IFCデータを正しく運用する為のIDSの威力とは?
IDSとは
皆さん、IDSをご存じですか?
IDSとは、2020年にbuildingSMARTのテクニカルロードマップにて初めて記載された概念であり、Information Delivery Specificationsの略です。2023年3月に行われたbSI Romeサミットにて本格的に表舞台に出てきたと感じており、現在その詳細は開発中とのことです。
IDSとは、発注者が受注者に対してどのような情報をどのようなレベル(度合い)でIFCデータの中に求めるかを定義したXML形式で記載されるファイルです。基本的にIFCデータと一緒に運用します。
例えば、IFCデータに含まれる壁に対して耐火性能に関するプロパティが無いとダメ、とか、壁の材質のプロパティにはコンクリートと書かれていないとダメ、とか発注者が求めるIFCデータの記載仕様をIFCエンティティごとに記述します。
従来、発注者が必要とする情報が記載するデジタル記述標準のアプローチは、ExcelやPDF(しかもバラバラの書式)などである為、IDSの登場により容易に機械で発注者がIFCデータに要求する性能を読み取れるようになります。
ISO19650のEIR(Exchange Information Requirements)と関連性が非常に高く、LOIN(Level of Information Need)との相互開発に役立つと言われています。
buildingSMARTのGithubに詳しくIDSについて書かれたドキュメントが存在します。
はっきり言ってめちゃくちゃ面白いです。
スコープ外のものも当然ありますが、発注者がBIMを受注者と正しく進める為の武器の一つと言っても過言ではないと思います。
発注者自身がこれらを定義しておけば、受注者が作成するIFCデータの確からしさを人の目で逐一確認するのではなく、ソフトウェアで自動的に判別することが出来、IFCの中身を照査することが出来ます。
IDSの書き方 準備編
とても簡単です、と言いたいところですが、ちょっと複雑です。
まず、公式ドキュメントはこちら。
そして、IDSのサンプルファイルはこちら。https://github.com/buildingSMART/IDS/blob/master/Documentation/library/sample.ids
IDSの書き方 メタデータを記述する。
XMLデータの基本として、まず基本情報となるメタデータを記述します。
必要となるのは、
- title(IDSのタイトル)
- copyright(IDSの著作権)
- version(IDSのバージョン)
- author(IDSの著者)
- date(IDSの作成日)
- description(IDSが作成された理由)
- purpose(IDSにより達成したい目標)
- milestone(IDSが満たすべきマイルストーン)
<?xml version="1.0" encoding="UTF-8" standalone="yes"?>
<ids:ids xmlns:xs="http://www.w3.org/2001/XMLSchema" xmlns:xsi="http://www.w3.org/2001/XMLSchema-instance" xsi:schemaLocation="http://standards.buildingsmart.org/IDS ids_09.xsd" xmlns:ids="http://standards.buildingsmart.org/IDS">
<ids:info>
<ids:title>Sample ids</ids:title>
<ids:copyright>ONESTRUCTION Inc.</ids:copyright>
<ids:version>1.0</ids:version>
<ids:description>IDSを使用して発注者の要求性能が満たされているか確認します。</ids:description>
<ids:author>y.miyauchi@onestruction.com</ids:author>
<ids:date>2023-04-14</ids:date>
<ids:purpose>Maintain of Real Estate</ids:purpose>
<ids:milestone>Design</ids:milestone>
</ids:info>
</ids:ids>
IDSの書き方 Specifications(情報様式)を定義する。
Specifications(情報様式)には、大きく分けて2つの項目を作成する必要があります。
”どこに適用するか”と”どういう要件か”の2つです。公式ドキュメントには、ApplicabilityとRequirementsと記載されています。
共通部分の書き方例
仕様の名前やIFCバージョン、情報様式の解説や注意書きを記載します。
<ids:specifications>
<ids:specification ifcVersion="IFC4" name="床" minOccurs="1" maxOccurs="unbounded" identifier="01" description="床には、建築基準法に準拠した壁を使用しなければならない。一般的に流通している材料を使用せねばならず、特殊材料を使用したい場合は必ず協議の上、決定すること。">
</ids:specification>
</ids:specifications>
Applicabilityの部分の記述例
Applicabilityには、どのIFCエンティティに、これから記述するRequirementsの内容を適用するか、適用対象を記載します。Predefinedの部分は、各エンティティの公式ドキュメントを参照ください。https://standards.buildingsmart.org/MVD/RELEASE/IFC4/ADD2_TC1/RV1_2/HTML/
<ids:applicability>
<ids:entity>
<ids:name>
<ids:simpleValue>IFCSLAB</ids:simpleValue>
</ids:name>
<ids:predefinedType>
<ids:simpleValue>FLOOR</ids:simpleValue>
</ids:predefinedType>
</ids:entity>
</ids:applicability>
Requirementsの部分の記述例
材質やどのPsetに求める要求情報を入れるかなど適用条件を規定します。
<ids:requirements>
<ids:property minOccurs="1" maxOccurs="1" measure="IfcText">
<ids:propertySet>
<ids:simpleValue>Pset_SlabCommon:</ids:simpleValue>
</ids:propertySet>
<ids:name>
<ids:simpleValue>耐火性能</ids:simpleValue>
</ids:name>
</ids:property>
<ids:material minOccurs="1" maxOccurs="1">
<ids:value>
<ids:simpleValue>コンクリート</ids:simpleValue>
</ids:value>
</ids:material>
</ids:requirements>
ファセットは色々な書き方が定義されており、下記の6つの書き方が可能です。
- Entity Facet
- Attribute Facet
- Classification Facet
- Property Facet
- Material Facet
- PartOf Facet
IDSの完成形(サンプル)
<?xml version="1.0" encoding="UTF-8" standalone="yes"?>
<ids:ids xmlns:xs="http://www.w3.org/2001/XMLSchema" xmlns:xsi="http://www.w3.org/2001/XMLSchema-instance" xsi:schemaLocation="http://standards.buildingsmart.org/IDS ids_09.xsd" xmlns:ids="http://standards.buildingsmart.org/IDS">
<ids:info>
<ids:title>Real Estate ids</ids:title>
<ids:copyright>ONESTRUCTION Inc.</ids:copyright>
<ids:version>1.0</ids:version>
<ids:description>IDSを使用して発注者の要求性能が満たされているか確認します。</ids:description>
<ids:author>y.miyauchi@onestruction.com</ids:author>
<ids:date>2023-04-14</ids:date>
<ids:purpose>Maintain of Real Estate</ids:purpose>
<ids:milestone>draft</ids:milestone>
</ids:info>
<ids:specifications>
<ids:specification ifcVersion="IFC4" name="床" minOccurs="1" maxOccurs="unbounded" identifier="01" description="床には、建築基準法に準拠した壁を使用しなければならない。一般的に流通している材料を使用せねばならず、特殊材料を使用したい場合は必ず協議の上、決定すること。">
<ids:applicability>
<ids:entity>
<ids:name>
<ids:simpleValue>IFCSLAB</ids:simpleValue>
</ids:name>
<ids:predefinedType>
<ids:simpleValue>FLOOR</ids:simpleValue>
</ids:predefinedType>
</ids:entity>
</ids:applicability>
<ids:requirements>
<ids:property minOccurs="1" maxOccurs="1" measure="IfcText">
<ids:propertySet>
<ids:simpleValue>Pset_SlabCommon:</ids:simpleValue>
</ids:propertySet>
<ids:name>
<ids:simpleValue>耐火性能</ids:simpleValue>
</ids:name>
</ids:property>
<ids:material minOccurs="1" maxOccurs="1">
<ids:value>
<ids:simpleValue>コンクリート</ids:simpleValue>
</ids:value>
</ids:material>
</ids:requirements>
</ids:specification>
</ids:specifications>
</ids:ids>
IDSのスコープ外や若干の誤解、前提知識やルールの必要性
IDSのスコープ外として、例えば以下のようなものが列挙されています。
①ジオメトリチェック
②干渉チェック
③設計要件
しかし、IFCをよく知っている人であれば、これらの壁の一部は工夫次第で乗り越えることが出来ます。例えばジオメトリチェックや設計要件等は、Psetに持たせる情報設計やエンティティの選択次第でIDSによるチェックが可能となります。
IDSを使用する前に、そもそもルールを棚卸しするスキルが必要ですが、それらをどのようにIFCとマッピングしていくのかはIFCの知識が無いとIDSの構築は不可能です。
IFCをどのように運用していくかストーリーを描ける組織やマネージャーで無いとIDSを活用したプロジェクトは上手くいかないでしょう。
また、前述の6つのファセットのうち、PartOfファセットはIFC構造をユーザのほうで定義付けさせることに役立ちます。ファセットの運用にはIFCの知識は必須ですが、PartOfファセットはIFCに関する更に深い知識とどのようなBIMデータを構築するかルールを決めておかないとPartOfファセットは構築出来ません。
一方で、PartOfファセットを駆使することは、IFCファイルの野良化を防ぎ、企業のデータ利用基盤を支える大きな要因となりえます。また厳格にIFC構造のルールを決めることが出来る為、LODやLoINとの連携も強めることが出来、形状の階段的設計の厳格化に大きく寄与します。
IDSの今後
発注者もしくはその支援コンサルタントが、IDSを定義することで、よりopenBIMの推進が加速すると思います。例えば土木分野においては、多くの受注者にとって納品するだけの存在だったIFCデータが、IDSの登場により、発注者の要件を満たすモデルとなっているかIFCデータを照査することが出来るようになったり、ファセットを活用したLODの厳格化(統一化)を図ることが出来る為、正しいIFCデータを受注者が作成することを求められるでしょう。企業にとっては社内で野良データの発生を未然に防ぐことが出来ます。(もちろん先ずはIFCの構造ルールを決める必要があります)
ますますIFCの利活用は加速すると考えられます。
IFCの運用やルール規定などに関してお困りの方
プロジェクトや企業内でどのようにIFCを管理・運用し、データ活用の基盤情報としていくか知見を持ったIFCに関するプロフェッショナルがONESTRUCTION株式会社に所属しています。
今回ご紹介したようなIDSの構築も可能です。
IFCに関してお困りの方は是非当社までご連絡ください。
※英語版はこちら。buildingSMART Internationalの記事にも取り上げられました。
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