版した。
VFM(Vivliostyle Flavored Markdown)記法というMarkdownの拡張記法があり、以下のzenn記事を参考にした。
https://zenn.dev/sky_y/articles/markdown-advent-2020-vivliostyle3

電子書籍だけだったら機能的に満足で、これでもよかった。
Vivliostyleの設定を変えて、電子書籍用と紙の書籍用を同時に出力させる方法が分からず、トンボサイズを変更しても、レイアウトがおかしくなるだけだった。
今後の課題である。

最終的に、ベースとなる原稿執筆は進んだので、技術書典運営が推奨するRe:VIEWで出力するように環境を入れ替えた。
VFM記法はRe:VIEWには使えないので、この時点で全部を作り変えた。GrepしてMarkdownに書き換えていくだけなので、そこまで手間ではなかった。

執筆について、次の動画・ページを参考にした。
https://www.youtube.com/watch?v=GIDeLqo-sp8
https://github.com/TechBooster/ReVIEW-Template

具体的なRe:VIEW執筆環境では、vscodeのDevContainers拡張で、Dockerイメージ[3]を動かした。
.devcontainerフォルダに次のファイルを設置。

devcontainer.json
{
  // コンテナイメージ名
  "image": "vvakame/review:5.8",
  // コンテナ内で設定するsetting.jsonの値
  "settings": {
    "editor.wordWrap": "on"
  },
  // コンテナ起動後にインストールする拡張機能
  "extensions": [
    "yuqquu.review-starter-syntax-highlight"
  ],
  // コンテナ起動後に叩くコマンド
  "postCreateCommand": [
    "npm",
    "ci",
  ],
  // コンテナ内Userの指定
  "remoteUser": "root"
}

このとき、運営公式の公開しているReVIEW-Templateのarticlesフォルダ内をローカルにダウンロードして、前述のDevContainersのワークスペースに置いた。

Dockerイメージにpandoc2reviewが内包されているため、Markdownを簡単にLaTexに変換できた。
config.ymlのcontentdirの行を有効にするとよい。
Re:VIEWは初めて触ったが、config.yml内の説明が豊富なので、原稿mdファイルの分割や各種設定変更は直感で何とかなった。

環境構築、ラクすぎる……。お金どこに払えばいいの?
後日、オンラインマーケットで運営の課金場所に支払いに行く予定である。
宣伝用に商品ページを貼っておく。[4]
https://techbookfest.org/product/5ftz6aSZt3Q6W1d96pvsKX?productVariantID=aYtEBqEu2xN76Pq9ViVqdf

コマンドを2回打つのが面倒だったので、次のshファイルを置いて対応した。

build.sh
rake pdf
mv GoWithJapaneseProgramming.pdf GoWithJapaneseProgramming_paper.pdf 
REVIEW_CONFIG_FILE=config-ebook.yml rake pdf

これでvscodeでコンテナーを起動したら、ターミナル上で/bin/sh build.shを実行して2種類(紙の書籍用、電子書籍用)のPDFを出力できるようになった。
毎回PDFを2種類出すべきかは執筆サイクルのなかで検討の余地がある。

しかし、Markdown原稿で執筆する場合、こまめにLaTexへの変換はした方が良い。
執筆→rake pdfでPDF生成成功を確認→gitコミット。
ここまでの一連の動作を習慣付けしておくとよい。

コードブロックのシンタックスハイライト設定がうまくいかない、という課題は最後まで解決できなかったが、配色や修飾が必要なコードは画像で貼ってひとまず運用でカバーした。
紙の書籍では、画像の解像度には注意した方が良いらしい。

VivliostyleとRe:VIEWの違いについて別記事を書きたい。
執筆まわりは小説家さんや編集者さんが得意なドメイン領域だと思われるが、素人なりに躓きポイントが多かったので、こちらも別記事を書きたい。

印刷所によって、ページに応じた見積もりがあるため、ある程度の上限は目安として確認しておくとよい。
たとえば、ねこのしっぽだと、「112ページ本文+表裏表紙1枚(4ページ分)で116ページまで」と、116ページを超過した場合とで、〆切・料金が異なっていた。

表紙

表紙は広告効果が高く、とても大事である。
カラーな表紙は購入候補者に見てもらいやすい。
https://speakerdeck.com/yagitch/ben-habiao-zhi-ga9ge

マーケティングには詳しくないが、「3Bの法則」として特定要素の広告は大衆ウケがよいらしい。

  • 3Bの法則:以下のいずれかの要素はウケが良いってことみたい
    • Beauty(美人)
    • Beast(動物)
    • Baby(赤ちゃん)

本能的なルッキズムが露骨に提示されてて「広告業界、すごいな」と思ってしまった。令和のコンプラやポリコレ的にどうかと思ったが、私たちもスーパーに行って、見た目の良い野菜から優先的に購入する経験はあると思う。
大手企業がバンバン流しているCMもだいたいこれなので、乗るしかないこのビッグウェーブに!

その点、The Gopher(ゴーファーくん)は、Kawaii(かわいい)&Beast(動物)&Idle(Goのマスコット)であり、とてもオススメである。
Go関連の本を書くときは、みんなもゴーファーくんを二次創作しよう!
ライセンスにだけ注意してほしい。
https://note.com/kogu_dev/n/ndd6c99479901

表紙は本文執筆と並行して、イラストレーターさんに依頼していた。
普段の仕事ではイラスト制作の受発注経験がないため、相場が分からない。
イラストレーターさんのために具体的な金額は伏せ、無関係な数値を出すが、こういった同人誌表紙イラスト制作の相場は3万円前後~とネット上で見聞した(ものによるし、発注者の予算およびイラストレーターさんの受注スタンス次第である)。
依頼内容によって予算は大きく変動するため、表紙を外注制作する際は各自イラストレーターさんとよく相談してほしい。

依頼時にねこのしっぽを利用する想定で居たので、ねこのしっぽ公式の表紙テンプレートをイラストレーターさんにダウンロードしてもらった。
しかし、本文のページ数が決まらないと背幅が確定しない。最終デザイン着手はこちら都合でずいぶん待たせてしまった。

前提確認・構図案・ラフ・線画・着色・最終デザイン(キャラクターの配置およびテキストフォントの種類、大きさ、配置等)を進捗ごとにお互い確認し、進めてもらった。
不慣れな客(私)を誘導しつつ、進捗管理まで含めて完璧な仕事をしてもらった。
各工程で確認を取りながら進めたので、特に大きな手戻りはなかった。

背景は白背景でシンプルで良いと、こちらから依頼していたので、単色ではなくグラデーションや複雑な背景の場合、描き込み量によって納期・予算にも影響すると思われる。

表紙のタイトルデザインは、次のどちらかがよさそうである。

  • 上部に大きく配置
  • 左側に大きく配置(文字の向きは縦横どちらでも可)
理由

今回、オンラインマーケットで表示される際、表紙の下部に「会場頒布あり」の帯が付いていた。
下側の1/3ぐらいの面積。
そのため、次回以降の仕様にもよるが、タイトル文字は表紙の上部に大きく配置する方がよさそうである。

オフライン会場では出口付近に「戦利品」の記念写真撮影コーナーがあった。
SNSを眺めていて、撮り方は千差万別であったが、購入冊数が多いユーザーの場合、何冊か表紙を重ねて撮るしかない、という人も居た。
左側に縦レイアウトで文字を流しておくと、重ねたときにタイトルは見やすそうだった。

余談

ちなみに、イラストレーターさんと構図案打ち合わせのときに、私がゴーファーくんのかわいさを1時間近く語ったのは内緒である。
とても迷惑な客だ。
作業工数と請求額に上乗せしてよい。

あと、絵を作る工程を見せてもらって、たくさんのレイヤーを分けて使いこなしていることを知った。知識としてはもともと知っていたが、実際に見るのは初めてだった。
どの業界でも、ものづくりはレイヤー分けして思考や作業を整理整頓するのだなぁ、と興味深かった。

印刷

印刷は紙の本を出す上で、最大の難関だと思う。
専門用語がいちいち分からないので、前述の技術書典公式動画や先人たちのブログを漁って学習するしかない。

印刷は周囲からのオススメで有限会社ねこのしっぽに申し込んだ。
技術書典のバックアップ印刷所には、もう1箇所、株式会社日光企画もあるため、搬入工程をラクにしたい場合には、どちらかを選んでおけば安心だと思う。
※今回「前から印刷」という試験導入的な割引サービスもあり、次回以降は印刷所によって、料金に差が生じやすくなるかもしれない。予算を重視する場合には、よく調査して検討してほしい。

印刷所では混雑緩和・品質安定のためなのか、イベント毎に締切日を設けて、それよりも早く出すと割引が適用される商習慣があるらしい。
技術書典にアップロードした書籍が審査中の状態だったが、早割で申し込みした。[5]

Webサイト上でプランを選び、オプションを選択し、支払いをした。
紙の書籍用本文PDFと表紙ファイルをアップロードした。

「完全原稿とは完全原稿です」とのことだったが、若干の不備や確認事項については、印刷する前に向こうから確認の電話をくれた。大きな問題ではない、ということを双方確認して、そのまま印刷してもらった。個別の案件事項だと思うため、詳細の記述は控えるが、とても心配りをしてくれた。トラブル防止のルーチンだと分かってはいても、印刷所の利用経験が乏しい私にとってはありがたかった。
ねこのしっぽ担当者さんが仕事として印刷に慣れているので、私のような初めて同人誌を印刷する人でも迷子にならないと思う。

一応、ねこのしっぽとしてはB5サイズ同人誌を入稿する際に一律3 mm余白を設ける規定になっているが、技術書典運営の推奨設定でRe:VIEWから出力した書籍用のPDF(本文)のままで問題なかった。
推奨設定のRe:VIEWだとA4出力B5カットのPDFだが、印刷所としてはそのPDFから実際にA4の紙に印刷する訳ではなく、B5サイズより少し大きな紙に出力し、裁ち落としする仕組みがあるらしい。
なので、みんなも安心してRe:VIEWで出力してほしい。

印刷部数

はるか昔の人々が気象現象や星の巡りの観察によって豊作の予測を行ったように、需給予測は最古から続く難問である。
技術書典の先人サークル主たちも同じだった。

供給の失敗は恐怖である。
すぐそこに、いわゆる「爆死」と呼ばれる、大量に刷った同人誌が売れずに抱え落ちする未来が見える。

基本的にサークル主が取る戦略は2パターンである。

  • ある程度多めに見込み生産し、1部あたり原価を抑える
  • 売り切れによる機会損失を許容し、受注生産制で在庫を最小にする

どちらの場合も、原価計算や損益分岐点計算が必要そうである。
原価計算は製造業の傍らで10年やってきた。
得意分野キタコレである。
技術同人誌の制作・販売、完全に理解したぞ。

しかし、分からない。
何部印刷するかを複数パターン用意し、その1冊あたり原価は計算できるし、損益分岐点も分かる。
しかし、実際に何部売れるかはやってみないと分からない。

私もようやく先人サークル主たちの気持ちに至った。
技術同人誌の制作・販売、何も分からん。

まわりに発行部数についてアドバイスを求めたら戦争が始まった。
慎重派「30部売れれば上出来なので、割高でも100部にしろ(爆死見たくないよ)」
過激派「大爆死してこそのサークル活動である。500部でよい(爆死を見せろー!)」
コミュ障、かつ、他に判断材料のない私は、間を取って300部刷った。後悔はしていない。[6]
万が一、Goのトレンドが変化してしまい、会場に流れ込んだGopherたちにたくさん売れてしまった場合に、売り切れは申し訳ないと思い、多めに刷った。

当然の結末として、会場では大量の優良在庫[7]を抱えることになった。
片付けを手伝ってくれた助っ人さんが荷捌所まで一緒に段ボールを運んでくれた。

そのときの助っ人の名言に心が救済された。
「これ(大量の在庫抱え)は全人類が経験すべき義務教育。通過儀礼、ヨシ!」

ちなみに、技術書典16の会期が終わったら、価格設定を見直してbooth等で販売しようと思う。
購入済みのファンに申し訳が立たないので、技術書典16より価格を下げる予定は今のところない。

「後から印刷」という技術書典の提供するサービスもあり、受注生産分の割引が適用できるので、賢い人は在庫を持たないスタイルを試してみてもいいかもしれない。

池袋

池袋をあまり知らなかったため、SNSで無知を晒していく。
電車の中でSNSのフォロワーさんに自分の非常識さを補ってもらいつつ、池袋駅に着いた。

会場に近いという東池袋駅から歩くことにした。
そのため、池袋駅から東池袋駅まで電車を使ったが、池袋駅からも徒歩で行ける距離だった。
詳しい人によるとバスもあるし、移動の選択肢が無限にあるうちの、高貴寄りな選択をしたらしい。
だったら次回はタクシーを使ってやるかと思ったが、車移動が難しそうな人口密度だった。

場所については、公式および関係者からアナウンスがあるので常識人は安心してほしい。
常識を手に入れた今の私ももう大丈夫だ。
https://techbookfest.zendesk.com/hc/ja/articles/6941374142989
https://note.com/mochikoastech/n/na866565bd4a4

同人誌即売会=人と会話する

手渡しで本を売るということは「人と会話すること」だというのを失念していた。

初対面の人との会話は待機列で始まった(始まってない)

9:30頃にサークル出展者の入場待機列に並んだ。
ちょうど新規列形成のタイミングで先頭にお一人がいらして、そこに売り子さんと私の2人で参列。
待機列は2列に並ぶ都合上、売り子さんとははぐれた。
ぷよぷよのちぎりを想起させる。

横の人に「キャリーバッグをお持ちですね。遠方からですか」と尋ねたかったが、「いえ、近所です」という返答が来た時の会話強制終了が怖く、実際には会話を開始することができなかった。
コミュ障にはつらいイベントである(なぜ、参加したし)。

あとで合流した売り子さんに「次回までに会話デッキ構築を頑張りましょう」と励まされた。頑張る[8]

設営&開場

特に問題なく設営完了できた。
売り子さんがとても優秀であった。

お隣りのサークル主さんは人柄の良い人で安心できた。
お隣さんとは無事に名刺交換と新刊交換というイベントを完了した。
弊サークルは柱すぐ横のスペースだったため、地理的&雰囲気的にお隣さんとの交流は1箇所のみとなった。

開場後、購入者の波はありつつも、両ブースともに人が来てよかった。
それでも人が途切れてしまい、暇なときはある。
売れないタイミングは来るのである。

このときの出来事をオフライン会場終了後、X(旧ツイッター)で呟いた。
https://x.com/HisafumiSaeki/status/1794690034517590434

そんなお隣りのサークル主、よしむらさんのnoteは、サークル出展予定者にとって、たいへんに参考になる。
https://note.com/datamanagement/n/nc9a268039973

立ち読み列の整理

見本誌を立ち読みする人の列と、売り物を購入する人の列を分ける対策が不十分だった。
もともと、机のレイアウトは見本誌の掲示領域と、購入した人に渡す売り物領域に、半分ずつに分けて設営していた。

しかし、想定はしていたが、訓練が足りなかった。
人間、訓練していないととっさには動けない。

見本誌を2冊用意したが、2冊とも立ち読み中のタイミングで、次の購入候補者が来てしまい、立ち読みのために売り物を手に取ってしまった。
これは私が悪い。
「見本誌はいま立ち読み中なので列になってお待ちください」と言うべきだった。
立ち読みに供した本は売らないので、結果的に見本誌は4冊になった。

立ち読みはサークル前のスペース内に収まっているのでお隣りさんへの迷惑ではなかった(と信じたい)。ただし、対面のサークルさんが盛況なときには、人の流れ(通路の流量)的によくないときもあった。
さすがの私でも学習して、立ち読みしている人が通路の真ん中に近いときには「半歩前にお願いします」は言えるようになった。成長できてえらい。

歩行者の誘導

会場内、サークルスペース前の通路を参加者が歩いている。
歩行者に声掛けしているサークルも見渡すとあった。
付近のサークルでも声掛けがあったが、みんな上品な感じの呼び込みで安心した。
なお、声掛け自体は問題ないが、大きな声での野蛮な声掛けは非推奨となっている(売上が有意に上がるらしいので、自然と声が大きくなる気持ちはわかる)。

さて、私には声掛けする経験値とスキルが足りない。
20年近く前なら小中学生を相手に大声で役を演じる仕事(塾講師)をしていたが、もはやそんなスキルは失効している。

会話とは言語に限らない。
初対面の人に、アッ…エット…しか発せない私[9]でも、非言語的コミュニケーションは取れるはずである。

思い出したのはラーメン屋である。
のぼり(旗)があり、風でパタパタはためく。
人間は本能的に動くものを見る。
車の運転手はのぼりに無意識に視線を取られて、そこに書かれたラーメンの文字を見る。
そして、ラーメン屋の駐車場に入る。

弊サークルはラーメン屋ではないが、集客には応用できそうである。
具体的には、「完全手ぶらセット」にあったうちわを使った。

自分に向かって煽ぐのではない。まるで尾を広げるクジャクのようにうちわの面を歩行者に向けた状態で、メトロノームみたいにパタパタと左右に振っていた。
立って胸の前に掲げてゆっくり振った。
歩行者が見本誌の表紙を見てくれる。
そして、弊サークルスペースにjoinする。

この日、無名の弊サークルで立ち読みしていった人は累計で74名となった。
うちわ、すごい! いや、違う。たぶん、私のようなおじさんがうちわ振っても誤差だよ。
表紙の力ってすごい! すごいぞ、表紙!

立ち読みから購入までのコンバージョン率は冊数換算でおよそ3割。
Go系のサークルは来期、私を強打者メンバーとして雇ってほしい。

立ち読みの際に

最初はほぼ無言か「どうぞ見本誌読んでください」ぐらいしか言えなかったが、徐々に分かってきた。
概要を説明して伝えようにも、読者さんからすると、自分の好きに読ませてくれという感じだろう。
立ち読みの人が読み始めたら(集中し始めたら)、基本的に声掛けはできない。
最終的に、興味を引いてブースに寄ってくれたら「何かあったら質問してください。なんでも答えます」と最初に言って、立ち読みに導入するスタイルに落ち着いた。

シフト制

休憩は売り子さんと交代しながら取ったが、それ以外ではサークル主の私はほぼ自ブースに居た。
人の波を予測できず、なかなか離れて休憩や買い物するタイミングが掴めなかった。

売り子さんも長い時間店番をがんばってくれたので、何度か買い物のために休憩を取ってもらった。
私は15時半に売り子さんに一時的にワンオペ店番を頼み、リサーチ済みのサークルを少しだけ巡った。[10]

す07に構えた弊サークルの感覚だと、12時~14時半くらいと16時がピークだった。
16時台になると人が減り、16時40分頃に最後の購入者さんが来たと判断し、片付けに入った。
弊サークルは少し遅めに片付けをしたことになる。
周りが片付けを開始したのが16時~16時半あたり。

次回オフライン会場にサークル参加するときの理想形はサークル主1人+売り子さん2人の3人シフト制を組むと良いかと思った。
そうすれば、売り子さんの買い物チャンスを増やすことができる。

当日あってよかったもの

当日の会場であってよかったものを挙げる。
あったらよかったものも含む。

  • サークルスペースが書かれた紙
    • 配布されるので準備不要
    • ただし、凝ったデザインのポスターにしたかったら、事前準備する
  • 完全手ぶらセット
      • ほとんどのサークル出展者が使っていた
      • 周辺はサークル参加初心者ゾーンだったのかもしれない
      • 伝説の「あの布」もいつか使ってみたい
    • マスキングテープ
      • 紙同士や、紙とプラスチックを固定するのによい
      • 布との相性が悪く、布に紙を貼るには向かなかった
    • うちわ
      • 付属のシールを貼ってデコった
        • 宣伝効果があるかはわからないが、テンションは上がった
      • 表裏が分からないが、片方が明るい色、もう片方が暗い色だった
        • 白系統の服を着てたので、暗い方の面を歩行者に見えるように持った
    • サイリウム
      • 使いどころが分からない
        • ただし、うちわ最強理論によると、劇的なポテンシャルを秘めている
      • エリクサー症候群で持ち帰った
  • テーブルクロスの下に敷く滑り止め
    • 100均で買った(効果があるかはわからない)
  • A4サイズのnu boardと専用マーカー
    • ノート型のホワイトボード
    • 値段を書いた
      • 何ページかあるし、書き換えもできるので当日の運用に柔軟性がある
  • 見本立て2つ
    • 100均で頑丈そうなものを買った
    • 値段と見本をそれぞれ置いた
  • A4カードケース(硬質クリアケース)
    • お品書きや説明資料を入れて机に置ける
  • ポスター
    • 周りの常連っぽいサークルさんが掲示をやっていた
    • 本を並べるだけよりも、"同人誌即売会"感が出て良き
    • 掲示タイプは主に前面・卓上・後方があるようだった
      • 歩行者目線だと訴求効果は小さそうだった
        • 本の表紙よりは面積があり、目立つ
      • 前面タイプは混雑時に歩行者にはまず見えないと思った
        • ただし、対面に位置するサークル出展者への強力なアピールになっていた
  • 名刺
    • 通常、実名である必要はない[11]
    • 開発者個人としてのSNSやブログ紹介ができるカジュアルな名刺があるとよい
  • 飲み物&軽食(おやつなど)
    • 周りに迷惑の掛からない常識の範囲で
    • ゴミ袋に使うビニール袋は1~2枚持ってくるとよい
  • ハサミ
    • あると便利だが帰り道の神○川県警が怖い
      • 幸い(?)にして、人生で歩行中に職質を受けたことはない
      • 何かのはずみに職質を受けたときに刃物(文房具のはさみでも)持参だと帰宅困難者になると聞く
      • 有料レンタル or 使い捨てでもいいから、持ち歩きたくない一品である
    • 現実解として、小さめのを1つ持参で充分だと思う
  • 布テープ or ガムテープ
    • サークルスペースの紙を布に貼るのに使った
    • 最後の在庫を自宅へ発送するために段ボールの梱包にも使う
    • 忘れた場合、運営ブースで借りることができる
  • 着払い伝票
    • 対応業者さんのを事前に記入して持参するか、会場の荷捌所に時間制で出現する
  • ボールペン
    • 会場から宅配便で荷物を送る場合、箱が大量に出てくるときは、着払い伝票も複数枚書くことになる
    • 売り子さんと手分けして書くと速いのでサークル関係者の人数分あると便利
    • 必ず、着払い伝票を記入して段ボールに貼ってから並ぼう
      • 伝票を書くスペースに移動してから伝票を書くと、その間に待機列が伸びていき、列に並び直すのに時間がかかる
  • 台車
    • 在庫や持ち帰る荷物が多い場合、箱を持ち運べる何らかの器具は持参を検討するとよい
    • 荷物の発送はたくさんのサークルが利用するので、会場内の貸し出し台車が圧倒的に足りなくなる
    • 最後は仲間と己の体力を信じろ

おわりに

技術書典は層が厚く、老若男女が行き交い、全体的にレベルが高かった。
たとえば、意欲的な学生さんも出展していて、とても整理されたサークル参加情報を発信している。
https://qiita.com/wolfmagnate/items/2e7b687cad6f6b37f633

買いに来てくれた人の中には「あっ、これ"素人質問で恐縮ですが(全然素人じゃない専門家じゃん)"のやつだ」と鈍い私でも察せられる強者オーラを纏った人も居た。
私は世間知らずのため、お名前もご活躍も存じ上げないが、絶対、何らかの分野の中心および最前線で10年20年生き残ってきた人だと分かる。
いつも以上に真剣に答えないと柔和な雰囲気のなか巨大なマサカリが飛んでくる、そんな危険を感じるレベルの人たちにも来て頂き、恐縮である。

技術書典16にサークル側で参加してよかった。
協力してくれた売り子さん・助っ人さん、応援に買いに来てくれた知人・友人の善意に支えられた。
当日一緒のお祭り空間を作ってくれたすべてのサークル出展者さん、来場者さん、そして運営スタッフさんもありがとうございました。

弊サークルは大手サークルではないが、書籍を購入してもらったファンの人に対して、書籍の内容自体はオススメできる。
ニッチな技術論を求めている人に技術同人誌を届けられたと思う。
次回はもっと文章力を磨いて、よりシンプルな技術同人誌を書けるようにしたい。

その他参考にした記事

https://zenn.dev/iret/articles/6aef465d1135e6
https://qiita.com/hiroaki-u/items/b85c369ee2b6fe1a710c
https://amalog.hateblo.jp/entry/techbookfest7
https://note.com/yagitch/n/n5d6a57fb8f80

脚注
  1. 弊サークルのオンラインマーケットでの新刊販売リンク。 ↩︎

  2. 技術同人誌とは、ISBNコードがなく書店流通しない技術書のこと。 ↩︎

  3. Dockerイメージは@vvakameさんがdocker-review
    でメンテナンスしている ↩︎

  4. COI(利益相反)はありません。弊社および弊サークルは、技術書典運営とは何の関係もない一サークル出展者である。ここで運営さんに利益誘導することで、弊社および弊サークルに何らかの経済的報酬が発生したり、地位の優遇がされたりしない。 ↩︎

  5. 万が一、審査がリジェクトされた時には、別のプラットフォームに販路を変えて、訂正シールを内職でペタペタ貼って世に出せばよい、と判断した。 ↩︎

  6. 許容できる予算・赤字・在庫場所をそれぞれ事前検討して、本人が納得しているなら好きな部数を刷ればよいと思う。 ↩︎

  7. 優良在庫とは、将来、販売見込みのある在庫のこと。負けを認めない限り、主観的な負けは発生しない。 ↩︎

  8. 仕事のことだったら延々と深く対話できるのだが、初対面だとどうも共通の話題を見つけるのが苦手である ↩︎

  9. 「初対面の人に、アッ…エット…しか発せない私」これは誇張表現である。実際はもう少しマシだ ↩︎

  10. 厳密には、開幕のタイミングでも来場者が「す」の列まで到着しない間に1サークルだけ買い物をしてきている。 ↩︎

  11. ただし、日本の会社経営者にプライバシーはない。会社設立からずっと個人情報は晒され続け、会社宛てにダイレクトメールが投函され続ける。 ↩︎

Discussion