2025年 ウェアラブルセンサデータ x 基盤モデルの研究紹介

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株式会社松尾研究所でインターンをしているYukiです。本記事は、松尾研究所 Advent Calendar 2025の記事です。

今回のテックブログでは、近年の「ウェアラブルセンサデータ x 基盤モデルの研究紹介」をします。

近年ウェアラブルデバイスがますます普及してきております[1]。スマートウォッチ(Apple Watch[2], Google Pixel Watch[3])やリング型デバイス(Oura Ring[4])などの市販品を身につける方もいらっしゃいます。先日、AppleからイヤホンであるAirPods Pro 3[5]で、新たに心拍数センサが追加されました。

このような背景の中で、基盤モデルでウェアラブルセンサデータをどの程度解析できるのか2つの論文を通して紹介します。

論文紹介:ウェアラブルデバイスデータx基盤モデルの2つの研究

ここでは、2024年後半から2025年にかけて発表された、2つの論文を紹介します。

1. Scaling wearable foundation models [6]

「ウェアラブルデータにおけるScaling Law(スケーリング則)を示した論文」

図1: Scaling wearable foundation modelsの概要(出典: [6:1]

  • 概要:
    • Google Researchらが発表。ウェアラブルセンサデータにおいて、計算量・データ量・モデルサイズを増やした際の性能向上(スケーリング則)を体系的に検証した論文。
  • 手法 (LSM: Large Sensor Model):
    • データ: 16.5万人以上、4000万時間という過去最大級のマルチモーダルデータ(PPG, 加速度, EDA, 皮膚温, 気圧)を使用。
    • アーキテクチャ: Vision Transformer (ViT) ベースのMasked Autoencoder (MAE)。300分の時系列データを画像のようにパッチ化して入力。
    • 学習タスク: ランダムにマスクされた信号の再構成(In-painting)。
  • 主な結果:
    • Scaling Lawの確認: データ量とモデルサイズを増やすことで、欠損値補完や予測の損失がべき乗則に従って減少することを確認。
    • 飽和点の発見: 約1,000万時間を超えると性能向上が鈍化(飽和)する傾向が見られ、モデルサイズを大きくするにつれて、オーバーフィッティングを防ぐためにかなり多くのデータ量が必要。
    • 下流タスク: 活動認識などで、教師あり学習モデルを圧倒し、少量のラベルデータでも高い精度を実現(Few-shot学習)。

2. SensorLM: Learning the language of wearable sensors [7]

「センサデータを自然言語で表現できる基盤モデル」

図2: SensorLMの概要(出典: [7:1]

  • 概要:
    • センサデータを数値としてだけでなく、自然言語記述と紐づけて学習させることで、ゼロショットでの活動認識や説明可能な推論を実現した論文。
  • 手法 (SensorLM):
    • 統計的、構造的、意味的なセンサデータをテキスト化: ラベルのない大量のセンサデータに対し、以下の3種類のテキスト記述を自動生成してペアデータを作成。
      1. 統計的: 「心拍数の平均はXX、最大はYY」
      2. 構造的: 「XX分から急激に上昇トレンドがある」
      3. 意味的: 「屋外でのサイクリングを行っている」
    • モデル: マルチモーダルモデル(CLIP, CoCaなど)を拡張し、センサエンコーダとテキストエンコーダを統合。
  • 主な結果:
    • ゼロショット性能: 学習データにない未知のアクティビティ(例:スノーボード)も、言語的な概念の近さ(スキーに近い)を利用して分類可能に。
    • Sensor Captioning: センサの波形を入力すると、「力トレーニングは765分から796分の間に検出された。」といった自然言語の説明を出力可能。

おわりに

本記事では、ウェアラブルセンサデータを扱う基盤モデルの最新動向として、スケーリング則の実証と、センサデータxテキストという2つの研究を紹介しました。デバイスの普及とともにデータが増大する中、これらの技術はヘルスケアの分野でさらなる応用が期待されます。

参考文献

脚注
  1. 総務省|令和7年版 情報通信白書|データ集, https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/datashu.html#f00227 ↩︎

  2. Apple Watch - Apple (日本), https://www.apple.com/jp/watch/ ↩︎

  3. Google Pixel Watch - Google ストア, https://store.google.com/jp/product/pixel_watch_4?hl=ja ↩︎

  4. Oura Ring, https://ouraring.com/ja ↩︎

  5. AirPods Pro - Apple (日本), https://www.apple.com/jp/airpods-pro/ ↩︎

  6. Narayanswamy, G., Liu, X., Ayush, K., Yang, Y., Xu, X., Liao, S., ... & McDuff, D. (2024). Scaling wearable foundation models. arXiv. https://arxiv.org/abs/2410.13638v1 ↩︎ ↩︎

  7. Zhang, Y., Ayush, K., Qiao, S., Heydari, A. A., Narayanswamy, G., Xu, M. A., ... & Yang, Y. (2025). SensorLM: Learning the Language of Wearable Sensors. arXiv. https://arxiv.org/abs/2506.09108v1 ↩︎ ↩︎

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