RFC 6291: IETFにおける頭字語「OAM」の使用に関するガイドライン
要旨
一見すると、「OAM」という頭字語(アクロニム)はよく知られており、内容もよく理解されているように思われる。しかし、詳しく調べてみると、繰り返し取り上げられる一連の問題が明らかになる。
本文書では、今後のすべてのIETFの文書でOAMについて言及する際の頭字語「OAM」(運用、運営管理、保守)の定義を提示する。「OAM」という用語の構成要素の定義を検討する中で、他の定義や頭字語についても言及する。
本文書の位置付け
本文書は、インターネットのベスト・カレント・プラクティスを文書化したものである。
この文書はInternet Engineering Task Force (IETF)の成果物である。IETFコミュニティのコンセンサスを表すものである。公開レビューを受けており、Internet Engineering Steering Group (IESG)によって公開が承認されている。インターネット標準の詳細については、RFC 5741のセクション2を参照のこと。
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著作権表示
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1. はじめに
本文書の主な目的は、頭字語「OAM」(運用、運営管理、保守)の定義を示し、今後、OAMについて言及するすべてのIETF文書で使用できるようにすることにある。
頭字語「OAM」は、データおよび通信業界で頻繁に使われている。これほど広く使われているため、明確に定義されていると思われるかもしれない。しかし、詳しく調べると、明確にする必要のある点がいくつか存在することが分かる。
このような重要な技術が曖昧に定義されていたり、あるいはこのような重要な概念について異なる理解を持った技術の方言が存在したりすれば、いずれ問題が生じることになる。
OAMのように「内容が豊富な」頭字語の使用法を理解しようとすると、2つのレベルの複雑さが明らかになる。まず、頭字語の各文字は、統合された機能の一部を表している。次に、頭字語自体が、その構成要素の総和以上のものを表している。
また、頭字語の各部分がどのように定義されているかという問題もある。本文書では、頭文字の各文字が何を表しているかを分析し、頭字語の解釈の可能性を示す。最後に、「OAM」という頭字語の解釈に関する推奨事項を示す。
「OAM」という用語をより広い範囲で理解するためのもう一つの有用な文書は、「An Overview of Operations, Administration, and Maintenance (OAM) Mechanisms」[OAM-OVERVIEW]に記載されている。
1.1. 用語
- 「Mgmt」 - マネジメント
- O&M - OAMとマネジメント
- OAM - 運用、運営管理、保守
- SDO - 標準開発組織
2. OAMの既存の使用法
このセクションでは、他のSDO(標準開発組織)におけるOAMの使用方法に関する情報を提供し、IETFにおける用語の使用方法を理解するために必要な背景情報を提供する。
2.1.他のSDOにおけるOAMの使用
運用と保守(OAM): ネットワーク障害の通知、パフォーマンス情報、データと診断機能を提供するネットワーク管理機能のグループ。ATM OAM ITU-T I.610[ITU-T-I.610]は、この「OAM」頭字語の拡張を用いる仕様の一例である。
運用、運営管理、保守(OAM): ネットワーク障害の通知、障害の特定、パフォーマンス情報、データと診断機能を提供するネットワーク管理機能のグループ。この頭字語が使用されている例としては、IEEE 802.3-2008[IEEE.802.3-2008]の条項57とITU-T Y.1731[ITU-T-Y.1731]がある。
ITU-T M.3010[ITU-T-M.3010]勧告では、運用システム機能は、マネジメント機能(つまり、TMN(通信マネジメント・ネットワーク)自体)を含む通信機能の監視/調整および/または制御する目的で、通信マネジメントに関連する情報を処理する機能ブロックとして定義している。
メトロ・イーサネット・フォーラムでは、通信事業者がネットワークをより効率的に運用できるように支援するOAMを、ネットワークのインストール、監視、トラブルシューティングを行うツールおよびユーティリティと位置付けいる。MEF 17[MEF-17]。
2.1.1. OAMの「O」
OAMの「O」は常に「運用(Operations)」を表す。しかし、「運用」という用語の定義と範囲にはいくつかの両面性(アンビバレンス)がある。
「運用」に関連するツールの例には、サービス・レベル・アグリーメント(SLA)の測定に使用するパフォーマンス監視ツール、ネットワーク内のノードとリンクの健全性を監視する障害管理ツール、ネットワーク・プロビジョニング・ツールなどがある。
2.1.2. OAMの「A」
OAMの「A」は「運営管理(Administration)」を表す。
「運営管理」ツールの例としては、ネットワーク検出やネットワーク計画立案ツールがある。
2.1.3. OAMの「M」
OAMの「M」は「保守(Maintenance)」または「マネジメント」を表す。
「保守」ツールの例としては、接続性の確認、ループバック、リンク・トレース、ネットワークまたはネットワーク要素の障害を監視および診断するために使用できる他のツールの実装が挙げられる。
勧告ITU-T M.20[ITU-T-M.20]では、接続の確立に関わるあらゆる要素を規定の制限内で設定および維持するために必要な運用全体をメンテナンスと定義している(勧告ITU-T M.60 [ITU-T-M.60]を参照)。その目的は、ネットワークの確立と維持に必要なメンテナンス運用を適切に計画およびプログラムすることである。
保守の概念の主な目的は、障害の発生と影響の両方を最小限に抑え、障害が発生した場合に適切な対応が確実に行われるようにすることである。
2.2. IETFにおけるOAMの使用
以下の例は、IETFのRFCで「OAM」の頭字語が拡張されたさまざまな用法を示している。この参照リストは網羅的なものではない。
- OAM = RFC 5586[RFC5586]における運用、運営管理、保守
- OAM = RFC 3429[RFC3429]における運用と保守
- OAM = RFC 4377[RFC4377]における運用とマネジメント
- O&M = RFC 1812[RFC1812]におけるOAMと保守
頭字語に4番目の文字が追加される場合もある:
- OAM&P = RFC 4594[RFC4594]における運用、運営管理、保守、プロビジョニング
3. 頭字語「OAM」の使用に関する推奨事項
IETFが推奨する頭字語「OAM」の拡張は以下の通りである。このセクションでは、頭字語「OAM」に加え、他の2つの推奨事項を示す。
- OAM - 運用、運営管理、保守
- O&M - OAMとマネジメント
- 「Mgmt」 - マネジメント
「OAM」(およびプロビジョニング)の頭字語の構成要素は、以下のように定義する。
-
運用(Operations) - 運用の活動は、ネットワーク(およびネットワークが提供するサービス)を稼働状態に維持するために行われる。これには、ネットワークの監視と問題の検出が含まれる。理想的には、これらの問題は、ユーザが影響を受ける前に検出すべきである。
-
運営管理(Administration) - 運営管理の活動には、ネットワークのリソースとその利用状況の追跡が含まれる。これには、ネットワーク・リソースと制御下のネットワークを追跡するために必要なすべての記録が含まれる。
-
保守(Maintenance) - 保守の活動は、修理やアップグレードの円滑化に重点を置いている。例えば、機器の交換が必要な場合、ルータにオペレーティング・システム・イメージのパッチが必要な場合、またはネットワークに新しいスイッチを追加した場合などである。また、保守には、管理対象ネットワークをより効率的に稼働させるための是正措置や予防措置(デバイスの構成はパラメータの調整など)も含まれる。
「プロビジョニング」は本文書の範囲外だが、完全性を保つために以下の定義が示されている。
- プロビジョニング - プロビジョニング活動には、提供されるサービスをサポートするためにネットワークのリソースを構成することが含まれる。これには、新規顧客がインターネット・アクセス・サービスを受けられるようにネットワークを設定することが含まれる場合がある。
一般的に、プロビジョニングは新規サービスを提供するためにネットワークを構成するために使用され、OAMは既存のサービスをサポートできる状態にネットワークを維持するために使用される。
OAMとマネジメントによって提供される機能とツールの組み合わせについて説明する必要がある場合、「OAMとマネジメント」と表記することが望ましい。頭字語が必要な場合は、O&Mを使用する。
「マネジメント」の略語が必要な場合は、「Mgmt」を使用する。本文書では、マネジメントの定義は行わない。
4. セキュリティに関する考慮事項
本文書は、他の文書における頭字語「OAM」の使用に関するガイダンスを提供するものである。この文書には、直接的なセキュリティ上の影響はない。
頭字語の誤解は、誤った仕様や実装につながる可能性があり、ひいてはプロトコルや展開されたネットワークのセキュリティ上の懸念がつながる可能性がある。したがって、OAMの意味を明確にすることは、将来の仕様の安定化に有益である。
5. 謝辞
以下の方々が、この文書に多大な貢献をした。
- M. C. Betts Consulting, Ltdのマルコム・ベッツ
- Alcatel Lucentのキム・ラム
- Alcatel Lucentのディーター・ベラー
- Huawei Technologiesのデヴィッド・ハリントン
ITU-T SG 15の専門家の方々によるレビューとコメントに感謝する。
6. 参考文献
[IEEE.802.3-2008] IEEE, "Information technology - Telecommunications and information exchange between systems - Local and metropolitan area networks - Specific requirements - Part 3: Carrier sense multiple access with collision detection (CSMA/CD) access method and physical layer specifications", IEEE Standard 802.3, December 2008.
[ITU-T-I.610] International Telecommunication Union, "B-ISDN operation and maintenance principles and functions", ITU-T Recommendation I.610, February 1999.
[ITU-T-M.20] International Telecommunication Union, "Maintenance philosophy for telecommunication networks", ITU-T Recommendation M.20, October 1992.
[ITU-T-M.3010] International Telecommunication Union, "Principles for a telecommunications management network", ITU-T Recommendation M.3010, February 2000.
[ITU-T-M.60] International Telecommunication Union, "Maintenance terminology and definitions", ITU-T Recommendation M.60, March 1993.
[ITU-T-Y.1731] International Telecommunication Union, "OAM functions and mechanisms for Ethernet based networks", ITU-T Recommendation Y.1731, February 2008.
[MEF-17] Metro Ethernet Forum, "Service OAM Requirements & Framework - Phase 1", MEF Technical Specification MEF 17, April 2007.
[OAM-OVERVIEW] Mizrahi, T., Sprecher, N., Bellagamba, E., and Y. Weingarten, "An Overview of Operations, Administration, and Maintenance (OAM) Mechanisms", Work in Progress, March 2011.
[RFC1812] Baker, F., "Requirements for IP Version 4 Routers", RFC 1812, June 1995.
[RFC3429] Ohta, H., "Assignment of the 'OAM Alert Label' for Multiprotocol Label Switching Architecture (MPLS) Operation and Maintenance (OAM) Functions", RFC 3429, November 2002.
[RFC4377] Nadeau, T., Morrow, M., Swallow, G., Allan, D., and S. Matsushima, "Operations and Management (OAM) Requirements for Multi-Protocol Label Switched (MPLS) Networks", RFC 4377, February 2006.
[RFC4594] Babiarz, J., Chan, K., and F. Baker, "Configuration Guidelines for DiffServ Service Classes", RFC 4594, August 2006.
[RFC5586] Bocci, M., Vigoureux, M., and S. Bryant, "MPLS Generic Associated Channel", RFC 5586, June 2009.
著者のアドレス
ロア・アンダーソン
Ericsson
メール: loa.andersson@ericsson.com
ユーブ・ファン・ヘルヴォルト
Huawei Technologies
メール: huub.van.helvoort@huawei.com
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ダン・ロマスカヌ
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スコット・マンスフィールド
Ericsson
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更新履歴
- 2025年2月2日
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