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なぜ生成AIで期待した効果が出ないのか? 導入前に欠かせない2つの準備

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はじめに

個人や仕事で生成AIをすでに利用している方が多くいらっしゃると思います。

しかし、実際に業務で生成AIを効果的に活用できている方はどれほどいるでしょうか。多くの組織では「ツールは導入したが期待した成果が出ない」という課題に直面しているのではないでしょうか。
その根本原因は導入前の準備不足にあると考えています。

本記事では、AI導入を成功に導く2つの重要な準備と、真の効果を得るための業務設計の考え方について詳しく解説します。

なぜAI活用が進まないのか

よくあるAI導入の失敗パターンを見てみましょう。

パターン1 「とりあえず使ってみよう」と開始

ChatGPTやGeminiなどのツールを導入したものの、明確な活用場面が定まらず、個人の興味レベルでの利用に留まってしまうケース。

パターン2 「魔法の杖」を期待

AIに過度な期待を抱き、「何でも自動化してくれる」と思い込んでしまうケース。結果として、準備不足のまま導入し、思うような効果が得られずに諦めてしまいます。

パターン3 「部分導入」で満足

メール作成や資料作成の一部にAIを活用することで満足してしまい、業務全体の抜本的な見直しまで至らないケース。

共通するのは導入前の準備不足です。

AI導入前に必要な2つの準備

1. 業務フローの可視化

多くの場合では「どのツールが良いか?」「何ができるのか?」「新しいツールはどうか?」といったツールドリブンなアプローチから始めがちです。

しかし、ツールを選ぶ前に既存の業務フローを可視化することが重要です。

この業務の可視化ができていないとAIを触ってみても「便利だね」「こんなことができるんだ」で終わってしまい、どうやって業務に活かせばいいんだ?自分たちの業務のどこに生成AIを導入するといいんだっけ?となってしまいます。

それを避けるためにも業務を可視化しておく必要があります。また、可視化することによって見えてくる意識していなかったが、名前のついていない作業も多数出てくるはずです。可視化することでこういった今まで意識していない部分まで見えるようになるというメリットもあります。

業務フローを可視化しておくことでようやく生成AIを導入するための検討を開始することが可能になります。

1-1. 可視化する際に明記したいポイント

  • 業務の開始点から終了点までの流れ
  • 使用するツールやシステム
  • 判断ポイント(承認、確認等)
  • 所要時間と頻度

これらの項目を書き出しておくことで、AIに置き換える際の難易度、見込める効果(お金や時間)などが試算できるようになります。また導入後の定量的な効果測定を行う際にも役立ちます。
そして試算した結果を元にAIを導入する優先順位を決めていきます。
そしてここで決めた優先度の高いものからAIの導入を進めていけば大きな効果が得られるという流れです。

1-2. 業務フローの可視化の参考例

Google スプレッドシートなどを使用して、自分の業務や自部門の業務を全て書き出してみましょう。

段階的なアプローチで可視化しましょう
  1. 全体把握
    • まず大きな業務の流れを把握
  2. 詳細分析
    • 重要な業務から詳細にブレークダウン
  3. データ収集
    • 実際の処理時間や件数を測定
  4. 関係者確認
    • 作成した表を現場の人に確認してもらう
バグ対応業務の可視化例
  • バグ対応業務 (週3回程度発生)
No 業務内容 使用ツール 判断ポイント 所要時間
1 バグ報告の内容確認 Jira/GitHub 優先度・緊急度判定 10分
2 過去の類似バグ調査 Jira/ナレッジベース 関連性判断 40分
3 コード調査・原因特定 VSCode/Github デバッグ判断 120分
4 修正コード作成・テスト IDE/テストツール 修正方針決定 90分
5 上級者への相談・確認 Slack/対面 複雑度判定 30分
6 レビュー依頼・マージ GitHub なし 15分

これはあくまでも一例です。
まずは自分なりに業務フローの可視化を行っていただければ良いかと思います。

1-3. 生成AI導入の優先度を決める

これらの可視化した業務フローを元にしてAIの導入の優先度を決めてます。
生成AI導入の難易度や業務自体の所要時間、業務の発生頻度などを元にして、導入効果が一番大きいと判断した箇所や、導入の難易度が低い箇所などを鑑みて優先順位を決めていきます。

そして優先順位が高いと判断した業務から生成AI導入の検証を進めていきましょう。

2. データの整備

生成AIの導入場所が決まったら、一般的にはツール選定に入りがちです。
しかし、特に社内データや業務データと連携したRAGシステムを構築する場合、ツール選定よりも前に重要な準備があります。それが業務関連データの整備です。
データの品質こそが生成AIの解答精度に直結する最重要要素だからです。

生成AIを導入する業務についてのデータはしっかりと整備されているかという点でみていきます。

2-1. 文書化されたデータの準備

各種ルールや規定、フローなどが文章化されていることが望ましいです。

2-2. 暗黙知の言語化

さらに大事なのは、業務担当者の経験則暗黙知で判断され、ルールとして定義されていない事象をしっかりと言語化できているか?という点です。

「生成AIが自動的に判断して仕事を進めてくれる」という期待を持つ方もいるかもしれません。
しかし実際には、AIが適切に判断するためには、判断基準やルールを明確に言語化し、文書として整備しておく必要があります。
それを元にしてAIが判断を行います。自分の業務をしっかりと言語化し文章として残しておく必要があります。
この作業をいかに厳密に行っているかという点がとても大切です。

2-3. データ整備状況の確認

データの整備が適切に行えているかを判断するためのチェックリストを用意してみました。

データ整備チェックリスト

基本データの準備

業務ルール・規定の文書化

  • 業務手順書が最新版に更新されている
  • 判断基準が明文化されている
  • 例外処理のルールが記載されている
  • 承認フローが明確に定義されている

暗黙知の言語化

  • 「いつもの判断」を文章化した
  • 経験則による判断基準を整理した
  • 「なんとなく」の部分を具体化した
  • ベテラン担当者のノウハウを文書化した

過去データの整理

  • 過去3年分のデータが電子化されている
  • ファイル名に統一ルールがある
  • フォルダ構成が整理されている
  • 検索しやすいタグ付けがされている

データ品質の確認

内容の統一性

  • 用語の定義が統一されている
  • 記載フォーマットが揃っている
  • 同じ内容が複数箇所にある場合は整合性が取れている
  • 古い情報と新しい情報が明確に区別されている

完全性の確認

  • 必要な情報が漏れなく記載されている
  • 空白や「未記入」の項目が最小限になっている
  • 参考事例が十分な数揃っている
  • エラーパターンの事例も含まれている

AI連携のための準備

構造化・機械読み取り可能化

  • テキストデータとして保存されている(画像ファイルではない)
  • 見出しや箇条書きなど構造が明確
  • 表形式データはCSVやExcel形式で整理
  • 手書きメモや画像内の文字は文字起こし済み

検索・参照しやすさ

  • キーワードで検索できる
  • 関連する情報同士がリンクされている
  • カテゴリ分類が適切にされている
  • 重要度や優先度が明記されている

継続的な更新体制

メンテナンス体制

  • データ更新の責任者が決まっている
  • 定期的な見直しスケジュールがある
  • 新しい事例や変更があった時の更新ルールがある
  • 古くなった情報を削除するルールがある

このチェックリストを参考にして自分の業務データが AI 活用に適した状態になっているか確認してみてください

準備が整った後の導入アプローチの例

業務フローの可視化とデータ整備が完了したら、いよいよ具体的な導入に進みます。

1. PoC(概念実証)を実施

業務フローの可視化で特定した優先度の高い業務から、小規模なPoC(Proof of Concept)を開始します。

  • 想定した効果が実際に得られるかの検証
  • 現場での使いやすさの確認
  • 必要な調整点の洗い出し

2. 効果測定と改善

事前に設定した指標(ROI、処理時間、精度、満足度など)を用いて定量的に効果を測定し、必要に応じてプロンプトやワークフローの調整を行います。
ここの結果によっては生成AIの導入を辞めるという選択肢を取る必要もあります。

3. 段階的な拡大

PoCで成果が確認できたら、他の業務や部門への展開を検討します。この際、各部門の業務特性に合わせたカスタマイズが重要になります。

最大効果を得るための考え方(既存業務の部分置換 vs 全面刷新)

部分置換と全面刷新の効果の違い

業務フローの一部を生成AIに置き換えることができたという方がもしかするといらっしゃるかもしれません。

ですがそれは本当に生成AIの性能を最大限生かした形でしょうか?
既存の業務は生成AIが存在しない時期に構築されたものではないでしょうか?
既存の業務の一部を置き換えるだけというのは、生成AIの使い方を合わせたという結果ではないでしょうか?

つまり、AIの能力に業務を最適化するのではなく、従来の業務枠組みにAIを無理やり当てはめているに過ぎません。これでは、AIが持つ24時間稼働や大量データの瞬時処理といった真の強みを活かしきれず、「少し便利になった」程度の限定的な効果しか得られないのです。

それでも生成AI導入の効果はありますが、私は生成AIを導入して最大限の効果を得るためには、生成AI前提の業務フローに完全に置き換えてしまうことだと考えています。
つまり、生成AIが中心となった業務フローに一新してしまうということです。

なぜ「部分置換」では真の効果が得られないのか

従来業務の制約に縛られる問題

既存業務は人間の認知能力や処理速度を前提として設計されています。そのため、AIの得意分野(大量データの瞬時処理、パターン認識、24時間稼働)を活かしきれない構造になっているのです。

例えば、人間が「順番に処理する」前提で作られた業務フローに、AIを部分的に導入しても、前後の工程が人間ペースのままでは、AIの処理速度の恩恵を受けられません。

人間が1つずつ判断していた作業をAIが瞬時に処理できるようになっても、その前後の工程で人間の確認や承認が必要であれば、全体の処理時間はそれほど短縮されないのです。

「人間中心」から「AI中心」への発想転換

部分置換は「人間の作業をAIに代替させる」という発想ですが、全面刷新は「AIができることを前提に業務を再設計する」という根本的に異なるアプローチです。

この発想転換により、これまで不可能だった新しい価値創造が可能になります。例えば、従来は月次で人手により作成していた売上分析レポートを、AIがリアルタイムで市場データと社内データを統合分析し、異常値を検知した瞬間に関係者へアラートと改善提案を自動送信するような業務フローが設計できます。

2つのアプローチの効果比較

部分置換アプローチ(既存業務の「効率化」)

同じ道をより速く走るイメージ
既存の業務プロセスを維持しながら、部分的にスピードアップを図る

  • 既存作業の一部が高速化される(例:資料作成時間が50%短縮)
  • 全体の処理時間が短縮される(例:承認フローが1日短縮)
  • 作業負荷が軽減される(例:定型業務の自動化)

全面刷新アプローチ(業務そのものの「変革」)

移動手段そのものを変えるイメージ
業務プロセス自体を再設計し、新しい価値創造の仕組みを構築

  • これまでできなかった処理方法が可能になる(例:リアルタイム予測分析)
  • 人的な判断のばらつきを減らせる(例:統一された品質基準での自動判定)
  • 業務量が増えても対応しやすくなる(例:スケーラブルな処理体制)
  • 競合との違いを作りやすくなる(例:顧客体験の根本的向上)

つまり、部分置換は「効率化」が中心ですが、全面刷新は「業務の仕組み自体の見直し」を行います。

AIの特性を活かした業務設計により、従来よりも精度とスピードの両立が図りやすくなり、結果として顧客により良いサービスを提供できる可能性が高まります。

長期的な競争力の観点から

今後数年間の技術進歩

生成AIの性能は継続的に向上しており、今後数年で現在よりもさらに多くのタスクをこなせるようになる見込みです。この技術進歩の速度を考えると、部分置換で満足している組織は、将来的に競合との差が広がる可能性があります。

現在「人間の判断が必要」と考えられている作業も、数年後にはAIが同等以上の精度で実行できるようになることが予想されます。

中長期的な投資としての全面刷新

全面刷新は初期投資が大きくなりますが、これを「AI活用に適した組織への投資」と捉えることができます。一度AI前提の業務フローを確立すれば、新しいAI技術が登場した際にも、それを比較的スムーズに取り込んで効果を得やすくなります。

部分置換を続けている組織は、新しい技術が出るたびに既存システムとの整合性を検討する必要がありますが、AI前提で設計された業務フローは、新技術の導入がより円滑に行えるというメリットがあります。

組織の適応能力の向上

全面刷新のプロセスを通じて、組織は「AI時代の業務設計」のノウハウを蓄積できます。この経験は他の業務領域への展開や、将来的な技術変化への対応において、有用な資産となります。

一度この変革を経験した組織は、次の技術変化に対してもより適切に対応できるようになり、継続的な改善を続けやすくなります。

まとめ

生成AIの真の価値を引き出すためには、ツールの導入よりも前の準備が最も重要です。

重要なポイントの再確認

  1. 業務フローの可視化(AI導入の効果を最大化する場所を特定)
  2. データの整備(AIの判断精度を左右する基盤作り)
  3. 全面的な業務見直し(部分最適ではなく、AI前提の業務設計)

AI活用で期待した効果を得られていない現状を打破するには、この準備段階への投資が不可欠です。時間はかかりますが、この土台があってこそ、生成AIは真に業務を変革するツールとなります。

準備を怠らず、計画的にAI導入を進めることで、大きな成果をあげられるようになるはずです。

今日からできる第一歩

  1. まず自分の主要業務を3つ書き出してみる
  2. そのうち1つの業務フローを詳細に可視化する
  3. 関連するデータの整備状況をチェックリストで確認する

小さな一歩から始めて、生成AIの真の価値を引き出していきましょう。

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