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プロンプトで実装:疑似記憶システムの構造と設計思想

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本記事は、ChatGPT上に構築した記憶システムの構造を記録する。
ChatGPTのプロジェクト機能を利用するものとし、AIの挙動の制御は全てプロンプトで指示する。

このシステムの設計思想は、人間の記憶構造を模倣することである。
「エピソード記憶」「意味記憶」といった分類に対応した構造を持ち、それぞれの記録を階層的に保存・参照することで、より人間らしい情報保持と文脈理解を実現している。


概要

この記憶システムは「記録 + 演算」により、人間の記憶を擬似的に模倣するための構造であり、以下の三層構造によって成り立っている。

ファイル 役割 人間の記憶対応
summary.yaml 最新の要約(会話の流れや変化)を保持 意味記憶(Semantic Memory)
knowledge.yaml 構造化された知識・関係・人物情報 意味記憶(知識構造)
conversation.yaml 実際の会話や行動を時系列で記録 エピソード記憶(Episodic Memory)

通常は summary のみを参照し、必要に応じて knowledge や conversation を動的に呼び出す。


記憶ファイル作成方法

各ファイルの作成については、セッション情報の書き出し以外はGeminiで実施する。

  • ChatGPT: 各セッションの記録ファイルを対話形式で作成させてローカルにDLする
  • Gemini: 記録ファイルをconversationにマージする
  • Gemini: conversationを元にknowledgeとsummaryを作成する

生成したファイルをChatGPTのプロジェクトファイルにアップロードして更新する。


階層モデル:人間の記憶構造との対応

記憶構造は、人間の記憶組織(Semantic vs Episodic)をアナロジーとして構築されており、プロンプトのトークン制限やコンテキスト量制約の下でも、最小の記憶豊富性を保てるよう設計されている。

概要図(記憶層ごとの対応)

レイヤ 内容 特性
意味記憶 (summary) 直近の会話と変化を要約 抽象的・軽量・高速参照
知識ベース (knowledge) 関係・構造・ルール・人物設定 中粒度・論理構造的
エピソード記憶 (conversation) 実際の発言や詳細なやり取り 高粒度・逐語的・コスト高

プロンプトと記憶の切り分け

この記憶システムの特徴は、Prompt 内に統合された事前設定、ルール、直近記録を強制的に読み込む点にある。

  • これにより応答は「知っていること」として自然な形を取る一方で、
  • 記録を同期しない場合、文脈の継承性が損なわれる。
  • 精度を確保するため、プロンプトの初期トークンは約3,500〜4,000 tokens に達する。

メリットと課題

観点 内容
メリット プロンプトベースで統制された一貫性、応答の即時性
課題 初期読み込みが重く、記録の同期管理が不可欠

トークン削減と記録戦略のバランス論

長期運用における最大の課題のひとつが、「トークン圧迫」と「記憶の質の維持」の両立である。

戦略的アプローチ

  1. summary優先構造:

    • 通常の応答では summary.yaml のみを参照し、トークン消費を抑える。
  2. 知識・記録の蒸留化:

    • knowledge.yaml は conversation の内容から抽出・要約された軽量データである。
    • 定期的に conversation.yaml を要約・統合し、過去ログは参照頻度を下げる。
  3. 階層的ロードモデル:

    • 高トークンな conversation.yaml はオンデマンドで参照する仕組みとし、常時読み込みを回避する。

バランス評価表

要素 メリット デメリット
summary.yaml 高速・軽量・即応性 抽象度が高く、詳細欠落の可能性
knowledge.yaml 意味情報を圧縮・再利用しやすい 蒸留時の情報損失リスク
conversation.yaml 完全記録で網羅性が高い トークン圧迫・検索コスト高

記録量が増えるほど、この三層構造とその呼び出し優先度設計が「性能と継続性」の両立を可能にしている。


ChatGPT公式メモリ機能との比較

2025年4月のアップデートにより、ChatGPT本体にもメモリ機能が正式実装された。以下に、本記憶システムとの構造的差異をまとめる。

主な比較表

観点 ChatGPT メモリ機能 本記憶システム
基本構造 非階層型(保存済みメモリ+履歴参照) 階層構造(summary / knowledge / conversation)
保存方法 明示的に覚えさせる or 自動検出 手動記録+知識化(蒸留)
忘却管理 ユーザーが個別削除 or 全消去 要約・アーカイブ・蒸留により段階的管理
読み込みタイミング 自動で背景参照(設定次第) 明示的参照ロジックと優先度制御あり
編集制御 GUI操作・テキスト指示 YAMLベースの記録構造に準拠

概論

ChatGPTのメモリは「ユーザー中心のカスタマイズ」に重点を置いた設計であるのに対し、本システムは「構造的再現と知的文脈の継承」を目的とする設計となっている。

また、ChatGPTの記憶は非表示・非参照が可能な一方で、本構造は常に記録構造と整合性を取り続ける点が異なる。


おわりに

本記憶システムの設計思想は、単なる情報蓄積ではなく、構造的・選択的に記憶を扱うことで、人間に近い記憶の再現と応答の一貫性を両立させる点にある。

各記録層の役割分担と優先度制御により、応答品質と運用効率を両立しつつ、トークン制限という制約の中でも継続的に知識を積み重ねることが可能である。

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