IPv6への移行 (ジェフ・ヒューストン)
以下は、ジェフ・ヒューストンのブログ『The IPv6 Transition』の日本語訳である。
2024年10月
著者: ジェフ・ヒューストン
私は2022年5月に、IPv6への移行について「まだ完了しないのか?」と問う記事を書いた。その時点では、移行はまだ完了していないかもしれないが、終わりが近づいているという楽観的な結論で記事を締めくくった。私は当時、IPv6への移行はジャンと終わるのではなく、じわじわと終わりを迎えるだろうと考えていた。それから数年が経ち、私たちがどこへ向かっているのか、そしてその理由について、いくつかの別の考えを盛り込み、この結論を修正したいと思う。
パブリック・インターネットにおけるIPv6への移行の現状は、依然として私たちを困惑させ続けている。IPv6プロトコルの仕様を初めて完全に規定したRFC 2460は、25年以上前の1998年12月に発行された。IPv6の目的は、IPv4アドレスが枯渇する可能性があるため、IPv4の後継プロトコルを規定することにあった。しかし、私たちは10年以上前にIPv4アドレスを使い果たしている一方で、インターネットは依然としてIPv4によって維持されている。IPv6への移行はすでに25年も続いているが、IPv4アドレスの枯渇の見通しと現実によって移行作業に緊急性が求められていたとすれば、私たちはすでに長い間、枯渇状態を経験し、それに慣れきってしまっている。おそらく、もう一度、この質問をするべき時が来たのかもしれない。IPv6への移行には、あとどれくらいかかるのだろうか?
APNICラボでは、10年以上にわたってIPv6の普及状況を測定してきた。インターネットのユーザ数の観点からネットワークを観察する測定方法を採用している。測定対象は、IPv6を使用する以外に公開サービスにアクセスする方法がないユーザの割合である。データはオンライン広告に埋め込まれた測定スクリプトを使って収集されており、広告は継続的にさまざまなエンドユーザを収集するように設定されている。
2014年から現在までのインターネットのユーザ数全体におけるIPv6の採用状況を示すIPv6採用報告を図1に示す。
一方、図1は、IPv6の採用が継続的に増加していることを示す典型的な「右肩上がり」のインターネット曲線の1つである。問題は、Y軸のスケールの値にある。2024年時点でも、IPv6のみのサービスにアクセスできるレベルは、インターネットのユーザ数全体の3分の1強にしか達していない。他のすべてのユーザは、依然としてIPv4のみでインターネットを利用している。
これは完全に異常な状況である。「新しい」IPv4アドレスの供給が枯渇してから10年以上が経過しているが、インターネットは空っぽの状態で稼働しているだけでなく、接続されたデバイス数は増加の一途をたどる中、崩壊することなく対応しなければならないという課題も抱えている。さまざまな推定があるが、2024年後半には約200億台のデバイスがインターネットを利用しており、インターネットのIPv4ルーティング・テーブルにはわずか30億3000万のユニークなIPv4アドレスが含まれているに過ぎない。当初のインターネットの「エンド・ツー・エンド」アーキテクチャでは、すべてのデバイスが個別のIPアドレスでユニークにアドレス指定されることが想定されていたが、今は平均7台のデバイスで1つのIPv4アドレスを共有している。そして、どうやらすべてうまく機能しているようだ。もし、「エンド・ツー・エンド」がインターネット・アーキテクチャの持続可能性の原則だとしたら、IPv4ベースのアクセスやサービスを利用するユーザに関しては、すべて終わっている!
図1 – IPv6の採用状況 - 2014年から現在まで、APNICラボのデータ
IPv6はこれらの問題に対処するために考案されたもので、プロトコル内の128ビットのアドレス・フィールドは、接続されたすべてのデバイスが独自のユニークなアドレスを使用できるだけの十分なアドレス空間を備えている。IPv6の設計は意図的に非常に保守的なものとなっていた。大まかに言えば、IPv6は単に「大きなアドレスを持つIPv4」である。フラグメント制御、アドレス取得プロトコル(ARPと近隣探索)、IPオプション・フィールドの変更が加えられているが、上位レベルのトランスポート・プロトコルに変更はない。IPv6は、プロトコル・スタックの単一レベルにおける目立たない変更となるように意図したもので、まったく新しいネットワーク・パラダイムへの大規模な移行を意図したものでは決してない。
IPv4に対する非常に控えめな漸進的変更という意味では、IPv6の設計は目的を達成したが、その過程でプロトコルの使用やパフォーマンスの限界の改善はほとんど提供されなかった。IPv6はIPv4より高速でも、多機能でも、安全でもなかった。IPv6の主な利点は、IPv4アドレスの枯渇という将来のリスクを軽減することだった。従来の市場運営という観点では、インターネットを含む多くの市場が将来のリスクに対して大幅な割引率を適用している。その結果、この第2のプロトコルの展開に要する費用が、コスト削減、収益増加、市場シェア拡大といった具体的なメリットをもたらさないことを考えると、この移行を実施する動機付けレベルは非常にばらつきがある。個々の行動の市場ベースの調整が不可欠なネットワークの環境において、デュアル・スタック・ネットワークの運用価値に関する見解の多様性は、関係者の消極的な態度と、移行の共通成果の進展の遅れにつながる。その結果、共通の切迫感は存在しない。
これを説明するために、図1に示された時系列データを見て、「IPv6の採用の増加傾向が現在のペースで続いた場合、すべてのデバイスがIPv6対応になるにはどのくらいの期間が必要なのだろうか?」という疑問を投げかけることができる。これは、図1で使用したデータ系列に重ねられた線形トレンドラインを配置し、このトレンドラインが100%に達する日付を探すことと同じである。2020年1月から現在までのこのデータセットに最小二乗法による最良の近似値を当てはめ、線形トレンドラインを使用すると、図2が得られる。
この予測では、この移行が完了するのは2045年後半、つまり20年ほど先の未来になると予測している。この予測の背景にある、さまざまなサービス・プロバイダ、消費者、ネットワーク・エンティティの行動を詳細にモデル化したものがないことに注意する必要がある。この予測を導く唯一の前提は、直近の過去を形成した要因が将来を見通す際にも変わらないということである。言い換えれば、この予測は単純に「明日は今日とほとんど変わらない」という想定に基づいている。
図2 – IPv6の採用 - 予測、APNICラボのデータ
図2に示された予測日はそれほど懸念すべきことではなく、この移行がさらに20年間継続すると予測しているという事実の方がこのモデルの問題である。IPv6のコンセプト全体が、インターネットに接続されたデバイス全体にわたって一貫したアドレス計画を回復することにあるとすれば、この一貫したデバイスの一意のアドレス指定モデルが2015年頃から2045年までの合計約30年間にわたって、保留状態になることは、そもそもこのようなデバイスの一意のアドレス指定の枠組みの役割や価値を疑問視することにつながる。もし、このような一貫したエンド・デバイス・アドレス・アーキテクチャなしでも、 30年間、完全に機能するインターネットを運用できるのであれば、なぜ、将来のある時点でアドレスの一貫性を回復する必要があると感じるのだろうか? アドレスの一貫性が必要でなければ、IPv6の存在意義とは何だろうか?
このIPv6移行には何か大きな問題がある。この記事ではその問題について検討したいと思う。
歴史を少し振り返る
1990年までに、IPに問題があることは明らかになっていた。当時のインターネットはまだ小規模だったが、成長パターンは指数関数的で、12か月ごとに2倍の規模になっていた。クラスBのIPv4アドレス・プールにストレスがかかり、何の是正措置も講じられなければ、このアドレス・プールは1994年に完全に枯渇することになった(図3)。
図3 – IPv4枯渇予測、フランク・ソレンスキー、1990年8月、第18回IETF議事録
当時、私たちはルーティング・システムにも負担をかけていた。1992年に導入されたルータには、今後12~18か月のルーティングの増加に対応できるだけのメモリしか持っていなかった。ルーティングとアドレス指定のこうした負担は、当時IETFでROAD(RFC 1380)の活動の下で総合的に取り組まれていた。
この問題に対処するため、IETFでは短期、中期、長期の対応策が採択された。短期的には、IETFはクラスベースのIPv4アドレス計画を廃止し、代わりに可変サイズのアドレス・プレフィックス・モデルを採用した。BGPを含むルーティング・プロトコルは、これらのクラスレス・アドレス・プレフィックスをサポートするために迅速に修正された。可変長のアドレス・プレフィックスは、アドレス割り当てプロセスに新たな負担を加えた。そこで、中期的にはインターネット・コミュニティは、各地域におけるアドレス割り当てと登録機能のきめ細かな運用にリソースを割くことができるように、地域インターネット ・レジストリ構造という組織的対策を採用した。これらの対策により、アドレス割り当ての具体性が高まり、割り当てプロセスがより厳格に調整され、適切なリソース割り当てを決定できるようになり、比較的保守的なアドレス割り当ての慣行がより厳密に適用されることになった。これらの対策により、アドレスの利用効率が大幅に向上した。ネットワーク・アドレス変換(NAT)を使用した「アドレス共有」という概念も、ISPの世界で一定の支持を得た。NATは、ISPにおけるアドレス管理プロセスを劇的に簡素化しただけでなく、アドレス消費全体に対する圧力を軽減する上でも大きな役割を果たした。
1990年代前半にこれらの対策が採用されたことで、差し迫った2年間の危機は、より管理可能な10年間の枯渇シナリオへと先延ばしされた。しかし、それらは長期的に安定した対応策とは考えられていなかった。当時、効果的な長期的対応策として、IPv4で使用されている32ビットのアドレス・フィールドを拡張することが本当に必要だと考えられていた。当時、コンピューティングの世界ではメインフレームからラップトップへの移行が本格化しており、より小型の組み込みデバイスへの展開の拡大と、さらなる小型化の展望が明らかになっていた。40億というアドレス空間は、今後数年間にコンピューティングの世界で起こり得る事態に対して、まったく十分な大きさではなかった。
しかし、アドレス空間が大幅に拡張された新しいネットワーク・プロトコルを検討するにあたり、IPv4システムの既存システムと後方互換性を持つような変更を加えることは不可能だった。その結果、取るべき対応について、いくつかの異なる意見が飛び交うこととなった。1つのアプローチは、流れを飛び越えて、OSIプロトコル・スイートのコネクションレス・トランスポート・プロファイルを使用するように切り替え、その過程でOSI NSAPアドレスを採用することだった。もう1つは、アドレス・フィールドのサイズを除いて、IPをできるだけ変更しないアプローチだった。また、IPモデルに大幅な変更を加えるという提案では、さまざまなアイデアが出されていた。
1994年までに、IETFは変更を最小限に抑えるアプローチに落ち着くことに成功した。それがIPv6である。アドレス・フィールドは128ビットに拡張され、フローIDフィールドが導入され、フラグメント化の動作が変更され、オプションのヘッダに組み込まれ、ARPはマルチキャストに置き換えられた。
結局のところ、IPv6にはIPv4にすでに存在していた機能以外の新しい機能は何もなかった。IPv6はIPの運用に大きな変更をもたらすものではなかった。IPv6は単にアドレスが大きくなっただけのIPだった。
移行(Transition)
当時、IPv6の設計は多くの注目を集めたが、ネットワークをIPv4からIPv6に移行するという概念は注目されていなかった。
IPv4の急速な普及を考えると、IPv6も同様に急速に普及するだろうという甘い期待があり、移行について深く考える必要はないと考えられていた。第1段階では、アプリケーション、ホスト、ネットワークがIPv4に加えてIPv6のサポートを追加し、インターネットがデュアル・スタック環境へと移行していくことが予想された。第2段階で、IPv4のサポートを段階的に廃止していくことができる。
この計画にはいくつもの問題があった。中でも最も深刻だったのは、リソース割り当ての問題である。インターネットは非常に急速に成長しており、私たちの努力のほとんどはその需要に追いつくことに費やされていた。ユーザの増加、容量の増加、サーバの増加、コンテンツやサービスの増加、より迅速なサービス、セキュリティの強化、防御の強化。これらすべてに共通するテーマは、規模である。私たちは、絶え間ない規模の拡大要求に応えることにリソースを集中させるか、IPv6の展開に取り組むかのどちらかしか選べなかった。私たちがすでに講じてきた短期・中期的な対策は、アドレス枯渇という問題の緊急性に対処するものであったため、優先順位の観点からは、IPv6移行よりもスケーリングの方が業界にとって重要な優先事項だった。1995年から2005年までの 10年間、IPv6の導入は業界のメインストリームから注目されることなく、静かに眠っていた。IPv4アドレスはまだ利用可能であり、クラスレス・アドレス(CIDR)とはるかに保守的なアドレス割り当て慣行により、IPv4アドレス枯渇の見通しは数十年以上先送りされていた。当時、業界全体の注目を集めたのは、インターネットにとって差し迫った多くの運用上および政策上の問題だった。
しかし、これは束の間の休息期間に過ぎなかった。2000年代半ば、iPhoneとその仲間たちの登場によって、スケーリングの問題は桁違いに加速した。突然、数千万から数億の家庭や企業の規模の問題ではなく、数十億の個人とその個人用デバイスという規模の問題に変貌し、そこにモビリティが加わった。近い将来の兆しとして、こうした「スマート」デバイスの生産規模は急速に拡大し、年間数億台に達していた。IPv6が不可欠だった理由がすべて結実しつつあった。しかし、この段階では、それに対応するためにIPv6を展開する準備ができていなかった。その代わり、IPv4アドレス・プールの消費を急速に増やし、IPv4で大規模モバイル・サービスの最初の波を支えた。当時のモバイルの世界では、デュアル・スタックは選択肢ですらなかった。3Gインフラストラクチャへの投資にはかなり奇妙な経済原理が働いており、3Gプラットフォームにおけるデュアル・スタック・インフラストラクチャは非現実的だった。そのため、モバイル・サービスの最初の波を支えるためにIPv4が使われた。モバイル・サービスの普及が勢いを増すにつれt、IPv4とNATに急速に移行した。
同時に、インターネットの非中央集権的な性質がIPv6への移行の取り組みを妨げていた。IPv6をネットワーク・スタックに統合しているホストがいなければ、IPv6サービスのアプリケーション・サポートを開発しても意味がない。ISPがIPv6サポートを提供していないのに、ホストのネットワーク・スタックにIPv6を追加することに何の意味があるのだろうか? また、ホストもアプリケーションもIPv6を利用しないのであれば、ISPがIPv6を展開しても意味がない。現時点で、IPv6に関しては何も起こっていない。
この相互依存の行き詰まりを打破しようと最初に取り組んだのは、オペレーティング・システムの担当者たちで、完全に機能する IPv6スタックが、Linux、Windows、MAC OSのさまざまなバージョン、そしてiOSとAndroidのモバイル・ホスト・スタックに追加された。
しかし、これだけでは、移行が決定的な推進力を得るには不十分だった。この状況はIPv6の状況を悪化させ、移行を数年遅らせたとも言える。問題は、IPv6対応ホストにはIPv6を使いたいという欲求がいくらかあったことだ。しかし、これらのホストはIPv4の海に浮かぶIPv6の孤立した「島」だった。その後、移行作業は、IPv4ネットワークを介してIPv6パケットをトンネル化するさまざまなトンネリング手法に集中した(図4)。両方のトンネル端点を制御できる場合、手動で実行できるが、それほど便利な方法ではなかった。私たちが求めていたのは、これらすべてを細部にまで配慮した自動トンネリング・メカニズムだった。
図4 – IPv6移行のフェーズ1
最初に勢いを得たアプローチは6to4だった。6to4の最初の問題は、パブリックIPv4アドレスを必要とするため、NATの背後にあるIPv6ホストにサービスを提供できないことだった。さらに重大な問題は、ファイアウォールがこれらの6to4パケットの処理方法が分からず、疑わしい場合のデフォルトのアクションはアクセスを拒否することだった。そのため、パブリック・インターネットにおいて6to4接続が平均20%から30%失敗し、メインストリームのサービスとしてはほとんど使い物にならなかった。NATトラバーサルの問題もあったため、NAT検知とトラバーサルを行う第2の自動トンネル・メカニズムが考案された。そのメカニズムであるTeredoは失敗率の点でさらに悪く、Teredo接続試行の約40%が失敗することが観測された。
これらのフェーズ1のIPv6移行ツールは信頼性が極めて低いだけでなく、パフォーマンスが極めて低く、機能したとしても接続が不安定でIPv4よりも低速だった。この結果は不公平ではあるものの、おそらく予測できたことだろう。不評だったのは移行メカニズムだけでなく、IPv6自体にも非難が集まった。
その結果、2011年頃まで、IPv6はパブリック・インターネットの本流ではほとんど無視されていた。少数のサービス・プロバイダが IPv6の導入を試みたが、いずれの場合も、プロバイダとそのベンダが解決しなければならない独自の課題を抱えており、IPv6上の豊富なコンテンツとサービスがなければ、この取り組み全体の価値は非常に疑わしいものだった! そのため、大したことは起こらなかった。
ついに動き出した!
ISP業界がIPv6への移行に重点的に注意を払い始めたのは、2011 年の初めにIANAが管理する中央IPv4アドレス・プールが枯渇し、最初のRIRであるAPNICがその年の4月に一般割り当てプールが枯渇してからのことだった。
ほぼ同じ時期に、モバイル業界は4Gサービスへの移行を開始した。3Gと4Gの本質的な違いは、ゲートウェイからデバイスまでの無線アクセス・ネットワークを介したPPPトンネルがなくなり、IP環境に置き換えられたことである。これにより、4Gモバイル・オペレータは追加コストなしにデュアル・スタック環境をサポートできるようになり、これがIPv6の大きな推進力となった。IPv4をIPv6にマッピングすること(またはその逆)は、ネイティブなデュアル・スタックと比較して、サービス・プロバイダにとって脆弱で非効率的である。2012年から2018年の初めまでの6年間で、IPv6の導入レベルは0.5%から17.4%に上昇した。この段階では、多くのネットワークがネイティブ・ノードでIPv6をサポートしていたため、IPv6はもはやトンネルが主流ではなかった(図5)。
図5 – IPv6移行のフェーズ2
ここで問題となったのは、この移行フェーズが遅れたことである。この移行の目的は、IPv4アドレスがなくなる前に作業を完了し、すべてのネットワークとホストにIPv6を装備することだった(図6)。
図6 – IPv6移行計画
2012年までに私たちがたどり着いた状況は、はるかに困難なものだった。利用可能なIPv4アドレス空間のプールは急速に枯渇し、地域のアドレス・ポリシー・コミュニティは、残りのアドレス・プールをかき集めるために、非常に保守的なアドレス割り当て慣行を導入していた。同時に、IPv6への移行はごくわずかだった。IPv6への移行計画は、ほとんど破綻していた (図7)。
図7 – 2012年のIPv6移行計画
NATとアドレス不足の圧力
この時点で、インターネットには選択の余地はなく、IPv6が勢いを増すのを待つ間、IPv4ネットワークの成長を維持するため、私たちはNATを頼りにした。NATは、IETFにとって難しい課題だった。一貫したエンド・ツー・エンド通信の概念は、ネットワーク内のNATのようなアクティブなミドルウェアを排除することだった。NATはこのモデルを崩壊させ、ネットワーク・エレメントへの決定的な依存性を生み出した。NATはネットワークからネットワークの柔軟性の要素を取り除き、同時にトランスポートの選択肢をTCPとUDPに絞った。
IETFは、NATの動作を標準化するあらゆる取り組みに抵抗した。NATの動作の標準仕様によって、NATの使用が正当化されるのではないかと恐れたのだろう。これは、多くのIETF参加者がこの結果を避けたいと強く望んでいた。このような嫌悪感によって、NAT導入の推進力が弱まることはなかった。IPv4アドレスは枯渇しており、IPv6の見通しは程遠いため、NATが最も便利なソリューションだった。この措置によって実際に達成されたのは、さまざまな実装において、NATの動作に大きなばらつきが生じることであり、特にUDPの動作に関して顕著だった。そのため、単純な2者間のTCP接続以上の複雑な処理を行おうとする場合、アプリケーションはネットワーク・パス上のNAT(または複数のNAT)の種類を動的に検出する必要があり、ソフトウェアの複雑さというコストが発生している。
このような問題にもかかわらず、NATはIPv4アドレスの枯渇に対する低摩擦の対応策であり、外部依存を招くことなく個別導入が可能だった。一方、IPv6の導入は、他のネットワークやサーバでもIPv6を導入することに依存していた。NATは、16ビットのソース・ポート・フィールドを使用できるだけでなく、NATバインディングを時間共有することで、さらに高いレベルのアドレス効率を実現したため、クライアントのアドレス空間を非常に効率的に使用できた。数百億台のデバイスが接続されたインターネットを維持できた大きな理由は、NATの普及にある。
サーバのアーキテクチャも変化していた。ウェブ・サーバの世界にTLS(トランスポート層セキュリティ)が導入されたことで、TLSセッション確立の時点で、クライアントが接続先のサービス名をサーバ・プラットフォームに通知するポイントが設けられた。これにより、TLSがサービス・ポイントの信頼性を検証できるようになっただけでなく、サーバ・プラットフォームが単一のプラットフォーム(および単一のプラットフォームのIPアドレス)から非常に大規模なサービスをホストし、このTLSサーバ名表示(SNI)を介して個別のサービス選択を選択できるようになった。その結果、サーバ・プラットフォームはセッション・ハンドシェイクにおいて、名前ベースの識別子(DNS名)によってサービス選択を実行し、単一のサーバ・プラットフォームで多数の個別のサーバにサービスを提供できるようになった。NATの広範な使用とサービス・プラットフォームにおけるサーバ共有の使用の影響により、IPv4アドレス環境全体の負担が軽減された。
IPv4におけるアドレス不足の圧力の変化を示すための最も良い方法の1つは、過去10年間のアドレス移転の市場価格を見ることである。不足の圧力は市場価格に反映される。IPv4 アドレスの取引価格の時系列を図8に示す。
図8 – IPv4アドレス移転の市場価格 (Hilco Streambankのデータ)
新型コロナウイルス感染拡大の時期は、2021年にかけての急激な価格高騰と重なったが、その後価格は1アドレスあたり30から40ドルの間まで下落し、価格は1アドレスあたり26~42ドルの間で16ドル以上の幅があるものの、2024年を通じて安定している。この価格データは、2024年においてもIPv4アドレスの需要が依然としてあることを示しているが、需要のレベルは供給可能なレベルと均衡しているように見える。これは、2024年のアドレス市場では希少性プレミアムは認められないことを意味している。このデータは、16ビットのポート・アドレス空間を利用することでIPv4アドレスの効率性を向上させるNATの有効性と、共有アドレス・プールの使用による追加的な利点を示している。
しかし、IPv4アドレスの不足圧力を緩和したのはIPv4だけではない。図1は、過去10年間でIPv6の採用レベルが上昇し、インターネット・ユーザの約40%を占めるようになったことを示している。ブラウザを含むほとんどのアプリケーションは、Happy Eyeballsをサポートしている。これは、サービス・トランザクションのサポートに両プロトコルが利用可能な場合、IPv4よりもIPv6を優先することを示す簡単な表記法である。ネットワーク・プロバイダがIPv6サポートを展開するにつれ、利用可能な場合にはアプリケーションがIPv6を使用することを優先するため、NAT使用のためのIPv4アドレス・プールへの圧力が軽減される。
あとどれくらいかかるのか?
現在、この移行の途中にあるわけだが、次の疑問は、この移行にはあとどれくらいの期間が必要なのだろうか?
これは単純な質問のように思えるが、もう少し詳しく説明する必要がある。そもそも移行が終了したと宣言できる「最終状態」とはどのような状態なのだろうか? そして、この移行が「完了」するのはいつだろうか? インターネット上でIPv4ベースのトラフィックがなくなるときだろうか? それとも、インターネット上のパブリック・サービスにおいてIPv4が不要になった時点を指すのだろうか? それとも、IPv6のみのサービスが実行可能になる時点を意味するのだろうか? あるいは、IPv4アドレスの市場を見て、IPv4アドレスの価格が完全に崩壊した時点をこの移行の終点と定義すべきだろうか? おそらく、より現実的な立場を取ることも可能で、インターネットからIPv4アドレスとその利用が完全に消滅した時点を「完了」と見なすのではなく、IPv4の利用がもはや必要なくなった時点を「完了」と定義することもできる。これは、サービス・プロバイダがIPv6のみを使用し、IPv4アクセス・メカニズムをまったくサポートしないインターネット・サービスを運用できるようになった時点で、この移行が完了したと見なすことを意味する。
これは何を意味するのだろうか? 確かに、ISPはIPv6を提供する必要がある。しかし、接続されたすべてのエッジ・ネットワークや、それらのネットワーク上のホストもIPv6をサポートする必要がある。結局のところ、移行が完了した時点で、ISPはIPv4サービスがない。また、このISPのクライアントが利用するすべてのサービスは、IPv6経由でアクセス可能でなければならないことも意味する。そう、これにはポピュラーなクラウド・サービスやクラウド・プラットフォーム、すべてのコンテンツ・ストリーマー、すべてのコンテンツ配信プラットフォームが含まれる。また、Slack、Xero、Atlassianなどの専用プラットフォームも含まれる。インターネット協会のPulseページで公開されているデータによると、上位1000のウェブサイトのうち、IPv6経由でアクセスできるのは47%に過ぎず、明らかに多くのサービス・プラットフォームにまだ作業が必要であり、さらに時間がかかりそうだ。
米国のIPv6導入データを見ると、もう1つ興味深い異常値が見られる(図9)。
図9 – 米国におけるIPv6の導入状況 - 2014年から現在まで、APNICラボのデータ
このデータによると、米国におけるIPv6の使用率は2019年半ば以降、一定のままとなっている。このインターネットの一部で、IPv6への移行を継続する更なる勢いがないのはなぜだろうか? 根本原因は、インターネットのアーキテクチャの基本的変化にあると私は考えている。
インターネット・アーキテクチャの変遷
インターネットのアーキテクチャにおける大きな変化は、厳格なアドレス・ベースのアーキテクチャからの転換である。クライアントがサーバやサービスと通信を行うために、永続的でユニークなパブリックIPアドレスを使用する必要はもはやない。また、サーバがクライアントにサービスやコンテンツへのアクセスを提供するために、永続的でユニークなパブリックIPアドレスを使用する必要ももはやない。すべてのクライアントとすべての個別のサービスに番号を割り当てるユニークなパブリック・アドレスが必要なくなれば、アドレス不足の問題はまったく異なる次元となる。
このアーキテクチャの変化が意味するものを示す手がかりは、インターネットの内部経済の変化を見れば明らかである。IPの当初のモデルは、接続されたデバイスが相互に通信できるようにするネットワーク・プロトコルだった。ネットワーク・プロバイダは、クライアントがコンテンツを消費し、サービスにアクセスできるようにするための重要なリソースを提供していた。当時、ネットワーク・サービスのコストがインターネットの運用コスト全体の大半を占めており、ネットワーク領域では距離が主要なコスト要因だった。距離のサービスを提供するネットワーク・プロバイダ(いわゆる「トランジット・プロバイダ」)が支配的なプロバイダだった。ネットワーク・サービス・プロバイダの相互接続、顧客とプロバイダの関係、さまざまな形態のピアリングと交換の問題に取り組むのに多くの時間を費やしていたのも当然のことだった。インターネット・サービス・プロバイダは、希少な距離容量というリソースの配分において、事実上ブローカーとしての役割を果たしていた。これが典型的なネットワーク経済だった(図10)。
図10 – 従来のネットワーク経済
長年にわたり、通信サービスに対する需要は供給量を上回り、利用可能な容量に対する需要を調整するための分配機能として価格が使われてきた。しかし、コンピューティングと通信のコストを継続的に変化させるムーアの法則の影響により、こうした状況は一変した。
最も顕著な変化は、集積回路に搭載されたトランジスタの数である。図11は、1970年以降のトランジスタ数の推移を示している。
図11 – トランジスタ数の推移 – <https://assets.ourworldindata.org/uploads/2020/11/Transistor-Count-over-time.png>より
2024年に生産された最新のチップは、最大920億個のトランジスタを搭載した3nmチップのApple M3である。AIインフラストラクチャの電力供給を除けば、今日では処理能力は豊富で安価なリソースである。
集積回路の製造技術の継続的な改良は、ストレージのサイズと単価に影響を与える(図12)。メモリの速度はここ10年以上にわたって比較的一定だが、ストレージの単価は数十年にわたって指数関数的に下落している。ストレージも豊富なリソースである。
図12 – コンピュータのメモリとストレージの単価の推移 – <http://aiimpacts.org/wp-content/uploads/2015/07/storage_memory_prices_large-hblok.net.png>より
こうした処理能力の変化は、通信コストと容量にも大きな影響を与えている。光ファイバ通信システムの制約要因は、デジタル信号プロセッサと変調器の能力である。シリコンの能力が向上すると、送信機と受信機の信号処理能力を向上させることが可能となり、光ファイバ回路における波長あたりの容量を増やすことができる(図13)。
図13 – ファイバ容量の推移 - <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/>より
処理能力、ストレージ、伝送能力の不足から過剰への変化は、インターネットのサービス・モデルに大きな影響を与えた。このモデルは、オンデマンドのプル型から事前プロビジョニングのジャストインケース・モデルへと変化した。今日では、コンテンツやサービスの複製をユーザがいるネットワークのエッジ近くに配置し、これらのエッジのポイント・オブ・プレゼンス(PoP)から、隣接するアクセス・ネットワークのユーザにできるだけ多くのコンテンツやサービスを配信しようとしている。処理とストレージの基礎となるコストの変化は、さまざまな形態のコンテンツ配信ネットワーク(CDN)拡大の原動力となり、現在ではインターネット上のコンテンツやサービスのほぼすべてがCDNが配信している。これにより、ネットワークからの距離という要素を排除することが可能となり、ほとんどのネットワーク・トランザクションは短いスパンで行われるようになった。
これらの変化の全体的な結果として、顧客へのコンテンツやサービスの提供における距離の排除が実現した。遅延の大きい接続でトランスポート・プロトコルを運用する際の非効率性を排除し、5Gモバイル・ネットワークの潜在的な容量を活用することが可能となった。今日のアクセス・ネットワークは、より大きな総容量で運用され、サービス配信プラットフォームとクライアントが近いため、トランスポート・プロトコルはこの容量を活用できる。低遅延接続上で運用されるトランスポート・セッションもはるかに効率的なため、より容量の大きい回線を使用して、より短い距離でサービスがやり取りされることで、インターネットの速度が大幅に向上する。
「より大きく」そして「より速く」なるだけでなく、通信、処理、およびストレージ容量が豊富なこの環境は、規模の経済が重要な業界で存在している。そして、この環境の多くは、個別に資本化することが不可能な集合資産、つまり広告市場を資本化することで賄われている。これらの変化の結果、以前は一部の少数の人しか利用できなかった贅沢なサービスが、誰もが利用できる手頃な価格のマス・マーケット商品サービスへと変化した。
しかし、それは単により大きく、より速く、安価になったというだけではない。デジタル環境における基本的な情報が豊富になったことで、インターネットの経済にも変化をもたらした。通信能力という希少なリソースの調停者としてのネットワークの役割は消滅した。それに応じて、インターネットの経済的焦点は、プロトコル・スタックの上位からアプリケーションやサービスへと移行した(図14)。
図14 – ネットワーク経済の変容
さて、IPv6への移行の状況に戻ろう。最初にデュアル・スタック・プラットフォームへの移行の投資(そして最終的にIPv4のサポートを完全に廃止する投資)を行うのは、ネットワークとネットワーク事業者に委ねられている。しかし、この変化はコンテンツやサービスの世界では目に見えない、あるいは重要でさえない。IPv4とNATが適切にキャリッジ機能を果たしている場合、コンテンツやサービス事業者がネットワークに割増料金を支払って、デュアル・スタック・プラットフォームを導入する動機はない。
サービス識別子として機能するのはドメイン名であり、オンライン・サービスの信頼性をユーザが検証する際の基盤となるのもドメイン名である。そして、コンテンツやサービスに関して、「最適な」サービス配信ポイントにユーザを誘導するために利用されるのがDNSである。この観点からすると、IPv4であれ、IPv6であれ、アドレスはサービスとそのユーザにとって重要なリソースではない。この形式のCDNネットワークの「通貨」は名前である。
では、2024年、私たちはどこにいるのだろうか? 今日のパブリック・インターネットは、CDNを利用してコンテンツとサービスを可能な限りユーザの近くにプッシュするサービス配信ネットワークが主流となっている。複数のサービスを基盤となるサービス・プラットフォームに多重化することは、TLSとTLSハンドシェイクのSNIフィールドを使用したサービス選択に大きく関連付けられたアプリケーション・レベルの機能である。私たちは、「最も近い一致する」サービス・プラットフォームの選択を行うためにDNSを利用している。CDNの目的は、ユーザが存在するアクセス・ネットワークに直接接続することであり、その結果、CDN内のBGPルーティング・テーブルの平均ASパス長は1に収束するようになっている。この点において、DNSはルーティングの役割に取って代わっている。今日のインターネットでは「名前」をルーティングすることはできないが、そのような名前付きデータ・ネットワークとほぼ同様の方法で動作していることは間違いない。
このアーキテクチャの変化は、インターネットに及ぼす影響は他にもいくつかある。好むと好まざるとにかかわらず(TLSの堅牢性については批判すべき点が数多くあるが)、TLSがインターネットの真正性を支える唯一の基盤である。DNSSECは今のところあまり勢いを得ていない。DNSSECは複雑すぎ、不安定すぎ、そして大多数のサービスとそのユーザにとって遅すぎるため利用できない。DNSSECの利点を高く評価し、欠点があっても利用する価値があると考えている人もいるが、ほとんどの名前保有者やユーザはそうではない。DNSSECについてどんなに熱心に説いても、この状況は変わらないだろう! 重要なのは、名前とIPアドレスのマッピングではないという見解を裏付けている。重要なのは、ネームサービスがその名前の保有者によって運営されていることを証明できることである。次に、BGPルーティング・プロトコルでやり取りされる情報を保護する枠組みであるRPKIは、ルーティングのないサービス・ネットワークでは、実際にはそれほど役に立たない。
これらの観察結果から示唆されるのは、IPv6への移行が遅々として進まないのは、この業界が慢性的に愚かだったり近視眼的だったりするからではないということだ。ここでは何か別のことが起こっているのだ。IPv6は、エンド・ユーザのサービス提供環境の多くにとって不可欠なものではない。私たちは、1980年代のアドレス・ベースのアーキテクチャを採用し、アドレスから名前への識別トークンへのコア依存に変更することで、それを10億倍以上に拡張することができた。1980年代のアドレス・ベースのアーキテクチャ(アドレスが長くなるという、厄介で馬鹿げた違いを除いては!)に飛び移ろうとしても、実際に持続的なメリットはなかった。
長期的には、この先どうなるのだろうか? 私たちはあらゆるものをネットワークからアプリケーションへと押し出している。伝送インフラストラクチャは、ありふれた商品になりつつある。ネットワーク共有技術(多重化)の重要性は低下している。ネットワークやコンピューティング・リソースが豊富にあるため、もはや消費者をサービス提供ポイントに連れて行く必要はなくなった。代わりに、私たちは消費者向けにサービスを提供し、コンテンツ・フレームワークを使用してサーバやサービスを複製している。コンピューティングとストレージが豊富にあるため、アプリケーションは、リモートで操作されるサービスへの単なる窓口というだけでなく、サービスそのものになりつつある。
もしそうであれば、ネットワークは今後重要性を失っていくのだろうか? ここ数十年の間に、ネットワーク中心の機能は取り除かれ、ありふれたコモディティ・パケット・トランスポート・メディアに置き換えられてきた。それは高速で安価だが、この共通の基本サービスに独自の要件を追加するのはアプリケーション次第である。これらの追加機能をエッジに押し出し、最終的にはネットワークから完全に排除すると、単純なダム・パイプだけが残ることになる!
これは何も目新しいことではなく、インターネット自体が前身の電話網のインフラストラクチャに与えた混乱の延長線上にあると主張することもできる。インターネット・アーキテクチャは、ネットワークの機能をコアから切り離し、同期型リアルタイムのエンド・ツー・エンドの仮想回線のネットワーク・サービスを、ネットワーク上でパケットをドロップ、複製、並べ替え、再調整できる極めて基本的なデータ・パケット配信サービスに置き換えた。
機能的で信頼性の高いエンド・ツー・エンドの通信サービス・モデルを構築するのは、接続されたデバイスに組み込まれた制御機能(TCPプロトコルなど)に委ねられていた。インターネット・ホストは、ネットワークを基本的な(そして不完全な)パケット配信サービスのレベルとしか評価していなかった。ネットワークのクライアントは、すでにエッジ・デバイスによって提供されているネットワーク・レベルのサービスに対して、割増料金を支払うことを望まなかった。
その結果、ネットワークの役割と価値は劇的に縮小し、この役割の低下により、ネットワーク事業者は、サービス品質対応による可変的なサービス対応や、あるいは基本的なIPv6プロトコルのサポートであっても、サービス強化による追加収益の確保が難しくなっている。
この時点で、インターネットを「定義」するものは何か? と問うのは有益である。「共通の共有伝送ファブリック、共通のプロトコル群、共通のプロトコル・アドレス・プール」という従来の答えは、今日でもまだ当てはまるのだろうか? それとも、今日のネットワークは、「共通の参照メカニズムを使用する共通の名前空間を持つ、さまざまなサービスの集合体」に近いものだろうか?
今日のインターネットにとって何が重要かを考えるとき、エンドポイント・プロトコル・アドレスの選択は本当に重要なのだろうか? 普遍的かつユニークなエンドポイントのアドレス指定は、1980年代の概念であり、時代遅れとなったのだろうか? ネットワーク・トランザクションがローカライズされるのであれば、クライアントやサービスにとって、ユニークでグローバルなエンドポイントのアドレス指定が果たす役割とは何だろうか? また、ユニークなエンドポイント・アドレスの役割を見つけられないのであれば、なぜ悩む必要があるのだろうか? 誰がこの概念を撤廃するのを決めるのだろうか? それは市場の機能であり、ローカル・アドレスを使用するネットワークがさらに低コストで運用できれば、競争上の優位性を獲得できるのだろうか? それとも、キャリッジ・サービスはすでに非常に安価となっており、ユニークなグローバル・アドレスの最後の痕跡を捨てることによる相対的なメリットは悩む価値がないほど小さいのだろうか?
このような疑問について考えている間に、ネットワークにおける参照フレームワークの役割とは何だろうか? 共通の参照空間がなければ、どうすれば有益なコミュニケーションができるのだろうか? 参照フレームワークについて考えるとき、「共通 (common)」とは何を意味するのだろうか? 「あいまいな」人間の言語空間と、厳密に制約された決定論的なコンピュータ・ベースの記号空間をどのように結び付けることができるのだろうか?
確かに、ここでは考えるべきことがたくさんある!
では、IPv6への移行はどこに向かうのだろうか? 私が思うに、今いるデュアル・スタックの世界は、かなり長い間は、ここから抜け出せないのではないだろうか。すぐにでも移行を完了してこの状況を解決しようという意欲はなさそうだし、手を引いてIPv4のみのネットワークに戻そうという意欲もまったくない。これが、現状であり、IPv6への移行が部分的に進んではいるが、それは永続的なものに思えてしまう残念な状況である! そして、この環境における価値の大部分は、サービス、コンテンツ、そして今日ではAIを装った生成コンテンツへと、プロトコル・スタックの上位へと移行し続けているため、何十年もの間、未解決のまま放置されてきた問題に継続的に注意を向け続ける可能性はほとんどない。
このIPv6への移行がいつ終わるのかという問いは、その答えの相対的な経済的価値が低下しているという大局的な見地に沿って、関心や注目のレベルを低下させる問いである可能性が高い! シリコンの豊かさは、少数の選ばれたコンテンツやサービス事業者がかつてのパブリック通信プラットフォームの大部分を私営化することを可能にし、そうすることで、彼らはパブリック・インターネットをエッジ周辺まで縮小することに成功した。つまり、IPv6移行に関する問いへの答えは、「誰が気にするんだ?」となる可能性があることを意味している。
更新履歴
- 2024.10.30
- 2024.11.3
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