fantasai 氏をご存知か? -日本語組版のアツい歴史-
きっかけはruby-position
わたしが本記事のタイトルにしたfantasai氏を知ったきっかけは、ruby-position
プロパティでした。
MDNでCSSのProperties
の部分を眺めていたところ、ruby-position
というプロパティがあるときに気がつきます。
ruby??言語のRubyは関係ないだろうし…これってもしかして、印刷用語の「ルビ」のことか?!と思い、ページを開きました。
超電磁砲(レールガン)
MDN を開いたら唐突に現れた「超電磁砲(レールガン)」に度肝を抜かれます。
この画像はMDNの画像の直リンクで、MDNのページでも画像がそのまま埋め込まれています。
こういった技術のドキュメントで埋め込まれている画像が日本語にローカライズされているのは珍しいと思い、英語のページではどうなっているのか見てみることにしました。
そこには超電磁砲(レールガン)の姿があるではないですか!!!!
なぜ、なぜ英語でも日本語の画像が????
その経緯が気になって仕方がなくなったため、もっと調査することにしました。
「ルビ」ってそもそも何?
さて、どこから調査したものか。とりあえず、英語でも日本語の画像が出るということは「ルビ」という単語が日本語なのでは?と思いWikipediaを見ました。
明治時代からの日本の活版印刷用語であり、「ルビ活字」を使用し振り仮名(日本語の場合)やピン音(中国語の場合)などを表示したもの。
ビンゴです。ルビというものは日本でうまれた用語だから、英語のドキュメントでも日本語が使われていると。ここで「超電磁砲(レールガン)」の謎は解けました。
でも次に気になるのが「なんでこのプロパティが実装されたのか?」ということです。
CSS の ruby はいつから?
「なんでこのプロパティが実装されたのか?」が気になるため、とりあえずW3Cの文章を読みにいきます。
MDNのドキュメントの下部にCSS Ruby Annotation Layout Module Level 1 の Editor's Draftへのリンクがありました。
このページの上部を見るとPrevious Versionsの記述があり、最も古いものは2013年のもので、それを開くとさらにPrevious Versionsの記述があり、さらにその先その先…と遡ったところ、私が見つけられた一番古いドキュメントは1999年のものでした。
What is ruby?
"Ruby" is the commonly used name for a run of text that appears in the immediate vicinity of another run of text, referred to as the "base", and serves as an annotation or a pronunciation guide associated with that run of text. Ruby, as used in Japanese, is described in JIS X-4051 [JIS].
ルビとは?
「ルビ」とは、「ベース」と呼ばれる一連のテキストのすぐ近くに表示され、そのテキストに関連する注釈や発音ガイドの役割を果たす一連のテキストのことです。日本語で使われるルビは、JIS X-4051に記述されています。
とあり、W3Cでの定義も「日本語のルビを実装する」という意図で書かれているように見えます。
ここであることに気が付きます。Acknowledgementsのところにある「Koji Ishii」…どこかで見覚えがある…。
最新版のEditor's DraftのEditorsに名前があった…!
Koji Ishii 氏と fantasai 氏
私の検索力だとKoji Ishii氏がどういった背景・動機・経緯でruby-position
の提案に至ったのかわかるような資料を見つけることができませんでした。
ただ、Koji Ishii氏と共に筆頭で名前が上がっていた fantasai 氏の名前で検索したところ、興味深い記事がヒットしました。
――石井宏治さんとはいつ知り合ったのでしょうか。
同じ年の7月です。fantasai来日の直前ですね。その頃私は縦書きやEPUBについてTwitterやメーリングリストによく投稿していたのですが、それをみて石井さんの方からコンタクトをとってきてくれたのです。
石井さんの投稿を読んで、有能なエンジニアだとは思ってました。しかし実際に会ってみたら、1990年代にシアトルのMicrosoft本社でWordの開発チームにいたことを知ってびっくりしました。 “CSS3 Text” はもともとWordのチームがCSSに持ち込んだのが始まりです。石井さんはCSS縦書き仕様の大元にいたわけです。
なるほど。もともと、1999年のW3Cの資料「International Layout in CSS」もEditor, ContributorsはMicrosoftのメンバーでした。
ここからは完全に私の推察ですが、Microsoft Wordでは製品の性質上さまざまな言語表現・印刷物表現への対応が必要になります。そこではCSSにも各国の表現を持ち込もうというモチベーションがあり、最終的には fantasai 氏、Koji Ishii 氏などの尽力もありW3C勧告〜実装に至ったということが真相かと思います。
ありがとう fantasai, Koji Ishii, Microsoft
ここまで辿り着いて、「いま私が電子書籍で縦書きの本が読めているのも、そこで文章にルビが振られているのも、この方達のおかげなのか…!」とアツい気持ちになりました。
しかも
2010年9月25日から10月4日まで、fantasaiを新宿のイースト 4階の6坪ほどの会議室に閉じ込めて、CSS Textの第一稿(Editor’s Draft)を書いてもらった。(中略)そこに石井宏治さん(現Google)、村田さん、小林さん、村上さんらが通い、仕様を策定した。fantasaiを含め全員ボランティアでの策定だった。
ということで、その熱意には感謝の気持ちしかありません。
このことをぜひ多くの方にも知ってほしいと思い記事を書きました。
付記
関係者の尽力により、fantasaiへは平成23年度「電子出版環境整備事業(新ICT利活用サービス創出支援事業)EPUB日本語拡張仕様策定」[27]等により報酬が支払われた。
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