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令和7年電気学会全国大会 参加報告 - スマートメーター活用AIの研究開発

に公開

株式会社松尾研究所でインターンをしている高木です。

松尾研究所は東京電力パワーグリッド様と共同で、スマートメーターの計測データを活用し、エネルギー利用効率化を実現するAIモデルの開発・データサイエンスを進めています。

我々は2025年3月に明治大学中野キャンパスにて開催された電気学会全国大会に参加し、研究成果の一部を発表しました。本記事では、現地の様子や我々の発表内容について紹介します。

https://matsuo-institute.com/2025/05/743/

電気学会全国大会

電気学会は、電気やその関連分野の基礎研究から技術開発の報告まで幅広く扱う、長い歴史を持つ学会です。今回の全国大会は東京開催という利便性もあり、10発表以上のパラレルセッションにも関わらず立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。

エネルギー分野においても、近年では計測データを蓄積して統計モデルを用いて分析をすることや、LSTMなどで予測モデルを構築する研究が見られ、AI技術が徐々に注目を集めています。

松尾研究所の発表内容

今回我々は、取り組みを進める中で浮上した、よくある予測モデル構築のための機械学習エンジニアリングとは違った問題を扱い、その成果をまとめて以下の発表を行いました。

304-A4 系統運用・解析 配電(Ⅰ)
6-102 機械学習と波形補正を用いたスマートメーター計測値からPV出力と実需要への分離推定
◎高木洋羽・佐藤大地・長谷川貴巨(松尾研究所)・大福泰樹・武田峻悟・山内有倫・高橋孝樹・国藤靖彦(東京電力パワーグリッド)

https://gakkai-web.net/iee/program/2025/data/html/general/general9.html#S304-A4

問題設定

近年導入されたスマートメーターは各地点の電力量を一定時間おきに自動で計測し、そのデータから需給傾向を把握し、エネルギー利用を効率化する取り組みを行っています。一方で、再生可能エネルギーとして家庭の屋根に太陽光パネルの設置も進められています。

しかし、スマートメーターが計測するのは発電量と需要量を相殺した余剰量のみであり、本来の発電量・需要量を直接把握できないという課題があります。そこで、計測された余剰量の波形をもとに、元の発電や負荷の波形への分離の推定を目指します。


余剰量から発電と需要へ分離するイメージ図と波形例

研究の動機

この問題は1つの波形から複数の波形を推定する不良設定問題ですが、海外ではDisaggregationというキーワードで類似研究があることが分かりました[1,2]。それらの文献に共通した大きな方針としては、日射量・気象データ、発電設備データから太陽光発電量を推定する従来の太陽光発電予測モデルを活用して発電量の波形を求め、それを余剰量の波形と差し引きして需要量の波形を求めます。

しかし、既存文献と実用的に利用できるデータの項目や性質が必ずしも一致しないことから、我々の持つデータのもとで独自に手法を開発することにしました。また、そのような分離の推定に関する日本語の文献は十分とは言えず、我々で研究を行い成果を公開する価値があると判断しました。

手法と結果の結果の概要

ここでは研究の概要を紹介します。日射量や気象データ、発電設備データのうち、電力会社が現実的に取得可能な項目を用い、LightGBMを用いて実用性の高い予測モデルを構築しました。この学習には太陽光発電所データの中でも家庭の太陽光発電パネルに近い発電傾向を持つと想定されるデータを選択して用い、特徴量エンジニアリングなどのデータの整形を通じて、他の太陽光発電予測研究と同等以上の予測モデルを構築しました。


機械学習モデルの構築フロー

これにより分離を推定できますが、我々はさらにLightGBMの予測値を一定時刻繋げた波形の性質に着目します。エネルギー分野では発電量と需要量の波形の独立性を利用した統計手法による分離推定が提案されています[3]。その手法に基づきLightGBMの予測値を事後的に補正することを検証しました。この手法は実験データ上でさらに頑健な予測ができることが確認され、機械学習モデルの学習方法の工夫だけでなく、ドメイン特化の古典的な手法と組み合わせることも予測の改善に有望である可能性を示唆します。


事後的な補正の概要

最後に

電気学会に参加することを通じて、電気分野全体の潮流を感じられました。また非常に多くの方々に興味を持って聞いてもらい、また普段のプロジェクトメンバー以外の専門家との議論によって研究開発内容の解釈を深められました。

今回の発表に至るまで、単にAIモデルを学習するだけでなく、適用先の分野の文献を調べながら、データに対する認識をその分野の専門家と揃えることで、有意義な問題に取り組めました。今後もAI技術とドメイン知識を融合させたプロジェクトを推進し、社会課題の解決に貢献していきます。


松尾研究所から参加したメンバー

参考文献
[1] Chen, Dong, and David Irwin. "Sundance: Black-box behind-the-meter solar disaggregation." Proceedings of the eighth international conference on future energy systems. 2017.
[2] Li, Wenting, et al. "Real-time energy disaggregation at substations with behind-the-meter solar generation." IEEE Transactions on Power Systems 36.3 (2020): 2023-2034.
[3] 安並 一浩, 積算電力量と日射強度を利用した太陽光発電出力推定手法, 電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌), 2023, 143 巻, 2 号, p. 117-124

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