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有料記事の技術ライターで食っていけるか

2020/09/22に公開

2020年版: なぜ仮想 DOM / 宣言的 UI という概念が、あのときの俺達の魂を震えさせたのか | Zenn という記事を500円で販売しました。その経緯と現時点での結果について。

なぜ書いたか

Qiita の開発から離れて久しいのですが、 もし Qiita で有料記事を出せたらどういう体験になるんだろう、というのは当時からずっと考えていました。

zenn に搭載された Qiita にはない機能を使うことで、それを感じてみたかった、というのが一番の理由です。

優れたプログラマ、そして優れた書き手には相応の対価があるべきです。 オープンなコミュニティでは、それが称賛や承認となって返ってきますが、人間はそれだけでは生きていけません。

今までのエンジニア界隈では伝統的にオープンなコミュニティで稼いだ名声を使って、良い企業への転職で高い給与をもらう、というのが今までの実質的な「稼ぎ方」でした。が、正直まわりくどいです。

良い記事を書くことで、直接的にその対価が得られるなら、それに越したことはありません。

どう書いたか

6 年前の記事を、9 時間ぐらい書けて修正しました。元の記事自体は、 4 日ぐらいで書いたような記憶があります。(うろ覚えです)

書き直す構想自体は前から持っていたので、あれこれ考えていた時間は合計で 3 ヶ月ぐらいあります。

とくに Flux の章を書き直すことは決めていて、当時の混沌としたリソースへの参照を全部廃して、単方向データフローと Redux でまとめ直しました。

そして、仮想 DOM がどう受容されたか、というのが一番大きな追加点で、ここを章タイトルにもってくることで昔読んだ人にも差分があることをアピールしました。

結果

短期的に売れただけなのか、ロングテール的に長期的に売れるかは、おそらく zenn 自体の成長そのものに依存する気がします。こうなってはじめて、個人的に応援したい気がしてきました。

もしロングテールに売れる場合、 zenn の記事の執筆だけで生活することも可能なレベルです。自分はたぶんだいぶ多めに給与を貰ってる方なので、これだけではまだ仕事をやめる気持ちにはなりませんが、初めて執筆を現実的に金になるものと認識できた気がします。

なぜ売れたかの分析

まず、 zenn 自体の課金体験への興味・そしてその良さがあったと思っています。実際にお金を払うフローはどうなるんだろう?という点に興味を持っていた人が多かったのではないでしょうか。

その上で、自分で言うのもアレなんですが、この記事自体の質がだいぶ高いです。それもそのはずで、自分が 10 年エンジニアをやってきた中で、一番評価され、自分の人生を変えて、そして日本のフロントエンド業界そのものを変えた転機となる記事でした。この記事を書いたおかげで、名前が売れて、フリーランスとしてだいぶ稼がせていただきました。

そのリライト版ということで、ある程度品質が保証されていて、かつ 6 年間の間に起きた変化のキャッチアップに対してお金を払うということで、お金を出す側が、どれぐらいの納得感を得られるか予想しやすい、というのがあったのだと思います。

500 円で 11000 字という分量もちょうどよかったように思います。zenn そのもののお試しとして、最初からボリュームがあるものに手を出すのは怖い。しかし短すぎても納得感がない。その中間でお手軽なものがある、という予想があります。

タイミングの話

元開発者として Qiita 自体は今でもよいサービスだと思っていますが、元々問題も多く、とくに最近は問題も多いです。自分が遠因を仕込んだ問題もあり、お恥ずかしい限りなのですが、それはそれとしてちょっと前に次のような記事を書きました。

Qiita のランキングの最初の設計者としての「いいね」の設計と、「LGTM」は下においてほしいという話 - mizchi's blog

とはいえ、 仕方ない気持ちもあり、長く続いたコミュニティはそれ自体の自重で必ず硬直的になります。とくに SNS は常に代謝されます。 zenn も今は目新しいから褒められているとしても、今後似たような問題が発生するだろうし、そこで問題をうまくハンドルできなければ、同じような評価を下されるでしょう。コミュニティ運営はどうやっても難易度が高いです。

とくに、この課金システムは、特性上どうやっても中身のない情報商材を呼び込むはずです。運営はその対策は真摯に考えてほしいですね。

今はもう離れてだいぶ経つので、競い合って両方よくなってほしい、というのが今の自分の気持ちです。

あと、Qiita とは別軸の話で、 note は技術記事を書くのには不向きなのは知られていて、有料の技術記事をどこに出すかが悩ましい問題でした。技術書展のムーブメントもあり、手元に markdown の原稿があることでしょう。適度に頑張らずにそれを投稿するのに、 zenn はいいプラットフォームなのではないでしょうか。

で、zenn で食っていけるか

そもそもこの記事自体、渾身の一発なので再現性がないのですが、その可能性は感じさせてくれています。

zenn そのものの成長、そして競合がどれぐらいこの技術有料記事市場の大きさと、そして有用性を証明できるか次第です。

それが証明された場合 zenn でのライティング一本で生活するのは、不可能ではないと思います。

上手く言った場合、どうせそのうち、Qiita や他のプラットフォームも追従してくると思うので、まず zenn で証明できるかどうか、見守っていきたい、あわよくば売上増えねーかな、みたいな気持ちです。

あと、はてブやTwitterで今後はすべてを有料記事になってしまうのか懸念してる人が散見されましたが、有料記事と無料記事は、求められる質がおそらく違います。 OSS の新機能の紹介や、告知を目的とした記事は無料で出して、有料記事に求められるのは、ある程度まとまったまとめやチュートリアルだと思われます。

それに、普通はまず無料記事で「信頼」を稼いで、 そこから有料記事に誘導するステップが必要になるはずですよね。

ふう、じゃあこの売上で寿司を食べにいってくるね

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