python-build-standaloneとDockerによるポータブルなPython環境の構築
こんにちは。今回は、Linux, macOS, Windows/x86,arm に対応した
ポータブルなPython環境を展開可能なpython-build-standaloneについて紹介します。
概要
Githubで公開されているリポジトリであるpython-build-standaloneでは、
各OS, CPUアーキテクチャに対応したビルド済みのPythonが配布されています。
配布されているPythonはpipを同梱済みなので、ダウンロード後すぐにPython環境を
使い始めることができます。
また、ここで提供されているPythonは、最近注目されているパッケージマネージャのRyeやmiseでも
用いられており、柔軟なPython環境の構築に役立っています。
配布されているPythonはライセンスの関係で、自前でビルドしたものと挙動が異なる場合がありますが、
ほとんどの動作において問題はありません。詳しくは以下の記事に書かれています。
提供されているPython
python-build-standaloneでは、様々なOSとCPUアーキテクチャに対応したPythonのビルド済みバイナリが提供されています。
以下のGithubのReleaseページから入手することができます。
入手できるバイナリの命名規則は以下の順になっています。
cpython-(Pythonバージョン)+(releaseのタイムスタンプ)-(アーキテクチャ)-(ビルド設定)-(同梱内容)
それぞれの項目は以下のようになっています。
releaseのタイムスタンプ
GitHubのTagとして設定されている、Releaseを公開した日付を入れます。
最新のReleaseの日付は以下のGitHub APIから確認することができます。
アーキテクチャ
項目 | 内容 |
---|---|
aarch64-apple-darwin |
macOS ARM CPU。M1, M2, M3 など。 |
x86_64-apple-darwin |
macOS Intel CPU |
i686-pc-windows-msvc |
Windows 32 ビット Intel/AMD CPU |
x86_64-pc-windows-msvc |
Windows 64 ビット Intel/AMD CPU |
*-windows-msvc-shared |
Windows の Python 標準ビルド。Python とエクステンションの DLL がある。公式 Windows 用 Python と同様の動作。 |
*-windows-msvc-static |
静的リンクの Python ビルド。非常に脆弱で既知の互換性問題あり。包括的なテストカバレッジがあり、使用ケースで動作確認済みの場合以外は非推奨。 |
x86_64-unknown-linux-gnu |
Linux 64 ビット Intel/AMD CPU、GNU libc とリンク。 |
x86_64-unknown-linux-musl |
Linux 64 ビット Intel/AMD CPU、musl libc とリンク。静的バイナリで共有ライブラリ依存なし。Python の.so 拡張を読み込めない。 |
aarch64-unknown-linux-* |
Linux ARM64 CPU 向け。AWS Graviton EC2 インスタンスなどに適用。多くの Linux ARM デバイスもaarch64 。 |
i686-unknown-linux-* |
Linux 32 ビット Intel/AMD CPU。 |
x86_64_v2-* |
2008 年以降の Nehalem 以降の 64 ビット Intel/AMD CPU 向け。SSE3、SSE4 など搭載。古い CPU では起動不可。 |
x86_64_v3-* |
2013 年以降の Haswell(Intel)または 2015 年以降の Excavator(AMD)以降の 64 ビット CPU 向け。AVX、AVX2、MOVBE 等搭載。古い CPU では起動不可。 |
x86_64_v4-* |
一部の AVX-512 命令搭載の 64 ビット Intel/AMD CPU 向け。2017 年以降の Intel CPU 対象だが、全ての Intel CPU が AVX-512 搭載というわけではない。 |
SIMD命令を有効にしたx86_64_v2-*
, x86_64_v3-*
, x86_64_v4-*
は対応していないCPUで実行するとクラッシュします。
ドキュメントによると、Linuxでは*-unknown-linux-gnu
が、Windows では*-windows-msvc-shared
が推奨されています。macOSはCPUに合わせて選べば良いです。
ここに書かれていないarmv7などのアーキテクチャでも、実際のReleaseには含まれているので確認してみてください。
ビルド設定
- pgo+lto: Profile guided optimizationとLink-time optimizationをビルド時に適用している。最も高速なディストリビューション
- pgo: Profile guided optimizationのみを適用
- lto: Link-time optimizationのみを適用
- noopt: 通常の最適化のみを行ったビルド
- debug: 最適化を行っていないデバッグビルド
同梱内容
- install_only: ビルド後のインストールに必要なファイルのみ
- install_only_stripped: install_onlyからデバッグシンボルを削除した軽量版
- full: ビルドに使用したファイル・成果物全てが同梱されている。.tar.zst 形式での配布
上記の違いについて、容量を見てみます。
バリエーション | 容量 |
---|---|
cpython-3.12.4+20240726-x86_64-unknown-linux-gnu-install_only.tar.gz |
60.5MB |
cpython-3.12.4+20240726-x86_64-unknown-linux-gnu-install_stripped.tar.gz |
21.2MB |
cpython-3.12.4+20240726-x86_64-unknown-linux-gnu-pgo+lto-full.tar.zst |
87.3MB |
cpython-3.12.4+20240726-x86_64-unknown-linux-gnu-pgo-full.tar.zst |
47.8MB |
Dockerでの利用
Dockerfileでpython-build-standaloneから入手したPythonを導入してみます。
今回は、cpython-3.11.9+20240726-x86_64-unknown-linux-gnu-pgo+lto-full.tar.zst
をdebian:latestのイメージにインストールします。
FROM debian:latest
ARG TAG="20240726"
ARG PYTHON_VERSION="3.11.9"
RUN rm -f /etc/apt/apt.conf.d/docker-clean \
&& echo 'Binary::apt::APT::Keep-Downloaded-Packages "true";' > /etc/apt/apt.conf.d/keep-cache
RUN \
apt-get update && apt-get install -y --no-install-recommends \
curl \
ca-certificates \
zstd
RUN curl -sSL "https://github.com/indygreg/python-build-standalone/releases/download/${TAG}/cpython-${PYTHON_VERSION}+${TAG}-x86_64-unknown-linux-gnu-pgo+lto-full.tar.zst" -o python.tar.zst \
&& tar -axvf python.tar.zst \
&& mv python/install /usr/local/python \
&& rm -rf python.tar.zst python
ENV PATH="/usr/local/python/bin:$PATH"
ENV LD_LIBRARY_PATH="/usr/local/python/lib:$LD_LIBRARY_PATH"
docker build -f Dockerfile ./ -t debian-python
docker run --rm -it debian-python python
Python 3.11.9 (main, Jul 25 2024, 22:42:09) [Clang 18.1.8 ] on linux
Type "help", "copyright", "credits" or "license" for more information.
>>>
無事Pythonのインタープリターが起動しました。
Dockerコンテナ内で好きなバージョンのPythonを導入するには、aptのリポジトリppa:deadsnakes/ppa
を登録するか、
pyenv, poetryなどでビルドするか、自前でビルドするくらいしか選択肢がありませんでしたが、
python-build-standaloneを利用することで、簡単に環境構築ができます。
特に、NVIDIAのDockerイメージであるnvidia/cuda
といったイメージはデフォルトではPythonが
入っていないのでこの方法であれば、手軽にPython環境を追加できます。
まとめ
今回はpython-build-standaloneで配布されている様々なOS、アーキテクチャに対応したビルド済みPythonを
Dockerへの導入する方法を紹介しました。
この方法であれば、新たにビルドすることなく、手軽にPython環境を構築することが可能です。
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