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会社はあなたを育ててくれない_読書ノート

2024/12/18に公開

内容要約

会社はあなたを育ててくれない

日本の社会の変化を軸に、データに基づいて現代では「会社はあなたを(十分には)育ててくれない(p.18)」ということを説明している。特に、労働環境のホワイト化に伴ってそのままでは成長しにくい環境になってきていることに重きをおいて解説している。

「選択できる」ことは幸か不幸か

「LIFE SHIFT」と「ブラック企業ーー日本を食いつぶす妖怪」という2つの本が日本の働き方を変えたする。会社から見ると、現代は若手を成長させにくい環境であり、即戦力としての中途採用が活発化し、転職などの職業選択の機会が圧倒的に増えた。そのために、選択を可能にする能力・経験の獲得が重要になってきており、また1回1回の選択の重要性が下がり運の要素が低下した(以前は新卒採用の重要性が大きく、面接官や上司との相性といった運の要素が大きかった)。

自分らしさと成長を両立するために

選択の機会が増えることによって、「ありのままでいたい」「なにものかに早くなりたい」という矛盾する気持ちを抱えることになり、キャリア選択が感情的にも困難なものとなってきている。
「なにものか」になるのに必要なのは以下の3点

  • 職場の心理的安全性
  • 職場のキャリア安全性
  • 仕事の質的な負荷

「ありのまま」でいるのに必要なのは以下の3点

  • フィットした労働環境
  • ライフキャリアへの支援
  • 相互理解

3年いても温まらない

「物事を極めたエキスパートになるには練習や努力に約1万時間を費やす必要がある」という「1万時間の法則」をもとに、「とりあえず3年働くべき」と言われている(「石の上にも三年」論)。これは労働法改正前の長時間労働を前提とした考え方であり、実際に1か月に約278時間働くことで3年で1万時間の労働を経験することができる。しかしながら現在は1か月170時間前後が標準労働時間であり、そのような長時間労働は基本的に不可能になっており、スキルを磨くために会社に従っていればよいという時代は終わった。
なお、1万時間の法則については多くの批判があり、ものごとはそう単純ではない。

補足

1万時間の法則について

Gladwellが2008年に出版した本「Outliers: The Story of Success(邦訳:天才! 成功する人々の法則)」で提唱した、「物事を極めたエキスパートになるには練習や努力に約1万時間を費やす必要がある」という法則である。Ericssonによる「The Role of Deliberate Practice in the Acquisition of Expert Performance」という論文を根拠にして主張している。
ただし、Ericssonの論文の内容からは直接的に導くことができない結論である。なぜならEricssonは「練習の量」だけでなく「練習の質」に関しても重視していたからである。例えば、

  • 意識的な練習(Deliberate Practice)が必要である(意識的な練習の条件は以下)
    • 弱点の克服などの練習の目標がある
    • 具体的なフィードバックがすぐに得られる
    • 楽しいだけではなく、集中して努力している
  • 10年以上の意識的な練習が必要である
  • 1日当たりの練習量は1~4時間がよく、2時間前後がもっとも効果的である
    • 熟練するにつれて練習時間が増える
    • 4時間を超えると、疲労やモチベーション低下によって練習の効果が下がる

のようなことを論文内で提示していた。また、後年(2012年)本人が「Training history, deliberate practice and elite sports performance: an analysis in response to Tucker and Collins review—what makes champions?」で同様の反論をおこなっている。

さらに2014年にはHambrickらがAccounting for expert performance: The devil is in the detailsにおいて、そもそもEricssonの論文自体が意識的な練習を過大評価しており、パフォーマンスに対して高々1/3(33%)程度しか有効な寄与をしないと主張している。また、これを受けて行われたメタ分析であるDeliberate practice and performance in music, games, sports, education, and professions: a meta-analysisでは、各分野において意識的な練習が寄与するのは

  • 音楽: 約21%
  • ゲーム(チェスなど): 約26%
  • スポーツ: 約18%
  • 教育: 約4%
  • 専門職: 約1%

程度でしかないと示している。

これを加味して、現代の専門職で1万時間のトレーニング(意識的な練習)をするというのはパフォーマンスへの寄与度を考えるとほとんど無意味であると私は考えている。

参考文献

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